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電波女
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「わたし、やってません!」
「嘘つくな!お前が愛を虐めたんだろう!」
「ふん、最低だな…」
「愛が可愛いからって、僻んでんじゃねーよブス」
「みんな落ち着いて!天杉さんだけじゃないの!天杉さんは命令されただけなんだよ!天杉さんは…」
「あの子に命令されて、アイをいじめたんだ!」
一斉に向けられた視線に面食らい、それ以上教室の中に入ることができずに立ち竦む。
輪の中心で6人の男子生徒を従えた女生徒がいいがかりをつけて指差した相手があたしーーつまり、駒込組組長の娘であることを知った生徒達は悲鳴を上げた。
あるものは目に見えてわかるように怯え、信じられないものを見るような目で女生徒を見つめている。
「駒込ならやりかねない」「駒込に喧嘩売って大丈夫か?」
二極化したクラスメイト達の視線を受けても堂々と指をあたしに突き刺したままの女生徒に同調するように、取り巻きの男達が愛に謝れと騒ぎ立てる。
生徒会長、先輩、幼馴染だかなんかの同級生、眼鏡の風紀委員、生徒指導の教師まで。
彼らを巻き込んで、今日初めてまともに目を合わせた人間を虐めたなんて冤罪をかけられ、黙っていられるはずがない。
「早く死ね、ブス」
「証拠は?」と冷静に問いただすべきなのだろうが、よく目を凝らせば鋭い眼光を向ける弟の姿に気づく。
この女生徒を隠れ蓑に、あたしを潰しにきたのかと合点がいく。弟が本気であたしを潰す気なら、でっち上げた証拠を堂々と見せつけてくる可能性が高い。ならばここは変に肯定も否定もせず、事実のみを述べる必要がある。
「あんた、誰?」
「ひ、ひどい!アイのこと知らないのに虐めてきたの!?」
「知らない人間を他人に指図してまで危害を加えるほど人間に興味ないし、気に食わないこともないから。その子のことも今日初めて見たし」
「開き直ってんじゃねーよ!」
「誰が君の言葉を信じる?」
「信じてほしいなんて一言も言ってないけど。そうやって数の暴力で黙らせるやり方って、ヤクザそのものだよね。流石ヤクザがバックについてるだけはあるよ。そのうち銃器持ち出して殺人事件に発展しそう。ああ、柊はあたしの自殺を望んでるんだっけ?」
「ひ、ひどい!アイは被害者なのに…!みんなのことを悪く言うなんて…!」
「ぺちゃくちゃ喋ってねえで早く死ね、クソ女」
「はいはい。目の前から消えればいいんでしょ。生きててごめんなさいね」
たくさんの男を味方につけて、暴力団組長の娘に冤罪ふっかけて泣き真似か。
まともに登校した日など3日と存在しないあたしが虐めなんてくだらない真似を、見覚えない女生徒に指示して続けていたなどありえない。少し考えてみればわかるものだが。
この学校に通う生徒達にあたしの本質を知るものなどいないのだから、無理もないか。
重い腰上げてやっとの思いで学校へ来たのに。出鼻挫かれたな。
やっぱり学校なんて来るもんじゃない。幅を利かせるボスみたいな女の顔色窺って、同い年だからという理由だけで一つの箱に閉じ込められる。
皆で仲良く生活することを強要されるのだ。
この煙のように、消えてなくなりたい。
好きでもないタバコを口に加え、息を吐き出す。屋上のフェンスにより掛かり、このままフェンスが外れて落ちてしまえばいいと思うあたしの心は思ったよりも疲弊しているらしい。
「駒込…さん、だよね?いいの?事件、起こさなくて!今がチャンスだったのに!」
大きな音を立てて屋上のドアを開け放ち、あたしに声を掛けてきた女生徒は、先程クラスに居た少女だ。
あたしに命令されて、取り巻きを連れた女生徒を虐めたと捲し立てられていた少女だった。
全く見覚えがなければ、今日初めてあった少女に「事件を起こさなくていいの?」と聞かれても、事件など起こす計画を立てた覚えもないので、渋い顔をすることしかできない。
「何の話?」
「と、とぼけたって無駄だよっ!?ノエルは、今日というこの良き日!冤罪をでっち上げてきた里見愛を刺殺して、犯罪者になるんだから!」
「…へー、そうなんだー…」
「し、信じてないの!?なんでっ!?」
「なんでって…あたしってそんなに短気だと思われてるの?ヤクザの娘だから?」
「組長の娘だからじゃないよ!ノエルはそういうキャラなの!自己中で自信満々で、加虐趣味がある女の子!それが駒込ノエルなの!シューとは喧嘩ばっかしてて、いつでもどこでも流血騒ぎを起こすはずなのに…ノエルも保持者なの?」
「…前世の記憶なんて持ってないよ」
「だったらなんでノエルは愛を殺さなかったの!?駒込ノエルがここで行動を起こす選択肢は2つだけ!逆上して刺殺するか、絶望して自殺…あっ!そっかあ。自殺するため屋上にきたんだ?ごめんね!邪魔しちゃって!どうぞ、遠慮なくここから飛び降りちゃって!」
ーーこの子は劇団員か何か?それとも多重人格なのだろうか。
ちょっぴりセンチな気持ちになったのは事実だが、背中を押されてはいそうですかと飛び降りるほど人生に絶望していない。
あたしが真に受けて実際飛び降り自殺をした証拠を残して死ねば、この女子生徒は自殺ほう助で逮捕されるかもしれないのだが。
