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第二章 初学院編
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時はあっという間に過ぎ、今日は初学院後期の始業日である。クラスメイトと久しぶりの再会を楽しんでいると、ふと、騎士志望の生徒たちの身体がいい感じに成長しているのを感じた。こうやって目に見える変化があると、自分でも成長を実感することができて、うれしいよな。
「キル殿下、それから側近の皆様ごきげんよう。夏休みのお茶会は大変有意義な会でしたわね。」
お茶会以来久しぶりに会うマーガレット様一行が、俺たちの元へあいさつに訪れた。胸がちくりとは痛むけど、幾分かマシになった。
「ああ、マーガレット。こちらこそ、楽しかった。今度は俺から招待しても構わないか?」
「ええ、キル殿下。それは大変うれしいですわ。次回のお茶会を楽しみにしております。では、私はこれにて失礼いたします。あ、そうですわ。アース様、こちらの二人がお話があるようですので、少しお時間をいただけるでしょうか?」
え、え? ここで、俺? キルとマーガレット様の会話で終わると思っていたからすっかり油断していた。二人というのは、テレシ―様とムンナ様のことだろう。
「はい、わかりました。」
俺はふたりの誘導に従って、教室の外までやった来た。話とは再びキル関連のことだろうか? うーん、少し気乗りしないな………。俺はもじもじしている二人が話始めるまで、笑顔で待つことにした。
「………アース様、あの………キャンプファイヤーで踊るお相手はもうお決まりでしょうか?」
うん? 何の話だろうか? キャンプファイヤーで踊ること自体はわかるけど、何かイベントがあるのかな? この時期だと文化祭が妥当だろうけど、初学院には確か文化祭はなかったような気がする………。
「えーと、すみません。キャンプファイヤーとは何のことでしょうか?」
俺がそういうと、二人ははっとした表情を浮かべた。俺が今年から初学院にやってきたことを思い出したのだろう。
「申し訳ございませんですわ! キャンプファイヤーとは、三年次の後期に行われる林間学校の夜のイベントに行われるものですわ。数々の音楽が奏でられますので、その時にダンスを踊るのが恒例となっていますの。」
なるほど、学生あるあるだな。キャンプファイヤーでダンスとは、マイムマイムのようなダンスのことではないだろう。貴族のダンスだから、社交ダンスを行うということだろう。
ここで俺が社交ダンスをできるかどうかについては、いったんおいておくとしよう。
「教えていただきありがとうございます。俺でよければ、喜んでお引き受けいたしますが、お二人は殿下と踊らなくてもよろしいのでしょうか?」
「まあ、アース様。確かにこのキャンプファイヤーでは、複数人と踊ることができるくらい長い時間が設けられておりますが、殿下と踊るというのは色々と複雑なのですよ。それに………殿下と踊る相手はアース様もご想像にたやすいかと存じますわ。」
うん、想像にたやすいですね………。殿下と踊るということは、公爵令嬢のマーガレット様に対抗するということになる。よほどの愚か者でもなければ、いくらモテるキルとは言え、ダンスを申し込むことはないだろう。
キャンプファイヤーの相手は複数人と踊ることができるようだし、側近である俺はキルの代わりとして持って来いということだろう。ジールたちにも声がかかっているに違いない。俺も一人でぼんやりとキャンプファイヤーを見つめるのも忍びないし、ここはお二人のお言葉に甘えることにしよう。
社交ダンスの練習をしないと………。
「わかりました、お二人とも当日はよろしくお願いします。」
「「ええ、もちろんですわ!」」
二人はそういうと、俺に一礼して優雅にマーガレット様の所へと戻っていった。社交ダンスの授業は礼儀作法に含まれてはいるけど、俺は初心者中の初心者だ。社交ダンスに詳しい人に教えを乞うことにしよう。
――
教室に戻ると、すぐさまローウェルが肩を組んできた。前から距離感が近いとは思っていたけど、合宿を経てさらに近くなったような気がする。まあ、おかげで色々と耐性を身につけることはできたけど………。
