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第三章 ウェルカムキャンプ編
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魔法はイメージだ。
地球での生活の影響を受ける俺にとって、治療と言えばやはりお医者さんだ。お医者さんといえば色々象徴的なものがあると思うけど、俺にとって一番印象深いのは白衣だ。
俺に医学の知識はないけど、回復魔法も人を治療することに変わりはない。俺はイメージを高める意味で、本気で治療するときには白衣を纏うようにした。
白衣といっても物理的に纏うのではなく、魔法で作る水の白衣だ。
『清らかなる水よ 我に癒しの力を与えたまえ 清流の衣』
俺の詠唱が終わると、水が俺の体を優しく包むように発生し、白衣の形となった。
後はもう一つ、治療する場所もはっきり見えた方が良い。今回は、魔力回路という地球には存在しない器官を治療することになる。闇雲に回復魔法をかけるよりも、はっきりと
視認して治療した方が良い。
ということで………
『氷鏡』
俺がそう詠唱すると、厚さのほとんどない氷の板が、ローウェルの体の上に出現した。
この氷鏡は、対象について、俺が見たいものを映し出してくれる。今回でいうと、ローウェルの魔力の流れを映し出す。
これは………魔力回路が壊れていることがよくわかる。血管のように、体に張り巡らされている管が見える。きっとこれが、魔力回路なのだろう。
初学院の時、キルが俺にしてくれたように丹田にある魔力源を外部から刺激すると、魔力は魔力回路の中を常にめぐる状態になる。戦闘時などは、その流れを操作することで火力強化や身体強化などを行う。
今のローウェルの状態は、確かに全身に魔力が巡っているようだけど、血が血管を通るみたいにきれいな流れ方をしておらず、大体の魔力が一連の流れからそれるように、多くの場所で魔力が漏れ出している。以前、火を出すところを見せてもらったけど、全然
火力がなかった。
それもそのはずで、魔力回路から魔力が漏れ出ているのだから、いくら魔力量があっても発動までこぎつける間に魔力の大半が失われるのだ。
「こ、これは………大変素晴らしですね。僕の治療でも採用したいくらい、見事な魔法です。」
いつの間にか、ザール様が俺の隣に来ていて、一緒に氷鏡を覗き込んでいた。見た目が完全に少年なので、一見、社会見学をしている学生にしかみえない。
それから、俺の水の白衣をぺちぺちと触りながら、「この水は濡れないのですね」と言って興味深そうにしている。同じく回復魔法を使う者として、色々と興味がそそられるのだろう。
「ザール様にそう言っていただけるとは、光栄です。では、これから魔力回路の治療に入ります。最初は、魔力回路に向けて上級回復魔法をかけます。」
俺はそこで言葉を区切って、目を閉じて大きく深呼吸をした。
上級魔法を使うためには、それぞれの属性をつかさどる神々に力を授けていただくために、長い詠唱が必要になる。
『癒しと浄化を司る光の女神に希う、再び立ちあがる癒しの力を、邪悪を払う浄化の力を、我が力として授け給え、願わくはその御力で我が願いを叶え奉らんことを 清流の回帰』
その瞬間、まばゆいほどの光の水がローウェルを包み込んで、身体の中にゆっくりと入っていった。
相変わらず、上級回復魔法は派手で目立つな。周りからは息をのむような声が聞こえる。上級回復魔法を直接見た経験が少ないのだろうか?
「これが………貴族院1年生の扱う魔法ですか? 上級回復魔法でかつ癒しと浄化の魔法を両立するなんて、めったにお目にかかれるものではないですよ………。」
「ええ、そうえすね。普通は、癒しと浄化………解呪又は解毒の魔法は別々に行使します。片方しか適性がない場合はもちろんですが、例え両方の適性があっても、両方を同時に扱うためには魔力量と魔力制御の腕がかなり求められます。めったにお目にかかれないどころか、僕でも無理ですよ。血液魔法には解呪の能力がないですからね。僕が知る限りでは、アース君ただ
1人だけでしょう。」
トークル様が目を見開いてつぶやくと、それに対して、ザール様が冷静に解説を行った。
なるほど、普通は両立しないのか………。両方行った方が効率良いと思うから、俺はこのまま同時に行っていくけどね。
「あははははは………師の教えがよかったのでしょう。」
俺はとりあえず、貴族スマイルで流すことにした。他の人とどう違うのかもわからないし、俺に聞かれてもよくわからない。
カーナイト様もとい師匠に聞いてもらった方がいいだろう。
………あれ? ローウェルの魔力回路の流れが、まったくよくなっていない。回復魔法が効いていない・・・・・・・・・のか?
