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第三章 ウェルカムキャンプ編

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俺は次に、ローウェルに視線を移した。

俺はみんなに耳を貸すようにジェスチャーをした。
ジールとローウェルは面白そうに耳を寄せ、キルとキースは一応聞く体制をとってくれた。


「ローウェル、あの時の約束を果たすよ。治そう、ローウェルの魔力回路。そして、一緒につくろう、魔導士の黄金時代を。(小声)」


俺がそういうと、全員目を見開いて固まってしまった。
魔力回路とは、その名のとおり身体の中にある魔力が流れる管だ。ローウェルは初学院1年生の時に上級魔法を発動しようとして、魔力回路がズタボロとなり、魔導士生命を絶たれてしまっていた。
その魔力回路を、俺が治療すると約束したのだ。

そもそも、魔力回路の修復は不可能と言われていた。魔法はイメージだ。魔力回路は血管のように確かに体の中に存在するが、物理的には見えないのだ。だから、どのようなものかしっかりとイメージすることができず、治療が困難だった。
それから、後から判明することだが、魔力回路には本人の魔力が濃密にダイレクトに流れている。そこに他人の魔力で回復魔法を行使しようとしても、魔力が反発しあい治療が不可能でもあった。


それを、俺が治すと言ったのだ。みんなが驚きを隠せなくても仕方がない。


すると、ローウェルが俺のことをさっと抱き寄せた。


「………ありがとう、アース。」


「まだお礼を言うには早いよ、ローウェル。実際に魔力回路の治療をしたわけではないから、可能性があるとしか言えない。………それでもいい?」


「ああ、アースに任せるぜ。」


「うん、全力を尽くすよ。早速今晩にしようか、魔法の訓練を再開する上でも早い方が良いよね?」



俺がそういうと、すぐに首を横に振ってキルの方をちらっと見やった。


「俺の治療よりも、主の方が先だな。ジールから色々聞いているだろ? アースも主と2人で話したいだろうし、主もきっと望んでいる。だから、今晩は主との時間にあててくれ。」


「ローウェルがそういうなら………わかったよ。明日、必ず治療しようね。」


「ああ、よろしく頼むぜ。」



すると、少し低い声で声をかけながら、キルが俺とローウェルを引きはがした。
キルの方をちらっと見ながら話をしていたので、不快にさせてしまたのだろう。



「おい、何を2人でこそこそ話しているんだ? アース、ローウェルの治療は治療して終わりじゃない。魔力回路が壊れた者がいきなり魔法を使えるようになったら、周りの
人間はどう思う? 治療の前にしっかりとした根回しが必要だ。」



うっ………確かにそのとおりだ。
国内だけではなく、「悪魔の呪い」と同様に諸外国に広まる内容に思える。俺はそのまま項垂れてしまった。



「まあそう落ち込むな。俺が、兄上やザールに話をつける。アースは思ったように行動すればいい。ローウェルのこと、よろしく頼むな。」



………なんというか、すごく成長したような気がする。
思春期な部分はおいておくとしても、冷静だし対応も的確だ。剣術だけではなく、王族として主としての勉強も当然の様にこなしてきたのだろう。



「うん、キルにお願いするよ。ありがとう。」

「………ああ。」



すると、キルは眩しそうに俺のことを見つめた。いつものように、そっぽを向くと思ったけどどうしたのだろうか?
俺とキルがちょっと見つめ合っている状態になっていると、アクア先生の声が聞こえてきた。




「挨拶は済んだかしら? それでは、授業を始めますの。」







ーー






貴族院は、午前2コマ・午後1コマという時間割だ。
今日の午前は、どちらも座学だった。初学院の内容が少し難しくなった感じだ。算術はまあ、前世知識があるとして歴史は予習範囲内だったため、ゆるりと受けた。
午前のコマが終わったということは、いよいよ楽しみにしていた昼食だ!
貴族院内にはレストランがあるのだ。さて、どのくらい美味しいのだろうか?


すると、キルは机に立てかけていた自分の剣を掴んだ。まあ、騎士だから教室に剣を置いていくわけはないかな………?



「じゃあ、騎士棟に行ってくる。」


「え? 昼食は?」



騎士棟にもレストランがあるのだろうか? それとも、お弁当を持ってきているのだろうか?
どちらにしても、食べるならみんなで一緒に食べたいけどな………。



「昼食は………いらない。今日は腹がすいていないから、剣を振りに行ってくる。」



昼食を食べないで、剣を振りに行く………あっ、そうだ。ジールから、キルはオーバーワークだと聞いていたんだ。でもまさか、食事を抜いてまで訓練をしているとは思わなかった。



「今日はということは、いつもは食べているの?」


「………いつもは食べている。」



なるほど。俺はキルの背後にいる側近3人の方に目線を送った。忠実なる側近のみんなは、主の意志を汲むことよりも主の健康状態を優先したようだ。
3人はそろって、首を横に振った。



「いつもは食べているなら安心したよ。だけど、俺は今日初めて貴族院のレストランを利用するからさ、キルのおすすめの料理を教えてほしいな。」



俺はいつもは食べているらしいキルに、おすすめ料理を聞いてみた。若干意地悪様な気もするけど、食事を抜くのはよくない。なんとしても、キルに食事をとらせなければいけない。
これが俺の初任務のようだ。



「………オ、オムライスがおすすめだ。」



ふーん、なるほど。行かない代わりにおすすめ料理を教えるから、食べて来いということか。俺の主は、どうしても食事より訓練を優先したいらしい。
ここは素直に話した方がよさそうだ。



「………ねえ、キル。キル自身も、食事を抜くのはよくないとわかっているよね? 俺たちの体は今、成長期を迎えている。そんな時に、食事を抜いて体を動かしていたら」


「アースが言ったんだろ」


「え?」



俺は何を言われたのかわからずに、キルのことを見つめ返してしまった。
キルが俺の話を遮ったことにも驚いたし、俺がその原因だと言った。もちろん、「食事を抜いて、剣を振れ」と言ったこともないし、手紙にも書いたことはない。心当たりは………
正直ない。



「………俺がキルに何か言ったの? ごめんね、正直心当たりがないんだ。もし、俺の言葉でキルに無理をさせているのなら撤回させてほしい。」



キルは無言で俺を見つめ返すと、そっぽを向いて静かに話し始めた。



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