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第二章 初学院編
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「このままの関係でいいか……。キルもそう思ってくれていればいいけどな……。」
「きっと、思っていますよ。アルベルト殿下にはこれまでどおり、わたしたちの壁となっていただければと思います。そうしていただければいずれ私たちは、兄世代のあなたたちを必ず超えてみせますから。」
俺がそう言って不敵に笑って見せると、アルベルト殿下はいつもの自信に満ちた笑顔を俺に向けた。
「俺たち黄金の世代を超えてゆくか……。いうようになったな、アース。」
「ご指導の賜物でしょう。」
俺はそこで言葉を区切って、殿下の前に跪いた。
「必ずや殿下の期待に沿う成果を出し、この王都に戻ってまいります。」
「期待している。それまで、キルや側近たちは俺たちが責任を持って鍛えておこう。……今宵は実に有意義な夜だった。感謝する。………俺ばかりもらっていては不公平だな。アース、俺からも一つアドバイスだ。」
アルベルト殿下はそういと、真剣な眼差しで俺を見つめた後、拳を俺の胸にあてた。
「誰かを「守る」ということは、「守り抜く」ということだ。その年で、大切な者たちを守り抜くために自らの命を差し出したお前の覚悟は見上げたものだ。だが、お前が帰らぬ者となった後、残された者たちの心はどうなるのか。本当に、「守ることができた」と、いえるのか。賢いお前ならわかるはずだ。「守る」とは、「生きて守り抜く」ということだ。そのためには、力や頭脳など多くのものが必要となってくる。すべてとは言わない。まずはこの3年間で魔導士としての格を上げ、アーキウェル王国の名をとどろかせるくらいの魔導士になって見せろ。」
アルベルト殿下はそういうと、身軽な足取りで上のバルコニーへと飛んでいった。
………まったく、人をやる気にさせるのがうまい方だ。まさに、上に立つ人だな。
ーー
それから一週間後。
俺は体調は完全に回復し、怪我するより前よりも元気な状態となっていた。
しかし、あの夜以降、キルと俺は顔を合わせることはなかった。キルは「用事があるから」と言い残し、どこかへと行ってしまった。そんなキルの行方を俺は積極的に探ろうとはせずに、こうして旅立ちの日を迎えてしまった。
今は、アルベルト殿下やウェル殿下などお世話になった方々との挨拶を終え、王都の門の前にいる。今は社交期間中なので、両親は王都に残るため俺一人の移動となる。馬車やアルベルト殿下をはじめ、ウェル殿下やカーラ様たちが来の準備も完了し、いよいよ出発を迎えようとしていた。見送りには側近のみんなのみがきてくれた。他の皆さんは王城でしっかりとあいさつをしてくれたので、おそらく気を遣って最後の見送りは側近仲間だけにしてくれたのだろう。……そこには、キルの姿はなかった。
「アース、体調には十分注意しろよな。体調が悪い時には無理せずに休め。」
「キースは母上みたいだね。」
「………うるさい。」
キースはそういうと、恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。その癖………本当にキルにそっくりだな。
「キースも体のケアは欠かさないようにね。あまりに体の状態が悪くなるようだったら、謹慎中なのに王都まで駆け付けなければいけなくなっちゃうからね。同じ騎士見習いとして、キルの体のケアもよろしくね。」
「………ああ、わかった。」
キースは、痛いところを突かれたという顔をしながらも、力強くうなづいてくれた。これで、騎士2人が回復魔法漬けになることはないだろう。
俺がキースにお礼を言うと、ジールが不服そうな顔を隠さずに俺の肩を掴んだ。
「俺は………俺はまだ、アースだけが謹慎するこの結果に納得いっていないッス! 」
そう、皆にはアルベルト殿下から聞いた事情をまだ話していない。俺は心配させないように、微笑みながらジールの手を握った。
