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第一章 少年編

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八月。夏の暑さが身に染みる今日この頃、俺は道に迷っていた。今日はすこぶる調子が良かったので、少し足を延ばしてみた。林の植物を観察することに夢中で、方向を失ってしまった。まずいな、こんなに時間がたってしまえば使用人を不安にさせてしまうな。何か、目印になるものがあるといいけど………。

すると、前方に赤い屋根が見えてきた。あの家に誰か住んでいるなら、お話を聞きたい。だけど、俺が貴族の子だとわかれば厄介ごとになるかもしれない。ここは、身分を隠すしかない。俺は赤い屋根の屋敷を目指して歩き始めた。それにしてもこんなところに屋敷があったんだな………。屋根からすると結構な大きさがあるようだから、どこかの貴族か、豪商の別荘かなにかだろうか?



すると、近くの茂みが揺れだした。な、なんだ? 動物だろうか? この辺りには魔物はいないはずだから、小動物の類だろうけど万が一危険な相手だったら、俺は自分の身を守る術を持ち合わせていない。逃げなければ!

そう思うのと同時に、白い何かが飛び出してきたのが見えた。これは………ウサギか? でも、頭部から一本の角が生えているようだけど………。名づけるのならば、一角ウサギとかだろうか? だけど、もしかすると危険な生き物かもしれない。俺はゆっくりとウサギの目を見ながら下がった。確か、クマに遭遇した時の対処法だったはずだ。すると、今度は隣の茂みが揺れだした。待って、これじゃあ回避が間に合わない!


俺は飛び出してきた何かとぶつかってしまい、その場で倒れ込んだ。


「いってえー、俺は何にぶつかって………。え?」



俺は逆光の中、覆いかぶさっている何かに目を凝らした。声を発したということは、人で間違いないよな? 

ようやく目が慣れると、俺の心臓は兄上を見たとき以上に跳ね上がった。真っ赤な髪に、深紅の瞳、短く切りそろえられた髪の毛は子供にあるにもかかわらず、イケメンと称するにふさわしかった。俺はよく異世界物に出てくる、中性的な髪の長いイケメンよりも、スポーツ漫画に出てくるような爽やかで少しやんちゃな感じのイケメンの方が好みだった。兄上はどちらかというと前者だったが、この少年は紛れもなく後者だ。


「なんでこんなところに人が………。あ、すみません! お怪我はありませんか? 女性が傷を負ってしまえば大変です、すぐに屋敷で手当てを!」



赤い髪の少年はそういうと、俺に手を差し伸べた。あ、イケメンから手を差し伸べられた。なんて至高な瞬間なんだ………。

って、待てい! 今、俺のことを女性だといったか? 確かに俺を客観的にみると、病弱のせいで小柄であり、髪も伸ばしっぱなしで結んでいる。確かに少女と間違われても不思議ではない。だけど、俺は男だ。恋愛対象が男だからとはいえ、俺はれっきとした男である。ここはきっちりと抗議をしなければいけない。

俺は差し伸べられた手をがっしりと掴んで、笑顔を向けた。


「ありがとうございます。しかし女性だけではなく、男性にも優しくしていただければなおうれしいです。初めまして、俺の名はアースと言います。以後お見知りおきを!」



俺がそういうと、赤い髪の少年は目を見開いて呆けていた。可憐でいたいけな少女じゃなくて、悪かったな! 

ところで、「こんなところに人がいる」って、それはこちらのセリフだ。ここらへんはジーマル家の別荘しかないと思っていた。屋敷はまだしも、本当に人がいるとは思えなかった。赤い髪の少年をもう一度じっくり見てみると、薄着だったが素材は良さそうで、高級感が漂っていた。当初の予想通り、貴族か豪商の関係者だろうな。


「お、男だと………。勘違いしてしまい、すみませんでした。あ、ペグ!」


ペグ? 先ほどの一角ウサギのことだろうか? ということはあのウサギはこの少年のペットで、逃げ出したのを追いかけていたというところのようだ。

「ペグなら俺が捕まえておきましたよ、キル様。」


声のした方向を見ると、そこにはウサギを抱きかかえた美少年が立っていた。これまた、顔がいいことで。この世界は総じて、顔面偏差値が高いようだ。そして、この赤い髪の少年はキルという名前のようだ。もしかすると、愛称かもしれないけど。


「………ああ、そうか。えーと、そちらの君。怪我がないようなら、俺はもう行くけどいいか?」


それはまずい。俺は道に迷っているから、ここで見捨てられてしまえば遭難してしまう。そして何より、女性と勘違いされたのは癪だがこのイケメンとお近づきになりたい。というか、下心を抜きにしても同年代の友人が欲しいし、関わり合いをもちたいのだ。見たところ、ウサギを抱えている方は兄上と同じくらいの年で、赤い髪の少年の方は俺と同じか一つ上くらいの年齢だと思う。



「あの、よろしければ道をお聞きしたいのですがよろしいでしょうか? 実は道に迷ってしまいまして………。」



俺がそういうと、二人は顔を見合わせ少し考えるそぶりをした。なんというか、かなり警戒されているように思える。特に年上の彼の方。

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