45 / 146
第二章 初学院編
44
しおりを挟む「では最初に、アース様の現状を見せていただけますか? 『氷弾』で構いませんので、お願いいたします。」
「かしこまりました。」
俺はいつものように魔力を制限することに集中した。魔力がありすぎて、これを制限するのが本当に難しいのだ。
『氷弾』
ドンッ!
いつも通りの氷山が現れた。現在の大きさは初回に比べたらましと言える程度であり、現状でもお世辞にも実践向きとは言えない。
「なるほど、これは見事な魔力量ですね。しかし、サールの言っていた通りこれでは実践には向きません。壁で防御出来ないにしても、簡単に避けることが可能です。………少し邪魔ですので、遠くに飛ばしますね。」
カーナイト様はそう微笑むと、氷山に手を当てた。その瞬間、氷山があっという間にどこかに消えた。
いやいやいや! この人、流石にチート過ぎないか? 転移で自由に行き来できるのも充分にすごいと思っていたけど、あんなに大きなものまで一瞬でどこかに飛ばしてしまうとは………。ジールが以前、自分が知る中でカーナイト様が最強だと言っていたけど、最強を優に超えている気がする。
俺に加えて、周りにいる人たちも口を開けて一瞬で消えた氷山の影を追っていた。転移が最強すぎる。
カーナイト様は再び微笑むと、何事もなかったかのように話を進めた。
「アース様の行っている魔力制限は正解の一つです。しかし、この分では一般的な大きさにできるまで何年いえ………何十年かかかるでしょう。加えて、他の魔導士と違い魔力を制限するという工程が入ることで、煩雑さも出てくるでしょう。この事から、この方法は正解ではありますが、最適解ではないのです。」
転移の件はスルーされてしまったので、一旦おいておこう。確かに魔力を制限する工程が入ると面倒くさいし、そんなに時間がかかっていては話にならない。ということは、ヴィーナ様が行っていた方法が最適解ということか。
「ヴィーナも最初は魔力を制限していましたが、すぐに最適ではないと判断し別の方法を考え付きました。それが、「魔力展開」です。余分な魔力を自分の周囲に展開することで魔力の制限を行わずに魔法を放つことができます。また、自身の魔力を広域に展開することにより様々な恩恵を受けることができます。」
魔力展開………。そういうことか! 魔力をおさえるのではなく、むしろ周囲にまき散らして有効活用しようということか! まさに逆転の発想である。
………でも、余分な魔力を周囲にまき散らしていたのなら、ヴィーナ様の体内の魔力量は少なくなっていて、病弱も治っていたのではないだろうか? 俺がこの時計をつけて、余分な魔力を放出している様に………。
「………その放出を行えば、「私たち」の症状も緩和されるということでしょうか? この腕時計をつけていなくても………。」
カーナイト様はそういうと、静かに頷いた。私たちというのが俺とヴィーナ様ということが伝わったようなので、「悪魔の呪い」のことも知っているのだろう。じゃあ、なんでヴィーナ様は生前まで苦しんでいたのだろうか………?
「………ヴィーナは、子供のころからよく高熱を出していました。しかし、魔導士として活躍していくうちにその症状はなくなっていきました。魔力展開により、訓練や実践で魔力の放出が出来ていたからですね。しかし、王妃になり王城に入ったことで魔導士ではなくなりました。その結果、魔力を放出することができずに昔のように病弱になっていってしましました。………これはアース様がお気づきになられた、「悪魔の呪い」と魔力量の関係から導き出される私の推論です。」
………まだ証明されてはいないが、その因果関係が真であるならばカーナイト様の推論は間違っていないと思う。魔導士だったころは自然に魔力を放出で来ていたが、王妃となったことでその機会もなくなり魔力が体内にたまる一方となり、体調を崩してしまった。
もしも、もっと早くこの因果関係が知られていたならと思うと………。だけど、そう思っているのは俺以上にカーナイト様やキルたちの方だ。俺は何も言うことができずに、ただ静かに下を向いた。
「申し訳ございません、暗い話をしたかったのではないのです。アース様のおかげで、私たちの内でくすぶっていた炎が静かに消えていきました。だからこそ、アース様に魔力展開を引き継いでいただきたいというお話です。………魔力を周囲に放出するにおいて、その範囲や量、無意識にできるかどうかなど課題はたくさんありますが………引き継いでいただけますか?」
俺に引き継いでほしいか………。カーナイト様がそうおっしゃるのなら、俺が引き継がさせていただきたいと思う。隣にいるキルも笑顔でうなずいてくれた。
「承知しました。よろしくお願いいたします。」
俺がそういうと、カーナイト様はゆっくりと頷いた。そして、転移で十メートルくらい後ろに下がった。
「では本日の課題は、私がいるところまで魔力を放出することです。最初は難しいとは思いますが、少しずつ頑張っていきましょう。最初は特に助言は致しませんので、アース様の思うままにやってみてください。」
魔力を放出するか………。アドバイスなしでやるということは、俺もポテンシャルが試されているのだろうか? それならば、皆も見ているし頑張ってやるしかない!