よく考えた上であたしの背中を押しているのだろうか。考えていないんだろうな。その点、背中を押されているのがあたしで良かったと思う。
「嘘つくな!お前が愛を虐めたんだろう!」
「ふん、最低だな…」
「愛が可愛いからって、僻んでんじゃねーよブス」
「みんな落ち着いて!天杉さんだけじゃないの!天杉さんは命令されただけなんだよ!天杉さんは…」
「あの子に命令されて、アイをいじめたんだ!」
一斉に向けられた視線に面食らい、それ以上教室の中に入ることができずに立ち竦む。
輪の中心で6人の男子生徒を従えた女生徒がいいがかりをつけて指差した相手があたしーーつまり、駒込組組長の娘であることを知った生徒達は悲鳴を上げた。
あるものは目に見えてわかるように怯え、信じられないものを見るような目で女生徒を見つめている。
「駒込ならやりかねない」「駒込に喧嘩売って大丈夫か?」
二極化したクラスメイト達の視線を受けても堂々と指をあたしに突き刺したままの女生徒に同調するように、取り巻きの男達が愛に謝れと騒ぎ立てる。
生徒会長、先輩、幼馴染だかなんかの同級生、眼鏡の風紀委員、生徒指導の教師まで。
彼らを巻き込んで、今日初めてまともに目を合わせた人間を虐めたなんて冤罪をかけられ、黙っていられるはずがない。
「早く死ね、ブス」
「証拠は?」と冷静に問いただすべきなのだろうが、よく目を凝らせば鋭い眼光を向ける弟の姿に気づく。
この女生徒を隠れ蓑に、あたしを潰しにきたのかと合点がいく。弟が本気であたしを潰す気なら、でっち上げた証拠を堂々と見せつけてくる可能性が高い。ならばここは変に肯定も否定もせず、事実のみを述べる必要がある。
「あんた、誰?」
「ひ、ひどい!アイのこと知らないのに虐めてきたの!?」
「知らない人間を他人に指図してまで危害を加えるほど人間に興味ないし、気に食わないこともないから。その子のことも今日初めて見たし」
「開き直ってんじゃねーよ!」
「誰が君の言葉を信じる?」
「信じてほしいなんて一言も言ってないけど。そうやって数の暴力で黙らせるやり方って、ヤクザそのものだよね。流石ヤクザがバックについてるだけはあるよ。そのうち銃器持ち出して殺人事件に発展しそう。ああ、柊はあたしの自殺を望んでるんだっけ?」
「ひ、ひどい!アイは被害者なのに…!みんなのことを悪く言うなんて…!」
「ぺちゃくちゃ喋ってねえで早く死ね、クソ女」
「はいはい。目の前から消えればいいんでしょ。生きててごめんなさいね」
たくさんの男を味方につけて、暴力団組長の娘に冤罪ふっかけて泣き真似か。
まともに登校した日など3日と存在しないあたしが虐めなんてくだらない真似を、見覚えない女生徒に指示して続けていたなどありえない。少し考えてみればわかるものだが。
この学校に通う生徒達にあたしの本質を知るものなどいないのだから、無理もないか。
重い腰上げてやっとの思いで学校へ来たのに。出鼻挫かれたな。
やっぱり学校なんて来るもんじゃない。幅を利かせるボスみたいな女の顔色窺って、同い年だからという理由だけで一つの箱に閉じ込められる。
皆で仲良く生活することを強要されるのだ。
この煙のように、消えてなくなりたい。
好きでもないタバコを口に加え、息を吐き出す。屋上のフェンスにより掛かり、このままフェンスが外れて落ちてしまえばいいと思うあたしの心は思ったよりも疲弊しているらしい。
「駒込…さん、だよね?いいの?事件、起こさなくて!今がチャンスだったのに!」
大きな音を立てて屋上のドアを開け放ち、あたしに声を掛けてきた女生徒は、先程クラスに居た少女だ。
あたしに命令されて、取り巻きを連れた女生徒を虐めたと捲し立てられていた少女だった。
全く見覚えがなければ、今日初めてあった少女に「事件を起こさなくていいの?」と聞かれても、事件など起こす計画を立てた覚えもないので、渋い顔をすることしかできない。
「何の話?」
「と、とぼけたって無駄だよっ!?ノエルは、今日というこの良き日!冤罪をでっち上げてきた里見愛を刺殺して、犯罪者になるんだから!」
「…へー、そうなんだー…」
「し、信じてないの!?なんでっ!?」
「なんでって…あたしってそんなに短気だと思われてるの?ヤクザの娘だから?」
「組長の娘だからじゃないよ!ノエルはそういうキャラなの!自己中で自信満々で、加虐趣味がある女の子!それが駒込ノエルなの!シューとは喧嘩ばっかしてて、いつでもどこでも流血騒ぎを起こすはずなのに…ノエルも保持者なの?」
「…前世の記憶なんて持ってないよ」
「だったらなんでノエルは愛を殺さなかったの!?駒込ノエルがここで行動を起こす選択肢は2つだけ!逆上して刺殺するか、絶望して自殺…あっ!そっかあ。自殺するため屋上にきたんだ?ごめんね!邪魔しちゃって!どうぞ、遠慮なくここから飛び降りちゃって!」
ーーこの子は劇団員か何か?それとも多重人格なのだろうか。
ちょっぴりセンチな気持ちになったのは事実だが、背中を押されてはいそうですかと飛び降りるほど人生に絶望していない。
あたしが真に受けて実際飛び降り自殺をした証拠を残して死ねば、この女子生徒は自殺ほう助で逮捕されるかもしれないのだが。
よく考えた上であたしの背中を押しているのだろうか。考えていないんだろうな。その点、背中を押されているのがあたしで良かったと思う。
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