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8羽 赤百合と旅蜥蜴と盗賊団

⑯盗賊団との決着

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銀色狼達がそれぞれのパートナーと森の中へ消えて行ってから、ヒューはホイを上手く言いくるめながら荷車の番をしていた。
「ねぇ子熊ちゃん。
本当にその”そらこま何とか”っていう子犬ちゃんのつがいの小娘じゃないとギル兄達を治せないっふか?
オイラ、女は嫌いっふから側に来られるのは嫌だなぁ・・・」
とホイ。
「えっ?そうですね・・・。
僕は薬師ではないので良くわかりませんが、薬の調合はやはり空駒鳥さんでないと難しいのではないでしょうか?
でも完成した薬が飲み薬なら空駒鳥さんじゃなくても飲ませられると思うので、僕が空駒鳥さんから受け取りをしますからホイさんがお頭へ飲ませてあげたらいかがでしょう?」
「わっふ!
それなら女の側に寄らなくて済むっふ!
ありがとう子熊ちゃん!
ふっふ~ん♥
ギル兄、後でオイラが口移しでお薬を飲ませてあげるっふからね~♡」
ホイはそう言うとギルロイに膝枕したままその口に人差し指を当てて頬を染めた。
ヒューはその様子を見て苦笑いしつつ、先程メアリから受け取ったバスケットを取り出し言った。
「ホイさん。
さっきメアリさんから差し入れでお菓子を頂いたんですよ。
待っている間にどうぞ。」
そう言ってバスケットの蓋を開けると沢山の菓子が入っていた。
ほわわん・・・と甘い香りが荷車の中に立ち込め、ホイはそれを一個手に取り鼻をふんふんとさせた。
「むふー・・・女からの差し入れってのは引っかかるけど、凄くいい匂いっふ・・・。
真ん中に穴のないドーナツみたいっふね?」
「えぇ、そうですね!
これはボラント名物のポンチキという揚げ菓子だそうですよ?
生憎と僕は甘い物は余り得意じゃないので、ホイさんが全部食べちゃってください。」
「確かに子熊ちゃん、甘いもの好きな熊みたいな見た目なのに、甘い物殆ど食べないもんね。
それにしてもポンチキ・・・じゅるっ・・・。
深夜にこんな油物を食べちゃっていいのかなって背徳感はあるっふけど、この甘~い誘惑には抗えないっふよね・・・♥
それじゃ遠慮なくいただきまっふ~♡」
そう言ってホイはポンチキを食べ始めた。
「むふーーー甘々ホクホクで美味しーーー♥
これ何?
中にジャムみたいなのが入ってるっふけど・・・」
とホイはかじったポンチキの中から出てきた、赤みがかったオレンジ色をしたとろみのある部分を指差した。
「あぁ、それは多分ローズジャムですね。
紅茶に入れたりスコーンに添えたりして、主に上流階級の方が好んで食べられますよ。」
「ふーん?
子熊ちゃん甘い物食べないし物乞いやってたんでしょ?
それなのに良く上流階級とかって知ってたっふね?」
とホイに突っ込まれたヒューは、
「えぇまぁ・・・ユーリくんから訊いて・・・」
と曖昧に返事をしつつ頭の中で補足した。
(ローズジャムはリリアナ様がお好きだから、リリアナ様がエングリアにいらっしゃる時には必ずユーリ様が手作りされていて、僕もお屋敷の薔薇園からジャムに使う薔薇を集めるのを手伝ったりしていたからな・・・。)
「そうっふか!
そういえば子蜥蜴ちゃんって元々貴族だったんだもんね!
ん~~~上品な甘さで何個でもペロッといけちゃうっふ♥」
「それは良かったです!」
ヒューはにこにことそう答えながら心の中でメアリに頭を下げた。
(メアリさんありがとうございます!
これで暫くは時間が稼げそうだ・・・。
そういえばメアリさんに、
「このポンチキには空駒鳥さんに渡されたが入ってるんで、絶対にヒューさんは食べちゃだめだべよ!」
って言われたけど、何か毒でも入っているのかな?
そんなふうには見えないけど・・・)
「それにしても準備っていつまでかかってるっふか?」
ホイがポンチキをはむはむ食べながら不満を零した。
「あはは・・・何せ団員全員分の薬を用意しなければなりませんからね。
時間がかかるのは仕方が無いかと思いますよ?」
(空駒鳥さんが神秘の薬の力の発動するには、銀色狼さんと二人きりで集中する時間が必要だって銀色狼さんが言ってたからな。
今頃二人並んで座禅でも組んでるんだろうか?
良いなぁ・・・僕もあんな可愛い彼女が欲しい・・・。
でも僕、マッチョ過ぎるからって女の子にはいつも嫌煙されるし、今までの人生で一度も彼女が居たことがないんだよな。
それなのに何故かホイを始めとした男色家には都度都度言い寄られるし・・・。
僕って何かそんなフェロモンでも出ているんだろうか?
普通に女の子がいいんだけどな・・・トホホ・・・。)
ヒューが肩を落としてホイに背を向け1人ため息をついていると、背後からホイとは違う人物の低くかすれた声が聴こえてきた。
「っ・・・頭痛てぇ・・・
おい・・・今はどういう状況だ・・・」
ヒューがその声に反応してバッ!と後ろを振り返ると、ホイに膝枕されているギルロイの目がしっかりと開いていた。
「あっ!良かった!ギル兄!
気がついたっふね!
ギル兄、チーロに治療に行く前にすっごい熱で部屋の前で倒れたって子犬ちゃんが言ってたっふから、オイラが抱っこして荷車まで運んだっふよ?
そんで今は子犬ちゃんの力で空を飛んでチーロに着いて、空なんとかって女の治療の準備が終わるのを待ってるところっふ。」
ホイが嬉しそうに声を弾ませて、ギルロイにそう現状説明をした。
「そうか、ここはチーロか・・・・・。
つーかホイ、銀色狼の野郎に騙されてんじゃねーぞ・・・。
俺は銀色狼、あいつに鳩尾みぞおちをやられて気絶させられたんだよ・・・!
ヒュー・・・てめぇもグルだよな?」
ヒューは冷や汗を垂らすとすぐさま荷車を飛び出し、外で待機していたロバート達に向かって叫んだ。
「ギルロイの意識が戻りました!
危険ですので皆ここを離れて!