思い出せ、魔法はイメージだ。イメージ次第で、魔法は大きくも小さくもなる。魔力を放出するのは、たぶんできる。礼儀作法のような感じで、魔力に感情をのせて威圧とかができると思う。正の感情よりも、最初は負の感情をのせた方がわかりやすいと思うな。こう、周囲を威圧する感じで………。いや、もちろん威圧したいわけではもちろんない。あくまでそういうイメージで………。
俺は深呼吸をして、目を閉じた。魔法を使うときは大体敵がいるときだろうから、その敵を威圧するような感じで魔力を放出する感じで………。
『魔力展開』
その瞬間、パンッと乾いた音が響いた。音のした方向を見ると、カーナイト様が手をたたいた音だったようだ。
「素晴らしいです。助言なしに魔力を放出できるとは、お見事です。ただ、のせる感情を間違えていますね。私が止めなければ、何人かの生徒が失神していたでしょう。」
え………? 周りを見ると、魔導士団員たちが、生徒をガードするような体勢をとっていた。魔力量が尋常ではないせいで、のせる感情を間違えると周囲にとてつもない影響を与えてしまうのか………。
「皆様、申し訳ございませんでした!」
俺は周囲に向けて深く一礼した。すると、カーナイト様が穏やかに笑った。
「これはこれで使い道がありますよ。殿下を護衛する上で小物が現れたら、使って差し上げてください。ただ他の面では、共闘する上で仲間を不快にさせてしまったり、相手を無駄に挑発してしまったりする恐れがありますので、のせる感情は無そして無意識にできるようにしていきましょう。今日は魔力放出ができたので次回以降、感情をのせない魔力展開と範囲の拡大を行っていきましょう。」
「はい、かしこまりました。本日はありがとうございました。」
151
お気に入りに追加
3,571
あなたにおすすめの小説
英雄になった夫が妻子と帰還するそうです
白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。
愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。
好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。
今、目の前にいる人は誰なのだろう?
ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。
珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥)
ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
初夜に「君を愛するつもりはない」と人形公爵から言われましたが俺は偽者花嫁なので大歓迎です
砂礫レキ
BL
リード伯爵家の三男セレストには双子の妹セシリアがいる。
十八歳になる彼女はアリオス・アンブローズ公爵の花嫁となる予定だった。
しかし式の前日にセシリアは家出してしまう。
二人の父リード伯爵はセシリアの家出を隠す為セレストに身代わり花嫁になるよう命じた。
妹が見つかり次第入れ替わる計画を告げられセレストは絶対無理だと思いながら渋々と命令に従う。
しかしアリオス公爵はセシリアに化けたセレストに対し「君を愛することは無い」と告げた。
「つまり男相手の初夜もファーストキスも回避できる?!やったぜ!!」
一気に気が楽になったセレストだったが現実はそう上手く行かなかった。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら
Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!?
政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。
十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。
さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。
(───よくも、やってくれたわね?)
親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、
パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。
そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、
(邪魔よっ!)
目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。
しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────……
★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~
『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』
こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる