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第二章 初学院編
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「キル、これぬるいけど使って。授業が始まるまでには、少しは良くなると思うから。」
「ああ、すま………。ありがとう。」
わざわざ言い直してくれるところが、キルの優しいところだよな。キルは受け取ったおしぼりを目元に乗せて、首を後ろに倒した。俺はすぐ後ろの席にいるから、頭をなでるのにはちょうどいい位置である。ちょっとくらいなら………いいよな?
俺はキルの頭に手を置き、少し揺らした。
「キル、キルは頑張ってるよ。むしろ少し、頑張りすぎなくらいかな。」
すると一瞬の間があったが、すぐに俺の手はキルに掴まれてしまった。
しまった、これはまずかったかな………。
「………保護者視点やめろよ。」
おっと、そっちがいけなかったか………。確かに俺のアラサー精神が出てしまい、保護者感が出てしまったみたいだ。こういうところは注意していかないといけないな。
「ごめん、次からは気を付けるよ。そうだ、皆に聞きたいことがあったんだけど、午後の授業が終わった後は何をしていることが多いの?」
前から午後の授業のあとの時間をそう過ごそうかと思っていたのだ。俺的には魔法の訓練をしたいと思っているけど、まだ授業すら受けていないから参考にしたい。
「俺は剣だ。」
「俺は魔法の訓練ッスね!」
「俺は勉強かな。」
「………俺は剣術が一番多いな。その他は兄上の手伝いをすることもある。」
なるほど。やっぱり、自分の専門分野の特訓などに午後の時間を費やすようだ。しかし、仮に授業を受けても俺一人で魔法の訓練をすることができるだろうか? 父上によると、俺の家庭教師探しは難航しているらしい。すると、隣にいるジールが俺の肩をたたいた。
「アースが良ければ、俺と一緒に訓練するッスか? 同じ魔導士志望同士ッスし、俺も一人でやるよりやる気がでるっスからね。………というのは建前なんッスけど、実は俺、魔導士志望の側近仲間ができてうれしいんッスよ。だから、一緒にどうッスか?」
「それはうれしい提案だよ、ジール! 俺も一人で何していいかわからないし、是非お願いするよ!」
「俺からもお願いするッスよ! だけど、アースが魔法実技の授業をある程度受けた後からッスね。基本の授業を受けておかないと危ないッスから。」
「わかった。基本の授業が終わったら、よろしくね。」
俺がそういうと、ジールは笑って頷いてくれた。これは………、なかなか破壊力のある笑顔だ。キルによる耐性をつけていなかったら、昇天するところだった。
ジールの笑顔を眺めていると、目の前におしぼりが差し出されてきた。どうやら、もう大丈夫らしい。
「もう大丈夫そうだね。………話は変わるんだけど、キル。今日のお茶のことなんだけど、王都の店でって可能?」
「可能だけど、なんでわざわざ外に行くんだ?」
「タオルと飲み物のお礼を買いに行きたいんだよ。男子が使ったものを洗って返されるのは嫌がられるかなと思ったから、新しい物を返すと言ったんだよ。」
俺がそういうと、キルはなんとも微妙な顔をした。もしかして面倒くさがってる? キルも使ったタオルのお礼だよ?
「それなら、俺がいい店を知っているぜ。」
「ちなみに、どっちの意味でのいいお店なの?」
「うーん、どっちもかな。俺、結構出歩くから王都については詳しいぜ。」
あーなるほど。なんか、ローウェルなら王都をプラプラしていそうだ。第一印象で若干チャラい感じがすると思ったけど、あながち間違っていなそうだ。
「じゃあキルがいいなら、ローウェルにお願いしようかな。今はそうだね………はちみつ系のスイーツが食べたいかな。あとは、よさげなハンカチが売っているお店もお願い。」
「りょーかい!」
すると、いいタイミングでモール先生が教室に入ってきた。午後の授業は算術である。三年次の範囲はすでに自習で終えているため、正直受ける必要はないけど、こういう時間も懐かしいし居心地がいいのでゆったりと授業を受けることにしよう。
――
午後の授業が終了しキルたちと少し雑談をしていると、五人くらいの女子生徒が俺たちに近づいてくるのが見えた。顔に見覚えがあるのは、昼休みの時のマリア様とムンナ様、そして学級委員長のマーガレット様だ。
「ごきげんよう、キル殿下。少しお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」
マーガレット様がキルにそう話しかけた。キル殿下………? 二人は結構親しい関係なのだろうか?