「よう、アース。もしかしてあれか、ダンスにでも誘われたか?」
「お察しの通りだよ。後期にこういうイベントがあるなら、あらかじめ言ってくれてもよかったのに。」
「うん? 殿下が泊り系のイベントがあるとアースに言ったと言っていたぜ?」
あ、確かにキルがそのイベントがみんなと泊まれる初のイベントだと言っていた。そのイベントにキャンプファイヤーがくっついていたのか。
「キャンプファイヤーがあるとまでは聞いていなかったよ。ローウェルたちも結構誘われているよね?」
俺がそういうと、ローウェルはいい笑顔をした。その顔は耐性がない人だと一撃で落ちると思うから、やめた方が良いと思う。
「よくぞ聞いてくれたな。俺はもう五人ほど誘われているぜ!」
それはそれは、流石遊び人のような雰囲気を漂わせているイケメンだ。たいそうおモテになっているらしい。
「それはようございましたね。ジールとキースもそんな感じなの?」
「あいつらのことは知らないけど、俺が負けるわけないだろう?」
うん、男子らしい意見だ。女子生徒に誘われる回数で負けたくないという男心は、男性にしか興味がない俺でも長年の経験でわかるぞ。三人ともタイプの違うイケメンだから、女子側も迷うところだろう。だけど、複数人と踊ってもいいのなら、選ぶ必要はないのか。まあ、時間的な制約はあるだろうけど………。
「はいはい、三人とも応援してるよ。ところで、ローウェルは社交ダンスは得意?」
「ああ、もちろんだ。」
「うん、思ったとおりだね。ということでお願いなんだけど、俺に社交ダンスを教えてくれないかな? 恥ずかしながら社交ダンスは初心者で、本番までに何とか形にしたいんだ。」
俺がそういうと、ローウェルはなにやらぶつぶつとつぶやいていた。うーん、結構迷惑だったかな………? すると、ローウェルはニヤリと笑った。
「それは合法だな。よし、俺が引き受けよう。」
合法………? 何やら言葉選びが不穏だな………。まあ、引き受けてくれるならお言葉に甘えようかな。
「う、うん! よろしくお願いするよ。」
「いいぜ。じゃあ、そろそろ戻ろうか。主たちがこちらを見て不機嫌になっているからな。」
あ、キルたちを待たせすぎたな………。俺とローウェルは急いで席に戻った。
「キル殿下、それから側近の皆様ごきげんよう。夏休みのお茶会は大変有意義な会でしたわね。」
お茶会以来久しぶりに会うマーガレット様一行が、俺たちの元へあいさつに訪れた。胸がちくりとは痛むけど、幾分かマシになった。
「ああ、マーガレット。こちらこそ、楽しかった。今度は俺から招待しても構わないか?」
「ええ、キル殿下。それは大変うれしいですわ。次回のお茶会を楽しみにしております。では、私はこれにて失礼いたします。あ、そうですわ。アース様、こちらの二人がお話があるようですので、少しお時間をいただけるでしょうか?」
え、え? ここで、俺? キルとマーガレット様の会話で終わると思っていたからすっかり油断していた。二人というのは、テレシ―様とムンナ様のことだろう。
「はい、わかりました。」
俺はふたりの誘導に従って、教室の外までやった来た。話とは再びキル関連のことだろうか? うーん、少し気乗りしないな………。俺はもじもじしている二人が話始めるまで、笑顔で待つことにした。
「………アース様、あの………キャンプファイヤーで踊るお相手はもうお決まりでしょうか?」
うん? 何の話だろうか? キャンプファイヤーで踊ること自体はわかるけど、何かイベントがあるのかな? この時期だと文化祭が妥当だろうけど、初学院には確か文化祭はなかったような気がする………。
「えーと、すみません。キャンプファイヤーとは何のことでしょうか?」
俺がそういうと、二人ははっとした表情を浮かべた。俺が今年から初学院にやってきたことを思い出したのだろう。
「申し訳ございませんですわ! キャンプファイヤーとは、三年次の後期に行われる林間学校の夜のイベントに行われるものですわ。数々の音楽が奏でられますので、その時にダンスを踊るのが恒例となっていますの。」
