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 私の向かいのソファを引いて、綺麗に足を揃えて座った彼女は自己紹介をはじめた。

「初めまして。冒険者ギルド、ケブトラン町支部長のエスメラルダと申します」
「どうも…」

 自己紹介をしてから机を挟んで向かいの一人掛けソファに腰掛けたエスメラルダはどこからか重そうな袋を取り出して机に置いた。音から察するに、中身は硬貨で間違いないだろう。

「この度は、町を救って頂いてありがとうございました。あなたがスタンピードを討伐してくださらなかったら、今、私が見ているのは荒れ果て、燃え尽き、跡形もなくなった町と人獣混合数々の死体だったでしょうね」

 卓上を滑ってきた布袋の紐を解いてみると、照明を受けて反射する金色の群れが姿を現した。思わず目を剥く。私はこの硬貨を、初めて見た。

「討伐報酬の大金貨、十枚です。お納めください」

 手のひらに乗った、薄いその金の円盤をじっと見つめた。しばらく前に屑籠へ捨てた串焼きの袋を思い出す。

 大金貨一枚は、大銅貨一万枚で交換することができる。それだけでも十分すぎるほど大金だけれど、これが十枚あるとすれば、もはやそれは想像もできない金額になっていた。

 たった一回、スタンピードを討伐しただけでこれだけの金額が貰えるというのなら、人っ子一人いない荒野で奴らを召喚して倒す、なんて錬金術が実現できるのではなかろうかと考えた。

「あの、こんなに頂けません…ギルド登録もしていないですし」

 あまりに大金すぎて流石に申し訳ない気持ちが湧いていた。袋を突き返そうとすると、エスメラルダはそれを押し返しながら言った。

「しかしですね、我々ギルドとしましては、成果には忠実に代金を支払いたいものなのです。ポリシーですから」
「でもこんなに貰ったって困ります」
「そうですか…では、別に依頼を一つ受けていただけますか?」
「はい?」

 名案だ、と言わんばかりに手を叩いて、エスメラルダはそう言った。

「はい。この町には、今まで防御結界がありませんでした。今回のことで住民は不安を抱いたでしょうから、治安改善、災害防止のために結界を張って頂きたいのです。マシュー様が結界を張っていただく代わりに、私たちはスタンピード討伐と併せて大金貨十枚をお支払いします」
「私が、ですか?」

 早口でそうまくし立てられ、あっさり私は気圧されそうになる。確かに防御結界は必要だろうが、私みたいな初心者にそれを任せて大丈夫なのか、と不安が過って一度考える。

 でも旅をするならお金があるに越したことはないんだから、貰っておいて損は無いんじゃないだろう。それに結界生成の仕事も追加されるなら、それこそ妥当な金額だったりするのでは、脳内会議で発案された。確かにその通りだと議長も頷いて、私は返答する。

「分かりました。私でよければ受けましょう」
「……助かります。宮廷に依頼すると倍ほどとられますから」

 ボソリと聞こえた話は聞かなかったことにして、エスメラルダに連れられた私はギルドの一階へ下りる。結界の前に、受付カウンターで冒険者登録をさせてもらうことにしたのだ。
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