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偽物聖騎士と聖女と護衛騎士

スピカの魔石

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「…」
「なんだよ。どうせ親父だってもう死んでいるだろ?俺が生きて、スピカと一緒にいるのはそんなにおかしいか?」

 聖騎士ティトマスは俺のファミリーネームを聞いた後、眉を潜めて唇を強く噛み締めている。

「ーー自らが生き伸びるためには手段を選ばない」
「処刑されそうになってもう2年だ。無罪のやつを殺す勇気はないけど、俺とスピカを殺す気で立ちはだかるやつを切り捨てる覚悟はあるよ」
「肉親でも、ですか」
「…俺の親父。金に目でも眩んだ?」
「……ラクパス・カールメイク男爵は、ネストカヴィラ伯爵と交流があるはずです」
「ネストカヴィラって、名家だよな。王都で暮らしている…」
「ネストカヴィラは、教会のハネス司祭と深い交流があります。教会内部で聞き及ぶ限り、カールメイクの名は悪い噂ばかりでしたが…。おそらくは黒かと」
「どこに対しての黒だ?俺に対して?聖女様に対してか。それともーー国民に対して?」
「全人類の敵ですよ。私の記憶が確かならば、ステラ村で行われていた先代聖女リディアール様の魔石研究に関わっているはずです」
「……らくぱす、かーるめいく」
「スピカ様」
「スピカ、その名前。聞いたこと、ある。スピカの…魔石。奪ったーー」
「…スピカ様は、魔石を保持していないのですか」
「ん。スピカの魔石、人間だった頃。心臓と一緒に摘出された。スピカ、魔石なくなった時。神様に、魔石がなくても生きる身体、魂入れて貰った。それが今のスピカ」

 スピカは親父の名前を知っているらしい。
 親父の話などスピカにしたことないから知らなかった。
 俺の魔石は後天的に埋め込まれたものだが、まさかスピカの魔石が俺に埋め込まれていることを本能的に悟り、俺を助けたとか…ない、よな?はは。まさか。

 ないとは言い切れないのが、怖くもある。スピカには俺の左目が義眼であるこを告げていない。
 腹を割って話す必要があるのかもしれないな。ひとまず、今はーー

「わたくしは、リディア伯母様が亡くなった理由を、真相を知りたいのです。その真実を知るため、あなたのお父様を加害することもあるでしょう」
「聖女様が加害?そんな言葉が聖女様から出てくるなんてな。聖女様は穢れを知らず、神の言葉を下々のものに伝える役割を持つ穢れなき少女だろ?そんな物騒な言葉ーー」
「わたくしの騎士はけして嘘はつきません。わたくしの聖騎士ティトマスが口にしたことは、そのすべてが真実に違いない。今一度問いましょう。あなたは、わたくしの敵になりますか。聖騎士マルメークーーラクルス・カールメイク」
「ーー神の愛子に反旗を翻すわけないだろ?」

 生前、先代聖女リディアールの友人であったスピカは聖女メロリーチェの手をゆっくりと握り返した。
 俺が聖騎士ティトマスと話している間にポツポツと昔の思い出を語り合い交流が生まれたらしい。
 すっかり聖女様メロリーチェに心を許したスピカは、俺が笑い返せば、ほっとしたように、息を吐き、木製椅子に戻った。

「まあ…」

 まるで魔法のように。
 繋いだ手はいつの間にか固い膝起きに変化していることに気づいた聖女メロリーチェは咄嗟に口元へ手を当てる。
 魔力が尽きたのか、温存するためか。文字通り俺の事情はすべて話し終え、スピカも木製椅子に戻ったならばそろそろ頃合いか。

「聖女様御一行は教会の悪事を暴きたい。俺は悪事を白日の下に晒すのはどうでもいいけど、教会にはさっさと消えてほしいからさ。利害は一致している。お互い、持ちつ持たれつやっていこう」
「それはこちらが提案するべきことです。この方を誰だとお思いですか。神の声を聞く聖女様であらせられるのですよ」
「はいはい、申し訳ありませんでした。今日の話はお互いに俺たちの秘密ってことで。じゃあ、俺たちはこれで。よっと」
「またそのような持ち方で輸送するのですか。目立ちますよ」
「一人で歩かせるのとどっちがいい?」
「ふふふ。ティトマスの負けですね」

 くすくすと笑う聖女メロリーチェの声を聞きながらかつて教会が違法な魔石研究をしていた場所に2人で向かうと告げた聖女様御一行と別れ、スピカと2人。
 人っ子一人いない夜の街を歩く。

 カタン、カタン。

 ひとりでに歩く木製椅子の足音が不気味に響く中、一人と一脚の椅子は仲良く並んで歩く。

「なあ、スピカ」
「なあに、あるじさま」

 かたん、たん、かたん。たん。

 俺の足音と木製椅子の足音を交互に聞き続けているとだんだん癖になってくる。
 心地よくてこのままずっと聞いていたくなるが、俺の聞きたいことをスピカに聞くためには、この音を止めなければならない。

「本当は、最初から。わかっていたんだよな」
「…なに」
「スピカの魔石。俺の魔石は、スピカが生前宿していた魔石なんじゃないかって」
「……………あるじさま、運命の番」
「あるじさまなら、いいの。スピカの魔石でも、そうでなくても」
「…もし、俺の魔石が、スピカのもんなら…」
「あるじさま、魔石なくなったら、死んじゃう。スピカ、もういいの。魔石がなくても。あるじさまの中で生きている。スピカの魔石、だいじにして、ね」
「…ああ」

 俺の義眼に宿る魔石が生前、スピカのものならば。
 本来この魔石は放出の力を兼ね備えていたはずであるのにーーなぜ、俺の身体に埋め込まれた魔石には放出機能のないのだろう。
 性別で変化しているだけなら、義眼を抉り取りスピカに魔石を戻せば、魔力放出を宿した魔石として機能するのか。

 親父は親父、俺は俺と言わずに、魔術のエキスパートである親父に習い、魔石のイロハを教わるべきだった。

 今更後悔するくらいなら、未来に向かって努力すればいいだけだ。

「告白みたいだなあ」
「スピカ、渾身の告白。だいじにして、ね。だーりん」

 調子に乗ってひとりでに歩いていた椅子を持ち上げ、ぐるぐると回せば、ケタケタと楽しそうに笑うスピカの笑い声が聞こえる。
 楽しくて仕方がないのか木製椅子から零れ種を落とし、魔力を注ぎ込んだスピカの植物達がみるみるうちに花を咲かせて、あっちへこっちへと回る俺と一脚の椅子に合わせて揺れるのだった。
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