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第二章 テンプレ無双の二人
ダド村。襲い掛かる脅威。
しおりを挟む二人を見送った村長は無事を祈っていた。
「お袋。あの二人なら大丈夫さ。あの歳で銀ランクなんだ。心配いらねぇよ」
「銀ランクだろうがなんだろうが二人は子供さぁ。怪我せずにけえってこいよぉ」
「ダメだこりゃ…」
村の共同墓地で二時間以上死んだ父に祈る、年老いた母を前に男は天を仰いだ。
カンッカンッカンッカンッカンッカンッ!
村中に非常時に鳴らす鐘が鳴り響いた。
「なんだ!?お袋は家に帰れ!俺は様子を確認してくる!」
「わ、わかったよぉ」
墓地は村への入り口とは反対側にある為、門まで男は走った。
「どうした!?」
「賊だ!!15人はいるぞ!」
「なんだと!?外に出た奴はいるのか?」
村が襲われている事を知ると、すでに閉まっている門に目を向けて聞いた。
「木こりに出たドミニクが走って帰ってきて、報告に来てくれたから門を閉めるのが間に合ったんだ!」
「そうか……一先ずは安心だが…籠城は出来んな…」
村の防御は空堀と木の柵だ。火でもつけられたらすぐに壊れてしまう。
あくまでも魔物や動物対策でしかない。
「何で賊なんか…どこから来たんだ?」
「そげなことより、戦う指揮を取ってくれ」
「わかった。動ける奴をみんな集めてくれ」
自分が生まれて初めての出来事に疑問が募る。
(こんな何もねーところに態々来るなよな…)
男は心の中で愚痴るが、村長代理として動かなくてはならない為、すぐに思考を切り替えた。
「どんどん投げろ!!」
村では賊と村人達による激しい攻防戦が繰り広げられていた。
「西から来たぞ!門の横の火を消せ!」
賊は村を囲む柵にどうにか火を付けようと動き、村人達は梯子を登り、石を投げて阻害したり、間に合わなかったところには水を掛けたりしていた。
この村の人口は老若男女合わせて150人。その中でまともに防衛戦が出来るのが30人。
長閑なこの田舎村では若者が出て行く。その為、中間層の青年、壮年層が少ないのだ。
ダド村は農業により村の殆どの収入を得ている。もちろん生活に必要な木こりや、狩人、などはいるが、大工や革職人などはいない。
そういったものが必要な時は村人達総出で作業にあたるからだ。
この世界には魔物が跋扈している。その為、農業を行うのに必要な農地の確保が一番難しくなっている。
この村には村とは別のところに防御機能を備えた農地があるのだが、広さは村と同じ理由で拡張しづらい。
農業が儲からないといった理由もあるが半分以上は農地の問題もあり、働き盛りの年齢層が少ない要因である。
普通の人対人の戦であれば守りが3倍以上有利という事は歴史を見れば明らかである。
しかし、木の柵と空堀しかないこの村を守るのにその有利は働かなかった。
賊はそれを知っていて散らばり、多方向から火の手を放った。
「裏手が燃えているぞ!」
仲間から声を掛けられた村長代理は
「くそっ!!武器を持て!!鍬でも何でもいい!みんなに武装させるんだ!」
最早柵は諦めるしかない。
「武器を持ったら広場に集まれ!人数はこっちが上だ!真ん中を年寄りと子供にして俺達で囲むんだ!」
村長代理も門を離れて村の中へと向かった。
「やめろ!お前たちの方が人数が少ないんだ!どちらも無駄に犠牲が出るだけで何も手に入らんぞ!」
村長代理は村の中に入ってきた賊達に声を張り上げる。
向こうの武器もまともなものは無く、鍬や鎌が目立つ。
(なんだこいつら!?農民じゃねーか!?)