「ああ、マーガレット。どうしたんだ?」
キルが女性の名前を呼び捨てにしているのを初めて見た。………キルとはどういう関係なのだろうか?
俺の疑問が伝わったのか、ジールが耳打ちをしてくれた。
「殿下とマーガレット様は、幼馴染なんッスよ(小声)。」
………幼馴染か。確かに、キルはまえに遊び相手と幼馴染がいると言っていた。あの時女性が幼馴染のパターンだろうと予想はしていたけど、当たってしまったな………。
「ありがとうございます。用件だけをお伝えしますと、今度の土の日にわたくしたちで開催するお茶会への招待へ参りましたの。新学期が始まったことですし、いかがでしょうか。」
あ、今度の土の日ってキルが俺に王都の案内をしてくれる日だったよな………。だけど、せっかく幼馴染が誘ってくれているのだからそちらに行ってもらった方が良いよな。王都の案内なら急ぐこともないし、来週以降でも全然かまわない。
「すまない、マーガレット。その日はアースに王都の案内をする約束をしているんだ。」
「まあ、そうでしたの。あら、ジーマル様失礼しました。わたくしとしたことが、まだ自己紹介をしておりませんでしたわ。お初にお目にかかります、マーガレット・ガナハットと申しますわ。以後、お見知りおきを。」
マーガレット様はそういうと、俺に微笑みかけた。最初にも思ったけど、かなりの美少女だ。顔面偏差値の高いこの世界の中でも飛びきりに高い。まさにヒロインと呼ぶのにふさわしいルックスだ。それに加えて、ガナハットということは二大公爵家の一角のガナハット公爵家のご令嬢だ。ルックスに加えて地位も最強クラスだ。
「ああ、すま………。ありがとう。」
わざわざ言い直してくれるところが、キルの優しいところだよな。キルは受け取ったおしぼりを目元に乗せて、首を後ろに倒した。俺はすぐ後ろの席にいるから、頭をなでるのにはちょうどいい位置である。ちょっとくらいなら………いいよな?
俺はキルの頭に手を置き、少し揺らした。
「キル、キルは頑張ってるよ。むしろ少し、頑張りすぎなくらいかな。」
すると一瞬の間があったが、すぐに俺の手はキルに掴まれてしまった。
しまった、これはまずかったかな………。
「………保護者視点やめろよ。」
おっと、そっちがいけなかったか………。確かに俺のアラサー精神が出てしまい、保護者感が出てしまったみたいだ。こういうところは注意していかないといけないな。
「ごめん、次からは気を付けるよ。そうだ、皆に聞きたいことがあったんだけど、午後の授業が終わった後は何をしていることが多いの?」
前から午後の授業のあとの時間をそう過ごそうかと思っていたのだ。俺的には魔法の訓練をしたいと思っているけど、まだ授業すら受けていないから参考にしたい。
「俺は剣だ。」
「俺は魔法の訓練ッスね!」
「俺は勉強かな。」
「………俺は剣術が一番多いな。その他は兄上の手伝いをすることもある。」
なるほど。やっぱり、自分の専門分野の特訓などに午後の時間を費やすようだ。しかし、仮に授業を受けても俺一人で魔法の訓練をすることができるだろうか? 父上によると、俺の家庭教師探しは難航しているらしい。すると、隣にいるジールが俺の肩をたたいた。
「アースが良ければ、俺と一緒に訓練するッスか? 同じ魔導士志望同士ッスし、俺も一人でやるよりやる気がでるっスからね。………というのは建前なんッスけど、実は俺、魔導士志望の側近仲間ができてうれしいんッスよ。だから、一緒にどうッスか?」
「それはうれしい提案だよ、ジール! 俺も一人で何していいかわからないし、是非お願いするよ!」
「俺からもお願いするッスよ! だけど、アースが魔法実技の授業をある程度受けた後からッスね。基本の授業を受けておかないと危ないッスから。」
「わかった。基本の授業が終わったら、よろしくね。」
俺がそういうと、ジールは笑って頷いてくれた。これは………、なかなか破壊力のある笑顔だ。キルによる耐性をつけていなかったら、昇天するところだった。
ジールの笑顔を眺めていると、目の前におしぼりが差し出されてきた。どうやら、もう大丈夫らしい。
「もう大丈夫そうだね。………話は変わるんだけど、キル。今日のお茶のことなんだけど、王都の店でって可能?」
「可能だけど、なんでわざわざ外に行くんだ?」
「タオルと飲み物のお礼を買いに行きたいんだよ。男子が使ったものを洗って返されるのは嫌がられるかなと思ったから、新しい物を返すと言ったんだよ。」
俺がそういうと、キルはなんとも微妙な顔をした。もしかして面倒くさがってる? キルも使ったタオルのお礼だよ?