なるほど、学生あるあるだな。キャンプファイヤーでダンスとは、マイムマイムのようなダンスのことではないだろう。貴族のダンスだから、社交ダンスを行うということだろう。
ここで俺が社交ダンスをできるかどうかについては、いったんおいておくとしよう。
「教えていただきありがとうございます。俺でよければ、喜んでお引き受けいたしますが、お二人は殿下と踊らなくてもよろしいのでしょうか?」
「まあ、アース様。確かにこのキャンプファイヤーでは、複数人と踊ることができるくらい長い時間が設けられておりますが、殿下と踊るというのは色々と複雑なのですよ。それに………殿下と踊る相手はアース様もご想像にたやすいかと存じますわ。」
うん、想像にたやすいですね………。殿下と踊るということは、公爵令嬢のマーガレット様に対抗するということになる。よほどの愚か者でもなければ、いくらモテるキルとは言え、ダンスを申し込むことはないだろう。
キャンプファイヤーの相手は複数人と踊ることができるようだし、側近である俺はキルの代わりとして持って来いということだろう。ジールたちにも声がかかっているに違いない。俺も一人でぼんやりとキャンプファイヤーを見つめるのも忍びないし、ここはお二人のお言葉に甘えることにしよう。
社交ダンスの練習をしないと………。
「わかりました、お二人とも当日はよろしくお願いします。」
「「ええ、もちろんですわ!」」
二人はそういうと、俺に一礼して優雅にマーガレット様の所へと戻っていった。社交ダンスの授業は礼儀作法に含まれてはいるけど、俺は初心者中の初心者だ。社交ダンスに詳しい人に教えを乞うことにしよう。
――
教室に戻ると、すぐさまローウェルが肩を組んできた。前から距離感が近いとは思っていたけど、合宿を経てさらに近くなったような気がする。まあ、おかげで色々と耐性を身につけることはできたけど………。
「よう、アース。もしかしてあれか、ダンスにでも誘われたか?」
「お察しの通りだよ。後期にこういうイベントがあるなら、あらかじめ言ってくれてもよかったのに。」
「うん? 殿下が泊り系のイベントがあるとアースに言ったと言っていたぜ?」
あ、確かにキルがそのイベントがみんなと泊まれる初のイベントだと言っていた。そのイベントにキャンプファイヤーがくっついていたのか。
「キャンプファイヤーがあるとまでは聞いていなかったよ。ローウェルたちも結構誘われているよね?」
俺がそういうと、ローウェルはいい笑顔をした。その顔は耐性がない人だと一撃で落ちると思うから、やめた方が良いと思う。
「よくぞ聞いてくれたな。俺はもう五人ほど誘われているぜ!」
それはそれは、流石遊び人のような雰囲気を漂わせているイケメンだ。たいそうおモテになっているらしい。
「それはようございましたね。ジールとキースもそんな感じなの?」
「あいつらのことは知らないけど、俺が負けるわけないだろう?」
うん、男子らしい意見だ。女子生徒に誘われる回数で負けたくないという男心は、男性にしか興味がない俺でも長年の経験でわかるぞ。三人ともタイプの違うイケメンだから、女子側も迷うところだろう。だけど、複数人と踊ってもいいのなら、選ぶ必要はないのか。まあ、時間的な制約はあるだろうけど………。
「はいはい、三人とも応援してるよ。ところで、ローウェルは社交ダンスは得意?」
「ああ、もちろんだ。」
「うん、思ったとおりだね。ということでお願いなんだけど、俺に社交ダンスを教えてくれないかな? 恥ずかしながら社交ダンスは初心者で、本番までに何とか形にしたいんだ。」
俺がそういうと、ローウェルはなにやらぶつぶつとつぶやいていた。うーん、結構迷惑だったかな………? すると、ローウェルはニヤリと笑った。
「それは合法だな。よし、俺が引き受けよう。」
合法………? 何やら言葉選びが不穏だな………。まあ、引き受けてくれるならお言葉に甘えようかな。
「う、うん! よろしくお願いするよ。」
「いいぜ。じゃあ、そろそろ戻ろうか。主たちがこちらを見て不機嫌になっているからな。」
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