上 下
53 / 146
第二章 初学院編

52

しおりを挟む
「誰だ!!」



男性二人の警戒度が一気に上がったのを感じた。

うーんこの感じ、キルに初めて会った時のことを思い出すな………。ここは素直に自己紹介から………と思った矢先、少年が二人の男性を手で制した。



「もしかしてその銀色の髪は………「白銀の狼」様でいらっしゃいますか?」



おっと、その呼び名を聞くのは夏休み前以来だな………。その呼び方は何というか、厨二心をくすぐられるような気持ちになるので、できれば知らないうちに忘れ去られてくれるといいな。





「えーと、一部ではそう呼ばれているらしいですね。改めまして、アース・ジーマルと申します。訓練のお邪魔をしてしまい、申し訳ございませんでした。」



「いえ、構いませんよ。僕の方こそ、初学院で噂のジーマル様にお会いできて光栄です。あ、僕は初学院の一年生です。」



やはり年下だったらしい。初学院では他学年とはあまり会うことはなく、会うことがあるとすれば食堂くらいだ。アルベルト殿下や兄上たちとも、会おうとしなければ会うことはめったにないのだ。




「俺はただの学生ですよ。では、俺はもう行きますね。訓練を邪魔しては悪いですから。それでは、頑張ってください!」



長くあの場を離れてしまえば、キルとキースに心配をかけてしまうかもしれない。そうなる前に、元の場所に戻ろう。

俺がお辞儀をしてその場から去ろうとすると、少年が俺を引き留めた。何か俺と話したいことがあるのだろうか? まあ、自身が初学院で少し有名であるという自覚はあるけど………。



「あの………ジーマル様は、キルヴェスター殿下の側近でいらっしゃいますよね? よろしければ、側近になった経緯と言いますか、決め手をお聞かせ願いますか?」




うん? 初めてされる質問だな。こういう質問をするということは、この少年は誰かの側近になりたいのだろうか? まあ、それくらいなら答えるけど………。

経緯に関しては、色々あったよな………。渡された腕時計が側近の証付きで、そのまま側近になったわけだからあまり参考にはならないと思う。決め手は………下心がないと言えばうそになるけど、それだけではもちろんない。キルの力になりたいと思ったし、キルに必要とされることがうれしかったから側近になろうと決めた。



「いいですよ。俺が殿下の側近になろうと思った理由は、殿下の力になりたいと思ったからです。あとは、殿下に必要とされることがうれしかったからです。………ありきたりな理由で、あまり参考にならないかもしれませんね。」



「いえ、そんなことはありませんよ! 必要とされるのはうれしいですよね。だけど………王族の方に側近にならないかと誘われたら、断れないという一面もありますよね?」



うーん、まあ確かに王族に言われたら断れる貴族はほとんどいないと思うけど………。この少年は、側近になりたくないのかもしれないな。あまり、無責任なことはいえないけど………。



「ないとはいえませんね。それだけ王族の方は強い力を持っていいますからね。………ただ俺自身は、側近側にも主を選ぶ権利はあると思うのです。私が知っているのはアルベルト殿下とキルヴェスター殿下の側近の方々だけですが、全員が実力があり努力を怠らない方たちです。側近として求められる者には、それ相応の何かを持っていると思います。だからこそ、それに見合うだけの主を選ぶ権利はあると思います。………無責任なことはいえないですが、もしかするとあなた自身が側近について色々悩んでいるのかもしれません。ですが、この国の殿下方、第三王子殿下のことはよく存じ上げませんが、他のお二人はとても素晴らしい方たちですよ。」




俺がそういうと、少年は少しフリーズした後に何かを考えこんでしまった。選ぶ権利があるとはいっても、実際はそうはいかない場面の方が多いような気がする。アルベルト殿下とキルなら、断られたからと言って罰することはないとは思うけど、どちらかというと少数派なような気もする。



「側近側にも選ぶ権利がある、ですか………。その発想はなかったです。主側も欲しい側近を手に入れるために、努力をしなければいけませんね。ジーマル様は、思った通り面白い方ですね。」


「え、えーと、お力になれたのなら光栄です。」



俺は面白い人だと思われていたようだ。まさか変なイメージが独り歩きして、問題児のようなイメージが俺についているわけではないよな?



「よろしければ、機会がありましたら魔法についてもアドバイスをいただけますか? ジーマル様の魔法のお話も聞いてみたいです。実は僕、魔導士志望でして騎士の訓練は教養として取り組んでいるのですよ。」


あーそういうことだったのか。騎士の訓練が初心者向けだったのは、魔導士志望だったからか。納得はしたけど、俺にアドバイスは適任ではないと思うけど………。なぜなら、俺が訓練を始めたのは今年の四月からだから、一年生とあまり変わりはないと思う。



「私でよろしければいいですけど………。今年から訓練を始めた俺は、一年生とあまり変わりはないと思いますよ?」


「僕はジーマル様とお話ができれば充分ですよ。」


「えーと、わかりました。俺でよければ、お話ししましょう。あ、ジーマルって呼びにくいですよね? よろしければ、アースと呼んでください。」



俺がそういうと、待ってましたと言わんばかりに少年の雰囲気が明るくなったのを感じた。もしかして、この少年は俺のファンだったりするのだろうか?



