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第二章 初学院編

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俺たちは教室の中にいた兄上とアルフォンスさんを呼んで、急いで第一王子殿下の所に向かいたいと告げた。そして今は、特別サロンというところに向かっている。このサロンは、限られた人しか使用することができないらしい。



「アルフォンスさん………いえ、アルフォンス様。お久しぶりです。あの時はその、色々と申し訳ございませんでした。」


「お好きにお呼びください。アース様が謝ることなんて、何もありません。私たちは感謝していますよ。」


「アース。僕は先ほど殿下とアルフォンスから、二年前の話を聞いたんだけどあれは本当なのかい? 真夏にアースを屋敷へと呼び出し、アースが倒れるまでこき使ったとは?」



いえ、本当ではないです。どこかおかしな変換がなされているみたいだけど、キルたちサイドがものすごく悪い響きになっている。



「兄上、若干違いますね。俺の意志で屋敷へと向かい、俺の意志で話しすぎて倒れたのです。こき使われてはいませんし、呼び出されてもいません。むしろ俺が押しかけてしまい、アルフォンスさんには背負ってもらってしまいました。迷惑をおかけしたのは、俺の方です。」


俺がそういうと、兄上は笑顔でアルフォンスさんの方を向いた。何だ、何に反応したんだ?


「アルフォンス? 僕の弟を背負ったのかい? 僕もまだやったことがないのに………。僕に喧嘩を売っているのかい?」


「はーー、うるさい。黙って、歩け。」



え? アルフォンスさんっていつも丁寧語だと思っていたけど、兄上に対してはこんな感じなんだ………。結構意外だ。


すると、兄上が俺の前に立ちはだかってしゃがみこんだ。ま、まさか………。


「さあ、アース。僕がサロンまで背負っていくから、乗ってくれるかい?」


やっぱり来たか………。俺ももう八歳だ。流石にそのような羞恥プレイはできない。だけど、キラキラな笑顔の兄上放っておけないな………。


「兄上、今は疲れていないので大丈夫です。ですが、もし体調が悪くなったら兄上にお願いしてもよろしいでしょうか?」


「もちろん! 僕に任せてほしい!」


すると、キルがため息をついた。


「二人とも、兄弟仲睦ましいのは大変結構だが今は急いでいるんだ。やるなら後にしてくれ。」

もうしないですよ………。






――





俺たちはそうして、特別サロンへとやってきた。アルフォンスさんが合図をすると扉が開かれた。するとそこには中央に赤い髪の男性がそして、周りにも数人人がいた。第一王子殿下とその側近だろう。えーとこういう時は、身分の低いものから挨拶をするんだよな? 


「お初にお目にかかります。アース・ジーマルと申します。この度は出過ぎた真似をしてしまい申し訳ございませんでした。」


俺は開口一番謝罪を口にし、頭を下げた。キルが何やら騒いでいたが、第一王子殿下に流石に出過ぎたことを言いすぎたのだ。これに関しては謝らないといけない。


すると、第一王子殿下が颯爽と俺に近づいてきた。



「お前がアース・ジーマルか! 俺はお前に会いたかったぞ! 弟をいや、俺たち親子を救ってくれて感謝する! だが、マクウェルにお前の話をさせるのは勘弁してくれ! マクウェルはお前の話となると、何時間でも話すのだ。それは、大変つらい!」

「殿下、つらいとはどういう意味ですか?」

「そのままの意味だが?」


兄上とアルベルト殿下が、にこやかに微笑みあっている。


これが第一王子殿下のアルベルト・アーキウェル殿下か………。暑苦しいというか、すごく勢いのある人だな………。第一印象は、だけど。王族だからこれが演技かもしれないし、裏の顔を持ってるかもしれない。


「兄上、アースを離してください。兄上の馬鹿力でアースを掴めば、アースの体がもちませんので。」


キルはそういうと、俺からアルベルト殿下を引きはがしてくれた。


「すまんすまん。確か、体が弱かったのだよな? とりあえずお茶にしよう。アースは何が好きなんだ?」


「申し訳ございません。至急お耳に入れたいお話があるのですがよろしいでしょうか?」


「至急? まあいいぞ、話してみろ。」


俺が説明しようとすると、キルが代わりにその役目を引き受けてくれた。そして話を聞く周りの人たちの表情が驚きへと変化していくことが分かった。それだけあの症状は、貴族から恐れられているのだろう。



「「悪魔の呪い」が魔力過多によるものか………。たしかに魔力判定を受ける前なら、それが原因だとは気づけないな。そしてその証拠がここにいるアースか………。」


「私からアルベルト殿下に一つ質問してもよろしいでしょうか?」


「ああ、いいぞ。」


「ありがとうございます。アルベルト殿下とキルヴェスター殿下の母君は、魔力の多い方でしたか?」


「ああ。亡くなる前は、王国で最も多くの魔力を保有していた。それがどうしたんだ?」



やはりそうか。二人の母親は俺と同じで、魔力量がカンストしていたのだろう。それが原因で大人になっても、病弱が治らなかったのかもしれない。俺は魔力量だけが書かれた紙をアルベルト殿下で示した。


「私の魔力量は四桁を超えるものでした。おそらくお二人の母君もそうだったのではないでしょうか? そして、このように尋常ではない魔力の持ち主は大人になっても、体が魔力を受容できない。それが原因で、病弱が治らない。お二人の母君が亡くなった原因は、キルヴェスター殿下を出産したからではなく、魔力過多が原因であると、私は考えます。ですのでどうか、「悪魔の呪い」が魔力過多であることを突き止めて、キルヴェスター殿下の汚名を払拭してください。お願い致します。」


俺はさっきの集会で見た。キルが発言していたとき、悪意をもった目でキルのことを見てた者が数人いることを………。まだあの不名誉なあだ名を信じている者が少なからずいるのだろう。だから、証拠をもってキルの汚名を完璧に返上したい。



「アース・ジーマルに問う。なぜキルにそこまで協力してくれるんだ? お前たちが過ごした時間は、ほんの少しだろ?」

なぜ協力するのかか………。それまず第一に好きだから………。だけどそれだけではない。

あんな悲しいことを聞いておいて、それを放置できるほど俺の心は強くはない。そして、俺は肉体的に、キルは精神的に最大限の苦痛を味わっている。肉体と精神のどちらの痛みの方が辛いのか、これは人によって違うだろう。だけど俺個人としては、どちらも辛いと思う。前世では俺は自分を偽りながら生きてきた。それですら、とてもきついんだ。キルは俺以上に苦しんでいたに違いない。だから、種類は違えど痛みを味わった者として放っておけないのだ。そして、俺はキルの側近になった。主の汚名を晴らすのは、側近の役目だ。



「それは、私が肉体的な痛みを最大限に味わったからです。私は何度も生死の境をさまよう高熱にうなされることがありました。そして、キルヴェスター殿下は精神的な痛みを最大限に味わった方だと思います。痛みの種類は違いますが、精神的な痛み、肉体的な痛み、どちらも辛いものだと私は考えます。ですので痛みを味わった者として、私はキルヴェスター殿下を放っておくことができません。そして、私は先ほどキルヴェスター殿下に側近の任をいただきました。主を守るのは、側近の役目ですから。」

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