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未来の私と今の私
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トーマさんの方がデジカメ片手にあたしと天杉さんのいざこざを撮影していたらしく、天杉さんが自分で腹を刺した場面がバッチリと記録に残されていた。
さすがに映像として証拠が残っていれば強く出てこられないのか、刑事さんはぐっと言葉を詰まらせて声を荒らげる。
「虐めてなどいない!これは捜査の一環だ!この映像は…証拠として提出してもらう」
「どーぞ?ほれ、SD。証拠がバッチリあるんだから、被害者が何言ったってこの子のこと疑ったりすんなよ~」
覚えてろよ、と捨て台詞を吐いて病院へと運ばれた天杉さんに事情を聞くべく、引き上げていった刑事さんたちの姿を見送る。
どうして助けてくれたのだろうと2人を見つめれば、少女の方がちょいちょいと手招きをしてきた。
ゆっくりと少女の元へ向かえば、しゃがむように指示をされ、耳元で囁かれる。
「貸し、ひとつ」
「後で恩返ししろってこと…?」
「ひゃくばいにして返して」
「それはちょっと」
「ならさんばい」
「それくらいなら…」
まあいっか、と頷けば、トーマさんと手を繋いだ少女はバイバイと手を振ってその場を去った。
特能の人たちに知り合いかと聞かれどう説明すればいいか迷ったが、「通りすがりの人に見返りを要求されて」と説明すれば納得してくれたらしい。
天杉さんの境遇については後日要望があれば差し障りのない範疇でなら教えてくれると言うので、連絡先を交換した。
その直後。パタパタと慌ただしい足音と共に、ジャラジャラと鎖の揺れる音が裏路地に響いた。その人物が誰であるかを知る為にわざわざ顔を上げる必要もない。
「君は…」
「おれのお嬢と許可なく連絡先を交換するなど。万死に値しますね。今すぐ失せろ」
「あっはは!警察に喧嘩売るとか、さっすが暴力団組員!ワイルドだねえ!組対じゃないから公務執行妨害で逮捕したりしないけどさあ?その代わり今度、3人でやろーね!」
「……3人?」
「うわ、まじでダスクさんじゃないすか。こんな時間に呼びやがって…ダスクさんはてめえの召使いじゃねえんだよ。身の程知らずのゴミが…早く死ね。今すぐ死ね」
「珍しいこともあるもんだな。どうした?」
「どうしたもこうしたもねえんすよ。こいつ、オレの玩具に手ぇ出しやがって」
「手を出したのはどちらが先か。見てただろう。あの現場にいたお前なら。どちらが悪いかなど火を見るよりも明らかだ。よくお嬢に冤罪を擦り付けられるものだな。見損なったよ」
「え、そりゃないっすよダスクさん!オレが悪いんすか?」
「当たり前だろうが。お嬢、バカが移るので長居は無用です。帰りましょう」
「ええ…社会のゴミなんてその辺に捨て置いてオレと一緒に帰りましょうよ!」
「社会のゴミはテメーだ、カス」
今日の宵は恐ろしく機嫌が悪い。
ちょこまかと宵の周りを飛び回っては一緒に帰りましょうと吠える弟を容赦なく蹴り飛ばすと、あたしの手をとって強引に連れ出す。
真横に警察官がいるのに随分と荒っぽい仕草だが、特能のーー特に桐生さんと名乗った方はニコニコとあたし達を見送った。
この程度の蹴りなら暴行事件ではなくちょっとした小競り合いとして見てみぬふりをしてくれるらしい。
隣の山田さんがなんとも言えない顔をしていたので、本来ならば見てみぬふりをするべきではないのかもしれないが。
宵があたしを優先するのは今に始まったことではないけれど、弟の前と言うのが不味かった。
弟の姿が見えなくなった途端、携帯のメッセージアプリからの通知が鳴り止まないのだ。中身は見なくとも想像は付く。
『お前さえいなければ』『死ね』『今すぐ死ね。オレの為に死ね』
呪いの言葉が絶え間なく流れてくる。これらはすべて機嫌の悪い弟の気が済むまで送信され続ける呪詛であり、いつものことなので今更気分が落ち込むこともない。
「ああ、また送られてきてるな」その程度の認識だ。
「だから言ったろ。一生涯続く責め苦の中で殺すべきだと」
「…冤罪ポイントがいっぱいになると、あたしは犯罪者になるんだって」
「あの女の話なんて真に受ける必要はない」
「そうなんだけど。暴力団関係者を家族に持つと、普通に生活なんてできないんだよね」
「いつだって偏見と隣り合わせ。何も悪いことなんてしてないのに、一生後ろ指刺されて生きていく」
「あの子は暴力団組長の娘だから、悪い事やってるに決まってる、とかさ。決めつけて、罪をなすりつけて。天杉さんの見た未来のあたしは、柊みたいな感じだったんだろうな」
ちょっとしたことで怒って、恨んで。
ストレスが外に向かって攻撃的になるタイプ。
今のあたしは極限まで我慢して、自身の置かれた立場を理解し、仕方ないよねと諦めて外にストレスが向かわないようにコントロールしている。
悲しいことがあっても、誰かのせいではなくあたしのせい。
たとえ誰かに問題があったとしても。全部自分のせいだと決めつけてしまえば、外に向かうことはないからだ。
