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暴露
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「…5万でも安いと思うけど…」
「5万は大金。5万もあれば、漫喫で3週間寝泊まりできる。たくさんのひとと寝れば、豊かな暮らしを営める。努力が報われるせかい」
「…住む場所があって、お金があって、学校に通って毎日食事、お風呂に入れるーー普通の生活がいかに恵まれているかがわかるよね」
「…ん」
「ここには、自分の意思で来たの?」
「会員費だけで、3食タダメシ。男の子とデートすれば、お金ももらえる。素晴らしいところだってきいた」
「素晴らしい所かどうかは…どうかな…」
「トーマさんもナガミネさんも、やさしい。おいしいご飯作ってくれるから好き」
飲食代無料にすっかり虜となってるらしい。
成人を迎えれば今までの飲食代を取り返せとばかりに、馬車馬の如く働けと厳命されている人間としては耳が痛い。
あの店員は美しい少女にもあたしと同じようなことを言って、身体を売らせるのだろうか。
この少女であれば、5倍のスピードで金銭を回収できそうなものだが。
「あれ。珍しい組み合わせだね」
「トーマさん、逃げた」
「ああ…聞いたよ。コマさん。大変なことになってるって」
「面目ないです」
「心当たりとかないんだ」
「…オーナーさんに言われて学校に行ったら、冤罪ふっかけられて…逆恨みじゃないですか」
「冤罪、ね」
「はじめて顔を合わせたクラスメイトに、いじめられました!って叫ばれる身にもなってくださいよ。虐めてないし…」
「おねーさん、いじめっ子」
「違うから。冤罪なんだって」
「ここに入り浸ってるコマさんが虐めなんてできるわけがないよね。面白いこと言うなあ」
「オーナーさん、いつもあたしのこと名前で呼んでますよね。どうして今日に限ってあの店員さんと同じ…」
「コマちゃん。削除依頼完了したぜ。ほれ」
「ありがとうございます」
「保存してる奴らもいるから夜道気をつけろよ」
これ、遠回しに帰れって言われてる?
オーナーさんはいつもあたしのことを聖と名前で呼ぶ。なぜか今日だけはいけ好かないなりすましの書き込みに関して、削除依頼を買って出てくれた店員さんと同じ呼び名で呼んだ。
あたしの名前に問題でもあるのだろうか…と考えて、隣に座る少女の名前を誰の口からも聞いていないことに気づく。
これ、深堀したらまずい感じか。
どっかで見覚えのあるような顔をしている少女を改めてじっと見つめる。
これほど美しい少女なら、一度見れば忘れることなどなさそうだ。
似てる人を見た覚えがある、が正しいかもしれないけれど、どうにも点と点が結びつかない。今日の所は突っつくのはやめようと夕映ルナティックを出て、背後に警戒しながら帰路につく。
『迎えに来れたりする?』
宵へ送った連絡は返信なし。困ったなあと携帯をポケットにしまった瞬間、背後に人の気配がして思わず振り返れば。
背後にいたのは屈強な男ではなくーーこの場には不釣り合いな、見覚えのある制服を着たある少女の姿だった。
「天杉さん?」
「なんでわたしを殺しに来ないの!?冤罪ポイントは10ポイント以上溜まったはずだよね!?」
ーー冤罪ポイント?
