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表裏一体

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『ーー…以上、くり返すが今は何も決定はせぬ。
原因究明が最も優先される。
我々は見極める必要がある。』



一部の貴族が強行して開かれた議会は予想通りの終わりをみせた。
発露と牽制の場には多少なっただろう。

陛下のお言葉で少しは大人しくなってくれればいいと。



ーー現状維持。


それがまだ暫く続くと思っていた、が。



新しい噂で今は持ちきりだ。






「…」


王太子執務室の窓から見える庭園。
あの下品な口から吐き出される声など聞こえるはずもないが、聞こえなくても耳障りだとわかってしまうのは何故だろう。
後ろ姿しか見えない男はよく耐えていると思う。



ーー議会後からレオは時間があれば皇女のそばにいる。
仕掛けた罠とは別に自ら囮になり、自身をエサにして。

ブライスと必死に止めたが無駄だった。


目覚める前にというが。目覚めていないからこそ良くないというのに聞きやしねえ。



『後悔するぞ』

『……とっくにしてる』



そして何より。


そのおかげでひとつ確信を掴めた事実が歯痒い。


皇女はやはり魔力持ちで、それを何らかの方法で隠している。
隠せている、が正しいかもしれない。


レオは魔力が少ない。ほぼ無いと言ってもいい。


魔力に適応していない者は善となる魔法なら影響は受けないがそうでない魔法は違う。
レオはティアリア嬢の魔力を込めた魔石ネックレスを身につけているが、皇女と会う時はそれを外している。


初日だ。

レオが、そう決めて初めて自分から会いに行った初日に。


ティアリア嬢の侍女が言っていたような、幽かな魔力を、ブライスが視た。
隣に座るレオがいるのに向かいに座った皇女は気づきもしなかったそうだ。

ブライス曰く、"盛った動物"のように興奮していたから。

引き留める皇女を無視しすぐ退出したがレオは倒れる寸前。だが調べる間は意識を保っていた。

結果残滓が確認できた。


国内の魔力持ち誰のものでもない魔力。
皇女が連れてきた護衛、侍女、その他ーーあの医術師のものでもない、魔力。

わずかな放出だったため種類特定までには至らなかったが、レオが影響を受けたならば善ではない。
王太子への他害行為。
証言者は二人に増え、証拠もある。陛下は断定した。

皇女を受け入れる際取り決めた内容に、
"虚偽申告が有った場合即送還、優遇措置の取消、王国法に則り処罰対象、となる。このいずれか、もしくはすべてに該当する。"との文言がある。

帝国側は皇女に魔力があるとは言っていないが、ないとも言っていない。つまり、虚偽。
少々強引な論理だが此方の思惑を利用する。
たとえ帝国が知らなかったとしても、通用しない。


尋問の上結果に関わらず送還し、入国禁止の措置が取られるはずだった。



「…馬鹿が、」



レオが反対した。

尋問しても真実は話さない。
ティアリア嬢への攻撃も認めさせる。
時間が欲しい、と。

素質があっても訓練を積んだ優秀な使い手でも、狡猾な悪意に晒されれば魔力暴走は引き起こされる。
防ぎようがないことがある。

その場合本人に非はないこと。

同じ事が起きないとは限らない。
そのために確実な証拠と手段がわかれば今後の対策や教育に生かされる。


だから時間が欲しいと、陛下に頭を下げた。


陛下はもちろん却下したがーー。


どのみち書簡の往復だけで10日はかかる。多く見積もっても二週間。
情けで面目を立たすため帝国の言い訳を聞いたあと尋問する予定だったため、それまでならいいのではと宰相が言い、ーー反対する大臣もいたがーー魔術師団長のリルムンド公爵も協力したいと同意した。




皆ティアリア嬢を想ってのことだ。



レオ。


すべてから守ろうと、もう大丈夫だと、

目覚めた時に、笑ってやりたかったんだろう。
ただ一人の少女の笑顔が見たかったんだろう。


でもその必死さが、悪意を持つ人間にはどう映るか。
お前の善意が、尊いものだと知らない人間にはどう映っているか。




完璧じゃなくたってお前がそばにいるだけで、彼女はいつも笑っていたのに。






悪意が広まりきった最悪のタイミングで、ティアリア嬢は目覚めた。
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