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外装を修繕する
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朝日が昇る頃、俺は購入した物件の前に立っていた。かつて商家だったという二階建ての古い建物は、街の喧騒がまだ聞こえる位置にある。近づくにつれ、その荒廃ぶりが目に焼き付いた。
屋根の一部が崩れかけており、壁にはいくつかのひび割れが走っていて、庭は雑草が生い茂っていた。玄関の扉は軋んで、開け閉めするたびに不吉な音を立てる。
「ふむ……これは大変だな」
俺は腕を組んで建物を見上げた。クラフトスキルは武具や装飾品の製作に特化している。建築物の修繕には直接使えない。しかし、持ち前の器用さと、これまでの経験を生かせば何とかなるはずだ。
「まずは屋根から始めよう」
俺は梯子を用意し、屋根に上った。近くで見ると、被害の程度がより明確になる。瓦の一部が欠けており、その下地の木材は腐ってしまっていた。
慎重に古い瓦を外し、腐った木材を取り除いていく。新しい木材を調達し、釘を打ち込む。その過程で、一部のクラフトスキルは役立つことがわかった。
レベル2素材活用スキル『ハイマテリアル』 。これは一部の希少素材の活用と2種類の素材を組み合わせた新しいアイテムの製作ができるスキル。俺の経験が魔物の処理ばかりだったので建築材を作り出すことにまでは応用できないが、その状態を見極めるのには使える。
レベル2武具作成スキル『フォージアーティスト』。 高性能または軽量性を重視した装備の製作ができる。修繕を楽にする道具程度は作成することができる。
レベル2装備修理スキル『リペアスペシャリスト』。これは装備品の高度な修理と部分的な性能向上ができるスキル。工具が壊れた場合に応用ができる。
これらのクラフトスキルは、木材の状態を正確に把握し、最適な補強方法を見出したり、釘や金具の微調整に驚くほど有効だった。
「よし、これでいいか」
屋根の修繕が終わると、次は壁のひび割れに取り掛かった。石材を混ぜ、ひび割れを丁寧に埋めていく。ここでも、素材の扱いに長けたクラフトスキルが、作業の精度を高めてくれた。
「ここはかなり深いな。完全に作り直さないといけないか」
壁の一部は、予想以上に傷みが激しかった。その部分は完全に取り壊し、新しい壁を作ることにした。重い石を運ぶ作業に腕の筋肉が悲鳴を上げるが、それでも手を止めない。日が傾き始める頃、外観の修繕はほぼ完了していた。
「ふう、今日はこんなものかな」
汗を拭きながら、俺は完成した外観を見上げた。まだ完璧とは言えないが、朝とは見違えるほど良くなっている。
宿に戻る道すがら、俺は頭の中で次の計画を練っていた。内装の修繕、そして工房としての機能を整えること。やるべきことは山積みだ。
宿に着くと、俺は疲れきった体を椅子に沈めた。腕と背中の筋肉は悲鳴を上げているが、その疲労感の中にも、大きな達成感があった。
ダンジョンで手に入れた素材や装備は、レア度の低いものから順に物件に置いてきている。一応、警報装置もつけているので、知らないうちに全てがなくなっていたなんてことにはならないだろう。次元の指輪からシルヴィが入手した結晶を取り出し、手に持って眺める。
何か生命的なものを感じるが、持っている分には何も害がない。強力な魔力を宿しているようで、それが漏れ出してくることもない。自然界のどんなものにも魔力が微弱ながら宿っているものだが、これはゼロと言っていいほどに何も感じないのだ。それが逆に不気味でもある。
あのダンジョンは、踏破こそしたが、もしかしたら消えないのかもしれない。その可能性を見越して魔力遮断の加工はしてある。あれがB級ダンジョンであれば踏破せずに残しておくべきだったとも考えられるが、序盤はC級ぐらいではあったし、後半のフロアにほとんど魔物が残っていなかったあたり、長期間あそこをメンテナンスする旨味は少ない可能性も高かった。踏破しかけのダンジョンに魔物が再び現れるまでには、だいぶ時間がかかる。もしあのダンジョンがそのままの状態で残っているのなら、環境から得られる素材を採取するのが主な目的になるかな。
「ふう……考えごとをするのすらしんどくなってきたな」
俺は風呂に入ってから、ベッドに横たわることにした。体を清めるだけなら水魔石の魔装置を使ってサッと終わらせられるが、体を癒やすには色々と薬剤を混ぜ込んだ湯船に浸かるのがよい。
明日は内装だ。
ダンジョンを2日ぶっ続けで歩ける俺でも、修繕作業をするとくたくたになる。