一体何の話だとその場で立ち竦めば、聞いてもいないのに天杉さんはペラペラと自分の今まで行っていた悪行の数々をあたしに告白してきた。
「いじめをでっちあげたのは里見愛だけど、あたしは駒込聖がやってないなて一言も言ってないから、冤罪ポイントを貯める条件には引っかかってるはず!」
「出会い系サイトにウリの書き込みだってしたし、駒込聖の悪行を毎日のように噂したもん!複数人の男と寝てるとか、万引きとか、人殺しとか、パパ活とか!いっぱいいっぱい噂流して、冤罪ポイントはみえない所で蓄積したはず!」
「なのにどうしてピンピンしてるの!?もっと堪えてますって顔して、私を恨んでよ!そうじゃないと、ほんとに、私…!」
「ちょっと待って。何の話してるの?あたし言ったよね。未来なんて信じた所で無意味だって。まだ信じてるんだ」
「当たり前でしょ!?未来と同じ行動をすれば、大好きな人と無条件で添い遂げられるんだよ!信じないわけ無いじゃん!私に残された道はもうひとつしかないの!」
「冤罪ポイントを貯めて、逆恨みした駒込聖に刺されて九死に一生を得るエンディング…!ねえ、ちゃんと用意してきたんだよ!これもって、私を刺して!今すぐに!」
「自殺なら一人でやってよ。他人を巻き込まないで。迷惑だから」
「早くしないと柊くんが来ちゃう!」
「柊にあたしが天杉さんを刺した所を見せたいの?それで天杉さんのこと柊が好きになるんだ。どうして?」
「そういうシナリオなんだから理由なんてどうでもいいでしょ!?」
「大事なところだよね」
天杉さんの用意したナイフを持って彼女を加害すれば、立派な傷害事件になるんだけど…。
この子まだ諦めてなかったのか。
しぶといな。さすがに今回ばかりは野放しにしてはおけないだろう。
特別異能法に基づき、然るべき機関に通報して適切な支援を受けたほうがいい。
「そっか…駒込聖はやる気がないんだ…だったら、私が自分で突き刺して、罪をなすりつければいいんだ…!そうすれば、足りない冤罪ポイントも溜まってフラグが立つ!きっとそうだ!そうに決まってる!」
「…ちょっと言ってる意味がわからないから、特能に相談するね」
通報の為に携帯を取り出せば、大騒ぎしていた天杉さんの動きがぴたりと止まった。
特能の単語に引っかかりを感じたのかと思ったけれど、力なく座り込んだ彼女はナイフを握りしめたまま壊れた人形のようにケタケタと笑っている。
何がそこまで彼女を追い込んだのだろう。弟は心を壊してまで添い遂げるような優良物件ではないはずなのだがーー
「5万は大金。5万もあれば、漫喫で3週間寝泊まりできる。たくさんのひとと寝れば、豊かな暮らしを営める。努力が報われるせかい」
「…住む場所があって、お金があって、学校に通って毎日食事、お風呂に入れるーー普通の生活がいかに恵まれているかがわかるよね」
「…ん」
「ここには、自分の意思で来たの?」
「会員費だけで、3食タダメシ。男の子とデートすれば、お金ももらえる。素晴らしいところだってきいた」
「素晴らしい所かどうかは…どうかな…」
「トーマさんもナガミネさんも、やさしい。おいしいご飯作ってくれるから好き」
飲食代無料にすっかり虜となってるらしい。
成人を迎えれば今までの飲食代を取り返せとばかりに、馬車馬の如く働けと厳命されている人間としては耳が痛い。
あの店員は美しい少女にもあたしと同じようなことを言って、身体を売らせるのだろうか。
この少女であれば、5倍のスピードで金銭を回収できそうなものだが。
「あれ。珍しい組み合わせだね」
「トーマさん、逃げた」
「ああ…聞いたよ。コマさん。大変なことになってるって」
「面目ないです」
「心当たりとかないんだ」
「…オーナーさんに言われて学校に行ったら、冤罪ふっかけられて…逆恨みじゃないですか」
「冤罪、ね」
「はじめて顔を合わせたクラスメイトに、いじめられました!って叫ばれる身にもなってくださいよ。虐めてないし…」
「おねーさん、いじめっ子」
「違うから。冤罪なんだって」
「ここに入り浸ってるコマさんが虐めなんてできるわけがないよね。面白いこと言うなあ」
「オーナーさん、いつもあたしのこと名前で呼んでますよね。どうして今日に限ってあの店員さんと同じ…」
「コマちゃん。削除依頼完了したぜ。ほれ」
「ありがとうございます」
「保存してる奴らもいるから夜道気をつけろよ」
これ、遠回しに帰れって言われてる?