僕が何とか奴らを引き付けますから!」
ロバート達はヒューの言葉に頷くと、
「わかりました!
皆で手分けして銀色狼さん達を呼んで参ります!」
と言って村広場から走り去った。
村広場に1人となったヒューは、スウッと深呼吸をすると、いつ戦闘が開始しても対応出来るようにと荷車に向かって身構えた。

その頃荷車の中では─。
「ちっ・・・身動きが取れねぇと思ったら縛られてやがる・・・
これをやったのも銀色狼だな?」
ギルロイが後ろ手に閂縛りされた腕を見て舌打ちしながらホイに尋ねた。
「えっ?
う、うん・・・そうっふけど・・・。
子犬ちゃんがチーロまで空を飛んで荷車を運ぶ時に揺れるから危なくないようにって・・・。」
ホイは少しオロオロしつつそう答えた。
ギルロイは悔しそうにギリギリと歯をすり潰しながら目を鋭く尖らせた。
「あの野郎あの野郎あの野郎・・・!
っ・・・まだ熱があるのかフラフラしやがる・・・
ホイ・・・まず俺の縄を解け!」
「わ、わかったっふ!」
そう命じられたものの不器用なホイには縄を解くことは難しかったようで、結局その怪力でブチッと縄を引き千切ることでギルロイを開放した。
「他の皆の縄も千切るっふか?」
とホイ。
「いや・・・今はまだいい・・・。
どうせどいつもこいつも高熱で役に立たねぇからな・・・。
はぁ、はぁ・・・いいかホイ・・・。
銀色狼は大嘘つきのスパイ野郎だ・・・。
最初から手下になる気なんぞさらさらなかったんだよ・・・。
金獅子もユーリもヒューも奴の仲間だ・・・。」
ギルロイがしんどそうにしながらも、低く押し殺したたっぷりと恨みを込めた声でホイにそう説明をした。
「えっ・・・そんなまさか!
子犬ちゃんも子猫ちゃんも子熊ちゃんも子蜥蜴ちゃんも、みんな可愛くていい子だったっふし・・・ギル兄の考え過ぎじゃないっふか?」
とホイが汗を飛ばした。
「てめぇはさっき俺が目覚めたと知ったときにヒューが取った行動を見てなかったのか!?
奴等は俺達の団に入り込み、信頼を得て油断させたところで晩飯に何かを仕込みやがったんだよ・・・!
今思えば銀色狼と金獅子の最初の夜伽の晩から、急にお前が去勢したみてぇに大人しくなったのも、きっと銀色狼達が何かを盛りやがったに違いねぇ・・・。
このままじゃ俺等全員教会に突き出されて投獄されるぜ・・・?
そしたら俺達の自由気ままなハッピーライフの夢も終わりだ。
いいか・・・ホイ・・・お前だけが頼りなんだ・・・。
今から外へ出て、男は銀色狼始め全員殺し、若い女だけを残せ・・・!
銀色狼のつがいの嬢ちゃんを脅せば俺等全員解毒してくれるだろうし、俺はつがいの決まり事なんぞにゃ詳しくねーが、パートナーの銀色狼が死にゃあつがいは無効になるだろ?
そしたら嬢ちゃんは女神の加護の消えたただの女だ。
他の女同様に輪姦して売り飛ばしてやんぜ・・・。
銀色狼の野郎は魂の状態になってその様子を悔しそうに指咥えて眺めてりゃいいさ・・・。」
ギルロイはそう言って無精髭を撫でながらニヤリと口角を上げた。
「んー・・・でもでもぉ・・・
折角手に入れたペット達を殺しちゃうのはなぁ・・・。
全員二度と悪さしないように首輪を付けて徹底的にオイラが管理し、毎日うーんとエッチなお仕置きするんじゃ駄目っふか?」
とホイが眉を寄せながら言った。
「駄目だ!
裏切り者は絶対に生かしておけねぇ・・・。
それが我がギルロイ盗賊団の鉄の掟だ!
その代わり、これからは俺がペットの代わりにお前に抱かれてやるよ・・・。
お前にとっちゃ俺は、アイツらよりも極上なご褒美なんだろう・・・?」
ギルロイはヒクヒクと頬を引き攣らせながらもホイを誘うように熱で汗ばむ胸元をはだけてみせた。
「ほ、ホントに!?ギル兄!?」
顔を真っ赤に染めてむふーーー!!と激しく鼻息をつく大興奮のホイ。
「あぁ・・・・・今の俺の頼みをちゃんと訊いてくれたらな。
・・・だからやってくれるよな?
ホイ。」
「うん!うん!
ギル兄がオイラの恋人になってくれるならもうペットなんて要らないっふ!
躊躇なく殺しちゃうっふ!
全部オイラに任せて!」
そう言ってホイはポキッポキッと指を鳴らして立ち上がった。
「頼もしいぜホイ・・・。
そうこなくっちゃな・・・。
しんどいが俺も一緒に外に行くぜ・・・。
まずは嬢ちゃんを脅すのに、武器になりそうなもんを村ん中適当に探してくるぜ・・・。
その後はペット相手にお前が土壇場で手心を加えないようにしっかりと見張って・・・」
ギルロイがそう言って立ち上がろうとしたが、高熱のためふらついてしまう。
それを支えようと慌ててホイが慌てて駆け寄った。
「ギル兄!
肩を貸すっふ!」
するとホイの背後に静かに佇んでいたライキのシャドウクローンに気がついたギルロイが、ギョッとして目を見開き短く叫んだ。
「銀色狼!!?」
ホイはその声に反応して背後を振り返り、それを凝視し首を傾げた。
「確かに子犬ちゃんに似た形してるっふけど、真っ黒で顔とか何も無いっふよ?
何だろこれ・・・?」
「気色悪りぃな・・・消えろ!」
ギルロイがそう言ってシャドウクローンを殴りつけると、ボフッと音を立てて消えてしまった。
「何だ・・・?
監視目的の奴の魔法か何かか・・・?
消えちまったならまぁいい・・・。」
ギルロイは暫くは訝しげにシャドウクローンのあった場所を睨んでいたが、特に危険はないと判断したらしく、話題を元に戻した。
「・・・兎も角だ。
予定とは随分状況が違っちまったが、最初の目的地だったチーロについた事には変わりねぇんだ・・・。
今からチーロ占領作戦開始と行くぜ・・・!
