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第二章 側仕え編

頭は痛いが結果は出る ※神官長視点

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~ハルウォーガン視点~



「こちらの部屋でございます。」



メイウッド公爵の案内で、私と側近、そしてイングランドと護衛騎士が入室し、席についた。メイウッド公爵は、ここメイウッドの地を治めるランドだ。ランドとは、領をさらにいくつかの土地(藩)に分けて、その地の運営を領主に任せられた者のことである。

ランド・メイウッドは、亡くなった夫の前ランドに代わって、この土地を収めている女傑だ。また、現騎士団長の母親でもあり、ここミレッジナーベにおける重要人物の1人だ。





「ランド・メイウッド、改めて突然訪問してしまい、すまなかったな。対応感謝する。」



「プリフの望みとあれば何なりと。我がメイウッド家は、あなた方を支持しておりますので。うふふふふふふ。息子はよく働いているでしょうか?」





プリフとは、領主を指す言葉だ。藩を収める者をランド、領主をプリフと呼ぶことが一般となっている。



「騎士団長としてこの上ない働きをしているぞ。今は、このメイウッドの地で冬の将と戦っているのだ。其方にも直接、騎士団長の活躍が耳に入っているのではないか?」





将とは、季節の始まりに現れる最も強い魔物のことだ。今回は、このメイウッドに出現した。将の討伐は毎年行っていることだが、瘴気の処理をしきれず魔物の発生が活発となっている現状では、過去に例のないくらい厳しい戦いとなっている。







「プリフにそういっていただけることは、我が家の誇りでございます。……それで、お話したかったのが冬の将の討伐の現状です。プリフ方が馬車で移動なさっている間に、冬の将は討伐されました。ご到着のほんの少し前のことでしたので、このように口頭で報告させていただきました。」



「本当か!? 苦戦していると報告を受けていたから、もう少しかかるものと思っていたが、みな本当によくやってくれたのだな。プリフとして誇りに思うぞ。」



「うふふふふふ。騎士団の者たちが聞けば、誉と思うことでしょう。……ただ、冬の将が出現させた眷属と通常発生した魔物の残党が多く残っており、今は森の入り口まで後退し、陣を張っている状況です。」



森の入り口まで後退しているだと? 事前に聞いていた報告では、森の中ほどで陣を張るのではなかったか? 私たちは馬車で森の中ほどまで馬車で行く予定だった。

入り口まで後退したというよりは、後退せざるを得ない状況だと考えた方が良いだろう。





「騎士団の被害状況は? 」



「ハルウォーガン様がお考えのとおり、冬の将との戦いで大きな損害が出ておりまして、大量の魔物たちと戦えるほどの余力がない状況です。微力ではございますが、回復薬の補給部隊を送ったところです。」





思ったよりもかなりひどい状況のようだ。冬の将討伐以前も、ひっきりなしに魔物の討伐があったため、騎士団の消耗はかなりのものだ。

城の文官を総動員して回復薬をつくり、魔石も用意できる分持っては来たが、ランド・メイウッドの分と合わせて足りればよいが……。ミレッジナーベの現状は、逼迫したものとなっている。今回をしのいでも、次は春の将討伐もある。瘴気による魔物の大量発生を解決しなければ、次は騎士団の壊滅なんてこともあり得る。





「回復薬の援助に感謝する。我々の方でも、回復薬と魔石を用意してきたところだ。」



「……魔石もでございますか? 騎士団の者たちは喜ぶでしょうが……いえ。私が今言うべきことではないですね。」





魔石は魔物から討伐して得られるものだ。魔物が大量発生している現状、魔獣の数と同様に大量の魔石を得ているが、魔石はそのままでは使えないのだ。魔物から得た魔石は、聖女の力によって瘴気を抜き出さなければ使用できないのだ。その聖女が実質いないミレッジナーベでは、自力で魔石を調達できない状態のため、他領からの購入に頼っているのだ。今回は、我々領主一族が保有する魔石の備蓄を切り崩して持参している。そのことを知ったランド・メイウッドは、口を噤んたのであろう。





「イングランド。人手が足りない状況だ。騎士団の様子次第では、私が戦闘に参加するべきではないか? 騎士団の活躍により冬の将はすでに討伐された。残りが通常の魔獣だけであれば、領主一族の魔力をもって一気に討伐した方がいいと考える。其方はどう考える?」



