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第二章 初学院編

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上を見上げるのに疲れて、キャンプファイヤーの火に目を移すと、不機嫌そうにキースが近づいてきた。うわー、結構イライラしてるみたいだ。爆発する前に、退散してきたのだろう。


「………おい、一人だけ休んでるなんてずるいな?」


「うん、少し疲れちゃってね。キースも何か飲む? ストレートティーかな?」


「いや、甘ったるいのを飲みたい。イライラしてるからな。あいつらひっきりなしに声をかけてきやがって………。」


俺は毒を吐いているキースの横で、激アマのロイヤルミルクティーを注文した。キースはキル以上に甘いものを食べないから、本当にイライラしているのだろう。


「ダンスを好んでするのはローウェルくらいだろ。アースもそう思うよな?」


「え、う、うん。キースにとっては、あまり好ましい行事ではないみたいだね。さあ、甘さマックスのロイヤルミルクティーが来たみたいだよ。」



キースがこんなにしゃべるなんて珍しいな。いっぱいしゃべってもらって、毒抜きをしてもらいたい。キースは給仕されたロイヤルミルクティーを何のためらいもなく、飲み干した。



「クソ、甘いな。………すまん、イライラしすぎた。アースにあたるつもりはなかった。」


「いいよ、全然。俺も疲れてたから、気持ちはわかるよ。キースはかっこいいからね、声をかけられても仕方がないよ。」


俺がそういうと、キースは半目で俺のことを見つめた。え、何か不愉快だったようだ。かっこいいでは不十分だったかな?


「………かっこいいって、誰にでもそれを言っているのか? 殿下や他の側近たちにも言っていただろ。他にも兄上世代の人たちにも言っているんじゃないか?」


「うっ………そうかもしれない。………けど、キースは実際かっこいいよ。俺は思ったことしか言っていないよ。」


「………ああ、もうそういうことでいい。そろそろ戻らないとまずそうだな、殿下がこっちを見ている。」



え? キースがみている方を見ると、キルが人と交流しながらもこちらを気にしていることがわかった。うん、結構休んだしそろそろ戻ろうかな。


「キースは大丈夫そう? あまり顔色が良くないようだけど………。」



おそらく、人との交流が多すぎて疲れてしまったのだろう。無理そうなら、ここで俺が付き添いたいけど………。


「いいや、大丈夫だ。………だけど、すこし庇ってくれると助かる。」


「うん、もちろん! 頼ってくれてありがとう。」





それからキャンプファイヤーは夜八時くらいまで続いた。その後は名残惜しい気持ちを感じながらも、キャンプファイヤーは終了した。マーガレット様は意外にも、キルのダンス相手を色々な人に譲ったようだった。いろいろな人とダンスができてよかったねと、声をかけるべきだろうか………。








――







さて部屋に戻るわけだけど、ここからは試練の連続だ。風呂上がりのキルや同じ部屋での就寝などなど………理性、大丈夫かな? 俺は意を決して、再びキルと部屋に入った。


「アース、色々は話したいことはあるがまずは風呂に入ろうか。………先に入るか?」


「んーん、後からでいいよ。二人だから主従は取り払うのは承知しているけど、主より先に入るのは気が引けるよ。それに、俺さ風呂の時間長いと思うから。」




もちろん変なことをするために風呂の時間が長くなるわけではなくて、単純に昔から入浴が好きなのだ。そしてこの豪華なお風呂を堪能するつもりだから、キルを長々と待たせるわけにはいかない。



「わかった。じゃあ、先に行ってくるな。」


「………キル、失礼かもしれないけど一つ聞いてもいい? 自分で髪を洗ったり、体を洗ったりすることはできるの?」



俺がそういうと、キルは顔を若干赤らめて、「それくらい自分でできるわ!」と言って、風呂場へと向かっていった。王子だからと少し、侮ってしまったようだ。







十数分後、キルは割と薄着の部屋着で風呂場から出てきた。一応夜は冷え込むのだが、暖房の魔道具が稼働しているからむしろ暖かいくらいだ。キルって結構、お風呂の時間が短いんだな。

