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8羽 赤百合と旅蜥蜴と盗賊団
⑬炊事係銀色狼の華麗なる盗賊団壊滅作戦 必殺のスライム入りカレーが火を吹くぞ
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ヒュー救出作戦の翌朝10時─。
ライキは朝食の席で見かけたホイの様子を思い浮かべながらアジトの床を拭いていた。
(あれから一夜明けたが、ホイに使ったあの秘薬はまだ有効みたいだな。
秘薬の効果が切れる前に盗賊団を壊滅させないといけないが、どうしようか?
20名弱の団だし、ホイを除けば武力制圧することも可能だが、この間皆を逃がす時のように、自分では手加減したつもりでもうっかりやり過ぎてしまうかもしれない。
それにホイを怒らせたら俺と金獅子はともかく、ユーリ君とヒューさんにも危険が及ぶかもしれない。
それよりも、日常生活の中で自然に全員を行動不能に追い込むような手段が何かあるといいが・・・)
ライキはそんなことを思いながらバケツに汚れた雑巾を入れて洗い、絞った。
バケツの中の水が黒く濁って汚れてきたので、浄化しようと瓶からブルースライムを取り出して投入していると、丁度自室から出て来たギルロイに気付かれ声をかけられた。
「おい、何だその青くてプルプルしたのは。」
「あ、お頭。
これはブルースライムの欠片です。
こいつは汚水処理に使えるので、この間狩りに出たときに取っておいたんですよ。
更にはこいつが分解した水をこうして拭き掃除に使うと、この通りほら、ピカピカになるんです!」
そう言って拭き掃除を済ませた廊下を指し示すライキ。
(本当はアイテムボックスに入ってたスライムの瓶を出して使ってるだけだけど、ギルロイにはアイテムボックスはリーネが持ってると嘘をついているからな・・・)
するとギルロイはピカピカになった床を見て目を見開き、感激のあまり声を上げた。
「おおっ、マジだ!
すげぇなおい!
それも狩人の知恵ってやつか?」
「あはは、まぁそんなところです。」
「そうかそうか!
お前が来てからこのカビ臭いアジトも随分快適になったし、毎食肉も食えるようになったから感謝してるぜぇ。
金獅子も最初は使える奴かと思ったが、お前と一緒に仕事をしてたからわからなかっただけで、実際はえらく不器用で使えない奴だったんだな。
奴は団員が洗濯に出したパンツを台無しにしてくれたそうじゃねぇか。
幻滅したぜぇ。
本来ならそんな見た目だけの使えない野郎はヒューと同じくホイのペットにするところだが、ホイの奴今日はやけに変でよ。
ずっと賢者モードっつーか、去勢されたみてぇに大人しくて、
「ペットはもういらないっふよ。
鎖に繋いで自由を奪うだなんて今までヒューに可哀想なことしてたっふ。
オイラ、可愛い男の子は皆好きっふけど、まずは普通にお友達になりたいっふよ!」
とか抜かしやがるし、不気味で仕方ねぇわ。
タイミング的に昨夜に何かあったとしか思えねぇが、お前も夜伽でホイの部屋に行ったんだろう?
何か知らねぇか?」
ギルロイは疑いを含んだ眼差しをライキに向けた尋ねた。
「さぁ・・・。
ヒューさんに加えて俺と金獅子の相手もしたから疲れたんじゃないですか?」
ライキは平然とした顔で知らんぷりをした。
「そうかよ!
まぁ3人も相手すりゃあそうかもな。
そいや昨晩はどうだったんだよ?
野郎同士でもイケたのか?」
ギルロイが更にニヤニヤして顔を覗き込んで来た。
ライキはヒュー救出作戦の最後に”ギル兄の代わりなんて誰もなれやしないのに・・・”とホイが呟いていた事を思い出してホイに少し同情し、眉をひそめてからこう返した。
「・・・男同士に興味があるならお頭が相手をしてあげればいいじゃないですか。
ホイさん喜びますよ?」
「あぁん?ちげぇよ。
オレは野郎に掘られるなんぞ冗談じゃねぇ。
ただ銀色狼と金獅子が雌の顔してあんあん喘ぎまくって射精までしたってんなら面白れぇし、野郎共との話のネタになるって思ったから訊いてみただけだ。」
「気持ちの悪い想像させないでくださいよ・・・。
その気のない奴にとっては快楽どころか地獄のような時間でしたよ・・・。
まぁあの様子なら当分呼ばれることもないだろうし、俺はホッとしてますけどね。」
(まぁ金獅子は何故か勃起してたけど・・・一応あいつの名誉のためにそれは言わないでいてやろう・・・。)
ライキはそう思って具体的なことは言わずにそれだけ答えた。
「まぁ確かに、賢者モードのホイのほうがケツの穴に気持ち悪りぃ視線を感じることが無くてオレ的にも安心だわ。
だがそのぶん見て呉れだけの使えない団員の行き場がなくなっちまったがな。
取り敢えずヒューはアジトにいても役に立たねぇから、今日のところはお前の代わりにホイとジャック&サムソンの監視付きで狩りに出してみたが、果たして獲物を狩って来れるかどうか・・・。
まぁ奴が獲物を狩って来ても解体するのは無理だろうから、そっちはお前に任せたぜ?」
「ええ、わかりました。」
ライキは、
(ヒューさんなら毒茸トカゲさえ相手にしなければ、この辺りの魔獣の相手は問題無くこなせるだろう。
その仕事ぶりが評価されれば団員達の彼に対する評価も変わり、待遇も良くなるはずだ。)
と思いながら頷いた。
「そいやもう一人の使えない奴・・・お前の相棒はどうしてる?」
「相棒じゃありません・・・。」
ライキはそう言って小さくため息をついてから答えた。
「金獅子には風呂掃除とトイレ掃除を任せてますよ。」
「おいおい、奴一人で大丈夫かぁ!?
風呂とトイレを壊されたら洒落にならねぇぜ!?」
ギルロイが焦って声を荒らげた。
「えぇ、風呂とトイレの掃除は前に一緒にしたときに一人でも出来そうだと感じたから、任せて大丈夫ですよ。」
(スライ厶の瓶も適量渡してきたし、奴らが分解する対象が無機物ばかりな風呂とトイレだから問題ないだろう。)
とライキは脳内で補足を加えた。
「それならいいんだがよ。
そいや奴が駄目にした団員のパンツはどうするつもりだ?銀色狼よ。
奴ら全員パンツは2~3枚しか持ってねぇらしくてよ。
一枚駄目にされただけでも相当困るって言ってんだわ。
替えが無いってんで昨日と同じのを履いてる野郎もいるしよ・・・。
今日はまだいいが、何日も放置すりゃあ臭ってくるし最悪だぜ!?
だからその前に金獅子に責任取らせて1から新しいものを繕わせたいところだが、あの不器用さじゃ足を入れた途端にビリッといっちまうような頼りねぇパンツが出来上がり兼ねねぇ・・・。
団員の殆どは今あちぃからってアジトの中じゃパンツ一枚で過ごしてるだろ?
だからパンツは奴らのケツを守る最後の砦みてぇなもんなんだ。
ビリッと裂けて汚ねぇケツがこんにちは、なんて事態はゴメンだぜ?
銀色狼、お前奴の相棒なら責任取ってパンツをどうにかしろや。」
とギルロイに無茶振りされたライキは苦笑いして答えた。
「いや、だから別に俺は金獅子の相棒じゃないですけど・・・。
まぁお頭が言うみたいな事態は俺も勘弁願いたいですし、明日一日くれるのなら俺が縫いますよ?」
(そうなると一日部屋に籠もることになるから人目も気にしなくていいし、パンツさえ揃えば文句は言われないだろうから、こっそり抜け出すのも有りだな・・・)
ライキがそんなことを考えながら提案すると、ギルロイは真剣な表情で顎の無精髭を撫で、少しの間何かを考えたのち答えた。
「明日か・・・いや、そうだな・・・。
それはユーリにやらせるから、お前は晩飯を作ってくれ。」
「えっ、俺がですか?」
ライキはギルロイの思わぬ発言に驚き目を軽く見開いた。
「そうだ。
お前にやられた野郎共も回復してきたし、明後日辺りチーロに襲撃をかけようと考えていたんだ。
そこで、その前にいっちょ美味いものを団員に食わせて気合をいれてぇんだがよ。
ユーリが作る飯はどうも上品すぎてつまらねぇ・・・。
銀色狼、お前なら狩人だし、男らしい豪快な料理を知ってるだろ?
明日の晩飯はお前が作ってみろや。
ガツンとワイルドで、男所帯らしい食が進むのを頼むぜ?」
ライキはリーネの特訓のお陰でようやく角イノシシ汁とカレーライスとおにぎりを作れるようになったレベルで、料理に自信など全く無かったが、これはチャンスかもしれないと感じ、ニコッと微笑むとこう返事をした。
「わかりました!
夏に美味い食が進む料理を知っているので、明日の晩、それを皆さんにご馳走します。」
「おう、楽しみにしてるぜぇ!」
ギルロイはライキの背中をバシッ!と叩いてからふんふーん♪と鼻歌交じりに手を振り去って行った。
(・・・奴らをチーロに攻め込まれるわけには決していかない。
それまでにこの団を潰さないと・・・。
その為にもこの食事当番は活用すべきだ。
食事に身体の自由を奪う系の毒を混ぜれば、毒の効かないホイ以外は容易く拘束出来るからな。
そして奴らを盗賊団の馬車に乗せ、ボラントまで俺の移動の力で飛ばせば任務完了だ。
だが肝心な毒はどうする?