「……そうだな。其方には様々な仕事を任せてしまっているが、この様な状況だ。すまないが、場合によっては騎士団への助力をお願いする。」



「了解した。仮に騎士団の疲弊が予想以上だった場合は、野営地まで同行したのち、私とカジケープは残り騎士団の助力をする。ユットゲーは、イングランドの指示に従い楽師を連れて帰るように。」



「「かしこまりました。」」





私の指示にカジケープとユットゲーが跪いて、恭順の意を示した。実践は久しぶりだが、通常の魔獣相手なら問題ないだろう。念のため、戦いの用意をしてきておいて正解だったな。





「情報共有はこれで終了でいいか? 終了ならばすぐに、野営地に向けて出発しよう。」



「かしこまりました。ここから野営地までは、馬車で1時間ほどになります。我がメイウッド家の騎士団を数人、案内兼護衛として同行させましょう。」



「其方の騎士団も討伐に参加し、人数が少ないのにすまないな。助かる。」



「うふふふふふ。騎士団のために、少ない護衛を引き連れて来ていただいたプリフほどではございませんわ。」



「そう言ってくれると助かる。では、行こうか。」















ーー















私たちは、ランド・メイウッドの騎士団の案内に従って、冬の将が出現した森の入口へとやってきた。

入り口にはいくつものテントが張っており、焚火がされている。見張りの騎士の元へカジケープを行かせ、プリフの来訪を騎士団長に伝えた。その際に、動けない者や休んでいる者は無理にでてこないよう伝えた。



しかし、少しすると、騎士団長を始めとした全ての騎士たちが姿を現し、プリフの前に跪いた。騎士たちの多くが包帯を巻いており、中には跪くことが厳しそうなものもいる。





「この様な場にお越しいただき、光栄の極みにございます。討伐に時間がかかってしまい、大変申し訳ございません。」





騎士団の戦闘で跪いている騎士団長もといランベタントが口をひらいた。

彼はまだ20代前半にも関わらず、父である前騎士団長のあとを継いで騎士団長となった真面目で優秀な騎士である。騎士団長は代々、プリフの筆頭護衛騎士も兼任している





「出迎えご苦労。冬の将の迅速な討伐、プリフとして誇りに思う。見たところ跪くが厳しい者もいるようだ。ミレッジナーベのために死力を尽くした騎士たちは、すぐに休ませてやれ。回復薬と魔石をもってきている。使用用途は全て騎士団長に任せる故、次の戦いに備えるように。報告は後でこう。」





イングランドが簡潔にそういうと、騎士団長以下全ての騎士たちがお礼を述べた。すぐにてきぱきと行動し始め、けが人の運び出しや治療を行いだした。ランド・メイウッドからは回復薬のほかに、食事の提供もあった。そのことも告げ、騎士たちに食事を行き渡らせた。









本陣に案内された我々は、報告書に目を通していた。

少しすると、騎士たちに指示を出し終えた騎士団長が戻って来て、報告書を踏まえた報告を始めた。内容は概ねランド・メイウッドから聞いていたものと同様で、魔獣たちは今、森の中ほどで警戒態勢をとっていることだ。森の奥に出現した冬の将を討伐したことにより主を失ったことから、警戒しているのだろう。





「プリフ。改めて、お越しいただきありがとうございます。プリフの言葉を聞き、我々騎士団の士気は高まりました。……ただ、護衛が少ない中、ハルウォーガン様が一緒とはいえ、この様な場にいらっしゃると聞いたときは、あなた様の筆頭護衛騎士として心配でなりませんでした。」





騎士団長は筆頭護衛騎士として、至極真っ当なことを言った。私もそう思うが、イングランドは行くと言って聞かなかった。しかし、領主一族、筆頭護衛騎士からすると、迷惑極まりない行動だが、だからこそというべきか領民を思うイングランドは特に若い世代から支持されている。支持されているとはいっても、もちろんすべての貴族からではない。どこの領地にも、反領主派というものは存在し、ミレッジナーベも例外ではない。ミレッジナーベは厳しい現状に置かれており、反領主派の力が強まっているという頭の痛い問題がある。





「すまないとは思っているが、其方らを直接労いたかったのだ。用事が終わったらすぐに帰るぞ。」



「……用事と言いますと?」





騎士団長がそう聞き返すと、イングランドは少しだけ口角を上げた。
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