それにしても………風呂上がりの色気が半端ない! 八歳でこの色気だから、これが成長したらと思うと………。マジでかっこよすぎて、昇天しそうだ。



「………おい、何見つめてんだよ。俺の顔に何かついているか?」



やばい、色気の半端ないキルを見つめすぎたようだ。キルが居心地を悪そうにしながら、俺に問いかけてきた。


「ご、ごめん! 上がるの結構早かったな、と思ってさ。じゃあ、俺も入ってくるね!」



俺はそういい終わると、その場から逃げ出すように風呂場へと向かった。これが明日もあるのかと思うと、ご褒美であると同時に生き地獄だな………。

さて、キルが入った後のお風呂に………ってこんな妄想していたら身が持たないわ!









――







俺は煩悩を押し殺しながら、三十分ほど豪華なお風呂を楽しんだ。それはそれは非常に気持ちのいいお風呂だった。風呂好きの日本人の血が、この体にも流れているのかもしれない。


「遅かったな、アース。アースがこんなにも風呂好きだったとは知らなかった。」


「うん、毎日の入浴時間が恋しいくらいだよ。あ、ちなみに俺は朝も入るんだけどキルも朝練後に入ったりするの?」


「ああ。身なりを整えるためにも、毎朝シャワーを浴びている。」



ほう、キルは朝シャンもする派なのか。朝は早めに起きておかないと、風呂場が混雑するかもしれないから気を付けよう。俺はふわふわなカーペットの上に腰を下ろして、日課のストレッチを始めた。すると、キルが興味津々そうに近づいてきた。


「アース、それは筋力トレーニングか? 風呂上がりにやると汗をかくと思うのだが………。」

「んーん、これはストレッチだよ。まあ簡単に言うと、体のメンテナンスと怪我の予防かな。………キルはストレッチとか体のケアをしないの?」



魔導士よりもかなり体を動かす騎士たちは、体のケアが必要だと思うのだけど、キルはなぜかピンときていないようだ。



「怪我をしたら、回復魔法で癒してもらえばいいだろ? その時間を筋力トレーニングに回した方が強くなれるだろ。」



はい? 
大学に入るまでサッカーに人生をささげ、その後もスポーツトレーナーの勉学に励んだ俺からするとあまりにもカチンとくる発言だった。体のケアを怠って、強くなれるとは思えない。筋トレをたくさんしろというのは、あの脳筋の騎士団長の受け売りだろうか?
それにしても、回復魔法は毒にも薬にもなるみたいだ。すぐ直るからと、怪我をしても問題ないというスタイルが身についてしまうようだ。

よし、キルとキースの体のケアを引き受けよう。騎士団長に任せておくと、怪我をしまくってしまう恐れがある。



「………キル、足を延ばした状態でそこに座って。そして手を伸ばしながら、つま先の方に体を傾けてみて。」



俺は貴族スマイルでキルに長座体前屈の姿勢をするように促した。キルは、不安なそうな顔をしながらも、俺の言うとおりにした。

結果は………絶句だった。体が硬いのではないかと思っていたけど、つま先方向への角度は一度か二度くらいしか動かなかった。こんなに体が硬い人は初めて見た。この状態であんなに激しい訓練をつんでいたら、キルの体が壊れてしまう。今すぐにキースも呼び出したいが、時間も時間だから明日にしよう。



「キル、戦闘の途中で怪我をしたらどうするの? 敵は回復するのを待ってはくれないよ。まさかとは思うけど、騎士団長辺りから気合で何とかしろとか言われているのをうのみにしているわけではないよね? それに体に柔軟性があったら、攻撃の幅も増えると思うよ。そして何よりも、もっと自分の体を大切にしてあげて。今までも回復魔法に頼っていったの?」


「うっ………。確かに怪我をしたり、どこか痛いと思ったりしたら回復してもらえばいいと思っていた。アースの言うとおりだと思う………。」



キルはそういうと、心当たりが多すぎたのか項垂れてしまった。キルがこの調子ならキースもおそらく似たような状況だろう。………黄金の世代と呼ばれる兄上たちはおそらく、体のケアをしているのではないかと思う。
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