・・・リーネに相談してみるか。)
ライキは頭の中のシャドウクローンに意識を集中させ、影を通してリーネに呼びかけてみた。
(リーネ、今話をしても大丈夫か?)
〈あ、ライキ!
今モニカさんと一緒にお世話になってるカーペンターさんの畑の雑草取りをしてるんだけど、お話しながら出来るから大丈夫だよ。
どうしたの?〉
頭の中で愛しの彼女の可愛い声が聞こえてきて、頬が緩み一人”にへらっ”と笑うライキなのだった。
(リーネ、ギルロイは明後日チーロに襲撃をかけるつもりらしい。
だからその前に盗賊団を全員捕らえ、ボラントの教会に付き出さなきゃならないんだけど、幸運にも俺が前日の晩飯を担当することになってさ。
その時に作る料理はカレーライスにしようと思うんだが、それに何か奴らの自由を適度に奪うような毒を混ぜられたら簡単に捕縛出来ていいと思うんだ。
何かいい毒は無いか?)
ライキの問いかけにリーネは答えた。
〈料理に入れても味に影響が出にくい、自由を奪う毒か・・・。
私のポーチには色々と使えそうなものがあるけど、ライキのいるところで確実に手に入る毒がよくわからないから何とも言えないな・・・。
アジト周辺で毒のありそうな植物や生き物に心当たりはない?〉
(あぁ、それなら既にあるぞ!
毒茸トカゲの体内毒と、そいつに生えてた虹色天狗茸!
リーネの薬の材料に使えるかもと思って、解体したときに捨てずにアイテムボックスに保管してあったんだ!)
とライキが心の声を弾ませた。
〈毒茸トカゲ、虹色天狗茸・・・どちらの毒も、毒耐性の高いライキでも罹ってすぐに解毒しないと死ぬかもしれないような猛毒だよ?
相手を殺してしまう危険性が高いし、扱う人も相当危険だからそれはやめておいたほうがいい・・・。
あっ・・・!
ライキには危険が少なくて、扱い慣れてる毒が手元にあるじゃない!〉
リーネは何かを思いついたようで両手のひらをパチンと合わせた。
(俺が扱い慣れてる毒?)
〈そう。
昔、ライキの料理を食べた私がどうなったか覚えてる?
泡を吹いて倒れた後、嘔吐・下痢を繰り返し胃の中の物を全て出し切った後、40度近くまで発熱したわ。
おばあちゃんの解毒薬と適切な処置があったから1日で回復出来たけど、それがなければ3日は寝込んでたと思うの。
解毒薬を使わないと体の中の毒素が完全に分解されるまで時間がかかるから、長い間しんどい思いをすることにはなるけど、健康な人なら死ぬことはない程度のものだし、丁度いいと思う!〉
(ブルースライムか!)
ライキが目の前のブルースライムの瓶を手に取り、心の中で声を上げた。
〈そう!
でも明らかに美味しくなさそうだと食べてもらえないから、見た目は普通に作って、仕上げにスライムを入れるの!
でもスライム毒って即効性があるから、集団に作用させるにはそのままだと不適切かな?〉
とリーネが考え込んで首を傾げる姿が影を通して見えた。
(あぁ、食べた側から倒れてたらまだ口にしていない奴が警戒して食べなくなるからか。)
〈そう。
だから、食事を終えて2~3時間してから効果が出るように、スライム毒の働きを遅らせる無機物を全体に対して3%程混ぜて、一緒に煮込むといいと思う。
使えそうなのだと卵殻の粉末とか骨粉とか・・・。
私が薬の材料に使ってる卵殻粉がライキのアイテムボックスにあるから、それを使うといいよ?
私の素材箱に入ってて、瓶にラベルが付いてるから見たらすぐ分かると思う。〉
(ありがとう。
ありがたく使わせて貰う!
それとリーネ特性のカレールウも使っていいか?
ルウ無しでカレーを作るのは、俺にはまだ出来ないし。)
リーネは笑顔で答えた。
〈いいよ!
遠慮なく使って!
ルウならまた作ればいいから。
あ、でも今回のは神秘の薬の力が働いた毒とは違うから、毒耐性の高いホイさんには効かないだろうけど・・・〉
(そうだな・・・。
ホイは辛口カレーを食べられないだろうから、辛味スパイスを足す前に別の鍋に取り分けて甘口に仕立ててやらないといけないから、どうせ毒は効かないならそっちの鍋にはスライムを入れる必要は無いな。
金獅子も辛いの食えないからそのぶんも一緒に出来るし。
ホイに毒が使えなくても、リーネの秘薬のお蔭で凄く穏やかになってる今なら説得が出来るかもしれない。
それが駄目なら何とか金獅子とユーリ君、ヒューさんと協力して奴を捕らえるしかなくなるが・・・。)
〈うん・・・。
でもホイさんには攻撃が効かないんでしょ?
その時はどうやって捕まえるの?〉
リーネの心配そうな声が返ってくる。
(大丈夫だよ。
俺が態と毒入りのカレーを出したと奴にバレなければ、きっと俺達に牙を剥くことは無い。
ホイにとって特別な存在のギルロイが命令しない限りはな。
その状況じゃ、ギルロイも命令を下すどころじゃないだろうし。)
〈そっか・・・それなら良かった・・・。〉
リーネは少し安心したのか、表情を緩めて微笑んだ。
ライキもそれを見てホッとする。
(しかし・・・ホイ以外の団員全てをスライムカレーの餌食にするのは気が引けるんだよな・・・。)
〈何か気になることがあるの?〉
リーネが小首を傾げて訊いてきた。
(うん・・・。
数日盗賊団で暮してみてわかったが、団員の全てが悪い奴ってわけじゃないんだよ。
俺の狩りに同行してくれたジャックさんとサムソンさんはチーロ村の出身らしくてさ。
貧しさに耐えかねて盗賊団に入ったものの、盗みに加わることには抵抗があるからいつも後衛や雑用ばかりを引き受けてて、輪姦にも怖くて一度も参加していないと言っていたんだ。
多分盗賊団に入ってから彼等が犯した罪は、ギルロイに命じられて誰かの身ぐるみを剥がしたり拘束したりとかで、大したことないんじゃないかな。)
〈そうなんだ・・・そんな人達が盗賊団に・・・。
チーロは税が高くて働いても働いても豊かにならないから、若い人は苦しくてみんな出ていくってゴンダさんが言ってたけど・・・きっとその人達、ボラントで職が見つからなくて、生きていく為に止むなく盗賊団に入ったんだと思うの・・・。
他の盗賊達と同じ罪に問われるのは気の毒だし、助けてあげたいな・・・。〉
リーネが空色の瞳を潤ませて震えた声で言った。
(だが、盗賊団にしか居場所が無かった二人だぞ?
自由になったところでどう生きて行けばいいか・・・。
奇跡の退治屋さんみたいにそこそこ腕が立つなら狩りの仕事を手伝ってもらったり出来ると思うけど、そうではない彼等に仕事を紹介するのは俺等には無理だし・・・)
ライキは眉間にシワを寄せてそう言った。
〈それなら大丈夫かも!
あのね、リリ様がボラント辺境伯様に掛け合ってチーロの税を下げてもらうって言ってたの!
だからこれから村の暮らしも良くなってくる筈だし、二人さえその気ならまたチーロに戻って来れると思うの!〉
(そっか・・・チーロの税をリリアナ様が・・・!
そうしたら二人だけじゃなく、生活苦で村を出て行った他の人も戻って来るかもしれないな!
チーロの人達もいなくなった家族と労働力を取り戻せるしいい事尽くしだ・・・!)
〈うん!〉
(よし、それならジャックさんとサムソンさんは何としても助けよう。
どうせユーリくんとヒューさん用にスライムを投入する前のカレーを取り分ける必要があるし、それを二人分増やせば良いだけだしな。
そして盗賊共が苦しみ始めたら二人には事情を打ち明ける。)
〈うん、わかった・・・!
それならスライムカレーを大鍋に、普通のカレーを中鍋に、ホイさんと金獅子さんの甘口を小鍋にすれば間違えないと思う!
それと、スライム毒が効き始めたらみんな暫くはトイレの個室から出られないと思う。
その状態で捕らえても、大きい方を漏らしちゃったり上から吐いちゃったりしてそこら中が大惨事になっちゃう・・・。〉
ライキはその地獄絵図を想像して冷や汗を垂らした。
〈だから捕縛するなら胃の中のものを全て出し切って、高熱が出て来た深夜がベストだよ!〉
(うん、ありがとう!そうする。
それで作戦が成功したら、リーネ達を盗賊団から逃した時のように奴らを盗賊団の馬車に詰め込んで、馬と荷車部分を切り離してから俺の移動の力でチーロに向かうよ。
だから明日の夜には会える!)
〈うん・・・うん!
嬉しい・・・!〉
(うん・・・俺も!
