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第二章 初学院編

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「お前ら、第一王子を差し置いて楽しそうだな。そろそろ、俺が話してもいいか?」


俺たちは内心ドキッとしながらも、すぐに頷いた。



「まあいい。すでにアース以外の者には伝えているが、とりあえずアース。回復おめでとう。それから、よくキルや側近たちを守り抜いた。A級やB級複数体相手に、よく生き残った。」



………。俺は一瞬固まってしまった。なにせ、あのアルベルト殿下に褒められたのだから。怪我して未熟だの、A級を何体かとり逃したことを説教されるかと思っていた。す、素直にうれしいな。



「あ、ありがとうございます。」


「なんだ? 俺に褒められたのに不服か? 俺個人としては、よくやったと思っているんだぞ?」


「ふ、不服ではありません! うれしいです!」



俺はすぐに取り繕った。危ない危ない、この人を相手にするときは、かなり気を付けなければいけないからな。………うん? 「俺個人としては」とは、どういうことだろうか? まるで、アルベルト殿下自身以外の意見も持ち合わせていると言わんばかりの言い方のような気がするな………。



「………と、楽しい話はこれまでだ。これからは、お前たちの任務失敗の責任及び第二王子を危険にさらした責任の所在について話をする。」



アルベルト殿下がそういった瞬間、部屋の温度が一気に下がった。アルベルト殿下はさっきとは打って変わり、第一王子殿下の、王族の真剣な顔をしている。

アルベルト殿下の言葉に、兄上やアルフォンスさんといった側近の方々は下を向き苦い顔をしている一方で、キルを含めてキルの側近たちはひどく驚いた顔をしていた。ローウェル以外は………。



「兄上、責任とはいったいどういうことですか! 責任なら俺が!」


「キルヴェスター。責任なんて簡単に口に出すな。お前は祖母上に、いったい何を学んでいるんだ? ………お前は少し黙っていろ。」


キルがアルベルト殿下に向かって叫ぶと、アルベルト殿下は酷く冷たい声でそう言った。キルは、一瞬ひるんだ顔をした後にうつむいてしまった。

責任の所在か………。俺が目覚めてからその話をするということは………そういうことだよな。




「まずは、お前たちの任務失敗の責任についてだ。今回、後方支援の物資を前線まで届けるという任務だったが、物資及び馬車を失い任務失敗となった。さらに、同行した護衛団の内、お前たち以外の新人たちは全員殉死した。」



殉死………。あの新人の皆さんが、全員亡くなったのか………。キルたちは視線を下にさげるだけだったので、既に知っていたが俺にはあえて伝えなかったのだろう。



「さて、その責任についてだが………。敵の強さ及びその状況、そしてお前たちの戦闘力を鑑みて、よく生き残ったと言える。したがって、この件については不問とする。」



アルベルト殿下がそういった瞬間、俺たちは深く息を吐いた。ふ、不問か………。A級複数体かつ睡眠中を襲われたということで、そう判断されたのだろう。だけど、亡くなった新人の皆さんのことを思うと………素直によかったとは全く言えない。それに、「この件は」ということは、もう一つの方は………。




「次に、アーキウェル王国第二王子を危険にさらした責任ついてだ。これについては、結果だけを見れば第二王子は五体満足で帰還している。しかし、王族を危険にさらすというのはそれだけで大きな罪になる。これについては、ここにる側近がみな、肝に銘じていることだろう。さて、今回の件についてみると第二王子が危険にさらされただけではなく、危うく王族の血が魔物に利用されるところだった。本来は第二王子の側近全員に責任を取らせるのが妥当だが、今回の相手や状況及びナレハテや透明化ができるという稀有な魔物の情報を持ち帰ったこと、そしてナレハテどもに殺されたメース男爵次男の情報を持ち帰ったことにより、メース男爵家から第二王子とその側近に深く感謝しているとの情報があったことを考慮し、全員に責任をとらせるのは妥当ではないという結論に至った。そこで、お前たち側近のリーダー、つまり筆頭護衛士のみを罰することとなった。お前たちは側近見習いだが、今回、筆頭護衛士を任された者がいると聞いている。筆頭護衛士を任された者は、いったい誰だ?」



「私です。」




俺はアルベルト殿下の問いに、間髪入れずに答えた。先ほどの流れで覚悟はできていたし何より、俺一人が罰せられるだけで済むなら安いものだ。



「ほう。すぐに自分だと答えるとは、流石は俺が側近に加えたいと思っただけはあるな。それでは、アーキウェル王国第一王子である俺が、国王の代理としてお前に罰を与える。」


「ア、アルベルト兄上………。ア、アースさんは、まだ回復したばかりで………。」



それまで、泣きそうな顔をしながら一連の話を聞いていたウェル殿下が、震える手を自分で押さえながらアルベルト殿下と向きあった。しかし、そういう途中でアルベルト殿下に冷たい視線を向けられて口を閉ざしてしまった。



「回復したばかりだからなんだというんだ? 今は、第一王子が沙汰を言い渡している途中だ。黙っていられないなら、退出しろ。」



アルベルト殿下がピシャリとそういうと、ウェル殿下は申し訳なさそうな顔で俺のことを見つめた。俺は大丈夫だよ、ありがとうという気持ちを込めて微笑んだ。



「ところで、アース。お前の大切なものはなんだ?」



いきなり、どういうことだろうか? まあ、俺には答えるという以外選択肢はないんだけど………。俺にとっての大切なものか。それは考えるまでもないな。



「こうして皆さんと過ごす時間です。………私は、皆さんが知っているとおり療養地にて7歳まで、使用人と家族以外とは話すことがない生活を送っていました。ですからこうして、大切な皆さんと過ごす時間が私にとっての大切なものです。」



アルベルト殿下は、「俺もそれに入っているのか。」と言ってふっと笑った後に、先程までの真剣な顔となった。




「では、その大切なものを取り上げることでお前への罰としよう。アース・ジーマル、貴族院入学のその時まで、領地での謹慎を命じる。お前は貴族院への入学権をすでに持っていたな。貴族院入学時まで初学院に通わなくても、試験を受ける必要がないので、問題ないだろう。それに、独学で勉強していたくらいだ。初学院に通わないからといて、サボることはしないだろうしな。」
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