いいか?
くれぐれも元ペットが相手だからって手心は加えるなよ?
特に銀色狼の野郎と恐らく金獅子の野郎も、お前ほどじゃないが人並み外れて強えぇからな・・・。
油断してると返り討ちに合うぜ?
俺が欲しいのなら最初から全力出して行け・・・!!」
ギルロイはそう言うと鞭打つようにホイの背中をバシッ!と叩いた。
「わかったっふ!
まずは外にいる子熊ちゃんを捻り潰してあげなくちゃ・・・♥」
ホイはそう言うと荷車の扉に手をかけるのだった。 

二人揃って絶頂に達して空に昇り、荷車に付けていたシャドウクローンが消されたことに気がついた銀色狼と空駒鳥のつがいは、荷車に向かい全速力で森の中を駆けていた。
やはり短距離ではリーネのほうが早く、ライキは2~3m遅れて彼女の後を追っていたが、荷車まで瞬間移動出来そうな距離に差し掛かったところで、村の方から駆けてきたメアリとカメラマンのフレッドと合流した。
「銀色狼さ~ん!空駒鳥さ~ん!」
と手を振るメアリ。
「はあっ、はあっ、さっきギルロイが目を覚まして、今・・・ヒューさんが一人で戦ってるよ!」
息を切らしたフレッドが言った。
「そうですか!
報告ありがとうございます!
この距離なら俺の瞬間移動が使えますのでリーネと一緒にすぐ村広場に向かいます!
リーネ、手を繋いで!
お二人は巻き添えにならないよう村広場から離れた所で待機していて下さい!」
「んだ!」
「あ、あぁ、わかったよ!」
メアリとフレッドは同時に頷くが、メアリがリーネに伝えたいことを思い出したのか、ライキが瞬間移動を発動する前に慌てて話かけた。
「あっ、空駒鳥さん!ポンチキ!
例のジャムを使ってホイさんに差し入れしといただよ!」
「メアリさん!
ありがとうございます!」
「ジャム・・・?ポン・・・?
何だって?」
とライキは首を傾げた。
「あ、えっと・・・詳しくは後で説明するから今はとにかく急ごっ!」
とリーネが言った。
「あぁ!行くぞ!」
ライキは頷くとリーネと繋いだ手にギュッと力を込めて集中した!

─瞬間移動!─

瞬く間に村広場へと移動したライキとリーネだったが、その時まさに、ヒューがホイによる攻撃を真正面から受けようとしているところだった!
(まずい・・・!
いくらAランク冒険者のヒューさんでも、奴の拳をまともに食らえば、神秘の薬の力を使ったリーネでも回復出来ないレベルで食らった箇所を破壊されかねないぞ!)
ライキはリーネに、
「ヒューさんを助けに行く!
リーネはここから動かないでくれ!」
と短く言い残すと続け様に瞬間移動を使い、今度はヒューの側に現れるとその腕を素早く掴んでまた瞬間移動を使い、ホイから充分に距離を取った所へヒューと共に着地した。
ホイの拳は行き場を無くしてブンッ!と大きく音を立てた。
「ヒューさん!無事ですか!?」
とライキ。
「銀色狼さん!
は、はい・・・!
今のはちょっとかわせそうもなくて焦っていたので助かりました!」
ライキは改めてヒューの様子を目で確認するが、大きな負傷などはなさそうだったので安堵しホッとため息をついた。
ライキは続けて戦況を把握するため村広場を見渡した。
突然のライキの参入にホイが、
「子犬ちゃん・・・やっぱり裏切り者だったっふね?
君・・・人懐っこくて可愛かったから残念っふけど、ギル兄の期待に応えられればオイラのものになってくれるっていうっふから、子熊ちゃんと一緒に死んでねぇ・・・!」
等と言いながらポキポキ腕を鳴らしながら近づいて来ていたが、そのホイと一緒に広場へ出てきた筈のギルロイの姿が何処にも見当たらないことにライキは不安を覚え、ホイの攻撃に対応出来るように身構えつつもヒューに尋ねた。
「ヒューさん!ギルロイは?」
「それが・・・奴はホイと一緒に荷車から出てきたんですが、僕がホイとの戦闘に必死になっている間にいつの間にか居なくなってたんです・・・。
でも相当ふらついてましたし、村人もロバートさん達が事前に森の中へ避難させていますから、人に危害を加えることは出来ないはずですが・・・。」
(ということはリーネを脅して薬を作らせる為に、何か武器になりそうなものでも探しに行ったか・・・?)
ライキがリーネを振り返ると、リーネは先程ライキと共に着地した地点で心配そうに眉を寄せ、こちらの様子を時々伺いつつも何かの薬の調合を始めていた。
リーネの無事な様子にひとまずホッと胸を撫で下ろすライキ。
(熱のあるフラフラのギルロイでも、武器があればその脅威度は変わって来るし、リーネをあそこに1人で置いておくのは心配だ・・・。
かといってホイの相手をしながらではとてもリーネを守りきれないし、俺の側に置くのはもっと危険だ・・・。)
ライキの頬に冷や汗が伝う。
(落ち着け・・・
リーネにはフェリシア様のお守りがあるから、仮にギルロイが俺の目を盗んでリーネを脅しに来ても、身体に触れることは出来ない筈だ・・・。
だがこの妙な不安は何だ・・・!?)
ライキがそんなことを考えているうちにホイはまた鋭いパンチを繰り出して来た!
「子犬ちゃん!潰れちゃえーーー!」
ライキはそれをギリギリで躱すと、アイテムボックスから銀色狼の剣を取り出し、鞘から抜こうと手にかけた。
(逃げてばかりでは埒が明かない。
反撃をしないと・・・。
でももし銀色狼の剣を折られたら?
かといって格闘家でも無い俺は、ホイ相手に素手ではまるで歯が立たないだろう・・・。
剣を折られずに、尚且つホイの人としての生活を脅かせ過ぎずに狙えそうな部位が何処かに無いか!?)
そんなライキの心の葛藤に気が付いたのか、ヒューが声を上げた。
「銀色狼さん!
ホイの皮膚は硬く、おそらくどんな武器も通用しないでしょう!
でも僕、奴と少しやり合ってみてわかった事があるんです!」
ヒューはライキが躱したことで勢いを失い、その場に留まっていたホイの腕をぐっと掴むと、サッと姿勢を屈めてその巨体を背中で持ち上げ、勢い良く投げ飛ばした!