で、チーロに着いたら、ジャックさんとサムソンさんがどうしたいかにもよるけど、村に残りたいならそうしてもらう。
そして金獅子も、リリアナ様達の道中の護衛としてチーロに残ってもらう。
金獅子の白い剣は折れてしまったが、アジトの倉庫にある適当なナマクラでも持たせてやれば、奴なら充分に役に立つだろうしな。
ユーリ君とヒューさんは、どうするのかまだ訊いてないからわからないけど、リリアナ様に会ってからボラントへ同行するか、エングリアに帰るかのどちらかと思う。
そして彼等を降ろしたら、俺はそのままボラントへと盗賊団を運ぶ。
だからリーネに会えるのは少しの間だけど・・・全員捕縛した状態で高熱があるとはいえ、あまり盗賊団をチーロに留まらせないほうがいいだろうからな。
だからリーネ達は俺が飛び立ったら、チーロを出て皆でボラントへ向かって欲しい。)
ライキの言葉を訊いて、リーネは不安気に眉を寄せて声を荒らげた。
〈ちょっと待って!
それってライキ一人で盗賊団を連れて行くってこと!?
盗賊団の人って20人くらいいるんでしょ!?
そんなに沢山の人を運ぶなんて相当神経を使って疲れるんじゃ・・・。
それに盗賊団の人もライキに裏切られたと思って殺気立ってるだろうし・・・。
そんな中一人で行かせるのは心配だよ・・・…。〉
ライキはそれに対して宥めるように優しく答えた。
(大丈夫。
馬を切り離して荷車の部分だけならコントロールは難しくない。
運ぶ対象が重たいと地面に下ろすときには気を使うけど、浮かばせて持ち運ぶぶんには影響無いんだ。
確かに奴等は荷車の中から俺に向けて罵声を飛ばしてきたり、泣き落とししようとしたりするかもしれないが、そんなの相手にするつもりはないよ。
どうせ射精無しの飛行だと一時間しか集中が続かないし、風圧で荷車が壊れない程度に飛ばしてボラントに向かうつもりだから、たった一時間の辛抱だ。
そしてボラントに着いたらすぐに教会に向かうよ。
きっと師匠から話が通っている筈だし、すぐに奴等の身柄を引き受けてくれる筈だ。
それからすぐに引き返してリーネ達のいるチーロへ合流出来たらいいけど、流石に休まないと無理かな・・・。
早くリーネの側に行きたいけどな・・・)
とライキは自嘲気味に苦笑いをした。
〈・・・それ、私も同行する。〉
リーネはキッ!と眉を上げ、強い意志秘めた表情で言った。
(何を言ってるんだ!?
駄目に決まってるだろ!!
あんな下衆な奴らとリーネを一緒にしたら、例え高熱で捕縛されてても何があるかわからない!
それに射精無しの飛行で他の人を連れて飛ぶのも危険だ!
金獅子ならともかく・・・リーネをそんな危険な目に遭わせるわけにはいかない!)
〈でもライキが心配なんだもの!!
これだけは絶対に譲れないよ!
大丈夫・・・荷車と繋がった状態で射精して飛べばいいんだよ。
そしたらいつもみたいに安定して飛べるし、ボラントまであっという間に着いちゃうよね?
だから、チーロに着いたら私が抜いてあげるね・・・。〉
リーネが頬を染めてまるで誘惑するかのように上目遣いになり、更にはチロッ赤い舌を覗かせたので、ライキはドキッ!として下半身に一気に血が向かうのを感じ、そわそわと頬を赤く染めた。
だがすぐに我に返りブンブンと頭を振る。
(射精したところでどうするんだよ。
目的地のボラントはまだ行ったことのない場所なんだぞ?
空に上がっても移動キャンセルしてチーロに降りるしかない。
だから射精なしで飛んで、空から地形を頼りにボラントを目指すしかないんだ。)
〈あっ、そっか・・・!
・・・じゃあ私を盗賊たちと同じ荷車に積んで。〉
リーネが真剣な顔のまま低い声でそう言った。
(・・・・・!
だからそれは危険だと・・・)
〈大丈夫。
全員食中毒なんだもの。
薬師としてはいくら悪い人達でも治療せずにはいられないし、そのついでというかこっちが本命なんだけど、到着までぐっすりと眠ってもらったうえ、目が覚めたらリリ様をうっぱらおうなんて二度と思えないように、神秘の薬の力でひと手間加えてあげるわ。
だって悪い人にはお仕置きが必要だよね?〉
リーネが黒~い笑顔を浮かべつつそう言った。
(・・・・・参ったな。
こういうとき俺のつがいは言い出したらホント訊かないから・・・。
わかった、一緒に行こう。)
〈ホントに!?ありがとう!!〉
リーネがさっきまでのブラックスマイルを吹き飛ばし、輝かしい満面の笑顔で微笑んだ。
(うん・・・。
その代わり、俺の影に荷車の中を監視させて、何か異変があればすぐに下りるからな。)
〈うん・・・!〉
ライキははぁ・・・と大きくため息をつくと、銀髪をかき上げてからこう言った。
(・・・つか俺、もう4日もリーネに触れてないのか・・・。
チーロでリーネに会うときには6日ぶりの再会になるな・・・。
これは黒牛討伐以来の”飢えた銀色狼”確定だな(笑)
ちょっと、いや・・・かなり激しめに襲うかもしれないから覚悟してな?)
ライキは意地悪にニシシ!と笑った。
〈んもう・・・ライキのエッチ!
まだ話せていないサプライズなニュースもあるんだよ?
エッチなこともいいけど、お話も訊いて欲しいな?〉
リーネがお願い!と可愛く小首を傾げてみせた。
(くっそ可愛い・・・
リーネの話は勿論訊くけど・・・サプライズってなんだよ?)
ライキは彼女の可愛らしさにふふふっと微笑みながら尋ねた。
〈えーっ、うーん・・・まだナイショ!
でもね、これだけは今伝える。
フェリシア様のお守りが返ってきたの。〉
ライキはリーネのまさかの発言に驚きから目を見開いた。
(えっ・・・お守りが・・・!?
良かった・・・!!
でもドールズに奪われたんだろ!?
それが一体どうして・・・?)
〈うふふ!
それは再会した時のお楽しみだよ!〉
リーネがクスクスと笑いながらそう言った。
(・・・わかった。
お守りがどうして返ってきたのか・・・さっきのサプライズのこともその時ゆっくり聞かせてくれ。
リーネのヴェノムクリシュマルドを含め、奴等に盗られたもの全てを取り返してチーロに行くから、明日の夜にまた会おう。)
〈うん、スライムカレー作戦頑張ってね!〉
ライキはリーネとのやり取りに癒やされ、彼女とまた会い幸せな時間を過ごすために、必ずスライムカレー作戦を成功させると胸に誓うのだった。
そして次の日の午後─。
ヒューが見事な雷羊を狩ってきたので、ライキはそれを解体し、雷羊肉カレーを作ることにした。
ユーリとヒューとレオンの3人は、ライキが夕食の支度をしている間に団員のパンツを縫うようにとギルロイに命じられていたが、
(ギルロイは最初ユーリだけに命じようとしたが、ヒューとレオンに任せられる仕事が他に無かったので、ユーリが監督しながら二人にもパンツを縫わせるようにと言われたようだ。)
ライキが事前にユーリ達に今日の作戦を伝えていたため、
「どうせ履くことのないパンツなんだし縫っても無意味でしょ。
それよりも銀色狼さんのお手伝いのほうが面白そうだ!」
とこっそりと部屋を抜け出して手伝いに来てくれたのだった。
ライキは彼等に感謝し頭を下げると、リーネに教わったことを思い出しながらカレーライスを作り始めるのだった。
(まずはライスを研ぎ、鍋に水を入れて暫く水を吸わせる。
30分程してライスの粒が白くなったらライスの水を切り、ライスの1.2倍の水を鍋に入れてライスを均し、火にかける。
火加減は最初中火で、時間と共に段々と弱くしていくが、それは他の作業をしながら調整するとしよう。
続いてカレールウを作る。
金獅子が皮を向いてくれた玉ねぎをみじん切りにして飴色になるまでじっくりと炒め、一旦鍋から取り出しておく。
次に鍋にオリーブオイルを少し足し、くし切りにした具用の玉ねぎを入れてしんなりするまで炒め、そこに一口大に切った雷羊肉とローリエの葉(リーネの持ち物から拝借)を1枚投入。
表面に焼き色をつけて肉の旨味を閉じ込める。
更に面取りしたじゃが芋と人参を軽く炒めて塩と胡椒で下味をつけ、さっき取り出しておいた飴色玉ねぎを投入し、水を注ぐ。
鍋に蓋をして、時々灰汁を取りながら具材が柔らかくなるまで暫く煮込む。
その間にポテトサラダを作っておこう。
まず芽を取って金串で何箇所か穴をあけた皮付きのじゃが芋を鍋に入れて水を注ぎ、火にかける。
続いて人参をいちょう切りにし、これも別の鍋で水から茹でる。
人参やじゃが芋のような根菜は、水から茹でるのが料理の基本だとリーネから教わった。
何でも熱湯から茹でると、中まで火が通る前に表面が煮崩れてしまうかららしい。
サラダ用の野菜が煮えるのを待っている間にマヨネーズを作ろう。
マヨネーズならリーネを何度も手伝ったからレシピは頭にあるんだ。
しかしこれは一人では上手く作れない。
材料を入れる係と混ぜる係が必要だ。
混ぜるだけならいくら不器用な金獅子でも出来る筈だから、混ぜる係は奴に任せよう。
まずは分量の卵を割って卵黄だけを取り出し、大きめのボウルに入れる。
卵はアジトで飼っている鶏達が今朝産んでくれたばかりだから新鮮だ!
続いて酢、塩、胡椒を入れて泡だて器で混ぜる。)
「はあっ!?
まだ混ぜ続けろだと!?
意味がわからない!
