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第二章 初学院編

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「父上から許可をいただいたぞ! できるだけ早い方が良いということで、急ぎで申し訳ないが、明朝出発する。」



キルが国王陛下の元へと行ってからしばらくたった後、キルはやる気の満ちた顔で俺たちのところへと戻ってきた。

親ばかな陛下や重役たちは、初学院生である俺たちに後方支援とはいえ、任務を任せることに難色を示していたようだ。だけどそれと同時に、後方支援隊を任せられる人材がいないことや護衛削減のために自衛の術を持ち合わせている者がいいという理由から、俺達が適任であるということにも一理あるという状況だったらしい。

その際に決め手となったのは、前バルザンス公爵夫人で、キルの教育係であるカーラ様らしい。カーラ様がキルを含め、俺達のこれまでの努力や現在の実力を冷静に陛下たちに伝えて、後方支援隊ならば任せられるのではないかと奏上してくれたそうだ。キルの教育係であるにもかかわらず、俺達の情報も握っているとは流石の情報網である。


「すでに馬車や荷物は準備できているようで、後は移動するだけの状態らしい。そしてもちろん、初学院生の俺達だけでは戦力が足りないということで、新人の騎士と魔導士が俺の護衛も兼ねて付いてきてくれるらしい。」


まあそれは当然だろうし、とてもありがたい。俺たち初学院生四人で行っても、方々に心配をかけるだけだ。俺たちはキルの言葉に、当然とばかりに頷いた。

キルは俺達の反応を見て、先を続けた。


「ところで、出発する前に一つ決めておかなければならないことがある。それは、側近のリーダーひいては、護衛団のリーダーを決めることだ。本来は王族の護衛を務める護衛騎士・魔導士の中から、護衛団のリーダーを決める。ただ、皆はまだ初学院生だ。しかし今回は後方支援ということで、四人の中からリーダーをたてて、経験を積ませることになった。立候補及び、推薦したい者はいるか?」


なるほど、筆頭護衛を決めるということだな。こういう時は年齢だけど、俺たちは同じ年齢だしな………。それなら、経験年数とかはどうだろうか? この中で側近経験が長いのは………正確にはわからないけど、俺以外の三人は同じ年数のような気がする。

うーん。色々と考えれば考えるほど、難しくなってくるな。俺の直感だと、人柄や強さも含めればジールがいいのではないかと思う。身分を持ち出すのはあまり好きではないけど、新人の貴族たちをまとめるなら、公爵子息という身分はかなり強いと思う。



「まあ、聞くまでもなく決まりのようだな。」


はい? 
周りを見ると、全員が俺のことを見ていた。いやいや、みんな俺が適任だと思って言うようだけど、なぜだろうか?


「ちょっと待ってよ、みんな! なんで俺が適任だと思っているのさ?」


「なんでって言われても、アース以外の選択肢が思い浮かばないッスね。」
「俺は指示されるなら、アースが一番ムカつかないと思ったからだな。」
「俺は敵に回したくないのは誰か、という基準で選んだぜ。魔力戦ならもちろんだが、頭脳戦や化かしあいでも、アースを敵に回したくないな。」

真ん中の意見はキースらしくて大変結構だけど、ローウェルの意見に関しては褒められている気があまりしないのは、俺の気のせいではないだろう。これまで、特に頭脳をひけらかしたことも、誰かを罠にはめたこともないと思うのだけど、なにをもってそう考えているのだろうか?


「………俺に押し付けたいわけじゃないよね?」


俺がそういうと、三人はいい笑顔で首を横に振った。それに対して俺も、いい笑顔で魔力を展開した。


「まあまあ、そう魔力を荒立てるな。こいつらはアースに役目を押し付けた言わけではないと、お前もわかっているだろ?」


まあ、ジールたちがふざけているわけではないことくらい、俺にもわかっている。さっきのはほんのジョークだ。


「わかっているよ。俺もここまで言われて辞退するほど、やわじゃないよ。俺がふさわしいと選んでくれたみんなに応えたいしね。………だけど最後に、主であるキルの意見を聞いてもいいかな?」


