上 下
129 / 149
第三章 ウェルカムキャンプ編

126

しおりを挟む
「信じられないのなら、信じられるようなストーリーと権力を使うまでだ。まず、エリクサーは少量使ったことにする。命の危機に瀕していたわけではないのだ。ただ、身体の機能を一部回復させただけだ。少量のエリクサーと、血液回復魔法、水回復魔法を掛け合わせたことによって治療が成功したことにする。それから、侯爵家次男のローウェルを対象にした理由は次のとおりだ。まず、魔導士の底上げを行うためだ。近年、我がアーキウェル王国の魔導士の質が低下していることには、多くの者が危機感を抱いているところだ。そのような中で、今年の1年生には、魔導士の名門バルザンス公爵家の次男、騎士家系でありながら、希少属性と魔力量によって第二王子の側近に取り立てられた辺境伯家の次男、そして、同じく魔導士の名門であり、現魔導副団長の次男が同じ代に揃っている。国は、この1年生の代から我国の魔導士復権を目指している。しかし、肝心の1名は魔力回路が破壊されているときた。そこで、エリクサーを少量使ってでも、魔力回路を回復させようとした、というストーリーだ。騎士や魔導士の質を表すのは、やはり貴族院の交流戦だ。1年生の時は1名ずつの勝負だが、2年生以降は団体戦となる。勝てる魔導士は最低でも3人必要だから、ローウェルが必要ないと主張するものは少数だろう。これが、対外的な理由だ。次に内部向け……味方向けといったほうがいいだろうか、の説明だ。今までは、ザールの血液魔法は他の回復魔法の追随を許さぬほどとびぬけた回復力をもっていた。そこに、アースという水回復魔法の使い手が加わったことで、エリクサーにも勝るとも劣らない回復力があることが分かった。実際、魔力回路の治療に成功しているわけだからな。回復力があるとわかれば、エリクサーを使用したことにするのに大きな反対は出ないだろう。それから、「使った分」のエリクサーは自力でとりにいくということにもする。なに、数年後もすれば俺たちを超えていく弟たちだ。エリクサーの1つや2つ、とってくるのは造作もないことだろう。」


アルベルト殿下は、一見ととても爽やかに見える笑顔で、俺達を1人ずつ見つめた。
途中までは、さすが第一王子殿下だなと思って聞いていたのに、最後の一言で一気に血の気が引いた。この人、とんでもないことをさらっと言ってのけたな。
一方のアルベルト殿下は、俺達が引きつった笑みを浮かべているのをまったく気にしていないかのように言葉を続けた。


「とりあえず其方らは、次世代の魔導士をけん引していくことを内外に示さなければならない。まあ簡単に言うと、毎年優勝しろということだ。なに、其方らが道に迷わぬようにささやかではあるが、俺たちが毎年優勝の道を示しているのだ。……ああ、もちろん、魔導士だけ強いなどと言われるようであれば、「魔導士が不作」から「騎士が不作」に取って代わるだけで何の意味もない。したがって、騎士見習も毎年優勝するように。」


俺達は視線を交わし合って、いい笑顔で返事をした。
ここまでくると、優勝するしか道はないのだ。グダグダ言って機嫌を損ねるよりも、従順に返事をしておいた方が今後何かと都合がいいだろう。


「よし、いい返事だ。……その返事が、この場をしのぐためのものだけではないことを願っている。まあとりあえず、アース、今日は大儀であった。これからも、よく励むように。」


「はい、ありがとうございます。情報操作の件もお任せしてしまい恐縮ですが、よろしくお願いします。」




そうして、本日は解散となった。皆さんがいなくなった後、ローウェルには何度も感謝され抱き着かれた。
改めて言うが、ローウェルもかなりのイケメンだ。イケメンのローウェルに強く抱きしめられた俺は、てんやわんやとなってしまったが、キルが静かにローウェルをはがしてくれた。


その後、魔力回路が回復したローウェルは目立ちに目立ちまくっていた。しかし、アルベルト殿下の情報操作のおかげで、表立って非難する声は上がらなかった。かくいう俺も、水回復魔法の使い手であることが広まって、ひそひそと噂されることになった。まあ、ローウェルが楽しそうに魔法の練習に取り組んでいるからいいけどね。

ローウェルは魔導士として、かなり遅れたスタートを切ることになった。今から、何年分もの時間を取り返さないといけない。少しで早く皆に追いつけるようにと、カーナイト様が名乗りを上げてくださりスパルタ訓練が開始された。とてもきついが、充実しているとローウェルは言っている。ローウェルといえば、今まで文官見習として過ごしてきた。これから文官見習はやめて魔導士見習にジョブチェンジするのか聞いてみたら、「俺の影属性は、諜報活動と相性がいいから文官見習は続けるぜ。それに、俺がやめると殿下に文官見習が一人もいなくなるからな。」と、さわやかな笑顔で言った。文官見習も授業や王城でのお勤めがあるあら、それに加えて魔導士見習の訓練も行うとなると、かなりのハードスケジュールになる。俺も、サポートできることはしていきたい。


さて、そうこうしているうちに、月末が近づいてきた。月末と言えば、楽しみにしていたウェルカムキャンプが行われる。キルたちとは離れてしまうけど、オルト様たちと色々な話ができそうで楽しみだ。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

俺のまったり生活はどこへ?

グランラババー
BL
   異世界に転生したリューイは、前世での死因を鑑みて、今世は若いうちだけ頑張って仕事をして、不労所得獲得を目指し、20代後半からはのんびり、まったり生活することにする。  しかし、次代の王となる第一王子に気に入られたり、伝説のドラゴンを倒したりと、今世も仕事からは逃れられそうにない。    さて、リューイは無事に不労所得獲得と、のんびり、まったり生活を実現できるのか? 「俺と第一王子との婚約なんて聞いてない!!」   BLではありますが、軽い恋愛要素があるぐらいで、R18には至りません。  以前は別の名前で投稿してたのですが、小説の内容がどうしても題名に沿わなくなってしまったため、題名を変更しました。    題名変更に伴い、小説の内容を少しずつ変更していきます。  小説の修正が終わりましたら、新章を投稿していきたいと思っています。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

乙女ゲームに転生したらチートだったけど平凡に生きたいのでとりあえず悪役令息付きの世話役になってみました。

ぽぽ
BL
転生したと思ったら乙女ゲーム?! しかも俺は公式キャラじゃないと思ってたのにチートだった為に悪役令息に仕えることに!!!!!! 可愛い彼のために全身全霊善処します!……とか思ってたらなんかこれ展開が…BLゲームかッッ??! 表紙はフレドリックです! Twitterやってますm(*_ _)m あおば (@aoba_bl)

異世界に召喚されて失明したけど幸せです。

るて
BL
僕はシノ。 なんでか異世界に召喚されたみたいです! でも、声は聴こえるのに目の前が真っ暗なんだろう あ、失明したらしいっす うん。まー、別にいーや。 なんかチヤホヤしてもらえて嬉しい! あと、めっちゃ耳が良くなってたよ( ˘꒳˘) 目が見えなくても僕は戦えます(`✧ω✧´)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

処理中です...