18 / 31
理解のある旦那さまとわたしの秘密
精子提供
しおりを挟む
「あの…。私達がどうやって生まれたか…ご存知ですか…?」
「これは羊森さんにとって衝撃的な話になるかと思いますが…」
「精子提供。この単語に聞き覚えは?」
聞き慣れない単語に久留里は首を傾げる。生死提供、と変換して、生きるために死ぬ人…?とぽやぽや考えていた久留里は、隣に座る越碁が腕を組む手に力を入れたことに気づく。越碁には思い当たる節があるのだろう。その表情は険しい。
「旦那様はご存知のようですね」
「妻には後で説明します。この場で詳細な話をするのはやめてください」
「センシティブな話題ですから…。旦那さんからお話をされた方が良いと判断されたのでしたら構いませんよ。こちらに記載された4名は、故人から精子提供を受けて生まれた子どもたちであると同時に、故人が名前を把握している方々となります」
「他にもいるってことか」
「当人曰く、その可能性は無きにもあらず、とのことでした。精通が始まった年から、亀倉さんが生まれると報告を受けた年まで複数人の女性と関係を持ったそうです。行為をせずとも、小さな小瓶に移し、女性がスポイトでーー」
「詳細を語るのはやめろ。不愉快だ」
「そうでしたね。失礼致しました。途中から数えるのを止めたとのことですが、25年間で数百人はくだらない。何人の子どもが生まれたか、正確な数はわからないとのことです。精子提供の際使用していたSNSアカウントを通じて連絡を取っている最中ですが、死後認知請求の時効である死後3年まで、どれほどのお子様が見つかるかは…定かではありません。私共の方針では、故人が認識している4名のお子様を最優先で行動したいと…」
名を知らぬ父親の名前と、3人の異母弟妹がいるだけでも驚きなのに、まだ見ぬ兄妹が数十人いる可能性があると聞かされて、驚愕しないわけもなく、久留里は言葉にならない。大家族、と頭に過ぎって、子ども達が全員集合することはないだろうと考え直した久留里は、当初の予定通り親子鑑定を受けることにした。
「金なんざ、今更欲しかねェだろ」
「お金は…あるに越したことはないよ!お父さんかもしれない人にどのくらい遺産があるのかわからないけど…。越碁さんに建て替えてもらった生活費とか、返さなきゃ」
「夫婦の共同財産だ。夫が妻を養わなくてどうする」
「あの時はまだ、お付き合いや結婚、してなかったから…!」
「金じゃねェんだろ」
「…うん」
久留里が親子鑑定を受けたい理由は、戸籍上の繋がりが欲しいからだ。ずっと、久留里の家族は母親だけだった。親子鑑定を受け、父親であると証明された、その時は。父親が亡くなっていると聞かされショックだったが、せめて戸籍上だけでも、父親が生きた証を残したい。久留里が、白峰太郎の娘であると、証明したいのだ。遺産目当てではない。
「できたらね、私には越碁さんがいるし…。一種に暮らせないからこそ、戸籍上の繋がりだけは…欲しいんだ。これは私のわがままかもしれないけど…。お父さんが一緒なら、家族、だから。困った時、手を差し伸べて、支え合えるように。どうしてみんな…お父さんの子どもだって、証明したくないんだろう…」
「聞いてみればいい」
「え…?」
「妹を、ルリの友人が手引するなら。俺は、こいつとルリの縁を手繰り寄せてやる」
「ど、どうやって?」
「まァ、見てろ」
妻の願いを叶えてやるのが、旦那の役目だ。
弁護士との話し合いを終え自宅に戻ってきた羊森夫婦は翌日、蜂谷家の門を叩く。出迎えた鶴海の片思い相手で、現在蜂谷家に居候している徳島愛媛に一言「ナギは」と越碁は低い声で問いかける。無言で背を向けた愛媛の姿を追いかけた羊森夫妻は、リビングで寛ぐ蜂谷兄妹と顔を合わせた。
「亀倉信楽」
「んー?亀っち?」
「な、凪沙ちゃん!知っているの…?」
「中学、一緒だったんだぁ。じゅーごと仲、よくて…」
嫌なことを思い出させてしまった。
じゅーごとは、凪沙の想い人であり、愛媛へ鋭利な刃物を振りかざした加害者だ。現在も逃亡中で、彼の行方を知るものはいない。こんな近くに、弟が居たとは。驚きを隠しきれなかった。
「連絡取れるか」
「んん?連絡先?でも、土日は部活漬けで…身動き取れないと思うよー」
「ちょっと、どーしたのさ。こんな朝っぱらから。凪沙の知り合いに、越碁が何の…」
「ルリの名前を出せ」
「くるりんおねーさんの?」
「羊森ではなく、私の…氈鹿久留里が会いたがっていると連絡を取って貰えたら…わかると思う」
「断られても会いに行く。どこにいるか探りを入れてからルリの名前を出せ」
「おっけー」
鶴海の疑問を当然のように無視したせいか、鶴海が酷いと愛媛に泣き付いている。泣き付かれた愛媛は「朝っぱら女々しくてしょうがない」と鶴海を引っ剥がし、抱きつかれないように距離を取った。この2人、同棲しているのにまったく仲がよさそうに見えないが、大丈夫なのだろうかと久留里は思わずに居られなかった。
「これは羊森さんにとって衝撃的な話になるかと思いますが…」
「精子提供。この単語に聞き覚えは?」
聞き慣れない単語に久留里は首を傾げる。生死提供、と変換して、生きるために死ぬ人…?とぽやぽや考えていた久留里は、隣に座る越碁が腕を組む手に力を入れたことに気づく。越碁には思い当たる節があるのだろう。その表情は険しい。
