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【第一部】二章
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「あなた、見かけない顔だけど新人かしら?」
「あ、私は」
「募集で働きに来たなら知ってるわね? 戴冠式の準備で王宮は忙しいの。新人だからってのんびりしている暇はないのよ。あなた、裁縫は?」
「え?」
「裁縫は出来るの?」
多分、それは今のところ一番得意なものだ。
「はい」
「それじゃ、ついて来て」
彼女は後輩のメイドにシミを落としてくるよう指示を出すと颯爽と歩き出し、ニコラは慌てて後追った。脚の長さが違うのでニコラは自然と小走りになる。
「あなたの仕事場はここよ」
案内されたのは、何人かのメイドが大量の生地に囲まれて縫い物をしている部屋だった。そんなに広い部屋ではないが、山のように積まれた生地のせいでメイドの人数は正確にはわからない。あまりの生地の量に埋もれているように見える。
「作業は順調?」
「あ、マリア様、お疲れさまです」
近くにいたメイドが返事をした。ニコラが追って来たメイドはマリアと言う名前らしい。
「何分、量が多くて……まだ全然終わりが見えません」
「そう」
マリアは表情を変えず返事をした。元々あまり表情が表に出ない人なのかもしれない。
マリアが振り返ってニコラに言った。
「戴冠式まで時間がないわ。この大量の生地は全部、戴冠式の後にある祝賀会で使うテーブルクロスとナプキンよ。祝賀会には世界中の貴族が出席するからどれだけ縫っても足りないわ。わかったら急いで縫い上げて」
それだけ言ってマリアは立ち去った。
途方に暮れたニコラがその場に突っ立っていると、先ほどマリアと話していたメイドが「これを見て縫って」と紙を渡して自分の作業に戻った。紙にはテーブルクロスとナプキンのサイズが書いてあった。
ニコラは辺りを見渡して、かろうじて人一人座れるスペースを見つけた。そこに使っていない椅子を運んで座る。紙に書いてあるサイズを確認して、ニコラは自前の裁縫箱から針と糸をそっと取り出した。
もしかしてライアーさんがお願いしたかった事って、この事だったのだろうか…。
でも、これなら私にも出来る。
ニコラは針穴に糸を通した。
「あ、私は」
「募集で働きに来たなら知ってるわね? 戴冠式の準備で王宮は忙しいの。新人だからってのんびりしている暇はないのよ。あなた、裁縫は?」
「え?」
「裁縫は出来るの?」
多分、それは今のところ一番得意なものだ。
「はい」
「それじゃ、ついて来て」
彼女は後輩のメイドにシミを落としてくるよう指示を出すと颯爽と歩き出し、ニコラは慌てて後追った。脚の長さが違うのでニコラは自然と小走りになる。
「あなたの仕事場はここよ」
案内されたのは、何人かのメイドが大量の生地に囲まれて縫い物をしている部屋だった。そんなに広い部屋ではないが、山のように積まれた生地のせいでメイドの人数は正確にはわからない。あまりの生地の量に埋もれているように見える。
「作業は順調?」
「あ、マリア様、お疲れさまです」
近くにいたメイドが返事をした。ニコラが追って来たメイドはマリアと言う名前らしい。
「何分、量が多くて……まだ全然終わりが見えません」
「そう」
マリアは表情を変えず返事をした。元々あまり表情が表に出ない人なのかもしれない。
マリアが振り返ってニコラに言った。
「戴冠式まで時間がないわ。この大量の生地は全部、戴冠式の後にある祝賀会で使うテーブルクロスとナプキンよ。祝賀会には世界中の貴族が出席するからどれだけ縫っても足りないわ。わかったら急いで縫い上げて」
それだけ言ってマリアは立ち去った。
途方に暮れたニコラがその場に突っ立っていると、先ほどマリアと話していたメイドが「これを見て縫って」と紙を渡して自分の作業に戻った。紙にはテーブルクロスとナプキンのサイズが書いてあった。
ニコラは辺りを見渡して、かろうじて人一人座れるスペースを見つけた。そこに使っていない椅子を運んで座る。紙に書いてあるサイズを確認して、ニコラは自前の裁縫箱から針と糸をそっと取り出した。
もしかしてライアーさんがお願いしたかった事って、この事だったのだろうか…。
でも、これなら私にも出来る。
ニコラは針穴に糸を通した。
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