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第一章 少年編

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熱い………。体が燃えるように熱い。俺は気が付くと、猛烈な暑さと頭痛に見舞われていた。頭が痛い………? そうだ、俺は腹を刺されたはずだ。それなのになんで、頭が痛いんだ?すると、かすかに声が聞こえてくる。


「アース、アース!」
「お前なら大丈夫だ、だから戻ってきてくれ………。」
「アース、死んじゃいやだよ! アース!」


アース………? 誰のことだろうか? 俺はうっすらと目を開けてみた。すると、見覚えのない男女と少年の姿が見えた。この人たちはいったい誰なのだろか………?


そのまま俺は、再び意識を失った。






――





ここは、夢の中か? 誰かの記憶が流れ込んでくる………。あれ? この三人は確か、さっき目を開けた時に誰かの名前を呼んでいた人たちだ。じゃあこの視点は、「アース」と呼ばれたいた人の記憶なのか? 客観的に判断すると、あの三人とアースと呼ばれる人物は家族なのだろう。そして、この記憶はアースのもの。ということは、この体はアースのもので、俺の魂がそこに入り込んでしまったということなのだろうか?



アースの記憶によると、彼の年齢は三歳である。生まれつき体が弱く、よく体調を崩してしていた。現在は領地で療養中とのことだった。しかし今回は風邪をこじらせてしまい、元々病弱なのもあって生死の境をさまよっていた。結果は家族の必死の呼びかけもむなしく、アースの意識はなくなってしまった。つまり、この体の主は死んでしまいそこに俺の魂が入り込んだというわけだ。


三歳の子供が懸命に生きようとしていたことがひしひしと伝わってくる。その体を俺が譲り受けた形になる。アース………、出会ったことはないけどゆっくり休んでくれ。勝手に体を使わせてもらうようで非常に申し訳ないけど、俺が死の間際で願ったことがこんな形で叶ってしまったからには、再び精一杯生きようと思う。俺の願った世界通りなら………。








――






どれくらい眠っていたのだろうか? あの時は猛烈な暑さや頭痛に襲われていたが、今は少し体がだるいだけで落ち着いているように思える。俺はゆっくりと目を開けた。


「アース様!」

するとそこには、メイド服を着た女性がいた。部屋の様子からして、今は夜のようだ。家族の皆様は今は就寝中なのだろう。



「すぐに御屋形様たちを呼んでまいりますので、お待ちください。」



侍女はそういうと、部屋を素早く後にした。これからが重要だ。今までのアースと中身が違うという違和感を持たれてはならない。幸い三歳ということで、アイデンティティがほとんど確立していないため、アースという幼児がどのような人物なのかという具体的な判断が難しいように思える。さらに、見聞きしたことは記憶として多く流れてきたがそれは三歳児の理解力を通しての内容である。だから、情報が足りないのである。俺の家はおそらく貴族ということしかわかっていない。あとは使用人の名前や兄上の名前が、「マクウェル兄上」ということしか固有名詞はわかっていない。これから情報を集めることも必要だ。

すると、あわただしい足音とともに部屋の扉が開かれた。



「「「アース!」」」


俺の名前を呼びながら、目元に涙を浮かべた三人の姿が目に飛び込んできた。この様子では寝起きというよりはむしろ、寝れずにいたところに俺が目を覚ましたという情報が飛び込んできたという感じかな。


「アース、どこか痛いところはないかい?」


「はい、父上。少し体が重い感じがしますが、大丈夫です。」


「本当ね? よかったわ! アースがこのまま目を覚まさないかと思うと私、どうにかなってしまいそうでしたわ。」


「ご心配をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした。」



俺がそういうと、父上と母上は安堵の表情を浮かべた。それとは対照的にマクウェル兄上は、ベッドに伏せて泣いていた。マクウェル兄上は、アースのことを相当かわいがってくれており、それと同時にアースの体調のことをものすごく心配していたことがアースの記憶からうかがえた。俺は、兄上に声をかけることにした。


「兄上………? 僕はもう大丈夫ですよ。だから、お顔を見せていただけませんか?」



俺がそういうと、マクウェル兄上は目をこすりながらゆっくりと顔を上げた。記憶によると、マクウェル兄上はアースとは三つ違いだから六歳ということになる。


「アース………? 本当に心配したよ………。」



その時俺の心臓は跳ね上がった。か、かわいいいいいい!

俺は若干ショタ属性を持ち合わせている。父上と母上は紛れもない美形だが、マクウェル兄上もその美形をしっかりと受け継いでいる。その美少年が目元を潤ませながら、俺のことを上目遣いで見ている。この状況では大変不謹慎だけど、かわいい以外の言葉が見つからない。俺鼻血が出そうなのを我慢しながら、何とか言葉を振り絞った。


「あ、兄上………ご心配をおかけして申し訳ございませんでした。また、いっぱい遊んでください。」


俺がそういうと、兄上は満面の笑みで返してくれた。まずい、この笑顔は破壊力が抜群だ。俺の心臓は耐えられそうにない。若干息苦しくなり、胸をおさえると、兄上たちが急に慌てだし、俺のことを心配し始めた。違うんです、これは病的な痛みではなく、不純的な痛みなんです!


「まだ体調は芳しくないようだね。今日はゆっくり休みなさい。また明日様子を見に来るからね。」


「はい、ありがとうございます。」


俺がそういうと、父上たちは俺の頭をなでてくれたあと速やかに部屋をあとにした。優しい家族に巡り合うことができて、よかった。前世の家族ともいい関係を築くとは出来ていた。この世界でも、家族を大切にしていきたい。






――






次の日。俺は立ち上がることができるくらいには、体の調子がよくなっていた。前世は特段大きな病を抱えてはいなかったから、この体になれるのは少し時間がかかりそうだ。体が心について行かない、離れているような感じがするとはまさにこのことだ。


俺が朝食の席に顔を出すと、父上たちは笑顔で出迎えてくれた。
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