これでいいのか!?」
(よし、金獅子がシャカシャカ混ぜ続けているこの状態で、油をゆっくりと少量ずつ、回数を分けて注ぐ。)
「まだか!?まだ混ぜるのか!?」
「いいから俺がいいと言うまで混ぜてろ。」
(焦らずゆっくり少しずつ・・・)
「よし!成功だ!」
ライキは嬉しさのあまり疑問符を頭に浮かべたレオンとクロス当てを交わした。
「また腕をぶつけるこれか!
意味がわからない!」
(金獅子がそんなことを言っているが無視して次の作業に進もう。
まだじゃが芋が煮えるまで少し時間があるから、ポテトサラダに入れる玉ねぎを用意しよう。
玉ねぎは芯を横に置き、出来る限り薄く切る。
カレーの具のときは芯を縦に置いて切ったが、サラダに使う時は横向きのほうが辛味が抜けやすくなるからオススメだとリーネが教えてくれた。
それをボウルに入れて水で10分程さらす。
玉ねぎの下ごしらえはこれでOK。
他の具はどうしよう?
リーネはポテトサラダには必ずきゅうりを入れていたが、アジト付近では手に入らない野菜だし、アイテムボックスにはあるかもしれないが、現地調達できない食材を使うのは団員に怪しまれそうだから良くないよな・・・。
何か代用出来るものはないか?
ユーリ君に訊いてみるか。)
「ユーリ君。
きゅうりの代わりになるような野菜ってこの辺に無いかな?」
ライキは火炎鳥に粉末唐辛子を擦り込んで、油でジューーー…と揚げているユーリに尋ねた。
「シャキシャキした食感が欲しいんだよね?
それと緑の色合いと・・・。
それなら青パパイヤはどうかな?
パパイヤは果物だけど、青い実は野菜として使えるんだ。
ヒューに頼んで今日採って貰ってきたのが沢山あるから使ってよ。
はい。」
ライキはユーリから青パパイヤを受け取ると、ユーリに言われたように種を除いてスライスし、玉ねぎのように水にさらした。
(このまま10分くらいさらせばアクが抜けるのだそうだ。)
続けてポテトサラダ用のじゃが芋に火が通っているか、串を刺して確認する。
(よし。
じゃが芋が柔らかく煮えたから、ヒューさんに皮を剥いて潰してもらおう。
包丁が上手く使えない人でもこれなら失敗も少ないからな。)
「わかりました!
このじゃが芋を跡形もなく潰してしまえばいいんですね?
お任せください!
道具(マッシャー)よりも、こうして拳で潰してしまう方がより跡形もなく潰せます!」
と言ってヒューがグリグリと拳でじゃが芋をすり潰そうとしたので、ライキが引き攣り笑いながらそれを制止した。
「あ、いや・・・程々に食感が残っている方が好きな人も居るので、やっぱりマッシャーでやって貰えますか?」
「あ、はい・・・!」
(そうして程良く潰れたじゃが芋に、人参と青パパイヤ、玉ねぎを加え、金獅子が混ぜたマヨネーズで和える。
これでポテトサラダは完成だ。
後はスープだが、俺が作れるのは角イノシシ汁くらいだし、ユーリ君が何か作ってくれているようだしお任せしよう。)
ユーリはヒューに頼んでアジト周辺からたんぽぽの葉と花を摘んできて貰い、マヨネーズを作ったときに余った卵白とドライトマトを使ってササッとスープを作っていた。
(流石ユーリ君。
リーネや兄貴や母さんもそうだけど、料理の出来る人はこういう機転が凄く利くよな・・・。
尊敬する・・・。)
ライキがそう感心しながらカレー鍋を確認すると、具材にいい感じに火が通っていた。
(・・・よし。
肉の臭み抜きに入れておいたローリエをここで忘れずに取り出しておく。
火を弱め、リーネお手性のカレールウを割り入れる。
このルウに使われているスパイスは調理場には無いものばかりだが、きゅうりみたいに形に見えるものではないから、調理場をろくに把握していない奴らに出所を疑われる心配はまずないだろう。
鍋をレードルで混ぜながらルウを良く溶かす。
ルウが溶けたら弱火のままで時々カレーを混ぜつつ5分ほど煮込み、カレーに艶が出て来たら、小鍋にホイと金獅子のぶんのカレーを取り分ける。
小鍋を火にかけ、仕上げにリーネのお手製りんごピューレと蜂蜜を加えて混ぜれば、雷羊カレー甘口の完成だ!
メインの鍋にはそこから更にガラムマサラ、粉末唐辛子を投入し、更に良く混ぜる。
少し味見をしてみて・・・うん、森の青鹿亭カレーの激烈辛に慣れた俺には少し物足りないが、あまり辛すぎても食べられない団員が出て来そうで作戦に支障が出るし、こんなものでいいだろう。
そこからユーリ君とヒューさん、ジャックさんとサムソンさんのぶんをまた中鍋に取り分ける。
そして残りのメインの大鍋には、スライム毒の効果が出るのを遅らせる卵殻粉を全体の3%入れて混ぜ、更にブルースライムを投入・・・。)
ライキが瓶からぷるぷるした青いゲル状のものを、手で掴んで取り出し鍋に投入するのを見て、ユーリが苦笑した。
「本当に入れちゃうんだね・・・!
僕らには無い発想だし信じられないよ!」
「うん。
スライムを加えると、鍋の中の熱ですぐにスライムは死滅するけど、父さんが言うにはその時スライムから出た体液が、料理の味を変えずに食材のアクを素早く分解してくれるらしい。
けど、料理に混ざったスライムの体液自体が人には毒だから、これを食うと普通の人は食あたりを起こすんだ。
普通の人より毒に強いリーネでも嘔吐下痢に40度近くの高熱・・・ばあちゃんの解毒薬がなければ3日は寝込んでいたと言っていたから、常人で解毒薬無しなら5日は寝込むレベルじゃないかな?
だから間違ってもみんな、こっちの鍋のは口にするなよ?
まぁ健康な人なら死ぬことはないらしいけど・・・」
そう説明しながら鍋をかき混ぜるライキ。
「ちょっと待て。
ということはお前・・・リーネちゃんにスライム入りの料理を食わしたことがあるのか!?」
レオンが驚いて声を上げた。
「うん・・・昔にな・・・。
ハント家の男には毒耐性があるらしくて、俺と兄貴は小さい頃から父さんの作るスライム入りの料理を口にしてたけど別になんともなかったから、他の皆も平気なんだと思ってたんだ。
兄貴から最近訊いて知ったけど、俺達でも疲れてる時に食ったら流石に体力を消耗するらしいけどな。
で、俺も父さんの真似して料理にスライムを入れるようになってたんだけど、俺が狩人デビューしてばかりのとき、リーネの薬草採取に付き合って二人共腹が減ったからって俺の飯を毒とは知らずにリーネに食わせてしまったんだ。
そしたらリーネが泡吹いて倒れてさ・・・。
マジであの時はリーネには悪いことをしたと思ってる・・・。」
(まぁリーネはあれが切っ掛けで俺に興味を持ってくれたみたいだけどな・・・)
と昔を思い出して苦笑いするライキ。
「よく許して貰えたな・・・。」
と呆れるレオン。
「ははっ、ホントそれな・・・。
まぁそういうわけだから、俺もスライム入りのカレーを食うよ。
俺が目の前で美味そうに食えば、奴らを油断させられるだろう?」
と笑うライキの言葉にレオンとユーリ、ヒューは、
(本当に大丈夫なのか・・・!?)
と冷や汗を垂らし、顔を見合わせるのだった。
本日の晩餐は、ライキ特製雷羊肉のカレー、ユーリが作ってくれた火炎鳥の辛味フライ、きゅうりの代わりに青パパイヤが入ったポテトサラダ、たんぽぽの葉と花、ドライトマトと泡立てた卵白の浮かんだスープ。
デザートはヒューが狩りのついでに採ってきたというブラックベリーと無花果だ。
「おおーーーっ!
美味そうだなカレーライス!
これよ!オレが求めていた飯はよ!!
この国じゃ見たことのねぇ料理だが、フォレストサイドの郷土料理かぁ?」
とギルロイが配膳に並びながら、既に配膳が済んだ団員のトレーを見てライキに尋ねた。
「いえ、これはリーネ・・・俺のつがいから教わった異国の料理です。
辛いけど暑い日にも食が進むし、スタミナもつくから今日の晩餐にピッタリだと思ったんです。
皆さんが気に入ってくれるといいんですけど・・・」
とライキはギルロイの皿にスライムカレーをよそいながら答えた。
「へぇ、あの嬢ちゃんの直伝かよ!
お前、あの子に早く会いてぇんだろ?
明日チーロに攻め込んだら会えるんじゃね??
・・・そいや銀色狼お前、嬢ちゃんに再会したらどうするつもりなんだぁ?
まさか俺らとはチーロでサヨナラ、嬢ちゃんとまた一緒に旅を続けます、とか言わないよな?
もはや銀色狼はこの団に必要不可欠なんだし、居なくなられたら困るぜぇ!マジで!」
ライキはニコッと営業スマイルを浮かべると、思ってもいない嘘をついた。
「お頭にそう言っていただけるなんて光栄です。
リーネに再会したら・・・そうですね。
俺も盗賊団での暮らしが楽しいからまだ続けていたいし、リーネをいつまでも待たせるのは悪いから、
リーネを説得して教会でつがいの解消手続きを取ろうかな。」
「おっ!
そいつはいいな!
