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第二章 初学院編

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「俺を召喚したお前の名は、アースと言ったか? まあ、名前なんかどうでもいい。そんなことよりもお前、俺を召喚したときの代償に何をささげたか覚えているか?」



遂に来てしまったか、この時が………。
あの時俺は、皆を守るために「俺のすべてを代償にする」と言った。そのツケを払えということだろう。すべてと口にしてしまった以上、命をとられてもおかしくない。そうなれば謹慎どころの話ではなくなるな。
せっかく転生したのに………もう少し、もう少し生きたかったな………。



「覚えています。俺のすべてを代償にする、と言いました。………覚悟はできています。」



俺がそういうと、鬼人はニターッと醜悪な笑みを浮かべた。人の命をとることが楽しいのだろうか? あの夢が現実に起こったことなのだとしたら、この鬼人は本当は優しい人なのではないかと思う。




「口では何とでも言えるなぁ。まあ、いい。すべてを代償にするということで、魂を食らいつくしてやろうかと思ったのだが、せっかく生き残る手助けをしたんだ。もっと、面白い方がいいだろ? ………ということで、いつ殺されるのかわからない恐怖に、おびえてもらおうかと思うのだがどうだぁ? 殺されるのは明日か、来年か? それとも、婚姻の前か、誕生日の前か? そんな恐怖におびえる毎日を過ごしてもらう。死ぬのは変わりないし、死ぬ時を選ぶのも俺だ。どうだ、面白いだろう?」




………いや、悪趣味すぎて面白くもなんともない。俺たちは、ただただドン引きするしかなかった。
ま、まあ、すぐに殺されることはないというをポジティブに捉えよう。




「………わかりました。ただ、1日前でもいいので、予告が欲しいです。引継ぎや挨拶等があると思いますので、よろしくお願いします。」


「………はぁ? それだけか?」


「え………。あ、そうですね。俺たちを助けてくださって、ありがとうございました。俺が生きていられるのは、あなたのおかげです。本当に、ありがとうございます。」



「………はぁ? も、もっと何かあるだろう!  俺は、好きな時にお前を殺すと言っているんだぞ!」



「い、いえ………。あなたを召喚したときに、その代償に俺の命はなくなるものだと思いましたので、その………少しでも生きられるのならうれしいです。」



俺がそういうと鬼人は、引きつった笑みを浮かべた。
もちろん、いつ殺されるのかわからないのはとてつもなく恐い。だけど、だからこそ、その時まで精一杯生きよう。



「チッ………。あー、冷めたわ。こんなつまらないガキだとは思わなかったぜ。お前、妙に大人びているな。………うん? よく見ると、お前の魂の色は………。」


鬼人はそういうと、俺の両肩を掴んで見分し始めた。
近いって、本当に近い。和装に角と目立つ部分が多くて一瞬気にならないけど、まぎれもないイケメンだ。あと、角が刺さりそうだから距離感を大切にしてほしい。



「ふははははははっ。お前は、そうか、そうなのか! うまそうな魂だなぁ。」



近い、近いって!

……それよりも、俺が転生者だということに気づいたみたいだから、変なことを言わないように阻止しなければならない。俺が口止めをしようとすると、キルが俺と鬼人の間に入ってきた。




「アースから離れてください!」


「なんだぁ? あー、役立たずの王子様か。どうしたんだ、そんなに情けない顔をして?」


見ると、キルは涙を流していた。



「お願いします。………アースの命を奪わないでください。」


「ふははははは。お前は泣くことしかできないのかぁ? まったく、泣くことしかできない王族は使い物にならないな。お前がいくら頼もうがわめこうが、こいつの魂をもらうことに変わりはない。それが、こいつとの契約だからな。」



「俺のすべてを代償に」と口に出してしまっている以上、この鬼人がいくら悪趣味だろうと言い返すことはできない。俺はキルの肩を掴んで、ゆっくりと首を振った。



「だが、少し面白そうなことが分かったからなぁ。ほんのわずかな間だが、退屈しのぎにはなりそうだ。じゃあ、気が向いたらまた来るぜぇ。」



鬼人はそういうと、姿を消してしまった。
気が向いたらまた来るということは、召喚の主導権はあちらにあるということだろうか? 現時点では、俺が召喚すれば来るというシステムではなないようだ。
それはそうと、俺が転生者であることがあの鬼人に知られたことが幸か不幸か、わずかな間だけど生きていられる猶予につながったようだ。




「………しばらく、頭を冷やしてくる。」


俺が鬼人のことを考えていると、キルはボソッとそういうと、部屋をあとにしてしまった。
引き留めようかと思ったけど、この短い間に色々とあったし、俺も頭を整理する時間が欲しかったから、引き留めなかった。



「ジールは、アースの側にいてやってくれ。俺とキースは、主の様子を見に行ってくる。俺たち側近にとっても、今は、あらゆることの転機だと思う。各々、やるべきことを整理しよう。」



「ありがとう、ローウェル。キルのこと、よろしくね。」


「………アース。また、あとでな。」




ローウェルはそういうと、俺の肩に手をのせた後、部屋をあとにした。キースも同じく、俺の肩に手をのせた後に部屋をあとにした。
今は少し、距離を置いた方がよさそうだね………。



「ア、アース………。俺、何と声をかければいいかわからなくて………。すまないッス………。」


見ると、申し訳なさそうな顔をしたジールが涙を浮かべていた。



「ジールが謝ることは何もないよ。でも、参っちゃうよね。アルベルト殿下もとても厳しかったし………。」


「本当にそうッスよね! 本来ならば、敵の戦力や状況を考えて、殿下を守り切ったことを称えられるべきなのに、罰が与えられるなんておかしいと思うッス………。アルベルト殿下の側近の皆さんも、納得しているんッスかね?」



うーん、どうだろうか………。兄上やアルフォンスさんなら、アルベルト殿下に意見を述べてくれたかもしれないけど、何も言わなかったということは、事前に納得していたのだろうか? それとも何か、他に事情があるのだろうか?


「何か、事情があるのかもしれないね………。」


「事情ッスか? というと、やむを得なく、罰を与えたということッスか?」





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