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偏見アンサー

私があなたにできること

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「凪沙ちゃん。越碁さんの好きなものって…何かあるかな…?」
「越後屋のおにーちゃん?好きなものかあ…くるりんおねーちゃんだよね?」
「…ええと、それはないと思うけど…」
「どうして?お付き合いしてるのに!」
「お付き合いしてはしてないよ。越碁さんは…私を可哀想に思って、面倒を見てくれただけで…。そこに、恋愛感情は…」
「ええっ?それ、お兄に言った!?」
「蜂谷さん?伝えてない…けど…」
「凪沙、お兄呼んでくる!」

凪沙ともすっかり仲良くなった久留里は、蜂谷家に越後屋の和菓子を持参し顔を出していた。今日は凪沙の部屋で女子会を予定していたのだが、鶴海も在宅しているらしく、ドタバタと音を立てて凪沙は自身の部屋に鶴海を引っ張ってきた。

「お、お邪魔してます…」
「いらっしゃい。シカちゃんも頑固と言うか鈍感だねえ~。越碁はかなりわかりやすいと思うけど…」
「付き合いが長いとね~。すぐわかっちゃう。越後屋のおにーちゃん、態度に出るもん。くるりんおねーちゃんよりは酷くないけどね」
「越碁さんのような素晴らしい方が、私を好きになるなんて…想像するだけでもおこがましいことです」
「ありえない、なんて越碁に言ったら血の雨が降るね」
「越後屋のおにーちゃんが荒れたら、止めるのはお兄の仕事だよね。がんば~」
「他人事だと思って…。越碁の好きなものを知りたいんだって?」
「は、はい。お世話になっているので…」
「凪沙、ないって言ったけど信じてくれないの!」
「そーだねえ、越碁に趣味らしい趣味はないし、いろんなことに無頓着だからな…」
「あああ!お兄、それだよ!」
「どれ?」
「無頓着!つまり、着物だよ!越後屋のおにーちゃん、着たきり雀だから!久瀬屋さんに着物を見に行こうってくるりんおねーちゃんにお願いしてもらうの!」
「二人の仲が一気に縮まる呉服屋デートかあ…」
「ペアのお着物用意して花火大会デートも予約しちゃえば、大人の階段を一段目から一気に駆け上がれるよ!目指せ、玉の輿!」
「和風シンデレラストーリーか…オレたちは魔法使いって所かな。うん、悪くないねえ。頑張れ。かぼちゃの馬車は目の前にあるよ~」
「王子様と舞踏会へれっつごー!」
「?」

蜂谷兄妹は一体何の話をしているのだ。久留里は越碁に恩返しをするためアドバイスを貰いに来たのだが、越碁と久留里の着物を新調して8月の花火大会でデートする話になっている。

「越碁の誕生日は8月25日だから、プレゼントは私、って越碁を揺さぶるのも悪くないかもねえ~」
「あっ!お兄!色仕掛は越後屋のおにーちゃんタブーだよ!越後屋のおにーちゃん潔癖だから~、凪沙がワンピース1枚でうろちょろしてるだけでも文句言うんだよ!」
「エロ本とか破り捨てるもんなあ」

知らなくてもいい情報を仕入れて、これからどう立ち回っていけばいいのかわからなくなってしまった。

一旦、蜂谷兄妹のアドバイスは忘れよう。

凪沙が言っていた「越後屋のおにーちゃんは色仕掛禁止」ーー確かに、これは久留里も感じていたことだ。身体を売って金銭を稼ぐことに関して、越碁は嫌悪感を抱いている。久留里が「今までお世話になった分だけ私の身体を好きにしていいんだよ」なんて言おうものなら、出ていけと叩き出されそうだ。

久留里には身体以外越碁に支払えるものがない。

越碁に捨てられないようにするため、久留里はどうするべきなのだろうーー

考え抜いた結果、越碁の為に身体を曝け出すことを決めた。越碁は嫌がるだろうが、男性は女性の裸を目にしたら、手を出さないはずがない。服を着ていても酔った男性は手を出すのだから。手を出されなかったその時は。それだけ私の身体が貧相で、越碁にとっては恋愛対象外であることを思い知らされることになるがーーそれでも構わなかった。久留里が当然のように、いつまでも越碁の優しさに甘えて日々を享受しているのだと思われたくなかったのだ。

だから、言った。2人きりの京都旅行。日帰りでは移動時間の関係で忙しないからと宿泊することになったホテルの一室で。抱いてください、と。

とても恥ずかしかったけど、勇気を出して越碁に迫れば、後は越碁がうまい具合に導いてくれると思ったのに。越碁は、久留里の身体など興味がないと言わんばかりにその申し出を断った。

ーー違う。私の身体を大切に思っているだけだ。

興味がないわけでなさそうだが、やはり越碁は蜂谷兄妹の言うようにそうした性的な事柄に関しては嫌悪感を抱いているらしい。眉を顰め、久留里に諭すように言い放つ言葉は呆れているようでも、小さな子どもに諭すようなものでもある。

「好きでもねェ男に金払えねェから身体で払うだのゴチャゴチャ言いやがって。身体を押し付けるくらいなら、まずは俺を好きになる努力をしろ。話はそれからだ」
「わ、私!越碁さんのことが嫌いなんて一言も言っていない…!」

久留里と越碁の関係性は彼氏彼女ではない。そうした関係になるなら、まずは彼氏彼女になってからにしろと言う越碁の言葉も、余裕のない久留里には届かなかった。

ーーこのままじゃ嫌われちゃう。

焦った久留里は越碁の胸元を掴も、どこにそんな力があるのか。身体を後ろに引こうとした越碁の身体を支えにして、勢いよく顔を近づけーー自身の唇を重ねた。
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