村長代理は気付いた。相手は自分達と同じ職業を生業としていた者達であると。
「うるせー!そんな事はわかってるんだよ!こっちはもう餓死者も出てる!こうでもしなきゃ生きていけないんだ!」
「ま、待て!それなら話し合おう!俺は村長代理だ!俺がここの領主様に掛け合ってやるから武器をおろせ!」
「そんな話が信じられるかっ!!」
賊達は村長代理の声に耳を傾けなかった。
説得が出来ないとわかった村長代理は覚悟を決めてその時を待った。
その頃レビン達は村の近くまで戻ってきていた。
「あれは…煙だ!」
「おかしいわね…尋常じゃない煙の量よ。火事かもしれないわ!急ぎましょう!」
二人は防御柵が燃える時に出た煙を確認して走り出した。
暫く走ると空に煙と共に火が見えた。
「何かあったんだ!荷物をここにおいて向かおう!」
「わかったわ!」
二人は移動に邪魔なものをそこに置くと更に速度を上げた。
「柵が燃えてる…?なんで?」
「火事が起こるにしても柵が燃えているのはおかしいわね」
防御柵は村の生命線である。
火事が起こればすぐに消火作業が行われるはずであるが、火元はどうやらここだけでは無い。
「これ以上燃え広がらないように斬るよ」
レビンは腰だめに剣を構えると全力を持ってまだ燃えていない柵ごと切り倒した。
「とりあえずここはもう大丈夫そうだから村で事情を確認しよう!」
「ええ!」
二人は切り倒した柵の部分から村へと入った。
(流石に手が痺れちゃった…カッコ悪いから言えなかったけど……)
いくら強くなっていても基礎ができていない身体と剣筋だ。手のひらに大部分の運動エネルギーが集中してしまった為、痺れてしまったようだが問題もなさそうだった。
「あれは!?賊!?」
二人の目に飛び込んできたのは150名程のダド村の人達が20人程の痩せこけた賊と相対している姿だった。
「そんな話が信じられるかっ!!」
斧を持った賊が村長の息子に殴りかかる姿を見てレビンは咄嗟に動いた。
キンッ
ボトッ
レビンが賊の前に躍り出て剣を一閃した。
その剣はもちろん力任せだが、斧の持ち手の部分を斬り落とすには充分過ぎる威力だった。
「えっ……?」
起こった出来事を上手く飲み込む事が出来なかった賊は呆けた表情で自身の持つ斧だったモノを見つめた。
「レビン!?」
「あっ!えーっと…」
「そういや名乗っていなかったな!ガスだ。助けてくれるのか?」
冒険者は基本依頼以外の事はしない。村長代理であるガスはそういった知識もある。そしてこの村の予算では銀ランク冒険者に払う依頼料が捻出出来ないことも。
「もちろんです!一宿一飯の恩がありますし!それが無くとも助けますよ」
「お、おう。ありがたい…」
レビンが見た目に(可愛らしい)似合わない難しい言葉を使った為、戸惑いながらも返事をした。
(冒険録に書いてあった、いつか言ってみたいカッコいい台詞を言えたぞ!まさか僕がこんな事を言えるようになるとは…)
レビンは感慨に耽っていたが、多分少し違うと思う。。。
「いいか!賊共!この人達は銀ランク冒険者だ!もはや勝ち目はない!大人しくお縄につけ!」
「くそっ…ここまでか…」
賊達はいきなり割り込んできたレビンを見て驚き、二人の容姿を確認して子供だと安堵したが、首から下げる銀色のタグを見て諦めの境地に至った。
(お、お縄につけ…これも…)
レビンは違うことに感動していてそれどころではなかった。
その後、賊達は武器を落とし、その場に蹲った。
賊達をしっかりと縛った村人達は事情を聞いた。
レビン達も何があったのか気になった為、その場に同席した。
レビンにとっては名台詞を聞き逃さない為かもしれない……が、そう思えるのも村人に人的被害がなかったお陰だった。
「隣の国だと?」
賊達から聞いた事情は同情出来るものではあった。
しかし、自分達の生活を脅かされたダド村の村民達には納得の出来るものではなかった。
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