クラフトスキルを使いっぱなしだったということもあった。
そんな脳みそと体内深部の疲れに誘われるように、俺は穏やかな眠りに落ちていった。
屋根の一部が崩れかけており、壁にはいくつかのひび割れが走っていて、庭は雑草が生い茂っていた。玄関の扉は軋んで、開け閉めするたびに不吉な音を立てる。
「ふむ……これは大変だな」
俺は腕を組んで建物を見上げた。クラフトスキルは武具や装飾品の製作に特化している。建築物の修繕には直接使えない。しかし、持ち前の器用さと、これまでの経験を生かせば何とかなるはずだ。
「まずは屋根から始めよう」
俺は梯子を用意し、屋根に上った。近くで見ると、被害の程度がより明確になる。瓦の一部が欠けており、その下地の木材は腐ってしまっていた。
慎重に古い瓦を外し、腐った木材を取り除いていく。新しい木材を調達し、釘を打ち込む。その過程で、一部のクラフトスキルは役立つことがわかった。
レベル2素材活用スキル『ハイマテリアル』 。これは一部の希少素材の活用と2種類の素材を組み合わせた新しいアイテムの製作ができるスキル。俺の経験が魔物の処理ばかりだったので建築材を作り出すことにまでは応用できないが、その状態を見極めるのには使える。
レベル2武具作成スキル『フォージアーティスト』。 高性能または軽量性を重視した装備の製作ができる。修繕を楽にする道具程度は作成することができる。
レベル2装備修理スキル『リペアスペシャリスト』。これは装備品の高度な修理と部分的な性能向上ができるスキル。工具が壊れた場合に応用ができる。
これらのクラフトスキルは、木材の状態を正確に把握し、最適な補強方法を見出したり、釘や金具の微調整に驚くほど有効だった。
「よし、これでいいか」
屋根の修繕が終わると、次は壁のひび割れに取り掛かった。石材を混ぜ、ひび割れを丁寧に埋めていく。ここでも、素材の扱いに長けたクラフトスキルが、作業の精度を高めてくれた。
「ここはかなり深いな。完全に作り直さないといけないか」
壁の一部は、予想以上に傷みが激しかった。その部分は完全に取り壊し、新しい壁を作ることにした。重い石を運ぶ作業に腕の筋肉が悲鳴を上げるが、それでも手を止めない。日が傾き始める頃、外観の修繕はほぼ完了していた。
「ふう、今日はこんなものかな」
汗を拭きながら、俺は完成した外観を見上げた。まだ完璧とは言えないが、朝とは見違えるほど良くなっている。
宿に戻る道すがら、俺は頭の中で次の計画を練っていた。内装の修繕、そして工房としての機能を整えること。やるべきことは山積みだ。
宿に着くと、俺は疲れきった体を椅子に沈めた。腕と背中の筋肉は悲鳴を上げているが、その疲労感の中にも、大きな達成感があった。
ダンジョンで手に入れた素材や装備は、レア度の低いものから順に物件に置いてきている。一応、警報装置もつけているので、知らないうちに全てがなくなっていたなんてことにはならないだろう。次元の指輪からシルヴィが入手した結晶を取り出し、手に持って眺める。
何か生命的なものを感じるが、持っている分には何も害がない。強力な魔力を宿しているようで、それが漏れ出してくることもない。自然界のどんなものにも魔力が微弱ながら宿っているものだが、これはゼロと言っていいほどに何も感じないのだ。それが逆に不気味でもある。
あのダンジョンは、踏破こそしたが、もしかしたら消えないのかもしれない。その可能性を見越して魔力遮断の加工はしてある。あれがB級ダンジョンであれば踏破せずに残しておくべきだったとも考えられるが、序盤はC級ぐらいではあったし、後半のフロアにほとんど魔物が残っていなかったあたり、長期間あそこをメンテナンスする旨味は少ない可能性も高かった。踏破しかけのダンジョンに魔物が再び現れるまでには、だいぶ時間がかかる。もしあのダンジョンがそのままの状態で残っているのなら、環境から得られる素材を採取するのが主な目的になるかな。
「ふう……考えごとをするのすらしんどくなってきたな」
俺は風呂に入ってから、ベッドに横たわることにした。体を清めるだけなら水魔石の魔装置を使ってサッと終わらせられるが、体を癒やすには色々と薬剤を混ぜ込んだ湯船に浸かるのがよい。
明日は内装だ。
ダンジョンを2日ぶっ続けで歩ける俺でも、修繕作業をするとくたくたになる。
クラフトスキルを使いっぱなしだったということもあった。
そんな脳みそと体内深部の疲れに誘われるように、俺は穏やかな眠りに落ちていった。
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