上 下
53 / 63

S級対抗戦の準備

しおりを挟む
 馬車が国の中心部に入ると、街の雰囲気が一変した。通りには色とりどりの旗が翻り、人々の会話にはS級対抗戦の話題が溢れている。俺は窓から覗く活気ある街並みを眺めながら、胸の内に湧き上がる期待と不安を感じていた。

「随分と盛り上がっているな」

 馬車を降り、S級対抗戦の準備会場に向かう。道すがら耳に入る断片的な会話から、この催しへの人々の期待の大きさが伝わってくる。

 会場に到着すると、すでに何人かの顔見知りがいた。

「やあ、ロアン殿。久しぶりだな」

 サラリバンが穏やかな微笑みを浮かべて近づいてきた。その隣には、鋭い眼光のアリアと、巨漢のガイウスの姿もあった。

「皆さん、お久しぶりです」

 俺が挨拶を返すと、アリアが周囲を見回しながら口を開いた。

「ヴァルドの姿が見えないわね」

 その言葉に、俺は思わず顔をしかめた。たしかに、あいつの姿はない。

「彼のことは置いておこう。我々にはやるべきことがある」

 サラリバンが眉をひそめ、そう口にしたそのとき、カイルが壇上に立った。

「皆様、お集まりいただきありがとうございます。それでは、S級対抗戦で使用する装備の要件について説明させていただきます」

 カイルの説明が始まると、会場は静まり返った。

「今回のS級対抗戦では、安全性と公平性を最優先に考えております。そのため、特殊な防具と攻撃システムを導入します」

 カイルは大きなスクリーンに図を映し出しながら説明を続けた。

「まず、防具については強力な属性防御を持つものを使用します。この防具は、通常の攻撃ではほとんどダメージを受けません。しかし、特定の部位には弱点があり、その部分を破壊されると戦闘不能と判断されます」

 俺は眉を寄せた。これは予想以上に高度な要求だ。通常の防具製作の概念を大きく覆すものだった。

「攻撃側には、この特殊防具の弱点を狙える専用の武器や魔法を用意します。これにより、一撃必殺のような事態を避けつつ、技術と戦略が重要となる戦いが実現できます」

 説明を聞きながら、俺の頭の中ではすでにアイデアが渦巻いていた。ブレイクウォーター領で見つけた結晶。あれを使えば、この高度な要求に応えられるかもしれない。

 説明会が終わると、俺は早速作業に取り掛かった。他の職人たちも同じように、それぞれのアイデアを形にしようと必死だ。

 俺は机の上に結晶を置き、じっと観察した。この結晶には、魔力を増幅する特性がある。これを上手く利用すれば、通常では不可能な高度な魔力制御が可能になるかもしれない。

「よし、やってみるか」

 俺は結晶を中心に据えた魔力増幅装置の設計に取り掛かった。この装置を介して魔力を流すことで、より精密な魔力制御が可能になるはずだ。

 数日間、昼夜を問わず作業を続けた。何度も失敗を繰り返し、時には壁にぶつかることもあった。しかし、その度に魔界ダンジョンでの経験を思い出し、新たなアプローチを試みた。

 そして、ついに成果が表れ始めた。結晶を用いた増幅装置により、俺のエンチャントとフォージのスキルが飛躍的に向上したのだ。まるでレベル3のスキルを擬似的に体験しているかのような感覚だった。

「これが……この感覚が続いたら……要求された防具が作れるかもしれない」

 俺は工房で防具を鞣しながら悩み続ける。この結晶は魔界ダンジョンでみたものほど特殊なものではない、本当に能力を向上させるためだけのものみたいだ。基礎となる防具は、通常の鎧よりも軽量で、しなやかな素材を選び、着用者の動きを妨げることなく、十分な防御力を確保できるよう仕上げる。それをクラフトスキルを使って性能を底上げする。

 魔法付与スキルがレベル2 『ハイエンチャント』からレベル3 『エンチャントエンジニア』へ。武具作成スキルがレベル2 『フォージアーティスト』からレベル3 『フォージマエストロ』へ。結晶の力を借りながらもその境界で成功と失敗を繰り返し、苦悩する。
 
 鎧に魔力の流れを組み込んでいく。結晶の増幅効果により、俺は今まで以上に繊細な魔力制御が可能になっていた。鎧の表面全体に、複雑な魔力の回路を張り巡らせる。この回路が、外部からの攻撃を受け止め、分散させる役割を果たす。

 さらに、鎧の特定の部位に「弱点」を設ける。この部分は、一見すると他の部分と変わらないが、特殊な魔力の流れを持っている。適切な方法で攻撃を受けると、この部分だけが崩壊するようになっている。これで安全性と競技性の両立ができるはずだ。

 完成した防具を見つめながら、品質だけは満足できると思った。数日がかりだろうと、この国でもかなり上位の質で仕上げられている自信はある。だが、満ち足りない。これまで一般冒険者向けに作っていた装備とは性能が桁違いに良くなってるというのに。

 次に、この防具に対応する武器の制作だ。これには、さらに高度な技術が必要となる。

 俺は再び結晶の力を借りて、特殊な剣を作り上げようと、試みた。だが、そこで俺の手が止まる。予感がある。いや、わかっていた。わかっていたけれども、俺の生身の力として扱いたかったから、それを認めることができなかった。

「この結晶自体を、アクセサリーにしてしまえば……」

 いまの俺にはそれができる。そして、俺の能力をこれまでにないほど引き上げてくれる。それは、ブレイクウォーター領での活動にも役に立つことだろう。自分の覚醒で最強能力を手に入れたかった。だが、俺は、クラフターだ。どうせ、生身にはC級に毛が生えた程度。最初から特殊能力付きの高性能武具に頼っていた俺からすれば、何ら抵抗を持つことなどなかった。

「なら、まずは、こいつから……」

 俺は全神経を研ぎ澄ませ、結晶の装飾化に取り掛かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

処理中です...