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第二章 初学院編

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あれは、アルフォンスさんだ! そうだよな、兄上とアルフォンスさんは同僚なんだよな。


「アルフォンスさん、お久しぶりです! この状況を………」


「き、貴様――! なぜ兄上に気安く話かけているんだーー!!」


え? アルフォンスさんは、キース君のお兄さんなの? ということはアルフォンスさんは侯爵家で、騎士団長の息子で………。あーーーーー、俺結構おんぶしてもらったり、説教したりしてしまったよーー!! もう黒歴史以外の何物でもない。


待て、この状況を引き起こしている元凶はキルではないだろうか? 腕時計はうれしかったけど、腕時計の機能よりももっと伝えるべき重要事項がいろいろあったのではないだろうか? もし知っていたら、このカオスを少しは防ぐことができたかもしれないのに………。よし、キルを詰めよう。



「キルヴェスター・アーキウェル殿下、少しお話がございます。外に出ていただけますか?」


俺は洗練された所作と貴族スマイルで、キルに圧力をかけた。




「………はい。」






――





兄上とアルフォンスに少しだけ待ってもらえるようにお願いして、俺とキルはいったん教室を出た。







「それで、キル。これはいったい、どういう状況なんだ? なんでこう、色々教えてくれなかったんだよ! 手紙とかで教えてくれてもよかったんじゃないか?」


「いや、その………。まずは挨拶をしないか? 二年ぶりに会ったわけだし、楽しみにしてたんだよ、俺。」



キルはそういうと俺に手を差し出した。なんというか、雰囲気が前よりもかなり変わったと思う。もちろん、いい方向で。柔らかくなって、笑顔が増えた感じだ。

俺はさっきまでの怒りを忘れて、手を握り返してしまった。くそー………、俺は今後キルに何をされても許してしまいそうだ。そんな自分が情けない。



「色々教えなかったのは悪いと思っている。だけど、サプライズをしたいなと思ってだな、びっくりしたか?」


へ? これがサプライズ? サプライズというよりは、ドッキリに近いような感じがするけど………。きっとキルは、サプライズを仕掛けたのはこれが初めてなのだろうな。いや、だけどサプライズって………。


俺はそのまましゃがみこんでしまった。もう感情も頭も、許容量を超えているよ………。急にしゃがみこんだ俺にキルは慌てたようで、すぐに声をかけてきた。


「アース! 具合が悪いのか? まだ体調が治りきっていないのなら、俺がすぐに医務室に運ぶから言ってくれ。」


「………体調はすこぶるいいから安心してくれ。少し、脳が疲れただけだよ。誰かさんのせいで、色々ありすぎたせいでな………。」



俺がそういうと、キルはため息をついて俺の横にしゃがみこんだ。ちょっ、近いって!



「悪かった………。そういえば、髪切ったんだな。今も似合ってるけど、長い髪も綺麗だったな。」








っっっっっっっっっ~~!!


また、不意にそんなことを………。これだから、ノンケの不用意な発言は心臓に悪いんだよ………。あーダメだ、昇天しそう。



「おーい、アース。聞いているか?」

「………俺、お前のそういうところは嫌いだ。」

「え? どこだ、どこが嫌いなんだ? 俺はアースに嫌われたくない。だから、今回の件は謝るから許してくれ………。」


え、いや、そんな悲しげな声を出されるなんて思っていなかった。「嫌い」なんて、不用意に言った俺が馬鹿だった。



「ごめん、冗談だよ。キルに直してほしいところは………ないよ!」

「おい、その間は何だよ!」

「あはははは、何でもないよ。あ、そうだ、キル。初学院は楽しいか? 友人はいっぱいできた?」




俺がそういうと、キルはそっぽを向いてしまった。その癖、まだ直っていなかったんだな………。


「………楽しい。」


良かった………。これで俺がいなくなっても、大丈夫そうだな。って、こういうネガティブ思考はやめよう。キルが幸せなら俺は、それでいいんだ。


「キルは人気者って、モール先生が言っていたからね。キルが楽しそうでよかったよ。」


「………今も楽しいけど、アースが近くにいてくれたらもっと楽しいと思う。だから側近の件、引き受けてほしい。頼む。」


それはもちろん! だけど、それも期限付きになっちゃうかな………。


「側近の証って、この深紅の薔薇の刻印のことだよね?」


俺はそういいながら、腕をまくってキルに腕時計を見せた。すると、キルは驚いた表情をして俺の腕を自分の目の前に引き寄せた。

「アース、翡翠が光っている………。この緑の宝石は、いつから光っているんだ?」


「いつからって、この腕時計をつけた瞬間からかな。去年の八月に受け取ったから、それからずっと光っているんだよ。夜寝るときは眩しくて大変で………。」


「は? この光は溜めておくことができる魔力量の限界を迎えて、自動的に魔力が放出されているサインだ。それを半年近くもだと………?」



それはおそらく、俺の魔力量がバグっているからだろう。キルは俺の主になるわけだし、俺のステータスは開示しておいた方が良いか。


「キル、側近の件引き受けるよ。病弱な体でよければだけど………。あと俺の魔力に関する情報の写しがあるから、渡すね。」


「ああ、ありがとう。具合が悪ければいつでも言ってくれ、俺が対応するから。それと、本当に見てもいいのか?」


「見ておいた方が良いと思うよ。魔法の素人の俺でも、結構すごいことになっていると思うから。自重する気はないし、主としてみておいた方が良いと思うよ。」



俺がそういうと、キルは恐る恐る紙を開いた。恐怖郵便ではないから、もっと安心してほしいんだけどな………。



「属性が氷と清と召喚魔法だと………。それに、この魔力量は何だ? まるでこの能力と引き替えに、体が弱いみたいじゃないか。」



それは俺も気になっていたけど………、いやもっと何か引っかかる。俺は腕時計をつけたときから魔力を垂れ流しにしていて、それと同時に体調を崩すことがなくなった。病弱と引き替えの属性………いや、魔力量と言った方が適切なのか? ということは、俺が病弱だった原因って、この異常な魔力量を俺の肉体が受け止められなかったからではないだろうか? そう考えると説明がつく気がする。



「キル。病気について質問があるんだけど、 魔力判定前の子供が亡くなるような病気って何かある。例えば、原因不明の高熱とかで。」


「………ある。この国だけではなく、世界中で解明されていない病気だ。それが通称、「悪魔の呪い」だ。原因不明の高熱で、魔力判定を受ける前の子供が亡くなってしまうことがある。」


「それって誰かに似ていないか? 魔力判定前に高熱を出すところが………。」


俺がそういうと、キルも気が付いたようだった。そう、その症状は今までの俺そのものだ。おそらくその「悪魔の呪い」の正体は、子供には不釣り合いな多量な魔力量だ。魔力判定前に亡くなることが多いから、魔力量が原因だと気づかれていなかったのだ。そして何とか生き延びた子供は、大人になるにつれて器が成熟し、体調を崩すことがなくなる。魔力量は先天的なもので増えたり減ったりすることはないと、魔法基礎の教科書に書いてあった。そしてここからは推論だけど、俺みたいな尋常ではない魔力の持ち主は大人になってもその魔力量を受け止めきれずに、体調を崩してしまう。きっと、キルの母上も………。



「今すぐ、第一王子殿下の所へ向かおう。今すぐ調べれば、多くの子供たちの命を救えるかもしれない。」


「ああ、行こう。」

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