「ありがとう、ジール。魔導士見習の護衛をまた1人にしてしまってごめんね。ジールと訓練できないのは本当に寂しいよ。だけど、俺も領地で頑張るからさ、貴族院に向けて魔導士の黄金世代をつくれるようにジールも頑張ろう。ね?」
「で、でも………」
ジールがそれでも食い下がろうとすると、ローウェルがジールの肩を引いた。
先程、皆にはあのことを言っていないと言ったけど、俺は一人だけには事情を話した。それが、情報の扱いに長けた文官見習のローウェルだ。ローウェルなら、情報開示の判断及び時機を適切に判断してくれるだろう。
「ジール、もう覆らないんだ。だから、アースが安心できるように笑顔で送り出そう。俺たちがそんな顔をしてたら、アースが出立できないぜ。」
ローウェルの言葉を受けて、ジールは袖で目元をゴシゴシとぬぐった後に、いつもの笑顔を俺に向けた。
「………待ってるッスから。そして再会後、魔導士として勝つのは俺っスからね!」
「望むところだよ、ジール! 俺だって、負けないからね。」
俺がそういうと、ジールは満面の笑みで手を握り返してくれた。俺は頷いた後に、ローウェルに目を向けた。そして、かねてから決めていたとおり、大切な腕時計を外しローウェルに差し出した。今の俺は、自力で魔力の放出ができるため時計の機能がなくとも命の危機はない。
「アース、お前、これ………。」
「けじめとしてね、こうしようと思っていたんだ。だからさ、ローウェル。キルに伝えてくれる? 「まだ俺のことを側近として必要としてくれるのなら、誠心誠意お仕えします。だからその時まで、側近の証はお返しします」、と。………色々とお願いしてしまって、本当にごめんね。」
ローウェルは俺が腕時計を差し出したときには、酷く驚いて目を見開いていたけど、俺の言葉を受けてゆっくりと頷いた。
「わかった。俺が預かるよ。それから、謝る必要はないぜ。適材適所ってやつだからさ。他にも何かあったら、何でも振ってくれ。」
「うん、ありがとう。みんな、俺達の主のこと、よろしく頼みます。」
皆が力強くうなずいてくれたことを受けて、俺は名残惜しい気持ちを押し殺しつつ、馬車へ乗り込もうとした。………すると、何か赤いものが高速で俺たちの元へと現れた。
「きっと、思っていますよ。アルベルト殿下にはこれまでどおり、わたしたちの壁となっていただければと思います。そうしていただければいずれ私たちは、兄世代のあなたたちを必ず超えてみせますから。」
俺がそう言って不敵に笑って見せると、アルベルト殿下はいつもの自信に満ちた笑顔を俺に向けた。
「俺たち黄金の世代を超えてゆくか……。いうようになったな、アース。」
「ご指導の賜物でしょう。」
俺はそこで言葉を区切って、殿下の前に跪いた。
「必ずや殿下の期待に沿う成果を出し、この王都に戻ってまいります。」
「期待している。それまで、キルや側近たちは俺たちが責任を持って鍛えておこう。……今宵は実に有意義な夜だった。感謝する。………俺ばかりもらっていては不公平だな。アース、俺からも一つアドバイスだ。」
アルベルト殿下はそういと、真剣な眼差しで俺を見つめた後、拳を俺の胸にあてた。
「誰かを「守る」ということは、「守り抜く」ということだ。その年で、大切な者たちを守り抜くために自らの命を差し出したお前の覚悟は見上げたものだ。だが、お前が帰らぬ者となった後、残された者たちの心はどうなるのか。本当に、「守ることができた」と、いえるのか。賢いお前ならわかるはずだ。「守る」とは、「生きて守り抜く」ということだ。そのためには、力や頭脳など多くのものが必要となってくる。すべてとは言わない。まずはこの3年間で魔導士としての格を上げ、アーキウェル王国の名をとどろかせるくらいの魔導士になって見せろ。」
アルベルト殿下はそういうと、身軽な足取りで上のバルコニーへと飛んでいった。
………まったく、人をやる気にさせるのがうまい方だ。まさに、上に立つ人だな。
ーー
それから一週間後。
俺は体調は完全に回復し、怪我するより前よりも元気な状態となっていた。
しかし、あの夜以降、キルと俺は顔を合わせることはなかった。キルは「用事があるから」と言い残し、どこかへと行ってしまった。そんなキルの行方を俺は積極的に探ろうとはせずに、こうして旅立ちの日を迎えてしまった。