賛成だぜぇ!
つがいの指輪が無効になりゃあ、嬢ちゃんまだ処女だしあの見た目だから闇オークションで相当な高値で売れるぜ!
いや・・・元々は銀色狼の女なわけだし、お前ずっと最後までヤれずに我慢していたんだろ?
それなら処女はお前にくれてやるから、存分に犯し尽くせや!
だが気が済んだら皆にもちゃんと輪姦してやれよ?
大切な兄弟共なんだからな!
そんで全員に輪姦し終えたら闇オークションにかけるが、盗賊団の活動資金の為だし許してくれるよな?
処女でなくなっちまってもあれだけの上玉なら高値で売れる筈だからな!」
というギルロイの下品な言葉に、
「ブラボーーー!
あの可愛い子ちゃんが抱けるのかよ!!
じゃ、オイラ銀色狼の次ね!
いや、お頭の次の3番でもいいぜ?」
「あんな華奢な女、俺っちのマグナムぶっ刺したら壊れちまうんじゃねーの!?
ヒャーッハッハッハッ!」
「俺はああいうロリっぽい娘より、ジャポネのメイドちゃんみたいにおっぱいの大きい品のいい女が好きなんだけどよ~。
やっぱ処女の魅力には抗えねぇな!
是非ともガバガバになる前に、締まりのいい初心な感触を味わいたいぜ!」
「どーせ最初に銀色狼くんがナカ出しすんだろ?
それならいっそのこと全員で種付けしてやろーぜ!
そんで孕んじまって誰の子かわからねーのに産んで、”この子、銀色狼くんの子供よ。フォレストサイドで待ってるから帰って来て、お願い・・・!”なんて泣きながらニュースペーパーで訴えてんの!
それって超ウケね?!」
「バッカ!孕ませちまったら売り物にならねぇから、全員外出しに決まってんだろ!
そんであの空駒鳥ちゃんが快楽堕ちしてどろどろのくっさいザーメンまみれでアヘ顔Vサインしてんの!
カメラがあったら記念撮影してぇ!
わははははっ!」
等と下品な奴らで勝手に盛り上がっていた。
(このカス共・・・!!!
俺のリーネでゲスいことを抜かしやがって・・・
今すぐ切り刻んで魔界ゲートに捨ててやろうか・・・!!!!!
いや・・・笑っていられるのも今のうちだ。
これを食って死ぬ程苦しみやがれ・・・・・)
ライキはそう思ってグツグツと煮え滾るマグマのような怒りを堪え、先程の下品な発言をした男達にスライムカレーをたっぷりと注いだ。
その後ろにはジャック、そしてサムソンが並んでいた。
彼らは今朝方ギルロイによりチーロ襲撃のことを発表された際、”襲撃には加わらないでアジトで留守番をしたい”と希望していたが、
「チーロ出身のお前らがいねーんじゃ勝手が解らねぇだろ!?
いいから参加して案内しろや!
そしたらお前らの家族だけは逃してやる。
お前らが来なけりゃどいつが家族かわかんねーから皆殺しだぜぇ!?
良いのかぁ!?」
とギルロイに脅されており、配膳に並ぶその顔は血の気が引いて青白く、悲壮感を漂わせていた。
ライキは彼等の皿に普通のカレーを注ぎながら、他の団員には聴こえないように声をひそめて言った。
『・・・元気出してください・・・。
大丈夫・・・お二人が心配するようなことにはなりません。
ただ夕食後間もなくトイレの混雑が予想されますので、早めに済ませておくことをオススメします。』
「えっ、銀色狼、それってどういう・・・」
ジャックがそう言いかけると、ライキは唇に手を当ててシーッ・・・と合図した。
ジャックとサムソンは顔を見合わせると、事情をある程度察したのか無言で頷き次の配膳へと進んで行った。
彼等の次にホイが来た。
「ホイさんは辛いの嫌いでしたよね?
この料理は本来辛いのですが、ホイさん用に甘口を用意しましたので安心してください。
甘さが足りなければ蜂蜜をかけてどうぞ。」
ライキはそう言うと、甘口カレーをかけてやった。
ホイは、
「わっふ!甘口っふか?
チョコレートみたいな見た目で美味しそうっふね♪
子犬ちゃん、あっちの席で待ってるから、配膳が済んだらみんなで一緒に食べようねぇ!」
と手を振り次の配膳へと進んで行った。
配膳が済むと、ライキはレオンとユーリ、ヒューと共にホイと同じテーブルに着いた。
ジャックとサムソンもすぐ近くの席にいる。
ギルロイはホールの広場に立つと、一同に向けて高らかに声を上げた。
「野郎共!
明日はいよいよチーロへ襲撃をかける!
チーロで食料をぶん取りゃあオレらの暮らしもちったぁマシになるが、それだけじゃねぇ!
チーロにゃあこの間逃した銀色狼のつがいの嬢ちゃんにジャポネの姉ちゃん、そして赤百合嬢様と、大金になるお宝が待ってるぜぇ!
その金を資本にして、このギルロイ盗賊団は首都フェリシアへと北上し、そこに拠点を移す!
首都にゃあ人も多いが闇も多い!
その闇こそがオレ達の天国だ!
男は金を奪って殺せ!
子供は奴隷としてダルダンテに売り飛ばせ!
女は攫って輪姦して売り飛ばせ!
そしたらオレ達全員永遠にハッピーだ!!」
ライキとレオン、ユーリとヒュー、ジャックとサムソン、ギルロイが言っていることを理解していないホイを除く悪党共は皆、
「「「オーーーーーー!!!」」」
と拳を振り上げ鬨を上げた。
そして、いよいよギルロイ盗賊団での最後の晩餐が始まるのだった─。
ライキは朝食の席で見かけたホイの様子を思い浮かべながらアジトの床を拭いていた。
(あれから一夜明けたが、ホイに使ったあの秘薬はまだ有効みたいだな。
秘薬の効果が切れる前に盗賊団を壊滅させないといけないが、どうしようか?
20名弱の団だし、ホイを除けば武力制圧することも可能だが、この間皆を逃がす時のように、自分では手加減したつもりでもうっかりやり過ぎてしまうかもしれない。
それにホイを怒らせたら俺と金獅子はともかく、ユーリ君とヒューさんにも危険が及ぶかもしれない。
それよりも、日常生活の中で自然に全員を行動不能に追い込むような手段が何かあるといいが・・・)
ライキはそんなことを思いながらバケツに汚れた雑巾を入れて洗い、絞った。
バケツの中の水が黒く濁って汚れてきたので、浄化しようと瓶からブルースライムを取り出して投入していると、丁度自室から出て来たギルロイに気付かれ声をかけられた。
「おい、何だその青くてプルプルしたのは。」
「あ、お頭。
これはブルースライムの欠片です。
こいつは汚水処理に使えるので、この間狩りに出たときに取っておいたんですよ。
更にはこいつが分解した水をこうして拭き掃除に使うと、この通りほら、ピカピカになるんです!」
そう言って拭き掃除を済ませた廊下を指し示すライキ。
(本当はアイテムボックスに入ってたスライムの瓶を出して使ってるだけだけど、ギルロイにはアイテムボックスはリーネが持ってると嘘をついているからな・・・)
するとギルロイはピカピカになった床を見て目を見開き、感激のあまり声を上げた。
「おおっ、マジだ!
すげぇなおい!
それも狩人の知恵ってやつか?」
「あはは、まぁそんなところです。」
「そうかそうか!
お前が来てからこのカビ臭いアジトも随分快適になったし、毎食肉も食えるようになったから感謝してるぜぇ。
金獅子も最初は使える奴かと思ったが、お前と一緒に仕事をしてたからわからなかっただけで、実際はえらく不器用で使えない奴だったんだな。
奴は団員が洗濯に出したパンツを台無しにしてくれたそうじゃねぇか。
幻滅したぜぇ。
本来ならそんな見た目だけの使えない野郎はヒューと同じくホイのペットにするところだが、ホイの奴今日はやけに変でよ。
ずっと賢者モードっつーか、去勢されたみてぇに大人しくて、
「ペットはもういらないっふよ。
鎖に繋いで自由を奪うだなんて今までヒューに可哀想なことしてたっふ。
オイラ、可愛い男の子は皆好きっふけど、まずは普通にお友達になりたいっふよ!」
とか抜かしやがるし、不気味で仕方ねぇわ。
タイミング的に昨夜に何かあったとしか思えねぇが、お前も夜伽でホイの部屋に行ったんだろう?
何か知らねぇか?」
ギルロイは疑いを含んだ眼差しをライキに向けた尋ねた。
「さぁ・・・。
ヒューさんに加えて俺と金獅子の相手もしたから疲れたんじゃないですか?」
ライキは平然とした顔で知らんぷりをした。
「そうかよ!
まぁ3人も相手すりゃあそうかもな。
そいや昨晩はどうだったんだよ?