「はい、アース様! 僕のことは………ウェルと呼んでください!」


「ウェル君ですね、わかりました。」


すると、騎士たちの訓練の音が徐々に止み始めた。そろそろ休憩時間だから、キルたちが俺のいないことに気づいてしまう。戻らないと、心配をかけてしまうな………。


「ウェル君、そろそろ戻りますね。休憩時間になったみたいだから、俺がいないと心配をかけてしまいますから。」


「わかりました。またお会いできることを楽しみにしています!」



一瞬彼が大きな尻尾を振っているように見えるけど、きっと気のせいだろう。

俺はウェル君に手を振って、元の場所へと急いで戻った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?

秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。 蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。 絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された 「僕と手を組まない?」 その手をとったことがすべての始まり。 気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。 王子×大学生 ――――――――― ※男性も妊娠できる世界となっています

逆ざまぁされ要員な僕でもいつか平穏に暮らせますか?

左側
BL
陽の光を浴びて桃色に輝く柔らかな髪。鮮やかな青色の瞳で、ちょっと童顔。 それが僕。 この世界が乙女ゲームやBLゲームだったら、きっと主人公だよね。 だけど、ここは……ざまぁ系のノベルゲーム世界。それも、逆ざまぁ。 僕は断罪される側だ。 まるで物語の主人公のように振る舞って、王子を始めとした大勢の男性をたぶらかして好き放題した挙句に、最後は大逆転される……いわゆる、逆ざまぁをされる側。 途中の役割や展開は違っても、最終的に僕が立つサイドはいつも同じ。 神様、どうやったら、僕は平穏に過ごせますか?   ※  ※  ※  ※  ※  ※ ちょっと不憫系の主人公が、抵抗したり挫けたりを繰り返しながら、いつかは平穏に暮らせることを目指す物語です。 男性妊娠の描写があります。 誤字脱字等があればお知らせください。 必要なタグがあれば付け足して行きます。 総文字数が多くなったので短編→長編に変更しました。

悪役なので大人しく断罪を受け入れたら何故か主人公に公開プロポーズされた。

柴傘
BL
侯爵令息であるシエル・クリステアは第二王子の婚約者。然し彼は、前世の記憶を持つ転生者だった。 シエルは王立学園の卒業パーティーで自身が断罪される事を知っていた。今生きるこの世界は、前世でプレイしていたBLゲームの世界と瓜二つだったから。 幼い頃からシナリオに足掻き続けていたものの、大した成果は得られない。 然しある日、婚約者である第二王子が主人公へ告白している現場を見てしまった。 その日からシナリオに背く事をやめ、屋敷へと引き篭もる。もうどうにでもなれ、やり投げになりながら。 「シエル・クリステア、貴様との婚約を破棄する!」 そう高らかに告げた第二王子に、シエルは恭しく礼をして婚約破棄を受け入れた。 「じゃあ、俺がシエル様を貰ってもいいですよね」 そう言いだしたのは、この物語の主人公であるノヴァ・サスティア侯爵令息で…。 主人公×悪役令息、腹黒溺愛攻め×無気力不憫受け。 誰でも妊娠できる世界。頭よわよわハピエン。

悪役令息に転生したので、断罪後の生活のために研究を頑張ったら、旦那様に溺愛されました

犬派だんぜん
BL
【完結】  私は、7歳の時に前世の理系女子として生きた記憶を取り戻した。その時気付いたのだ。ここが姉が好きだったBLゲーム『きみこい』の舞台で、自分が主人公をいじめたと断罪される悪役令息だということに。  話の内容を知らないので、断罪を回避する方法が分からない。ならば、断罪後に平穏な生活が送れるように、追放された時に誰か領地にこっそり住まわせてくれるように、得意分野で領に貢献しよう。  そしてストーリーの通り、卒業パーティーで王子から「婚約を破棄する!」と宣言された。さあ、ここからが勝負だ。  元理系が理屈っぽく頑張ります。ハッピーエンドです。(※全26話。視点が入れ代わります)  他サイトにも掲載。

[完結]嫁に出される俺、政略結婚ですがなんかイイ感じに収まりそうです。

BBやっこ
BL
実家は商家。 3男坊の実家の手伝いもほどほど、のんべんだらりと暮らしていた。 趣味の料理、読書と交友関係も少ない。独り身を満喫していた。 そのうち、結婚するかもしれないが大した理由もないんだろうなあ。 そんなおれに両親が持ってきた結婚話。というか、政略結婚だろ?!

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

処理中です...