今は、アルベルト殿下やウェル殿下などお世話になった方々との挨拶を終え、王都の門の前にいる。今は社交期間中なので、両親は王都に残るため俺一人の移動となる。馬車やアルベルト殿下をはじめ、ウェル殿下やカーラ様たちが来の準備も完了し、いよいよ出発を迎えようとしていた。見送りには側近のみんなのみがきてくれた。他の皆さんは王城でしっかりとあいさつをしてくれたので、おそらく気を遣って最後の見送りは側近仲間だけにしてくれたのだろう。……そこには、キルの姿はなかった。
「アース、体調には十分注意しろよな。体調が悪い時には無理せずに休め。」
「キースは母上みたいだね。」
「………うるさい。」
キースはそういうと、恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。その癖………本当にキルにそっくりだな。
「キースも体のケアは欠かさないようにね。あまりに体の状態が悪くなるようだったら、謹慎中なのに王都まで駆け付けなければいけなくなっちゃうからね。同じ騎士見習いとして、キルの体のケアもよろしくね。」
「………ああ、わかった。」
キースは、痛いところを突かれたという顔をしながらも、力強くうなづいてくれた。これで、騎士2人が回復魔法漬けになることはないだろう。
俺がキースにお礼を言うと、ジールが不服そうな顔を隠さずに俺の肩を掴んだ。
「俺は………俺はまだ、アースだけが謹慎するこの結果に納得いっていないッス! 」
そう、皆にはアルベルト殿下から聞いた事情をまだ話していない。俺は心配させないように、微笑みながらジールの手を握った。
「ありがとう、ジール。魔導士見習の護衛をまた1人にしてしまってごめんね。ジールと訓練できないのは本当に寂しいよ。だけど、俺も領地で頑張るからさ、貴族院に向けて魔導士の黄金世代をつくれるようにジールも頑張ろう。ね?」
「で、でも………」
ジールがそれでも食い下がろうとすると、ローウェルがジールの肩を引いた。
先程、皆にはあのことを言っていないと言ったけど、俺は一人だけには事情を話した。それが、情報の扱いに長けた文官見習のローウェルだ。ローウェルなら、情報開示の判断及び時機を適切に判断してくれるだろう。
「ジール、もう覆らないんだ。だから、アースが安心できるように笑顔で送り出そう。俺たちがそんな顔をしてたら、アースが出立できないぜ。」
ローウェルの言葉を受けて、ジールは袖で目元をゴシゴシとぬぐった後に、いつもの笑顔を俺に向けた。
「………待ってるッスから。そして再会後、魔導士として勝つのは俺っスからね!」
「望むところだよ、ジール! 俺だって、負けないからね。」
俺がそういうと、ジールは満面の笑みで手を握り返してくれた。俺は頷いた後に、ローウェルに目を向けた。そして、かねてから決めていたとおり、大切な腕時計を外しローウェルに差し出した。今の俺は、自力で魔力の放出ができるため時計の機能がなくとも命の危機はない。
「アース、お前、これ………。」
「けじめとしてね、こうしようと思っていたんだ。だからさ、ローウェル。キルに伝えてくれる? 「まだ俺のことを側近として必要としてくれるのなら、誠心誠意お仕えします。だからその時まで、側近の証はお返しします」、と。………色々とお願いしてしまって、本当にごめんね。」
ローウェルは俺が腕時計を差し出したときには、酷く驚いて目を見開いていたけど、俺の言葉を受けてゆっくりと頷いた。
「わかった。俺が預かるよ。それから、謝る必要はないぜ。適材適所ってやつだからさ。他にも何かあったら、何でも振ってくれ。」
「うん、ありがとう。みんな、俺達の主のこと、よろしく頼みます。」
皆が力強くうなずいてくれたことを受けて、俺は名残惜しい気持ちを押し殺しつつ、馬車へ乗り込もうとした。………すると、何か赤いものが高速で俺たちの元へと現れた。
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