オーナーさんはいつもあたしのことを聖と名前で呼ぶ。なぜか今日だけはいけ好かないなりすましの書き込みに関して、削除依頼を買って出てくれた店員さんと同じ呼び名で呼んだ。
あたしの名前に問題でもあるのだろうか…と考えて、隣に座る少女の名前を誰の口からも聞いていないことに気づく。
これ、深堀したらまずい感じか。
どっかで見覚えのあるような顔をしている少女を改めてじっと見つめる。
これほど美しい少女なら、一度見れば忘れることなどなさそうだ。
似てる人を見た覚えがある、が正しいかもしれないけれど、どうにも点と点が結びつかない。今日の所は突っつくのはやめようと夕映ルナティックを出て、背後に警戒しながら帰路につく。
『迎えに来れたりする?』
宵へ送った連絡は返信なし。困ったなあと携帯をポケットにしまった瞬間、背後に人の気配がして思わず振り返れば。
背後にいたのは屈強な男ではなくーーこの場には不釣り合いな、見覚えのある制服を着たある少女の姿だった。
「天杉さん?」
「なんでわたしを殺しに来ないの!?冤罪ポイントは10ポイント以上溜まったはずだよね!?」
ーー冤罪ポイント?
一体何の話だとその場で立ち竦めば、聞いてもいないのに天杉さんはペラペラと自分の今まで行っていた悪行の数々をあたしに告白してきた。
「いじめをでっちあげたのは里見愛だけど、あたしは駒込聖がやってないなて一言も言ってないから、冤罪ポイントを貯める条件には引っかかってるはず!」
「出会い系サイトにウリの書き込みだってしたし、駒込聖の悪行を毎日のように噂したもん!複数人の男と寝てるとか、万引きとか、人殺しとか、パパ活とか!いっぱいいっぱい噂流して、冤罪ポイントはみえない所で蓄積したはず!」
「なのにどうしてピンピンしてるの!?もっと堪えてますって顔して、私を恨んでよ!そうじゃないと、ほんとに、私…!」
「ちょっと待って。何の話してるの?あたし言ったよね。未来なんて信じた所で無意味だって。まだ信じてるんだ」
「当たり前でしょ!?未来と同じ行動をすれば、大好きな人と無条件で添い遂げられるんだよ!信じないわけ無いじゃん!私に残された道はもうひとつしかないの!」
「冤罪ポイントを貯めて、逆恨みした駒込聖に刺されて九死に一生を得るエンディング…!ねえ、ちゃんと用意してきたんだよ!これもって、私を刺して!今すぐに!」
「自殺なら一人でやってよ。他人を巻き込まないで。迷惑だから」
「早くしないと柊くんが来ちゃう!」
「柊にあたしが天杉さんを刺した所を見せたいの?それで天杉さんのこと柊が好きになるんだ。どうして?」
「そういうシナリオなんだから理由なんてどうでもいいでしょ!?」
「大事なところだよね」
天杉さんの用意したナイフを持って彼女を加害すれば、立派な傷害事件になるんだけど…。
この子まだ諦めてなかったのか。
しぶといな。さすがに今回ばかりは野放しにしてはおけないだろう。
特別異能法に基づき、然るべき機関に通報して適切な支援を受けたほうがいい。
「そっか…駒込聖はやる気がないんだ…だったら、私が自分で突き刺して、罪をなすりつければいいんだ…!そうすれば、足りない冤罪ポイントも溜まってフラグが立つ!きっとそうだ!そうに決まってる!」
「…ちょっと言ってる意味がわからないから、特能に相談するね」
通報の為に携帯を取り出せば、大騒ぎしていた天杉さんの動きがぴたりと止まった。
特能の単語に引っかかりを感じたのかと思ったけれど、力なく座り込んだ彼女はナイフを握りしめたまま壊れた人形のようにケタケタと笑っている。
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