ホイの巨体は緩やかな放物線ほうぶつせんを描いて宙を舞い、5メートルほど先にあった太い木の幹にぶつかってドシン!と音を立て落ちた。
(おおっ!
すげーぞヒューさん!)
「・・・この通り、奴に対して投げ技は割と有効なんです!
巨体なぶん全身に受ける衝撃が強く、皮膚がなまじ硬いため、その衝撃を上手く吸収分散出来ないのでしょう。
でもとんでもなくタフな奴なので、少し休むとすぐに起き上がってきて来ますけどね・・・。
でもこうして奴が動けないうちに、もう一撃加えることが出来ます・・・!」
ヒューはそう言うと、まだ衝撃で目を回しているホイの元に駆けてホイの胸に両手のひらを当てると、何らかのエネルギー波を放った!
そのエネルギー波は暗闇の中でピカッと光り、ライキやリーネにも視認することが出来た。
ホイは、
「ぐわっ!」
と小さく呻いて前方向へ項垂れた。
「これは気功という体術の一種で、体の外から内へと気功というエネルギー波を送り込んで爆発させる技なんです。
鎧海老や鋼蜘蛛なんかの硬い敵とやり合う時に有効なのですが、異様に皮膚の硬い奴にももしかしたら有効なのでは?と試してみたらこの通り、ダメージを与えることが出来たんです・・・!
だから奴も完全に無敵ではないということですよ!」
(おおっ!すげー!
成る程・・・。
ホイの身体特性とヒューさんの格闘技の戦闘相性はかなり良いようだな。
だが待てよ?
鎧海老や鋼蜘蛛と攻略法が同じなら・・・)
ライキは何かを閃いて、腰に下げた銀色狼の剣を抜くと、フラフラと起き上がってきたホイの足の関節に軽く剣撃を繰り出してみた!
すると鈍いながらも手応えがあり、その部分に浅く裂傷を与えることに成功した!
「あうっ!」
ホイが膝カックン状態になり小さく悲鳴を洩らしてよろめいた。
(やはりそうか!
鋼蜘蛛同様に関節部分は動く必要があるから他の部位より幾分か皮膚が柔らかいんだ・・・!
それでも普通の人の皮膚よりずっと硬いから、浅くしか斬れないし致命傷も与えられないが、剣が破損するほどでもないし、何度かこれを繰り返せば動きを封じられるかも知れない!)
「流石です銀色狼さん!
僕達で少しずつでも奴の体力を削っていきましょう!
そうすればいつかはきっと勝てます!」
ライキとヒューはホイとの戦いに勝機を見出し、クロス当てを交わすのだった。
「二人共酷いなぁ・・・!
ギル兄には手心を加えるなと言われたっふけど、それでもやっぱりペットだった君達にオイラなりの情があったから、それなりに手加減してあげてたっふよ・・・?
それなのにさっきからチクチク痛いしもう許せないっふ!
はっきりと力の違いをわからせてあげるっふからね・・・!!」
ホイはズモモモモ・・・と怒りを顕にして腕を振り回すのだった。

ホイVSライキ&ヒューの戦闘を見守りつつ薬を調合を続けていたリーネの元に、手を繋いだリリアナとユーリ、そして彼らを呼びに行って合流したらしきロバートの3人が姿を現した。
「リーネ!
ロバートからギルロイが目覚めたって訊いたけど・・・戦況はどうなってるの?」
とリリアナがライキ達が戦っている様子を不安気に見ながら尋ねた。
「リリ様!
ホイさんの相手は今のところライキとヒューさんとで何とかなってるみたいなんだけど・・・」
とリーネが説明しかけると、ユーリの姿に気がついたライキがホイの攻撃を躱しながら叫んだ。
「ユーリくん!
今ギルロイが村をうろついてて危険なんだ!」
「ギルロイが!?」
とユーリ。
それを訊いたリリアナの顔からみるみる血の気が引き、身体が強張りガタガタと震え出した。
ユーリはそれを感じ取ると、そっとリリアナを胸に抱き寄せた。
「多分奴は武器になりそうなものを探してからリーネの所に来て解毒薬を作らせるつもりだ!
だからその前にリリアナ様とロバートさんをここから遠ざけたほうがいい!
でもその途中でギルロイと鉢合わせになったら危険だから、ユーリくんにはお二人の護衛を頼めるか!?
ここは俺とヒューさんとリーネとで引き受けるから!」
「でもホイが相手なのに3人だけで大丈夫なの!?」
と心配そうにユーリが返した。
「あ、あぁ・・・このまま地道にホイの体力を削っていければ多分・・・!
金獅子とモニカさんも今頃駆けつけてくれている筈だし大丈夫だ!」
とライキは瞬間移動でホイの頭突きを躱しながら答えた。
「わかったよ!
二人を避難している村人や他の従者の人達と合流させればいいんだね!
それが終わったら僕も加勢に・・・」
とユーリが言いかけるが、ライキがそれを遮った。
「いや・・・!
そのまま村人やリリアナ様達の護衛をお願いしたい!
夜の森には昼間より強い魔獣も出てくるから!」
「わかった!
リリちゃん、ロバートさん、行こう!」
ユーリはそう言うとリリアナの手を引こうとした。
だがリリアナは足が竦んでいるのかその場から動けないようだった。
「リリちゃん大丈夫!
僕が君とロバートさんを必ず守るから。
大丈夫・・・!」
ユーリはリリアナを安心させようも何度も優しく背中を撫でた。
それでもリリアナのギルロイに対する染み付いた恐怖感は拭えないのか、体の震えと足の竦みが取れないままだった。
「困ったな・・・。
僕じゃまだ体格的にリリちゃんを抱き抱えるのは無理だし・・・
ヒューみたいにもっと筋肉を付けておけば抱えられたかな・・・」
と眉を寄せ冷や汗を垂らすユーリ。
「ユーリ様、大丈夫です!
このロバートがおんぶをしてお嬢様を運びますので・・・。」
「い、嫌よ爺や・・・!
そんな赤ちゃんみたいなことユーリの前でやめて・・・!