「旦那様はご存知のようですね」
「妻には後で説明します。この場で詳細な話をするのはやめてください」
「センシティブな話題ですから…。旦那さんからお話をされた方が良いと判断されたのでしたら構いませんよ。こちらに記載された4名は、故人から精子提供を受けて生まれた子どもたちであると同時に、故人が名前を把握している方々となります」
「他にもいるってことか」
「当人曰く、その可能性は無きにもあらず、とのことでした。精通が始まった年から、亀倉さんが生まれると報告を受けた年まで複数人の女性と関係を持ったそうです。行為をせずとも、小さな小瓶に移し、女性がスポイトでーー」
「詳細を語るのはやめろ。不愉快だ」
「そうでしたね。失礼致しました。途中から数えるのを止めたとのことですが、25年間で数百人はくだらない。何人の子どもが生まれたか、正確な数はわからないとのことです。精子提供の際使用していたSNSアカウントを通じて連絡を取っている最中ですが、死後認知請求の時効である死後3年まで、どれほどのお子様が見つかるかは…定かではありません。私共の方針では、故人が認識している4名のお子様を最優先で行動したいと…」
名を知らぬ父親の名前と、3人の異母弟妹がいるだけでも驚きなのに、まだ見ぬ兄妹が数十人いる可能性があると聞かされて、驚愕しないわけもなく、久留里は言葉にならない。大家族、と頭に過ぎって、子ども達が全員集合することはないだろうと考え直した久留里は、当初の予定通り親子鑑定を受けることにした。
「金なんざ、今更欲しかねェだろ」
「お金は…あるに越したことはないよ!お父さんかもしれない人にどのくらい遺産があるのかわからないけど…。越碁さんに建て替えてもらった生活費とか、返さなきゃ」
「夫婦の共同財産だ。夫が妻を養わなくてどうする」
「あの時はまだ、お付き合いや結婚、してなかったから…!」
「金じゃねェんだろ」
「…うん」
久留里が親子鑑定を受けたい理由は、戸籍上の繋がりが欲しいからだ。ずっと、久留里の家族は母親だけだった。親子鑑定を受け、父親であると証明された、その時は。父親が亡くなっていると聞かされショックだったが、せめて戸籍上だけでも、父親が生きた証を残したい。久留里が、白峰太郎の娘であると、証明したいのだ。遺産目当てではない。
「できたらね、私には越碁さんがいるし…。一種に暮らせないからこそ、戸籍上の繋がりだけは…欲しいんだ。これは私のわがままかもしれないけど…。お父さんが一緒なら、家族、だから。困った時、手を差し伸べて、支え合えるように。どうしてみんな…お父さんの子どもだって、証明したくないんだろう…」
「聞いてみればいい」
「え…?」
「妹を、ルリの友人が手引するなら。俺は、こいつとルリの縁を手繰り寄せてやる」
「ど、どうやって?」
「まァ、見てろ」
妻の願いを叶えてやるのが、旦那の役目だ。
弁護士との話し合いを終え自宅に戻ってきた羊森夫婦は翌日、蜂谷家の門を叩く。出迎えた鶴海の片思い相手で、現在蜂谷家に居候している徳島愛媛に一言「ナギは」と越碁は低い声で問いかける。無言で背を向けた愛媛の姿を追いかけた羊森夫妻は、リビングで寛ぐ蜂谷兄妹と顔を合わせた。
「亀倉信楽」
「んー?亀っち?」
「な、凪沙ちゃん!知っているの…?」
「中学、一緒だったんだぁ。じゅーごと仲、よくて…」
嫌なことを思い出させてしまった。
じゅーごとは、凪沙の想い人であり、愛媛へ鋭利な刃物を振りかざした加害者だ。現在も逃亡中で、彼の行方を知るものはいない。こんな近くに、弟が居たとは。驚きを隠しきれなかった。
「連絡取れるか」
「んん?連絡先?でも、土日は部活漬けで…身動き取れないと思うよー」
「ちょっと、どーしたのさ。こんな朝っぱらから。凪沙の知り合いに、越碁が何の…」
「ルリの名前を出せ」
「くるりんおねーさんの?」
「羊森ではなく、私の…氈鹿久留里が会いたがっていると連絡を取って貰えたら…わかると思う」
「断られても会いに行く。どこにいるか探りを入れてからルリの名前を出せ」
「おっけー」
鶴海の疑問を当然のように無視したせいか、鶴海が酷いと愛媛に泣き付いている。泣き付かれた愛媛は「朝っぱら女々しくてしょうがない」と鶴海を引っ剥がし、抱きつかれないように距離を取った。この2人、同棲しているのにまったく仲がよさそうに見えないが、大丈夫なのだろうかと久留里は思わずに居られなかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」
先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。
「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。
だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。
そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる