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思わず咳き込んでしまうような埃っぽい、目を凝らしても遠くに見える部屋の明かりしか確認できない通路を歩いている。左右は古びた牢獄のようで、度々聞こえる微かな嗚咽の声から察するに中には人がいるらしい。
そんな所で周りを見回せるほどの度胸は私には無く、少し先を歩くイゾルデの細い背中だけを見て歩いた。
「ここです。絶対に店長には上手く言ってくださいね。私叱られるの嫌ですからね?」
不安そうにこちらを見る黒子から目を逸らす。勢い付いてさっきはあんなふうに言ったけれど、口はそんなに上手くないのだ。
鉄格子と重い木の二重扉を通り抜けると、むせ返るような血の臭いが鼻腔を突いく。手で鼻を覆い一歩踏み出したところで、足元に砂のような青磁色が広がっていることに気がついた。よくよく見てみるとそれは砂ではなく、サラサラと乾いた、小粒な魔力だった。
部屋を埋め尽くすような大量の魔力は、部屋の端に置かれたベッドに横たわる少年から流れ出した物のようだ。
ふつふつと興奮が湧いてきた。彼の魔力し青く透き通った綺麗なもので十分に質が高く、加えて量も桁違いだ。それが示すのは間違いなくあの少年に魔法の才能があることであり、それはきっと鍛錬さえ積めば歴史に名を残す大魔道士になることだって不可能では無いほどだった。
本当に倫理もへったくれもない話だが、私はもし彼が奴隷で、買手もいないなら手元に置きたいと心底思った。それこそ喉から手が出るほど、だ。きっとこのチャンスを逃したら、私は目の前の少年のように喉を掻き切ってしまうだろう。
私は一瞬にして興奮から覚めた。この医務室のような部屋にいるのは、私と黒子と彼だけだ。であれば、自解した商品とは彼のことだろう。少年の首は辛うじて半分が繋がっているだけの状態だった。何故今まで気が付かなかったのかと後悔したとき血に塗れた剥き出しの喉笛が一際高く鳴った。
ドクドクと激しく血が流れ、ベッドは赤を越して黒くなり始めた。なかなか上等にみえる襟シャツのボタンは外されている。大きく開かれた胸元から、サラリと血塗れた白い肌が覗いていた。どこか引きつった、継ぎ接ぎな印象を受ける。
それは回復魔法の痕だろうと考えた。回復魔法は体を生来の姿に戻すもの。医療では痕になってしまう傷だって、どこにあったのか分からないくらい綺麗に治すことができるけれど、何度も繰り返し魔法を受けていると少しずつ歪みが生まれていく。魔力を注ぎ込まれ過ぎて、肉体が元の形を忘れてしまうからだ。
そんな所で周りを見回せるほどの度胸は私には無く、少し先を歩くイゾルデの細い背中だけを見て歩いた。
「ここです。絶対に店長には上手く言ってくださいね。私叱られるの嫌ですからね?」
不安そうにこちらを見る黒子から目を逸らす。勢い付いてさっきはあんなふうに言ったけれど、口はそんなに上手くないのだ。
鉄格子と重い木の二重扉を通り抜けると、むせ返るような血の臭いが鼻腔を突いく。手で鼻を覆い一歩踏み出したところで、足元に砂のような青磁色が広がっていることに気がついた。よくよく見てみるとそれは砂ではなく、サラサラと乾いた、小粒な魔力だった。
部屋を埋め尽くすような大量の魔力は、部屋の端に置かれたベッドに横たわる少年から流れ出した物のようだ。
ふつふつと興奮が湧いてきた。彼の魔力し青く透き通った綺麗なもので十分に質が高く、加えて量も桁違いだ。それが示すのは間違いなくあの少年に魔法の才能があることであり、それはきっと鍛錬さえ積めば歴史に名を残す大魔道士になることだって不可能では無いほどだった。
本当に倫理もへったくれもない話だが、私はもし彼が奴隷で、買手もいないなら手元に置きたいと心底思った。それこそ喉から手が出るほど、だ。きっとこのチャンスを逃したら、私は目の前の少年のように喉を掻き切ってしまうだろう。
私は一瞬にして興奮から覚めた。この医務室のような部屋にいるのは、私と黒子と彼だけだ。であれば、自解した商品とは彼のことだろう。少年の首は辛うじて半分が繋がっているだけの状態だった。何故今まで気が付かなかったのかと後悔したとき血に塗れた剥き出しの喉笛が一際高く鳴った。
ドクドクと激しく血が流れ、ベッドは赤を越して黒くなり始めた。なかなか上等にみえる襟シャツのボタンは外されている。大きく開かれた胸元から、サラリと血塗れた白い肌が覗いていた。どこか引きつった、継ぎ接ぎな印象を受ける。
それは回復魔法の痕だろうと考えた。回復魔法は体を生来の姿に戻すもの。医療では痕になってしまう傷だって、どこにあったのか分からないくらい綺麗に治すことができるけれど、何度も繰り返し魔法を受けていると少しずつ歪みが生まれていく。魔力を注ぎ込まれ過ぎて、肉体が元の形を忘れてしまうからだ。
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