あ、足の竦みくらい何ともないわ・・・!」
そう言ってリリアナが無理に走ろうとするが、足が縺れて転びそうになり、それをユーリが優しく受け止めた。
そのやり取りを見ていたリーネが調合する手を止めて、自分の首に下げたフェリシアの守りを外し、リリアナの首にそっとかけた。
リリアナはフェリシアの守りを身に着けたことで安心したのか血の気が戻り、体の震えがぴたっと止まった。
ユーリとロバートはホッとして小さくため息をついた。
「やっぱりこのお守りがあれば大丈夫みたいだね!
騒動が落ち着くまでの間貸してあげるから、リリ様はユーリ様達とすぐに逃げて!」
とリーネが言った。
「で、でも・・・前に貸して貰ったときも私のせいでセディスに持って行かれてしまったのに・・・!」
と涙ぐみながら頭を振るリリアナ。
「あれは気にしなくていいって前に言ったよ?
ファルガー様がドールズから取り返してくれたから、こうしてまたリリ様に貸してあげられるんだもの。
今はリリ様にこそこのお守りが必要だと思うから、遠慮しないで使って欲しいな?」
とリーネは優しく微笑んだ。
「でもそれじゃ貴方が危ないわ・・・!
これからギルロイと対峙するんでしょう!?」
と涙を散らすリリアナ。
「私ならライキが側にいるから大丈夫!
何かあっても必ず私を守ってくれるって信じているから・・・。」
リーネはそう言うと、ホイと戦っているライキに視線を送った。
ライキにはリーネとリリアナの会話が聴こえており、リーネに同意し微笑みながら頷いた。
「わかった・・・。
そういうことならこのペンダント、ありがたく貸してもらうね・・・!
リーネ、ありがとう・・・
必ず無事でいてね・・・!」
「うん!リリ様もありがとう!
また後でね!」
二人は親愛の証に額を重ね合わせた。
「それじゃ行こう・・・!」
ユーリがリリアナの手を引き、ロバートがそれに付き従うようにして3人は広場から走り去って行った。

(さてと・・・これで盗賊たちに使う解毒薬+睡眠薬は完成した!
後はこれをギルロイの分だけ取り分けて、ここから追加でギルロイが二度とリリ様に手出しできないようにするための毒を加える・・・。
でもこの毒は初めて作るし、材料は揃っているけど調合がとても難しいから骨が折れそう・・・。
それまでにライキ達がホイさんを引き付けてくれれば・・・
それにしても、そろそろが出てもおかしくない頃なんだけど・・・あの様子だとまだみたい・・・。
お願い・・・早く効いて・・・!
じゃないと今は何とかホイさんにちくちくダメージを与えつつ凌いでるけど、多分先にライキ達が疲れてきて、どんどん戦況は不利になる・・・。)
リーネがそんなことを思いながらポーチからギルロイ専用毒に必要な材料を出していると、首筋に冷やりとする物が触れた。
リーネが後ろを振り返ろうとすると、低くかすれた男の声が聞こえてきた。
「おっと嬢ちゃん、振り返らない方がいいぜ?
このなたの切っ先がその白く細い首を傷付けちまうからな・・・」
(ギルロイ・・・!)
リーネの背に緊張が走った。
ライキはホイの拳からヒューを守るために瞬間移動を使うので必死で、ギルロイがリーネのところへ現れたことにはまだ気が付いていない。
ギルロイはなたをリーネの首に突き付けたままで言った。
「まずは銀色狼が使った毒の解毒を頼むぜ。
今は気合いで何とか動いちゃいるが、実のところ苦しくてたまらねーんだわ。
苦しむ民を助けるのが嬢ちゃんの役目だろう?」
「・・・・・」
リーネはゴクッと喉を鳴らしつつ思考した。
(ギルロイがリリ様に手出し出来なくするための毒はこれから調合するところだったから当然まだ出来ていない・・・。
でもさっき完成した解毒薬+睡眠薬を先にギルロイに使って眠らせてしまって、後からリリ様に手出し出来なくする毒を追加することは・・・大丈夫・・・成分的に問題はないはず・・・。
でもこの2つを分けて作るなら、追加であれとこれが必要になってくるけど・・・多分ライキのアイテムボックスにある筈・・・。
それなら・・・!)
思考を終えたリーネはギルロイにニコッと微笑んでから言った。
「えぇ、それでしたら既に調合を終えてますよ。
大変でしたね。
実は私も昔、ライキのお料理で同じ毒に侵され苦しんだことがあるんですよ。」
リーネはそう言いながら解毒薬の入ったガラスのカプセルを手に取った。
「へぇ?
嬢ちゃんもかよ。
こりゃあ一体何の毒なんだ?」
ギルロイはまだ鉈を突き付けたままでニヤリと笑いながら尋ねた。
「ブルースライムの毒です。
ハント家の男の人は毒に強いから、ライキは小さい頃からブルースライム入りの料理を食べてきたらしくて、普通の人には有毒とは知らずにアク抜きのお手軽な方法として入れちゃうんですよね。
でもそれ程致死性の高い毒では無いですし、解毒薬無しでも暫くすれば次第に毒は抜けますよ。
何日か高熱が続くのでしんどいですが。
でもこの薬を打てば、すぐに楽になりますからね・・・。」
リーネはそう説明しながらヴェノムクリシュマルドの柄に解毒薬のカプセルをセットした。
「まさかそいつで俺をぶっ刺すのが治療ってわけじゃねぇだろうな?」
とギルロイは警戒を露にした。
「あっ、見慣れない治療法だから怖いですよね・・・。
でも大丈夫ですよ?
ちょっとチクッとしますけど、体の中に直接薬を入れるから、飲み薬よりも即効性があるんです。
だからあの・・・なたを下ろして腕をこちらに向けてもらえますか?」
「・・・・・。」
ギルロイは無言でリーネを睨んだ後、ホイに向けて叫んだ!
「ホイ!!
いつまでペットと遊んでやがる!
手心加えんじゃねぇって言ったろ!?
さっさと本気を出さねーと約束は反故ほごにするぜ!?」
ホイ、ライキ、ヒューの3人がその声にハッとして戦闘を中断しそちらを見た。
「ギル兄!!
ヤダヤダヤダ!
今から本気の本気出すからちゃんと約束守って!!」
ホイは汗を飛ばしてそう返した。
「あぁわかってるさ。
ちゃんと男を皆殺しに出来たら約束は守ってやるって!
あ、その前に、銀色狼でもヒューでもいいから一匹こっちに寄越せ!