野郎同士でもイケたのか?」
ギルロイが更にニヤニヤして顔を覗き込んで来た。
ライキはヒュー救出作戦の最後に”ギル兄の代わりなんて誰もなれやしないのに・・・”とホイが呟いていた事を思い出してホイに少し同情し、眉をひそめてからこう返した。
「・・・男同士に興味があるならお頭が相手をしてあげればいいじゃないですか。
ホイさん喜びますよ?」
「あぁん?ちげぇよ。
オレは野郎に掘られるなんぞ冗談じゃねぇ。
ただ銀色狼と金獅子が雌の顔してあんあん喘ぎまくって射精までしたってんなら面白れぇし、野郎共との話のネタになるって思ったから訊いてみただけだ。」
「気持ちの悪い想像させないでくださいよ・・・。
その気のない奴にとっては快楽どころか地獄のような時間でしたよ・・・。
まぁあの様子なら当分呼ばれることもないだろうし、俺はホッとしてますけどね。」
(まぁ金獅子は何故か勃起してたけど・・・一応あいつの名誉のためにそれは言わないでいてやろう・・・。)
ライキはそう思って具体的なことは言わずにそれだけ答えた。
「まぁ確かに、賢者モードのホイのほうがケツの穴に気持ち悪りぃ視線を感じることが無くてオレ的にも安心だわ。
だがそのぶん見て呉れだけの使えない団員の行き場がなくなっちまったがな。
取り敢えずヒューはアジトにいても役に立たねぇから、今日のところはお前の代わりにホイとジャック&サムソンの監視付きで狩りに出してみたが、果たして獲物を狩って来れるかどうか・・・。
まぁ奴が獲物を狩って来ても解体するのは無理だろうから、そっちはお前に任せたぜ?」
「ええ、わかりました。」
ライキは、
(ヒューさんなら毒茸トカゲさえ相手にしなければ、この辺りの魔獣の相手は問題無くこなせるだろう。
その仕事ぶりが評価されれば団員達の彼に対する評価も変わり、待遇も良くなるはずだ。)
と思いながら頷いた。
「そいやもう一人の使えない奴・・・お前の相棒はどうしてる?」
「相棒じゃありません・・・。」
ライキはそう言って小さくため息をついてから答えた。
「金獅子には風呂掃除とトイレ掃除を任せてますよ。」
「おいおい、奴一人で大丈夫かぁ!?
風呂とトイレを壊されたら洒落にならねぇぜ!?」
ギルロイが焦って声を荒らげた。
「えぇ、風呂とトイレの掃除は前に一緒にしたときに一人でも出来そうだと感じたから、任せて大丈夫ですよ。」
(スライ厶の瓶も適量渡してきたし、奴らが分解する対象が無機物ばかりな風呂とトイレだから問題ないだろう。)
とライキは脳内で補足を加えた。
「それならいいんだがよ。
そいや奴が駄目にした団員のパンツはどうするつもりだ?銀色狼よ。
奴ら全員パンツは2~3枚しか持ってねぇらしくてよ。
一枚駄目にされただけでも相当困るって言ってんだわ。
替えが無いってんで昨日と同じのを履いてる野郎もいるしよ・・・。
今日はまだいいが、何日も放置すりゃあ臭ってくるし最悪だぜ!?
だからその前に金獅子に責任取らせて1から新しいものを繕わせたいところだが、あの不器用さじゃ足を入れた途端にビリッといっちまうような頼りねぇパンツが出来上がり兼ねねぇ・・・。
団員の殆どは今あちぃからってアジトの中じゃパンツ一枚で過ごしてるだろ?
だからパンツは奴らのケツを守る最後の砦みてぇなもんなんだ。
ビリッと裂けて汚ねぇケツがこんにちは、なんて事態はゴメンだぜ?
銀色狼、お前奴の相棒なら責任取ってパンツをどうにかしろや。」
とギルロイに無茶振りされたライキは苦笑いして答えた。
「いや、だから別に俺は金獅子の相棒じゃないですけど・・・。
まぁお頭が言うみたいな事態は俺も勘弁願いたいですし、明日一日くれるのなら俺が縫いますよ?」
(そうなると一日部屋に籠もることになるから人目も気にしなくていいし、パンツさえ揃えば文句は言われないだろうから、こっそり抜け出すのも有りだな・・・)
ライキがそんなことを考えながら提案すると、ギルロイは真剣な表情で顎の無精髭を撫で、少しの間何かを考えたのち答えた。
「明日か・・・いや、そうだな・・・。
それはユーリにやらせるから、お前は晩飯を作ってくれ。」
「えっ、俺がですか?」
ライキはギルロイの思わぬ発言に驚き目を軽く見開いた。
「そうだ。
お前にやられた野郎共も回復してきたし、明後日辺りチーロに襲撃をかけようと考えていたんだ。
そこで、その前にいっちょ美味いものを団員に食わせて気合をいれてぇんだがよ。
ユーリが作る飯はどうも上品すぎてつまらねぇ・・・。
銀色狼、お前なら狩人だし、男らしい豪快な料理を知ってるだろ?
明日の晩飯はお前が作ってみろや。
ガツンとワイルドで、男所帯らしい食が進むのを頼むぜ?」
ライキはリーネの特訓のお陰でようやく角イノシシ汁とカレーライスとおにぎりを作れるようになったレベルで、料理に自信など全く無かったが、これはチャンスかもしれないと感じ、ニコッと微笑むとこう返事をした。
「わかりました!
夏に美味い食が進む料理を知っているので、明日の晩、それを皆さんにご馳走します。」
「おう、楽しみにしてるぜぇ!」
ギルロイはライキの背中をバシッ!と叩いてからふんふーん♪と鼻歌交じりに手を振り去って行った。
(・・・奴らをチーロに攻め込まれるわけには決していかない。
それまでにこの団を潰さないと・・・。
その為にもこの食事当番は活用すべきだ。
食事に身体の自由を奪う系の毒を混ぜれば、毒の効かないホイ以外は容易く拘束出来るからな。
そして奴らを盗賊団の馬車に乗せ、ボラントまで俺の移動の力で飛ばせば任務完了だ。
だが肝心な毒はどうする?
・・・リーネに相談してみるか。)
ライキは頭の中のシャドウクローンに意識を集中させ、影を通してリーネに呼びかけてみた。
(リーネ、今話をしても大丈夫か?)
〈あ、ライキ!
今モニカさんと一緒にお世話になってるカーペンターさんの畑の雑草取りをしてるんだけど、お話しながら出来るから大丈夫だよ。
どうしたの?〉
頭の中で愛しの彼女の可愛い声が聞こえてきて、頬が緩み一人”にへらっ”と笑うライキなのだった。
(リーネ、ギルロイは明後日チーロに襲撃をかけるつもりらしい。
だからその前に盗賊団を全員捕らえ、ボラントの教会に付き出さなきゃならないんだけど、幸運にも俺が前日の晩飯を担当することになってさ。
その時に作る料理はカレーライスにしようと思うんだが、それに何か奴らの自由を適度に奪うような毒を混ぜられたら簡単に捕縛出来ていいと思うんだ。
何かいい毒は無いか?)
ライキの問いかけにリーネは答えた。
〈料理に入れても味に影響が出にくい、自由を奪う毒か・・・。
私のポーチには色々と使えそうなものがあるけど、ライキのいるところで確実に手に入る毒がよくわからないから何とも言えないな・・・。
アジト周辺で毒のありそうな植物や生き物に心当たりはない?〉
(あぁ、それなら既にあるぞ!
毒茸トカゲの体内毒と、そいつに生えてた虹色天狗茸!
リーネの薬の材料に使えるかもと思って、解体したときに捨てずにアイテムボックスに保管してあったんだ!)
とライキが心の声を弾ませた。
〈毒茸トカゲ、虹色天狗茸・・・どちらの毒も、毒耐性の高いライキでも罹ってすぐに解毒しないと死ぬかもしれないような猛毒だよ?
相手を殺してしまう危険性が高いし、扱う人も相当危険だからそれはやめておいたほうがいい・・・。
あっ・・・!
ライキには危険が少なくて、扱い慣れてる毒が手元にあるじゃない!〉
リーネは何かを思いついたようで両手のひらをパチンと合わせた。
(俺が扱い慣れてる毒?)
〈そう。
昔、ライキの料理を食べた私がどうなったか覚えてる?
泡を吹いて倒れた後、嘔吐・下痢を繰り返し胃の中の物を全て出し切った後、40度近くまで発熱したわ。
おばあちゃんの解毒薬と適切な処置があったから1日で回復出来たけど、それがなければ3日は寝込んでたと思うの。
解毒薬を使わないと体の中の毒素が完全に分解されるまで時間がかかるから、長い間しんどい思いをすることにはなるけど、健康な人なら死ぬことはない程度のものだし、丁度いいと思う!〉
(ブルースライムか!)
ライキが目の前のブルースライムの瓶を手に取り、心の中で声を上げた。
〈そう!
でも明らかに美味しくなさそうだと食べてもらえないから、見た目は普通に作って、仕上げにスライムを入れるの!
でもスライム毒って即効性があるから、集団に作用させるにはそのままだと不適切かな?〉
とリーネが考え込んで首を傾げる姿が影を通して見えた。
(あぁ、食べた側から倒れてたらまだ口にしていない奴が警戒して食べなくなるからか。)
〈そう。
だから、食事を終えて2~3時間してから効果が出るように、スライム毒の働きを遅らせる無機物を全体に対して3%程混ぜて、一緒に煮込むといいと思う。
使えそうなのだと卵殻の粉末とか骨粉とか・・・。
私が薬の材料に使ってる卵殻粉がライキのアイテムボックスにあるから、それを使うといいよ?
私の素材箱に入ってて、瓶にラベルが付いてるから見たらすぐ分かると思う。〉
(ありがとう。
ありがたく使わせて貰う!
それとリーネ特性のカレールウも使っていいか?
ルウ無しでカレーを作るのは、俺にはまだ出来ないし。)
リーネは笑顔で答えた。
〈いいよ!
遠慮なく使って!