「ザール様、魔力回路が全く回復されません。恐れ入りますが、お知恵を貸していただけませんか?」
「もちろんです、アース君。回復魔法は正常に発動しています。ということは、回復対象に何らかの原因があるのでしょう。アース様の氷鏡をみてください。魔力源以外の魔力回路の部分では、アース君の魔力がはじかれています。おそらく………魔力回路は、自身の魔力で構成されているのではないでしょうか?
通常、他人と自身の魔力は交わることはありません。ゆえに、ローウェル君の魔力回路をアース君の魔力で回復することは、難しいのかもしれません。」
………つまり、ローウェルの魔力回路を治療することは実質無理ということになるのか?
ここまでローウェルに期待をもたせておいて、できませんというのはあまりに残酷すぎる。俺はローウェルのことをゆっくりと見つめた。すると、ローウェルは笑顔で首を横に振った。
「アースがそんな顔をする必要は全くないぜ。今までと同じ状態に戻るだけだからさ。こうして、治療しようとしてくれただけで、俺はうれしいぜ。」
………くそっ。何か、何か別の方法を考えろ。
ローウェルの魔力回路を治療するためには、ローウェル自身の魔力で回復魔法を行使するしか方法がない。つまり、ローウェルが自分で回復魔法を使えなければいけない。
しかし、これはローウェルに光属性がないため不可能だ。
………ローウェルの魔力と俺の魔力を混ぜて俺が回復魔法を使えば、もしかしていけるのではないか?
地球での生活の影響を受ける俺にとって、治療と言えばやはりお医者さんだ。お医者さんといえば色々象徴的なものがあると思うけど、俺にとって一番印象深いのは白衣だ。
俺に医学の知識はないけど、回復魔法も人を治療することに変わりはない。俺はイメージを高める意味で、本気で治療するときには白衣を纏うようにした。
白衣といっても物理的に纏うのではなく、魔法で作る水の白衣だ。
『清らかなる水よ 我に癒しの力を与えたまえ 清流の衣』
俺の詠唱が終わると、水が俺の体を優しく包むように発生し、白衣の形となった。
後はもう一つ、治療する場所もはっきり見えた方が良い。今回は、魔力回路という地球には存在しない器官を治療することになる。闇雲に回復魔法をかけるよりも、はっきりと
視認して治療した方が良い。
ということで………
『氷鏡』
俺がそう詠唱すると、厚さのほとんどない氷の板が、ローウェルの体の上に出現した。
この氷鏡は、対象について、俺が見たいものを映し出してくれる。今回でいうと、ローウェルの魔力の流れを映し出す。
これは………魔力回路が壊れていることがよくわかる。血管のように、体に張り巡らされている管が見える。きっとこれが、魔力回路なのだろう。
初学院の時、キルが俺にしてくれたように丹田にある魔力源を外部から刺激すると、魔力は魔力回路の中を常にめぐる状態になる。戦闘時などは、その流れを操作することで火力強化や身体強化などを行う。
今のローウェルの状態は、確かに全身に魔力が巡っているようだけど、血が血管を通るみたいにきれいな流れ方をしておらず、大体の魔力が一連の流れからそれるように、多くの場所で魔力が漏れ出している。以前、火を出すところを見せてもらったけど、全然
火力がなかった。
それもそのはずで、魔力回路から魔力が漏れ出ているのだから、いくら魔力量があっても発動までこぎつける間に魔力の大半が失われるのだ。
「こ、これは………大変素晴らしですね。僕の治療でも採用したいくらい、見事な魔法です。」
いつの間にか、ザール様が俺の隣に来ていて、一緒に氷鏡を覗き込んでいた。見た目が完全に少年なので、一見、社会見学をしている学生にしかみえない。