この嬢ちゃんの治療に問題がねぇか先に打って確かめさせるからよぉ!」
「うん、ちょっと待ってねぇ?」
ホイはそう言うと近くにいたライキを掴もうとするが、ライキが瞬間移動を使って躱したので、今度は消耗してきて肩で息をしているヒューの元へで走って行き、その胸倉を掴んでギルロイのほうへブンッ!と投げ飛ばした!
ライキは慌ててヒューを助けようとろくに体勢を整える間もなく瞬間移動しようとするが、ホイがライキを阻むように目の前に現れ、その無防備な鳩尾に思い切り拳を沈めた!
「ぐふっ!!」
ライキは腹に受けた衝撃でその場に崩れ膝をついた。
「いやぁーーーー!!ライキ!!」
リーネが叫ぶ。
(くっそ・・・油断した・・・!!
だが・・・おかしいぞ?
いつものホイの拳を食らえばこんな程度では済まず、臓器をぶち撒けて即死してた筈・・・
何だか腹に受けた拳の感触が、ホイの異質な硬さを誇るそれとは違って、まるで普通に殴られた時のようだった・・・
だがまずいぞ・・・・それでも相当効いた・・・・・!
気を失うな・・・気を失ったりしたらリーネがどうなるか・・・・・!
今のリーネにはフェリシア様のお守りだってないんだぞ・・・・・!)
ライキは何とかギリギリで意識を保ち、腹部の痛みに耐えつつ状況を見守った。
ギルロイはホイに投げられてギルロイの間近の地面に叩きつけられたヒューの襟首を掴むと、リーネの目前に差し出し言った。
「まずこいつにそれを打ってみせろ。
下手に薬のすり替えなんか企むなよ?
そしたら銀色狼がどうなるかわかってんだろ?
嬢ちゃん。」
リーネは冷や汗をかき、ライキを心配そうにちらっと見た後、ヒューの腕を取り、ヴェノムクリシュマルドの先端を差し込んだ。
ヒューはスライム毒に侵されてはいなかったために睡眠薬のほうだけが作用したのか、3秒後には深い眠りに落ちてその場に崩れてしまった。
「やっぱり睡眠薬入りかよ!
この嬢ちゃんはやはり信用できねぇ!
ホイ・・・任務内容の変更だ。
この女も殺せ。
男除けのペンダントもねぇから触れるだろ?
本当なら銀色狼の目の前で犯してやりてぇところだが、しんどすぎて流石に今は勃たねぇわ・・・。
ホイ、お前の身体は女にゃ反応しねぇんだろ?」
「うん、1ミリも無理っふね!」
と鼻息をつきながらホイは自信たっぷりに宣言した。
「そんじゃしゃーねー。
殺せ!」
「了解っふ!!」
ホイはそう言うと弾丸のようなスピードでリーネの側まで飛んでいき、その白い首を両手でぐっと掴み、締め上げた!
「・・・・・あっ・・・くっ・・・・・ライ・・・・・キ・・・・・」
リーネの足が宙を掻き、苦しそうに可愛い顔を歪めた。
ライキはまだ腹部に受けたダメージから回復していなかったが、力を振り絞って瞬間移動を使い、リーネの元へと現れた。
そして間髪入れずに銀色狼の剣を抜くと、リーネの首を締めているホイの腕を払った!

ブシャッ!!

ホイの腕が切り裂け血が宙を舞い、リーネの首が解放された!
「ケホッ、ケホッ・・・!
はあっ、はあっ、はあっ・・・」
リーネは地面に膝をついて咳き込んだ。
「うわーーーーーー!!
ち、血!血がこんなに沢山・・・!!!」
ホイは予想外の事態に気が動転して叫び声をあげた。
ライキはリーネを抱きしめると、瞬間移動を使ってホイとギルロイから大きく距離を取った。
「リーネ、大丈夫か!?」
ライキは彼女を抱きしめたままで尋ねた。
「う、うん・・・大丈夫・・・」
彼女の首にはホイに絞められた跡が赤く残ってはいたが、早く助けに入れたためか窒息することもなく無事なようだったので、ライキはホッとしてため息をついた。
「ライキは?
鳩尾みぞおちを殴られてたよね?」
「あぁ・・・もう痛みは収まったから平気だ・・・。
でも殴られたときに思ったんだが、ホイの奴・・・何か弱体化してないか?
俺が鳩尾に食らった一撃も、リーネが首を締められた時も、いつもの奴なら即死だった筈なんだ。」
「そっか・・・!
やっと効き目が出てくれたんだ!
”老化毒”!」
リーネが目を輝かせながらそう言った。
「老化毒?」
「うん!
前にローデリス夫人から依頼された美容薬があったでしょ?
この間あれの強化版の”若返りの薬”をローデリス夫人から依頼されたんだけど、神秘の薬の力が作用しているときに作ったからかちょっと洒落にならない程の効き目になっちゃって、流石にそのまま納品するわけにはいかなかったから、程よく若返り効果が認められる程度に調整するために、その逆の作用のある”老化毒"も作って、その二つを混ぜていい感じに調整したの。
その時の余りの老化毒を何かに使えるかもと思って、この任務の前にポーチに入れておいたことをライキ達がここに来る連絡を受けた時に思い出して、メアリさんにお願いしてホイさんに差し入れするポンチキに、毒入りのローズジャムを使ってもらったの!
ホイさんの異常な皮膚の硬さは多分お肌のハリが極端に強化された状態だと思ったから、それを柔らかくするためには、うんと老化させてお肌のハリを失わさせればいいんじゃないかと思って・・・。
そしたら推測通りだった!
多分今のホイさんは、普通の人と近い状態にまでお肌が柔らかくなってて、皮膚の硬さによる人体強化もなくなっている筈だよ?
だから私達が受けた攻撃の威力が下がってた。
でもこの毒による老化は、基本皮膚にだけに適応されるものだから、腕力や素早さや体力には影響が出ないの。
それと、ホイさんには◆の印による状態異常回復能力があるから、老化毒も永久的な効き目じゃないし、多分1時間程で分解されて元通りになるんじゃないかな?