ルウならまた作ればいいから。
あ、でも今回のは神秘の薬の力が働いた毒とは違うから、毒耐性の高いホイさんには効かないだろうけど・・・〉
(そうだな・・・。
ホイは辛口カレーを食べられないだろうから、辛味スパイスを足す前に別の鍋に取り分けて甘口に仕立ててやらないといけないから、どうせ毒は効かないならそっちの鍋にはスライムを入れる必要は無いな。
金獅子も辛いの食えないからそのぶんも一緒に出来るし。
ホイに毒が使えなくても、リーネの秘薬のお蔭で凄く穏やかになってる今なら説得が出来るかもしれない。
それが駄目なら何とか金獅子とユーリ君、ヒューさんと協力して奴を捕らえるしかなくなるが・・・。)
〈うん・・・。
でもホイさんには攻撃が効かないんでしょ?
その時はどうやって捕まえるの?〉
リーネの心配そうな声が返ってくる。
(大丈夫だよ。
俺が態と毒入りのカレーを出したと奴にバレなければ、きっと俺達に牙を剥くことは無い。
ホイにとって特別な存在のギルロイが命令しない限りはな。
その状況じゃ、ギルロイも命令を下すどころじゃないだろうし。)
〈そっか・・・それなら良かった・・・。〉
リーネは少し安心したのか、表情を緩めて微笑んだ。
ライキもそれを見てホッとする。
(しかし・・・ホイ以外の団員全てをスライムカレーの餌食にするのは気が引けるんだよな・・・。)
〈何か気になることがあるの?〉
リーネが小首を傾げて訊いてきた。
(うん・・・。
数日盗賊団で暮してみてわかったが、団員の全てが悪い奴ってわけじゃないんだよ。
俺の狩りに同行してくれたジャックさんとサムソンさんはチーロ村の出身らしくてさ。
貧しさに耐えかねて盗賊団に入ったものの、盗みに加わることには抵抗があるからいつも後衛や雑用ばかりを引き受けてて、輪姦にも怖くて一度も参加していないと言っていたんだ。
多分盗賊団に入ってから彼等が犯した罪は、ギルロイに命じられて誰かの身ぐるみを剥がしたり拘束したりとかで、大したことないんじゃないかな。)
〈そうなんだ・・・そんな人達が盗賊団に・・・。
チーロは税が高くて働いても働いても豊かにならないから、若い人は苦しくてみんな出ていくってゴンダさんが言ってたけど・・・きっとその人達、ボラントで職が見つからなくて、生きていく為に止むなく盗賊団に入ったんだと思うの・・・。
他の盗賊達と同じ罪に問われるのは気の毒だし、助けてあげたいな・・・。〉
リーネが空色の瞳を潤ませて震えた声で言った。
(だが、盗賊団にしか居場所が無かった二人だぞ?
自由になったところでどう生きて行けばいいか・・・。
奇跡の退治屋さんみたいにそこそこ腕が立つなら狩りの仕事を手伝ってもらったり出来ると思うけど、そうではない彼等に仕事を紹介するのは俺等には無理だし・・・)
ライキは眉間にシワを寄せてそう言った。
〈それなら大丈夫かも!
あのね、リリ様がボラント辺境伯様に掛け合ってチーロの税を下げてもらうって言ってたの!
だからこれから村の暮らしも良くなってくる筈だし、二人さえその気ならまたチーロに戻って来れると思うの!〉
(そっか・・・チーロの税をリリアナ様が・・・!
そうしたら二人だけじゃなく、生活苦で村を出て行った他の人も戻って来るかもしれないな!
チーロの人達もいなくなった家族と労働力を取り戻せるしいい事尽くしだ・・・!)
〈うん!〉
(よし、それならジャックさんとサムソンさんは何としても助けよう。
どうせユーリくんとヒューさん用にスライムを投入する前のカレーを取り分ける必要があるし、それを二人分増やせば良いだけだしな。
そして盗賊共が苦しみ始めたら二人には事情を打ち明ける。)
〈うん、わかった・・・!
それならスライムカレーを大鍋に、普通のカレーを中鍋に、ホイさんと金獅子さんの甘口を小鍋にすれば間違えないと思う!
それと、スライム毒が効き始めたらみんな暫くはトイレの個室から出られないと思う。
その状態で捕らえても、大きい方を漏らしちゃったり上から吐いちゃったりしてそこら中が大惨事になっちゃう・・・。〉
ライキはその地獄絵図を想像して冷や汗を垂らした。
〈だから捕縛するなら胃の中のものを全て出し切って、高熱が出て来た深夜がベストだよ!〉
(うん、ありがとう!そうする。
それで作戦が成功したら、リーネ達を盗賊団から逃した時のように奴らを盗賊団の馬車に詰め込んで、馬と荷車部分を切り離してから俺の移動の力でチーロに向かうよ。
だから明日の夜には会える!)
〈うん・・・うん!
嬉しい・・・!〉
(うん・・・俺も!
で、チーロに着いたら、ジャックさんとサムソンさんがどうしたいかにもよるけど、村に残りたいならそうしてもらう。
そして金獅子も、リリアナ様達の道中の護衛としてチーロに残ってもらう。
金獅子の白い剣は折れてしまったが、アジトの倉庫にある適当なナマクラでも持たせてやれば、奴なら充分に役に立つだろうしな。
ユーリ君とヒューさんは、どうするのかまだ訊いてないからわからないけど、リリアナ様に会ってからボラントへ同行するか、エングリアに帰るかのどちらかと思う。
そして彼等を降ろしたら、俺はそのままボラントへと盗賊団を運ぶ。
だからリーネに会えるのは少しの間だけど・・・全員捕縛した状態で高熱があるとはいえ、あまり盗賊団をチーロに留まらせないほうがいいだろうからな。
だからリーネ達は俺が飛び立ったら、チーロを出て皆でボラントへ向かって欲しい。)
ライキの言葉を訊いて、リーネは不安気に眉を寄せて声を荒らげた。
〈ちょっと待って!
それってライキ一人で盗賊団を連れて行くってこと!?
盗賊団の人って20人くらいいるんでしょ!?
そんなに沢山の人を運ぶなんて相当神経を使って疲れるんじゃ・・・。
それに盗賊団の人もライキに裏切られたと思って殺気立ってるだろうし・・・。
そんな中一人で行かせるのは心配だよ・・・…。〉
ライキはそれに対して宥めるように優しく答えた。
(大丈夫。
馬を切り離して荷車の部分だけならコントロールは難しくない。
運ぶ対象が重たいと地面に下ろすときには気を使うけど、浮かばせて持ち運ぶぶんには影響無いんだ。
確かに奴等は荷車の中から俺に向けて罵声を飛ばしてきたり、泣き落とししようとしたりするかもしれないが、そんなの相手にするつもりはないよ。
どうせ射精無しの飛行だと一時間しか集中が続かないし、風圧で荷車が壊れない程度に飛ばしてボラントに向かうつもりだから、たった一時間の辛抱だ。
そしてボラントに着いたらすぐに教会に向かうよ。
きっと師匠から話が通っている筈だし、すぐに奴等の身柄を引き受けてくれる筈だ。
それからすぐに引き返してリーネ達のいるチーロへ合流出来たらいいけど、流石に休まないと無理かな・・・。
早くリーネの側に行きたいけどな・・・)
とライキは自嘲気味に苦笑いをした。
〈・・・それ、私も同行する。〉
リーネはキッ!と眉を上げ、強い意志秘めた表情で言った。
(何を言ってるんだ!?
駄目に決まってるだろ!!
あんな下衆な奴らとリーネを一緒にしたら、例え高熱で捕縛されてても何があるかわからない!
それに射精無しの飛行で他の人を連れて飛ぶのも危険だ!
金獅子ならともかく・・・リーネをそんな危険な目に遭わせるわけにはいかない!)
〈でもライキが心配なんだもの!!
これだけは絶対に譲れないよ!
大丈夫・・・荷車と繋がった状態で射精して飛べばいいんだよ。
そしたらいつもみたいに安定して飛べるし、ボラントまであっという間に着いちゃうよね?
だから、チーロに着いたら私が抜いてあげるね・・・。〉
リーネが頬を染めてまるで誘惑するかのように上目遣いになり、更にはチロッ赤い舌を覗かせたので、ライキはドキッ!として下半身に一気に血が向かうのを感じ、そわそわと頬を赤く染めた。
だがすぐに我に返りブンブンと頭を振る。
(射精したところでどうするんだよ。
目的地のボラントはまだ行ったことのない場所なんだぞ?
空に上がっても移動キャンセルしてチーロに降りるしかない。
だから射精なしで飛んで、空から地形を頼りにボラントを目指すしかないんだ。)
〈あっ、そっか・・・!
・・・じゃあ私を盗賊たちと同じ荷車に積んで。〉
リーネが真剣な顔のまま低い声でそう言った。
(・・・・・!