俺がそういうと、キルはふっと微笑んだ後に、俺の胸元に拳を当てた。


「アースに俺の筆頭護衛士を任せる。俺の背中を頼んだ、アース。」








――









※キルヴェスター視点


父上に後方支援隊について奏上しに行った翌日の朝、俺達はジーマル辺境伯領へ向けて出発した。辺境伯領への道のりは、通常であれば一週間ほどかかる。しかし今回は、一刻も早く後方支援が必要のため、野営をしながら最速で向かうことになった。

今回向かうメンバーは、俺と俺の側近。そして、新人騎士・魔導士が各五名ずつだ。時間短縮のため、必要最小限な人数にする必要があり、そして後方支援の物資を届けるだけということでそれほど護衛の人数が多くなくてもいいということで、このような配置となっている。

俺は王族ということで馬車の中に入っており、側近たちは見張りのため交代で馬車を出入りしている。ただ、アースだけは馬車の中から動かずに目を瞑って、静かに座っている。アースは魔力を薄く展開し、広範囲の感知を行ってくれている。


「………アース、話しかけても大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ。どうしたの?」

「いや、特に用はなかったんだが………隣に座ってもいいか?」


今は他の側近たちは全員外でそれぞれの活動をしている。つまり、この馬車の中はアースと俺の二人きりだ。


「え? いや、その………どうぞ。」


アースは目を開けて挙動不審になっていたけど、俺が隣に座ることを許可してくれた。アースのこういう反応は本当に可愛いな。と、思うことは自由だよな?

俺はゆっくりとアースの隣に移動した。そして、俺はアースの肩に頭を預けた。少しくらいはいいよな? 歳を重ねていくうちに、アースに触れたいという思いが強くなっていく気がする。それはダメだと思いながらも、こういう風にアースに甘えてしまう。そんな自分が………。


「ちょっ、キル! ど、どうしたの!?」


うん、いつも通りの反応だ。こういう風なかわいい反応を、いつまで続けてくれるだろうか?


「うん? 少し眠くてな。」

「そ、そうなんだね。眠れるときに眠っておかないと、いざというときに力を発揮できないからね。………もしよかったら、俺の膝の上で寝る?」


アースの膝だと………? 


「ああ。」


俺はできるだけいつも通りの口調を心がけて、返事をした。そして、ゆっくりとアースの膝に頭を下ろした。


「俺はこのまま感知を続けるから、キルは寝てていいよ。誰か近づいてきたら起こすからさ。」


アースは俺の頭をなでながらそう言った。アースは最近ではもう、二人きりになると頭をよく撫でてくる。………まさかとは思うが、俺のことをペットかなにかと勘違いしているわけではないよな?

それもそうだが、膝の上というのはこんなにもアースの体温が感じられるんだな。………これは少々………。


「もしかしてキルさ、初めての任務で不安になってる? 俺の勘違いなら、そのまま寝ててくれていいんだけど………。」


アースはそういうと、俺の首筋に指をあてた。


「うーん、脈が少し早いようだけど緊張してるのかな? まあ、後方支援といっても任務は任務だから緊張するよね。」


「いや、そうでは………ある。」


「あはははは。キルは時々、そういう返答をするよね。初めての任務に緊張することは誰にでもあることだと思うから、そんなに恥ずかしがらなくてもいいと思うよ。」


「恥ずかしがってない!」

「はいはい、わかってるよ。」


アースはそう流すと、再び俺の頭をなでた。………くそっ、いつもこうなってしまう。アースに自分の思いを伝えられないもどかしさと、アースに子ども扱いされている悔しさで素直になれない。………これからも、このままなのだろうか?


「キル、騒いでいないで寝た方が良いよ。………そうだ。緊張しているようだし、俺が緊張を解してあげよう。」


アースはそういうと、手をゆっくりと動かした。その手がどこに向かっているかはすぐにわかった。俺はすぐにアースの腕をつかんでそれを阻止した。


「アース、それをやったらすぐに仕返しをすると言ったよな?」


「ちぇー、良かれと思ってやろうとしたんだけどなー。」


アースは軽くそういうと、再び感知に集中した。俺も休めるときには休もうと、アースの膝の上で目を閉じた。
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