でも今なら武器も通用するし、剣を折られちゃうこともないと思う!」
リーネが説明し終えると同時に、背後から聞き慣れた少し鼻にかかったキザな声がした。
「フッ、なるほどな。
それなら僕も参戦出来そうだ。」
声の主は案の定金獅子で、背後の木の後ろからその姿を現した。
隣にはモニカもおり、その綺麗な目元は泣いた後なのか少し腫れてはいたが、とても明るくすっきりした表情をしており、二人に向けて会釈をしながら言った。
「遅れてしまって申し訳ございません。
ノックスさんから状況をお訊きしましたが、お二人がご無事でよかったですわ!」
「金獅子!!モニカさん!!」
「金獅子さん!!モニカさん!!」
ライキとリーネが同時に声を上げた。
「ヒューは大丈夫なのか?」
金獅子がホイとギルロイの傍で倒れて寝息を立てているヒューを指差し尋ねた。
「あ・・・ヒューさんは私の解毒薬に疑いを持ったギルロイに言われて解毒薬+睡眠薬を先に打ったから、その効果で寝ちゃってるだけです。
睡眠解除薬を使えばすぐに目覚めますから心配要りませんよ。」
とリーネが説明した。
ライキは頷くと、皆に向けて言った。
「よし・・・!
それじゃあ老化毒が効いている今のうちに俺と金獅子とでホイを倒すぞ!
リーネはモニカさんと一緒にギルロイを警戒しつつ、ヒューさんに睡眠解除薬を使って助けてあげてくれ!」
「「「了解!!」」」
リーネ、レオン、モニカの3人が同時にしっかりと返事をした。

一方でギルロイは腕の出血で取り乱しているホイを呆れたように見ながら怒鳴りつけていた。
「血が出たくらいでいちいち狼狽うろたえてんじゃねー!
情ねぇ野郎だな!
まだ神経は繋がってるんだろ!?
それなら拳を振れるよな!?」
「う、うん・・・そうっふけど・・・ぐすっ・・・痛いよぉ・・・!
何で血が出るのぉ!?
なんか皮膚も昔みたいに柔らかいし・・・
ぐすっ・・・怖いよぉ・・・!
ギル兄~・・・!」
ホイは子供のように鼻水を垂らして泣きじゃくっている。
それを見てギルロイは苛立ちチッ・・・と舌打ちをしたが、これ以上ホイを怒鳴りつけても効果は薄いと判断したのか態度を軟化させ、今度は優しく説き伏せるように話しかけた。
「・・・あぁ・・・そうだろうな。
お前が昔から人一倍血が苦手なのは知ってる。
だがよホイ・・・今はお前だけが頼りなんだ。
頼むよ・・・。
俺のために戦ってくれよ・・・なっ?」
ホイは目をうるうるさせながらズビッと鼻水を啜り上げた。
「ギル兄・・・
う、うん・・・。
オイラ、もう少しだけ頑張ってみるっふ!
だからコイツラ皆殺しにしたら・・・ギル兄・・・約束を果たしてね・・・?」
「わかってるぜ!
俺のケツでも何でも好きなだけくれてやる!!
行けや!!ホイ!!!」
ギルロイはホイの背中を思い切り蹴った!
「ウオォォォォォーーーーー!!!」

ライキとレオンは叫び声を上げながら自分達のほうへと突進してくるホイに気が付くと、互いに合図を送り合い、まずはライキが屈んで銀色狼の剣でその足元を払った!
足払いをまともに受けたホイは前面へ転びそうになるが、その先にはレオンが待ち構えており、チタンソードで下から上へと軌道を描いて上空へと綺麗に払い上げた!
「受け取れ!銀色狼!!」
そのまま宙に舞い上がった巨体の更に上には、銀色狼の剣を頭上で構えたライキが待機しており、
「ハアァァァァァーーー!!!」 
という掛け声と共に、思い切りその剣を振り落とした!
「!!!!!」 
そのまま刃を振り落とせば頭蓋ずがいを破壊しかねないと思ったため、咄嗟に側面打ちに切り替えたライキだったが、流石のホイも頭部に受けた強烈な衝撃には耐えきれなかったようで、その巨体を地面に激しく叩きつけながら、ぶくぶくと泡を吹いて気を失ってしまった。
ホイが銀色狼と金獅子のコンビネーション攻撃であっさりとやられてしまったのを見たギルロイは、顔をみるみると青く染め、何もかも捨て置いて逃げ去ろうと夜の森の中へと走り出した。
しかし、銀色狼が瞬間移動を使って彼の逃げようとした道の先に回り込んで立ちはだかり、更にはヒューへの睡眠解除薬投薬を素早く終えた空駒鳥も超スビードで追いかけてきて、ギルロイは銀色狼と空駒鳥とで挟み打ちされる形となった。
「ぷっ・・・追いかけてきたのが誰かと思えば嬢ちゃんかよ!
流石に銀色狼には敵わねぇが、嬢ちゃんなら俺でも突破できるぜ!?」
ギルロイはリーネを小馬鹿にして鼻で笑い、更に続けた。
「いや・・・待てよ?
嬢ちゃんを人質に取れば銀色狼も金獅子もジャポネのメイドのねーちゃんも誰も手出し出来ねぇよなぁ!?
んじゃ、有り難く人質に取らせて貰うとするか・・・。
さっきは逆上して「殺せ!」なんてホイに命じちまったがよ、よくよく考えりゃあこんな上玉、殺すのは勿体ねぇわ。
嬢ちゃんを人質にして野郎共を取り返したら何処かに潜伏して、嬢ちゃんの解毒薬は信頼出来ねぇから、自然に熱が下がるまで待つぜ・・・。
そうなりゃあ快気祝いに嬢ちゃんの初物の身体をたっぷりと味わうことが出来るしなぁ!?
俺が済んだら野郎共全員に輪姦まわして、頭ん中壊れるまで犯し尽くしてから殺しても遅くは・・・」
ギルロイが最後まで言い終わらないうちに、怒りから額に血管を浮かべたライキがギルロイの首を背後から締め上げながら、とてつもなく冷淡な声で、普段の彼からは想像もつかない荒い言葉を吐いた。
「ペラペラペラペラとうるせぇんだよ・・・
それ以上俺のリーネを言葉でなぶりやがるなら、このまま首の骨をし折ってやってもいいんだぞ・・・・・」
「ライキ、そいつを離して。
私がやる・・・・・
リリ様に一生消えない傷を残す切っ掛けを作ったこの男だけは絶対に許せない・・・。
それに、そいつがはなから舐めてかかってるにやられたほうが、いい薬になるわ・・・。
大丈夫・・・・!
