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EX①
しおりを挟む「……ティア」
「ーーーーニール様、」
碧色に、透明な膜が張る。
駆け寄って抱きしめれば安堵したように預けてくるからたまらなくなって、息が震える。
「…お疲れ様、がんばったね」
ーー来て正解だった。
今日は王太子妃主催の茶会があった。
もちろん茶会自体初めてではないが、王太子妃としては、初。
恙なく終えたと報告はあった。
だが限られた家のみとはいえ娘を伴うとなればそれなりの人数にはなり、
必ずしも好意的なご婦人方ばかりでもない。
それは経緯を鑑みれば当たり前のこと。
教育を受けながらの王太子妃。
敬意とはべつだと、資質を測ろうと、
二枚舌で弄ぼうとする連中は後を立たない。
それはこれからも続くと、覚悟はしている。
そのなかで公務をこなし、外交に励む。
貴族との応酬に、慈善事業。魔法陣への魔力供給。
ティアリアは何度言い聞かせても強行スケジュールを止めない。
頑固なところは変わっていない。
「…平気…?」
変わったのは、
「…………疲れました…………」
弱さをみせてくれるようになったこと。
自然と頬が緩む。
以前のティアリアなら、平気だと言い張っていたはずだ。
ひとりで耐えるのが当然だと。
ひとりで背負うのが当然だと。
大丈夫だと、微笑んでいたはずだ。
「…うん。がんばったね、ティア」
「…」
「ん?」
弱音を吐いてくれるのがうれしいなんて、俺もたいがいどうかしてる。
そう思いながら腕を少し緩めて、髪を整えるように触れていたら、
余韻を残すように潤んだままの表情で見上げられて手が止まった。
「…ニール様に会いたくなって、…でも執務だと知っていたので、だから、…会いにきてくださってうれしいです…」
気丈に振る舞いそんな素ぶりは見せない彼女が、俺の前では何も隠さない。
鎧を剥がし、武装を解く。
無防備になる。
俺の前でだけ、ただの女の子になる。
「、ニール様…?」
目、どころか。心まで眩んでくる。
淡い紫苑色のドレスに、宝石は俺の色。
結われた髪。施された化粧。
うつくしく聡明な、王太子妃。
手を滑らすと、察しのいい彼女は怯えるように俯いた。後ろへ視線をやれば、侍女や護衛が退出してゆく。
「……急ぎのものは済ませてきた」
「っ」
でもそんな仮面も彼女はあっさり脱ぎ捨てるから、俺も隠さない。
俺だって紳士なんかじゃない。
「……ねぇティア、」
俺もただの男なんだってこと
きみの前では
隠さないよ。
※読んでくださりありがとうございます。
なんか最近読んでくださった方が多かったのがうれしかったんで不定期に番外編を載せてきます。
時系列バラバラなんで、いつの話なんだよ!とか思いながらひまつぶしに読んでもらえたらうれしいです。
しおり、エール、お気に入りほんとうにありがとうございます♡
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