上 下
24 / 35

未練

しおりを挟む



再構築。


それは一方だけが思っていても叶わない。
俺だけが、思っていても。


テーブルに積み重なる何通目かの断りの手紙に、何度も思った事を思う。




 


「今日もフラれたのか」

「…アシュトン」

「執務はーー…終わってるんだな」

「何かやってないとティアの事ばかり考える。…おかげで捗るよ」

「ふうん。俺としては助かるけど」

「そーかよ」


「…で?また駄目だったのか?」眼鏡の奥の揶揄うような琥珀にうんざりしながら起き上がる。身体が痛い。


「楽しむなよ…挫けそうなんだぞこっちは」

「じゃあ諦めるのか」

「…いや、」

「学園では話すんだろう?」

「……に、挨拶はしてくれるよ」


他人行儀で、礼儀正しい仕草で。


会話はクラスメイトとして当たり障りのないものだけ。
昼食ランチに誘っても断られる。正確にはティアの困り顔に耐えられなくなる俺が引いてしまう。
それでも何度かは一緒にとる事ができた。
…二人きりではなく、皆を交えてだが。


離れたところにいる彼女を見つめながら、物理的なだけじゃない距離を思い知る。







ーーティアが学園に復帰してしたばかりのころは、噂がまだ勢いよく飛び交っていた。
いつだったか、呼び出されたと知って追いかけた事があった。



『ーー…私が至らない未熟者だっただけです。
貴族令嬢としての価値もないに等しく、皆さまの懸念するような事態にはならないでしょう。
私は今後一切王太子殿下と関わるつもりはありません。』



打ちのめされた。
聞こえてきた凛とした声に、改めて現実を突きつけられた。
建物の陰で盗み聞きのかたちで、情けなく立ち尽くす自分が惨めだった。


そうして皮肉にもその絶縁宣言が、噂の火消しに役立った。


俺の助けなんて必要なく、ティアはまた一人で解決した。

ティアはもう一人で、立っていた。







「……笑顔が見たいんだ、俺は」

「笑ってただろ」

「友人たちの前ではな。…俺の前では、笑ってくれない、…心からは」

「…」

「俺は友だちにもなれない。俺はそんなものになりたいわけじゃない。俺が欲しいのはーー」







手に入らないから求めるのか
手に入れてたから求めるのか


たぶんどちらも正解で、どちらも間違っている。


だから足掻くのを止めない。


困らせていると分かっていても、


もう一度きみに、触れたいんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します

シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。 両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。 その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

愛されない花嫁はいなくなりました。

豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。 侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。 ……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。

私はあなたの何番目ですか?

ましろ
恋愛
医療魔法士ルシアの恋人セシリオは王女の専属護衛騎士。王女はひと月後には隣国の王子のもとへ嫁ぐ。無事輿入れが終わったら結婚しようと約束していた。 しかし、隣国の情勢不安が騒がれだした。不安に怯える王女は、セシリオに1年だけ一緒に来てほしいと懇願した。 基本ご都合主義。R15は保険です。

[完結]愛していたのは過去の事

シマ
恋愛
「婚約破棄ですか?もう、一年前に済んでおります」 私には婚約者がいました。政略的な親が決めた婚約でしたが、彼の事を愛していました。 そう、あの時までは 腐った心根の女の話は聞かないと言われて人を突き飛ばしておいて今更、結婚式の話とは 貴方、馬鹿ですか? 流行りの婚約破棄に乗ってみた。 短いです。

もう彼女でいいじゃないですか

キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。 常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。 幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。 だからわたしは行動する。 わたしから婚約者を自由にするために。 わたしが自由を手にするために。 残酷な表現はありませんが、 性的なワードが幾つが出てきます。 苦手な方は回れ右をお願いします。 小説家になろうさんの方では ifストーリーを投稿しております。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

愛を語れない関係【完結】

迷い人
恋愛
 婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。  そして、時が戻った。  だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

処理中です...