絶対に負けないから。」
目を鋭く光らせたリーネが静かなトーンでそう言った。
「・・・リーネ・・・。
わかった・・・任せる。」
ライキはフッと笑ってそう言うと、ギルロイを開放した。
再び自由になったギルロイは、懲りずにリーネを見下して言った。
「へっ・・・
嬢ちゃん一人で屈強な男共を束ねてきたこの俺に敵うとでも?
それとも熱がある俺が相手なら勝てるってか?
男を舐めてると痛い目に合うぜぇ!!」
ギルロイはそう言うと鉈をリーネ目掛けて振り回した。
リーネは身を屈ませてサッ!とそれを躱すと、ヴェノムクリシュマルドを通常の動体視力の持ち主では見えぬ速さでギルロイの首筋に突き刺した。
無論ライキにはそれが見えていたが、予想を遥かに超える速さに流石の彼も驚き目を見開いた。
ギルロイの首筋に刺さったヴェノムクリシュマルドの透き通る針の中の液体が、ギルロイの身体の中へとどんどん送り込まれていく。
ギルロイはその場に崩れ落ちると、ヒューと同じようにぐー、ぐー、と寝息を立て始めた。
「・・・寝たのか・・・?」
とライキがリーネに尋ねた。
「うん・・・。
ヒューさんと同じ解毒薬+睡眠薬を打ったからね。
後はこれからリリ様に二度と手出しできないように特製の毒を調合して追加で打たなくちゃならないけど・・・。
でもこれで、ひとまず決着がついたね・・・。」
リーネは流石に疲れたのか、へへへっ・・・と乾いた笑いを零しながら地面に腰を落とした。
「あぁ・・・リーネのお蔭だ。
ホイに事前に仕込んでくれていた老化毒が無かったら俺、腹を殴られた時に死んでたし・・・。
最後のギルロイとの一騎打ちも、すげーカッコよかった。
俺が居なくてもいけたかもな?」
ライキはアイテムボックスからロープを出し、テキパキとギルロイを縛りながら自嘲気味に笑った。
「そんなことないよ・・・。
ライキがいてくれたから一騎打ちに挑めたの。
私一人だったら、ギルロイの汚い言葉に怯えて動けなかったたかもしれない・・・。
ライキこそ、金獅子さんとのコンビネーションでホイさんを倒してたの、凄くカッコよかったよ・・・?」
リーネはそう言うと頬を赤く染めた。
「あはは・・・そうかな・・・・・。」
照れくさそうに銀髪を掻きむしるライキ。
「うん・・・・・。
もっともっとライキのこと好きになっちゃった・・・・・♡」
えへへっと可愛らしくはにかむリーネ。
「えっ、マジで?
それならボラントに無事着いて教会に盗賊団を引き渡したら、そのメイド服のままで縛らせてよ♥
それでそろそろリーネのナカに指2本入れてみたい・・・・・。」
ライキは冗談めかしつつ、正直な願望を口にした。
「・・・・・・・・・・
・・・・・・・いいよ・・・。」
暫くの沈黙の後、小さく囁くような声でリーネは答えた。
「えっ!?今いいって言ったよな!?
マジでいいの!?
もう俺期待しちゃってるし、それ楽しみでめっちゃ疲れてるけど残りの任務頑張ろうって気合いが入ったから、土壇場で「やっぱやめとくね!」とか無しな!?」
と汗を飛ばすライキにリーネはクスクスと笑いながら答えた。
「言わないよ!
だってそもそも初めてナカに指入れるってなった時、破瓜はかの血が出ちゃってもいいって覚悟決めてたんだもん・・・!
でもライキ、ずっと入れても指一本で、優しく私のナカを傷付けないようにしてくれてたよね?
だからそんなライキなら・・・もっと激しいことしてもいいかな・・・なんて・・・・・。」
真っ赤になった頭からしゅわしゅわと蒸気を立ち昇らせながら、後半は消えそうな程小さな声でリーネは言った。
「じ、じゃあ・・・尻の穴開発するのもOK・・・!?」
グイッ!と身を乗り出し食い付くライキ。
「それは駄目!!」
即座に全力否定する彼女に対し、拗ねたように唇を尖らせるライキ。
「ちぇっ・・・」
そして二人はそんなやり取りが可笑しくなり、あははははっ!大きな声で笑うのだった。

笑い終えると、ライキはしっかりと縛ったギルロイを背中で抱え、チーロに引き返すべく夜の森の中歩き始めた。
リーネはその横に並んで歩く。
「しかし・・・ギルロイはこのままボラントに連れて行くとして、ホイはどうするかな・・・。
老化毒の効果は一時的なものなんだろう?
このままボラントに連れて行って投獄されても、普段の穏やかな時はいいけどさ、あの並外れた怪力と硬さを持っている以上、キレたら誰にも止められないだろ。」
とライキ。
「うん・・・。
それについては一つ試してみたいことがあるの。
上手くいけばホイさんを普通の人に戻せるかも知れない。」
リーネは真剣な表情でそう言った。
「ホイを普通の人間に?」
「うん・・・。
でもきっとそれは生き物の解体に慣れていて、尚且つ手先の器用なライキにしか出来ないことだと思うの。
協力・・・してくれる?」
彼女の協力要請に、ライキは頷いた。
「うん。
リーネが俺を頼ってくれるなら勿論引き受けるけど・・・一体何をするんだ・・・?」
「ホイさんの◆の印をナイフで取り除いてみるの。
ホイさんの◆印は胸にあるけど、おそらく誰かに無造作にスタンプされたもので、幸い心臓からは少し外れた位置にあるの。
だから丁寧に印を切り取れば、ホイさんの命を奪わずに済むと思う。
そしてホイさんの胸の傷を私の治療で治す。
どうしても傷跡は残ると思うけど、ホイさんは余りそういう事に頓着がなさそうだし、普段の落ち着いたホイさんに事情を話せばわかってくれるんじゃないかな?
そして切り取った◆印はきっと、シルバーファングウルフを倒したあとのように、少しの時間を置いて消える筈だよ。
それで本当に力が失われるのかは賭けだけど・・・。
どう思う?」
「うん・・・
やってみる価値はあると思う。
村に戻ったらすぐにやってみよう。」
リーネの提案にライキは真剣な表情で頷くのだった。
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