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人生こんなもの

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「おれは今のお嬢が好きだよ」
「はいはい。ありがと」
「お嬢が駒込の娘だったからこそ、おれは今駒込の組員として生きて来られた。お嬢が駒込の娘でなければ、お互いもっと悪い人生を歩んでいたかもしれないんだぞ。感謝することはあっても、悲しむことはない」
「…高校。卒業したって…あたしにまともな就職先はないんだよ」
「お嬢、就職するの?」
「…父さん達はそれを望んでたから、あたしと宵を遠ざけたんだと思う」
「そんなの…無責任だ。おれたちがカタギになんてなれるわけがないにな?お嬢も、就職なんて言ってないで、今まで通りに過ごせばいいんだよ。金ならいくらでも稼いでくる。お嬢は、ただおれの腕の中で大人しく守られていればいいんだ」
「でもさ、宵になにかあったら…」
「ーーお嬢は、おれに何かあって欲しいの?」
「そうじゃない、けど」
「だったら何の問題もないな。どんな冤罪を吹っ掛けられようが必ずおれがお嬢の潔白を証明するし、おれもお嬢を残して死んだりしない。この約束がある限り、おれたちは永遠に共にある。今度、盃でも交わそうか」
「まだ未成年なんだから。お酒は早いよ」

 いろんなことが有耶無耶になっている気がしてならないが、宵に気持ちを打ち明けた所で、都合のいいように解釈されて否定されるのがオチだ。
 考え方はおそらく真逆で、相性も最悪なのに。
 宵はどうしてあたしなんかが好きなのだろう。やはり、依存かな。
 手遅れになる前に、それが恋ではないことに気づいてほしいものだがーーあたしでは、宵に気づかせることはできないかもしれない。

 ーー後日、特能の山田さんから天杉さんの処分について連絡があった。

 天杉さんは前世の記憶を保持したまま生まれ育った保持者であり、今まで一度も保持者認定を受けていない野良保持者だった。
 保持者であることこそ本人も認めたが、彼女は里見愛とあたし、駒込聖の2人も保持者であると主張しているらしいのだ。
 後日検査を受けてほしいと言われたので特能に出向いて検査を受けたが、特能者や保持者の特徴は見られないと太鼓判を押された。

 里見愛がどうなったのかは知らない。
 天杉結利は腹部の治療を終えて、しばらく特能の管理下に置かれセラピーを受けるらしい。
 人格が真逆に変化するほど徹底的に人格を矯正するプログラムを受講することが義務付けられているはずだが、天杉さんに耐えられるのだろうか。

 心が壊れるにしろ真人間の生まれ変わるにしろ、あのエキセントリックな性格が弟にとっては興味の対象であったのだろうし、どちらにせよ弟に興味を抱かせ続けて添い遂げるのは難しいような気はしてならないが。
 まあ、天杉さんの恋愛事情などあたしの知ったことではない。もう少しまともな人間に育ってくれることを願うばかりだ。

『いつまでダスクさんのこと独占してるつもりだ!死んで詫びろ』

 朝起きると、いつものように弟から罵詈雑言のメッセージが数十秒単位でひっきりなしに受信されている。ああ、またやってんなと遠い目をしながら、「学習しないな、後でしばく」と物騒なことを呟く宵に気を利かせて、突き放すような言葉を向けた。

「いい加減、駒込組に顔出しなよ。柊が、宵に会わないと寂しくて死んじゃうって」
「血を分けた姉に罵詈雑言を送信し続ける弟なんて生きてる価値もないから今すぐ死ねと送り返そう。黙ってるからつけあがるんだ」
「そうは言ってもね。そんなの返信しようもんなら、よそに迷惑かけるからやめよう。あたしが我慢してればそれで済むことなんだから」
「お嬢は優しすぎる。優しさを向ける相手はおれだけでいいのに」

 ぼやきながらも重い腰を上げた宵を見送り、弟に向けてメッセージを送信する。

『頑張ってる弟に姉からのプレゼントを送ります』
『は?なに?キモ』
『届いてからのお楽しみ』

 既読こそついたが、死ねと返ってくることなく半日が過ぎる。
 珍しいこともあるものだとすっかり存在を忘れていた段階で、思いがけず弟から返信が返ってきた。

『ふざけんなクソ姉、なにがプレゼントだ!てめえのせいでダスクさんにこっぴどく絞られた!』
『ユイリと添い遂げる気なら義兄弟の盃は交わさないだとよ!てめー、一から百まで告げ口してじゃねーぞ!いますぐ死ね!おれの前から消えろ!』

 おや。あたしを姉とはっきり表記するメッセージなんて珍しい。
 今日は機嫌がいいのかと読み進めれば、通常運転だった。
 見知らぬ生徒に冤罪を吹っ掛けられたと思ったら、今度は身内からか。世知辛い。あたしは宵に告げ口なんてしてないんだけどな。

 ーーま、人生なんてこんなもんだよね。

 この程度の冤罪で苦しんでたら生きていけない。
『ヒント:盗聴器』とだけ送って、携帯電話の電源を切った。
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