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異世界

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『ーー…ティアリア、で何してるの?……きみは来ちゃダメだよ。』





だってここは、あたたかくて、やさしい。



ここなら、わたしをーー
















「あ。起きた?大丈夫?身体つらくない? じゃないから平気かな。ま、精神もあまり疲弊しないようにしないとね、戻れなくなっちゃうから」

「ーーーー始祖、さま……?」

「やめて始祖様とか恥ずい。ティリスでいーよ」


照れたように笑う、目の前にいるひとが信じられない。


背中まである白銀の髪をエタリナの花の茎で一つに結び、肌は透き通る白磁のよう。
瞳は海の底のように深い碧色。
優しい音楽のように届く声色。


映像で、肖像で、
数えきれないほど見ていたひとが実像となって、私を見つめていた。





「ーー」

「疑問はたくさんあるだろうけどーーティアリア、今いちばん大事なのはきみのこと。
来ちゃダメとか言いながら連れて来ちゃったし。どうせだからのんびりしよう。
疲れちゃうのはダメだから、…とりあえず色んなこと今は、閉まっておこうね。」



自然とうなずいていた。


夢で聴いていた声。

言葉に魔法を乗せてるみたいに、紡がれる。


発せられるひとつひとつがやわく心地の良い音色で、流れ込んでくる。





「…ティリスさま、」

「うん?」

「……わたしを、……ゆるしてくださいますか……?」



過ちを白日に晒して、



「きみがそう望むなら。」



過ちを認めることを。








「起き上がれる?散歩しながら話そ。
誰かと会話するのは久しぶりだから楽しみにしてたんだ。ティアリアの話を聴かせて。

……いっぱい話そう?」




穏やかな笑顔に誘われ外に出れば、辺りは花で埋め尽くされていた。
真っ白な空間に、彩る花が無数に咲いている。
遥か昔に種子ごと途絶え、なぜか魔法でも再現コピーできない世界から失くなってしまったはずのエタリナの花が。


始祖様の世界にだけ、存在している。


「…俺のものだから」


眺めていると少し気まずそうに言って、「ぜんぶ埋めたいんだけどね、広すぎてたぶん半分もできてない」行こう、と私の手を取った。

建物を振り返ると、広い室内だったはずなのに見た目は今にも崩れてしまいそうな小さな小屋だった。











ここでは、時間が無限のような錯覚になる。

色んな話をした。
家のこと。家族のこと。世界のこと。
どう過ごしてきたか。どう生きてきたか。
私には時間の感覚はなかったけれど始祖様にはあるようで、「夜だから寝るよ」「朝だよ」と、都度教えてくれた。



どんな話もほんとうに楽しそうに聴いてくれた。
核心に、触れてくることもなく。


やがて語ることも尽きかけて、

私がそれについて話し始めたのはずいぶんあと。




自分の心の内がわを。晒けだすのは怖い。
がっかりされるのが怖いし、幻滅されるのが怖い。



「ーー…こんな風に話ができていたら、違う選択肢を選べたのかもしれません」



結局私は、誰とも話などしていなかった。
諦めてしまった。そのほうが、楽だから。



「思うんだけど。」まるで花畑のような場所で、始祖様は幼い子どものように膝を抱えて座っている。


「何がそんなにいけないの?きみたち、そんなにいけないことした?」

「、私は責任を、」

「うん、まぁそれはそうかもしれないけど…そもそも原因はでしょ。アレを子孫きみにぶん投げたの俺だし。責任論なら俺のほうが謝らなきゃいけないよねえ」

「それは、……そう、……なんでしょうか……?」

「でしょ。…ごめんね正直それどころじゃなかったしどうでもよかったし、だって勘違いして引き摺られるくらいの子なら対処できるだろうと思って」

「引き摺られる…?」

「アレが頼りにしてたのは俺の魔力だったからね。それだって与えたモノじゃないし奪ったモノだ。
…俺からじゃなく。」

「…」

「元々成功しないはずだったのにあそこまで成長できたとかほんと気持ち悪い…。
出てこれたのはきみに引き摺られたんだよ。
きみは俺にすごく似ているから。」


たしかに私たちは、ほとんどおなじ色を持っている。そういった意味では似ていると言えなくもない。
魔力は、…どうだろう。似ているような気もする。
ーーもっとも大半失くした今ではあくまでも気がする、と曖昧にしか感じられないのだけれど。


血を受け継いでいるのだから過去、白銀に碧始祖様の色を持つ者は直系にいた。けれど始祖様が言うならーー


「そこまで、似ているのですか?」

「片割れみたいだよ」


王国では双子は吉兆の証だといわれている。天からのご褒美だと。

ーーそんな風に、思ってもらえたなんて。
烏滸がましいけれど、とても嬉しい。


そっくりな碧色に笑いかければおなじように返してくれたあと、眉尻がそっと下がった。


「ーー嫌な役目を押しつけちゃってごめん。そのせいでゴタゴタしてなったんでしょ?……ごめんね、ティアリア」

「私が選んだことです」




「お詫び、というのもなんだけど。
、戻せるとしたら……どうする?」

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