「それなら、俺がいい店を知っているぜ。」
「ちなみに、どっちの意味でのいいお店なの?」
「うーん、どっちもかな。俺、結構出歩くから王都については詳しいぜ。」
あーなるほど。なんか、ローウェルなら王都をプラプラしていそうだ。第一印象で若干チャラい感じがすると思ったけど、あながち間違っていなそうだ。
「じゃあキルがいいなら、ローウェルにお願いしようかな。今はそうだね………はちみつ系のスイーツが食べたいかな。あとは、よさげなハンカチが売っているお店もお願い。」
「りょーかい!」
すると、いいタイミングでモール先生が教室に入ってきた。午後の授業は算術である。三年次の範囲はすでに自習で終えているため、正直受ける必要はないけど、こういう時間も懐かしいし居心地がいいのでゆったりと授業を受けることにしよう。
――
午後の授業が終了しキルたちと少し雑談をしていると、五人くらいの女子生徒が俺たちに近づいてくるのが見えた。顔に見覚えがあるのは、昼休みの時のマリア様とムンナ様、そして学級委員長のマーガレット様だ。
「ごきげんよう、キル殿下。少しお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」
マーガレット様がキルにそう話しかけた。キル殿下………? 二人は結構親しい関係なのだろうか?
「ああ、マーガレット。どうしたんだ?」
キルが女性の名前を呼び捨てにしているのを初めて見た。………キルとはどういう関係なのだろうか?
俺の疑問が伝わったのか、ジールが耳打ちをしてくれた。
「殿下とマーガレット様は、幼馴染なんッスよ(小声)。」
………幼馴染か。確かに、キルはまえに遊び相手と幼馴染がいると言っていた。あの時女性が幼馴染のパターンだろうと予想はしていたけど、当たってしまったな………。
「ありがとうございます。用件だけをお伝えしますと、今度の土の日にわたくしたちで開催するお茶会への招待へ参りましたの。新学期が始まったことですし、いかがでしょうか。」
あ、今度の土の日ってキルが俺に王都の案内をしてくれる日だったよな………。だけど、せっかく幼馴染が誘ってくれているのだからそちらに行ってもらった方が良いよな。王都の案内なら急ぐこともないし、来週以降でも全然かまわない。
「すまない、マーガレット。その日はアースに王都の案内をする約束をしているんだ。」
「まあ、そうでしたの。あら、ジーマル様失礼しました。わたくしとしたことが、まだ自己紹介をしておりませんでしたわ。お初にお目にかかります、マーガレット・ガナハットと申しますわ。以後、お見知りおきを。」
マーガレット様はそういうと、俺に微笑みかけた。最初にも思ったけど、かなりの美少女だ。顔面偏差値の高いこの世界の中でも飛びきりに高い。まさにヒロインと呼ぶのにふさわしいルックスだ。それに加えて、ガナハットということは二大公爵家の一角のガナハット公爵家のご令嬢だ。ルックスに加えて地位も最強クラスだ。
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