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場外R.ローリー③
しおりを挟む返事がない。ほんとに寝てるのかも、
「…」
ーーイヤ、それはない、かな。
とすりとベッドに腰かければ、案の定隠れている身体が反応した。
「ミア…?」
殊更やさしい声色を意識して呼びかける。
「…………誰にも聞かれたくないの、…………」
泣きそうな声に笑みが深くなる。それを押さえて、わかったよと侍女に下がるよう告げ、扉を閉まるギリギリまで押して戻った。
何度かくり返し名前を呼んで、やっと半分だけ顔を覗かせてくれたかわいい義妹を見つめる。
赤く濡れる目もとを撫でれば、涙がシーツに流れた。
この子の泣き顔を見るたびに込み上げる思いがある。
かわいいと思うし、やさしくして、いつものように甘やかしたいとも思う。
他の奴に泣かされたなんて妬ける。
「…」
それがふつうなのか、自分の感情を処理しきれないことがある。
そのまま髪を梳くように指を通した。
「っ、…わたし、」
「うん」
「…もうやめる…っ」
「うん。何を?」
「うわき、っ、」
「…そう」
「…こんやくもっ」
「そっか」
それは元々そのつもりだったよね?思いながらあえて触れずに黙って見つめた。
籠った声で話しながら、次から次へとこぼれる涙を溜めた空色の瞳が見上げてくる。
かわいい。かわいくてたまらない。
どうしても頬が緩んでしまい、それが不服だというようにミアはわずかに眉根を寄せる。
余計深く滲む。
かわいいミア。
ーーいつまで、隠すつもりなのかな。
「…顔見せて、ミア。」
見逃さない。いっしゅんの変化を。
「…ね、?」
「…っ、」
追い詰めても逆効果だってこと、何年もかけて学んだ。
匙加減が必要。
めんどうくさい、この女の子には。
無言の攻防ののち、かき集めたブランケットを寄せながら起き上がったミアが観念したようにそれを下ろして顔を上げた。
「ーー何があったか、話してくれる…?」
手首に痣。くちびるは少し腫れて、端は切れたように赤くなっている。
「…っいやだって、言ったのに、っ」
話の展開次第ではどんな手を使ってもーー。
そう思うのはたしかなのに。
この感情が行き着く先は、きっとロクなもんじゃない。
「…………キスされた…………ッ」
「……ん?」
「トーリッ…ぜったい別れないって、…最低…っ」
「そうか、それは、……怖かったね」
たいしたことない、と思うけどたぶん違うんだろうな。言いたいけど止めとこう。
そうだな、意外と純粋培養なこの子にはショックが大きすぎるんだ。
ちょっとほっとしてる。それも言わないでおこう。
「だから自分で擦っちゃったの?そんなに赤くなるまで。痛かったでしょ、手首も」
「…だって気持ち悪かったしっ…痛みなんてそのうち消える…でも感触は消えない、…拭っても、拭っても…っ」
またそうしようとする手を掴み、持ち上げて触れる。やさしく。
上目で見やれば、ぽかんと呆けたような顔をしてるから思わず吹きだしてしまった。ひどい!と怒るからごめんねともう一度、今度は目を合わせたまま。
「…顔赤いね」
「っ」
「涙も止まった」
それは残念だけど、かわいいからいーや。
「……上書きしようね、ミア」
反応を見て、上手くやらなきゃね、トーリ。
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