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「結構です」

 即刻拒否。絶対に嫌だ。 

 明らか見下した態度の相手には反吐が出る。この不快感を嘔吐物に昇華してお前の顔面にぶっかけてやりたいくらいだと思った。

 まさか断られると思っていなかったのか、金ピカくんはしばしきょとんとしたアホ面でこっちを見てくる。しかしすぐに顔を真っ赤にして、青筋浮き立つ手で胸倉を掴んできた。

「お前……誰に喧嘩売ったか分かって…」
「止めろ」

 私と成金くんの間に割って入ってきたのは、見覚えのあるスキンヘッドおじさんと露出度高いピンク髪のお姉さん。

「ギース、あんた自分がどんなに無礼か分からないの?その態度が、その言動が一体どれだけの人を怒らせると思っているの?」
「うるせえ年増!」
「はぁ?あなた、いくら称号を貰ったからって調子に乗り過ぎなんじゃないの!?」

 そのまま始まる罵り合い。これぞ暴言罵詈雑言といえる聞くに絶えない言葉の数々を吐き合う二人を、少ししたのアングルから観戦する。

 胸倉掴まれたまま二人に挟まれる私は、一体何をしたというのか。

「マシュー様、お待たせしました。準備が整いましたので、応接室へご案内します」
「”はい”」

 お姉さんに返事をするついでに魔法を発動。高級装備の美男くんを弾き飛ばし、助けてくれたお姉さんとスキンヘッドさんにお辞儀してお姉さんに着いて階段を上る。

 上ってすぐの廊下を少し歩くと、他より少し装飾の豪華な木製扉が現れた。お姉さんが扉を開ける。

 昼の喧騒がシャットアウトされた静かな空間に、ローテーブルと柔らかいソファが設置されている。複数人掛けのイスの反対には同じイスの一人掛けがあった。

「座ってお待ちください」

 お姉さんはそう言って扉を閉める。

 私は大人しくソファに腰掛けて、再び本を取り出そうとした。鞄を開けたところで、なんだか気まずくて止めた。

 それでも暇は暇なので、緑色のソファを撫で回してみたり、木造の扉装飾を観察したりしているとあっという間に時が過ぎていく気がする。

 壁に架けられた鏡の縁を眺めていると、木扉が開いて女性が入ってきた。

「すみません、お待たせしてしまって」

 ゆったりとしたワンピースを着た、長い紫髪の綺麗な女性だ。タレ目気味で細っぽい、眠たそうな目をしていて、穏やかに微笑んでいる。

 一見儚げな雰囲気をまとってこそいるけれどその佇まいから強者の格が滲み出ていた。数え切れないほどの修羅場を潜り抜けてきたんだろうなと思いながら、椅子に座る彼女をぼんやり眺めていた。
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