それから、俺の水の白衣をぺちぺちと触りながら、「この水は濡れないのですね」と言って興味深そうにしている。同じく回復魔法を使う者として、色々と興味がそそられるのだろう。
「ザール様にそう言っていただけるとは、光栄です。では、これから魔力回路の治療に入ります。最初は、魔力回路に向けて上級回復魔法をかけます。」
俺はそこで言葉を区切って、目を閉じて大きく深呼吸をした。
上級魔法を使うためには、それぞれの属性をつかさどる神々に力を授けていただくために、長い詠唱が必要になる。
『癒しと浄化を司る光の女神に希う、再び立ちあがる癒しの力を、邪悪を払う浄化の力を、我が力として授け給え、願わくはその御力で我が願いを叶え奉らんことを 清流の回帰』
その瞬間、まばゆいほどの光の水がローウェルを包み込んで、身体の中にゆっくりと入っていった。
相変わらず、上級回復魔法は派手で目立つな。周りからは息をのむような声が聞こえる。上級回復魔法を直接見た経験が少ないのだろうか?
「これが………貴族院1年生の扱う魔法ですか? 上級回復魔法でかつ癒しと浄化の魔法を両立するなんて、めったにお目にかかれるものではないですよ………。」
「ええ、そうえすね。普通は、癒しと浄化………解呪又は解毒の魔法は別々に行使します。片方しか適性がない場合はもちろんですが、例え両方の適性があっても、両方を同時に扱うためには魔力量と魔力制御の腕がかなり求められます。めったにお目にかかれないどころか、僕でも無理ですよ。血液魔法には解呪の能力がないですからね。僕が知る限りでは、アース君ただ
1人だけでしょう。」
トークル様が目を見開いてつぶやくと、それに対して、ザール様が冷静に解説を行った。
なるほど、普通は両立しないのか………。両方行った方が効率良いと思うから、俺はこのまま同時に行っていくけどね。
「あははははは………師の教えがよかったのでしょう。」
俺はとりあえず、貴族スマイルで流すことにした。他の人とどう違うのかもわからないし、俺に聞かれてもよくわからない。
カーナイト様もとい師匠に聞いてもらった方がいいだろう。
………あれ? ローウェルの魔力回路の流れが、まったくよくなっていない。回復魔法が効いていない・・・・・・・・・のか?
「ザール様、魔力回路が全く回復されません。恐れ入りますが、お知恵を貸していただけませんか?」
「もちろんです、アース君。回復魔法は正常に発動しています。ということは、回復対象に何らかの原因があるのでしょう。アース様の氷鏡をみてください。魔力源以外の魔力回路の部分では、アース君の魔力がはじかれています。おそらく………魔力回路は、自身の魔力で構成されているのではないでしょうか?
通常、他人と自身の魔力は交わることはありません。ゆえに、ローウェル君の魔力回路をアース君の魔力で回復することは、難しいのかもしれません。」
………つまり、ローウェルの魔力回路を治療することは実質無理ということになるのか?
ここまでローウェルに期待をもたせておいて、できませんというのはあまりに残酷すぎる。俺はローウェルのことをゆっくりと見つめた。すると、ローウェルは笑顔で首を横に振った。
「アースがそんな顔をする必要は全くないぜ。今までと同じ状態に戻るだけだからさ。こうして、治療しようとしてくれただけで、俺はうれしいぜ。」
………くそっ。何か、何か別の方法を考えろ。
ローウェルの魔力回路を治療するためには、ローウェル自身の魔力で回復魔法を行使するしか方法がない。つまり、ローウェルが自分で回復魔法を使えなければいけない。
しかし、これはローウェルに光属性がないため不可能だ。
………ローウェルの魔力と俺の魔力を混ぜて俺が回復魔法を使えば、もしかしていけるのではないか?
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