そのお陰で、あたしは天杉さんが思い描くーー最低最悪な他人を加害することだけを生きがいに生きる。駒込聖になることなく生きていた。
さすがに映像として証拠が残っていれば強く出てこられないのか、刑事さんはぐっと言葉を詰まらせて声を荒らげる。
「虐めてなどいない!これは捜査の一環だ!この映像は…証拠として提出してもらう」
「どーぞ?ほれ、SD。証拠がバッチリあるんだから、被害者が何言ったってこの子のこと疑ったりすんなよ~」
覚えてろよ、と捨て台詞を吐いて病院へと運ばれた天杉さんに事情を聞くべく、引き上げていった刑事さんたちの姿を見送る。
どうして助けてくれたのだろうと2人を見つめれば、少女の方がちょいちょいと手招きをしてきた。
ゆっくりと少女の元へ向かえば、しゃがむように指示をされ、耳元で囁かれる。
「貸し、ひとつ」
「後で恩返ししろってこと…?」
「ひゃくばいにして返して」
「それはちょっと」
「ならさんばい」
「それくらいなら…」
まあいっか、と頷けば、トーマさんと手を繋いだ少女はバイバイと手を振ってその場を去った。
特能の人たちに知り合いかと聞かれどう説明すればいいか迷ったが、「通りすがりの人に見返りを要求されて」と説明すれば納得してくれたらしい。
天杉さんの境遇については後日要望があれば差し障りのない範疇でなら教えてくれると言うので、連絡先を交換した。
その直後。パタパタと慌ただしい足音と共に、ジャラジャラと鎖の揺れる音が裏路地に響いた。その人物が誰であるかを知る為にわざわざ顔を上げる必要もない。
「君は…」
「おれのお嬢と許可なく連絡先を交換するなど。万死に値しますね。今すぐ失せろ」
「あっはは!警察に喧嘩売るとか、さっすが暴力団組員!ワイルドだねえ!組対じゃないから公務執行妨害で逮捕したりしないけどさあ?その代わり今度、3人でやろーね!」
「……3人?」
「うわ、まじでダスクさんじゃないすか。こんな時間に呼びやがって…ダスクさんはてめえの召使いじゃねえんだよ。身の程知らずのゴミが…早く死ね。今すぐ死ね」
「珍しいこともあるもんだな。どうした?」
「どうしたもこうしたもねえんすよ。こいつ、オレの玩具に手ぇ出しやがって」
「手を出したのはどちらが先か。見てただろう。あの現場にいたお前なら。どちらが悪いかなど火を見るよりも明らかだ。よくお嬢に冤罪を擦り付けられるものだな。見損なったよ」
「え、そりゃないっすよダスクさん!オレが悪いんすか?」
「当たり前だろうが。お嬢、バカが移るので長居は無用です。帰りましょう」
「ええ…社会のゴミなんてその辺に捨て置いてオレと一緒に帰りましょうよ!」
「社会のゴミはテメーだ、カス」
今日の宵は恐ろしく機嫌が悪い。
ちょこまかと宵の周りを飛び回っては一緒に帰りましょうと吠える弟を容赦なく蹴り飛ばすと、あたしの手をとって強引に連れ出す。
真横に警察官がいるのに随分と荒っぽい仕草だが、特能のーー特に桐生さんと名乗った方はニコニコとあたし達を見送った。
この程度の蹴りなら暴行事件ではなくちょっとした小競り合いとして見てみぬふりをしてくれるらしい。
隣の山田さんがなんとも言えない顔をしていたので、本来ならば見てみぬふりをするべきではないのかもしれないが。
宵があたしを優先するのは今に始まったことではないけれど、弟の前と言うのが不味かった。
弟の姿が見えなくなった途端、携帯のメッセージアプリからの通知が鳴り止まないのだ。中身は見なくとも想像は付く。
『お前さえいなければ』『死ね』『今すぐ死ね。オレの為に死ね』
呪いの言葉が絶え間なく流れてくる。これらはすべて機嫌の悪い弟の気が済むまで送信され続ける呪詛であり、いつものことなので今更気分が落ち込むこともない。
「ああ、また送られてきてるな」その程度の認識だ。
「だから言ったろ。一生涯続く責め苦の中で殺すべきだと」
「…冤罪ポイントがいっぱいになると、あたしは犯罪者になるんだって」
「あの女の話なんて真に受ける必要はない」
「そうなんだけど。暴力団関係者を家族に持つと、普通に生活なんてできないんだよね」
「いつだって偏見と隣り合わせ。何も悪いことなんてしてないのに、一生後ろ指刺されて生きていく」
「あの子は暴力団組長の娘だから、悪い事やってるに決まってる、とかさ。決めつけて、罪をなすりつけて。天杉さんの見た未来のあたしは、柊みたいな感じだったんだろうな」
ちょっとしたことで怒って、恨んで。
ストレスが外に向かって攻撃的になるタイプ。
今のあたしは極限まで我慢して、自身の置かれた立場を理解し、仕方ないよねと諦めて外にストレスが向かわないようにコントロールしている。
悲しいことがあっても、誰かのせいではなくあたしのせい。
たとえ誰かに問題があったとしても。全部自分のせいだと決めつけてしまえば、外に向かうことはないからだ。
そのお陰で、あたしは天杉さんが思い描くーー最低最悪な他人を加害することだけを生きがいに生きる。駒込聖になることなく生きていた。
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