だからそれは危険だと・・・)
〈大丈夫。
全員食中毒なんだもの。
薬師としてはいくら悪い人達でも治療せずにはいられないし、そのついでというかこっちが本命なんだけど、到着までぐっすりと眠ってもらったうえ、目が覚めたらリリ様をうっぱらおうなんて二度と思えないように、神秘の薬の力でひと手間加えてあげるわ。
だって悪い人にはお仕置きが必要だよね?〉
リーネが黒~い笑顔を浮かべつつそう言った。
(・・・・・参ったな。
こういうとき俺のつがいは言い出したらホント訊かないから・・・。
わかった、一緒に行こう。)
〈ホントに!?ありがとう!!〉
リーネがさっきまでのブラックスマイルを吹き飛ばし、輝かしい満面の笑顔で微笑んだ。
(うん・・・。
その代わり、俺の影に荷車の中を監視させて、何か異変があればすぐに下りるからな。)
〈うん・・・!〉
ライキははぁ・・・と大きくため息をつくと、銀髪をかき上げてからこう言った。
(・・・つか俺、もう4日もリーネに触れてないのか・・・。
チーロでリーネに会うときには6日ぶりの再会になるな・・・。
これは黒牛討伐以来の”飢えた銀色狼”確定だな(笑)
ちょっと、いや・・・かなり激しめに襲うかもしれないから覚悟してな?)
ライキは意地悪にニシシ!と笑った。
〈んもう・・・ライキのエッチ!
まだ話せていないサプライズなニュースもあるんだよ?
エッチなこともいいけど、お話も訊いて欲しいな?〉
リーネがお願い!と可愛く小首を傾げてみせた。
(くっそ可愛い・・・
リーネの話は勿論訊くけど・・・サプライズってなんだよ?)
ライキは彼女の可愛らしさにふふふっと微笑みながら尋ねた。
〈えーっ、うーん・・・まだナイショ!
でもね、これだけは今伝える。
フェリシア様のお守りが返ってきたの。〉
ライキはリーネのまさかの発言に驚きから目を見開いた。
(えっ・・・お守りが・・・!?
良かった・・・!!
でもドールズに奪われたんだろ!?
それが一体どうして・・・?)
〈うふふ!
それは再会した時のお楽しみだよ!〉
リーネがクスクスと笑いながらそう言った。
(・・・わかった。
お守りがどうして返ってきたのか・・・さっきのサプライズのこともその時ゆっくり聞かせてくれ。
リーネのヴェノムクリシュマルドを含め、奴等に盗られたもの全てを取り返してチーロに行くから、明日の夜にまた会おう。)
〈うん、スライムカレー作戦頑張ってね!〉
ライキはリーネとのやり取りに癒やされ、彼女とまた会い幸せな時間を過ごすために、必ずスライムカレー作戦を成功させると胸に誓うのだった。
そして次の日の午後─。
ヒューが見事な雷羊を狩ってきたので、ライキはそれを解体し、雷羊肉カレーを作ることにした。
ユーリとヒューとレオンの3人は、ライキが夕食の支度をしている間に団員のパンツを縫うようにとギルロイに命じられていたが、
(ギルロイは最初ユーリだけに命じようとしたが、ヒューとレオンに任せられる仕事が他に無かったので、ユーリが監督しながら二人にもパンツを縫わせるようにと言われたようだ。)
ライキが事前にユーリ達に今日の作戦を伝えていたため、
「どうせ履くことのないパンツなんだし縫っても無意味でしょ。
それよりも銀色狼さんのお手伝いのほうが面白そうだ!」
とこっそりと部屋を抜け出して手伝いに来てくれたのだった。
ライキは彼等に感謝し頭を下げると、リーネに教わったことを思い出しながらカレーライスを作り始めるのだった。
(まずはライスを研ぎ、鍋に水を入れて暫く水を吸わせる。
30分程してライスの粒が白くなったらライスの水を切り、ライスの1.2倍の水を鍋に入れてライスを均し、火にかける。
火加減は最初中火で、時間と共に段々と弱くしていくが、それは他の作業をしながら調整するとしよう。
続いてカレールウを作る。
金獅子が皮を向いてくれた玉ねぎをみじん切りにして飴色になるまでじっくりと炒め、一旦鍋から取り出しておく。
次に鍋にオリーブオイルを少し足し、くし切りにした具用の玉ねぎを入れてしんなりするまで炒め、そこに一口大に切った雷羊肉とローリエの葉(リーネの持ち物から拝借)を1枚投入。
表面に焼き色をつけて肉の旨味を閉じ込める。
更に面取りしたじゃが芋と人参を軽く炒めて塩と胡椒で下味をつけ、さっき取り出しておいた飴色玉ねぎを投入し、水を注ぐ。
鍋に蓋をして、時々灰汁を取りながら具材が柔らかくなるまで暫く煮込む。
その間にポテトサラダを作っておこう。
まず芽を取って金串で何箇所か穴をあけた皮付きのじゃが芋を鍋に入れて水を注ぎ、火にかける。
続いて人参をいちょう切りにし、これも別の鍋で水から茹でる。
人参やじゃが芋のような根菜は、水から茹でるのが料理の基本だとリーネから教わった。
何でも熱湯から茹でると、中まで火が通る前に表面が煮崩れてしまうかららしい。
サラダ用の野菜が煮えるのを待っている間にマヨネーズを作ろう。
マヨネーズならリーネを何度も手伝ったからレシピは頭にあるんだ。
しかしこれは一人では上手く作れない。
材料を入れる係と混ぜる係が必要だ。
混ぜるだけならいくら不器用な金獅子でも出来る筈だから、混ぜる係は奴に任せよう。
まずは分量の卵を割って卵黄だけを取り出し、大きめのボウルに入れる。
卵はアジトで飼っている鶏達が今朝産んでくれたばかりだから新鮮だ!
続いて酢、塩、胡椒を入れて泡だて器で混ぜる。)
「はあっ!?
まだ混ぜ続けろだと!?
意味がわからない!
これでいいのか!?」
(よし、金獅子がシャカシャカ混ぜ続けているこの状態で、油をゆっくりと少量ずつ、回数を分けて注ぐ。)
「まだか!?まだ混ぜるのか!?」
「いいから俺がいいと言うまで混ぜてろ。」
(焦らずゆっくり少しずつ・・・)
「よし!成功だ!」
ライキは嬉しさのあまり疑問符を頭に浮かべたレオンとクロス当てを交わした。
「また腕をぶつけるこれか!
意味がわからない!」
(金獅子がそんなことを言っているが無視して次の作業に進もう。
まだじゃが芋が煮えるまで少し時間があるから、ポテトサラダに入れる玉ねぎを用意しよう。
玉ねぎは芯を横に置き、出来る限り薄く切る。
カレーの具のときは芯を縦に置いて切ったが、サラダに使う時は横向きのほうが辛味が抜けやすくなるからオススメだとリーネが教えてくれた。
それをボウルに入れて水で10分程さらす。
玉ねぎの下ごしらえはこれでOK。
他の具はどうしよう?
リーネはポテトサラダには必ずきゅうりを入れていたが、アジト付近では手に入らない野菜だし、アイテムボックスにはあるかもしれないが、現地調達できない食材を使うのは団員に怪しまれそうだから良くないよな・・・。
何か代用出来るものはないか?
ユーリ君に訊いてみるか。)
「ユーリ君。
きゅうりの代わりになるような野菜ってこの辺に無いかな?」
ライキは火炎鳥に粉末唐辛子を擦り込んで、油でジューーー…と揚げているユーリに尋ねた。
「シャキシャキした食感が欲しいんだよね?
それと緑の色合いと・・・。
それなら青パパイヤはどうかな?
パパイヤは果物だけど、青い実は野菜として使えるんだ。
ヒューに頼んで今日採って貰ってきたのが沢山あるから使ってよ。
はい。」
ライキはユーリから青パパイヤを受け取ると、ユーリに言われたように種を除いてスライスし、玉ねぎのように水にさらした。
(このまま10分くらいさらせばアクが抜けるのだそうだ。)
続けてポテトサラダ用のじゃが芋に火が通っているか、串を刺して確認する。
(よし。
じゃが芋が柔らかく煮えたから、ヒューさんに皮を剥いて潰してもらおう。
包丁が上手く使えない人でもこれなら失敗も少ないからな。)
「わかりました!
このじゃが芋を跡形もなく潰してしまえばいいんですね?
お任せください!
道具(マッシャー)よりも、こうして拳で潰してしまう方がより跡形もなく潰せます!」
と言ってヒューがグリグリと拳でじゃが芋をすり潰そうとしたので、ライキが引き攣り笑いながらそれを制止した。
「あ、いや・・・程々に食感が残っている方が好きな人も居るので、やっぱりマッシャーでやって貰えますか?」
「あ、はい・・・!」
(そうして程良く潰れたじゃが芋に、人参と青パパイヤ、玉ねぎを加え、金獅子が混ぜたマヨネーズで和える。
これでポテトサラダは完成だ。
後はスープだが、俺が作れるのは角イノシシ汁くらいだし、ユーリ君が何か作ってくれているようだしお任せしよう。)
ユーリはヒューに頼んでアジト周辺からたんぽぽの葉と花を摘んできて貰い、マヨネーズを作ったときに余った卵白とドライトマトを使ってササッとスープを作っていた。
(流石ユーリ君。
リーネや兄貴や母さんもそうだけど、料理の出来る人はこういう機転が凄く利くよな・・・。
尊敬する・・・。)
ライキがそう感心しながらカレー鍋を確認すると、具材にいい感じに火が通っていた。
(・・・よし。
肉の臭み抜きに入れておいたローリエをここで忘れずに取り出しておく。
火を弱め、リーネお手性のカレールウを割り入れる。
このルウに使われているスパイスは調理場には無いものばかりだが、きゅうりみたいに形に見えるものではないから、調理場をろくに把握していない奴らに出所を疑われる心配はまずないだろう。
鍋をレードルで混ぜながらルウを良く溶かす。
ルウが溶けたら弱火のままで時々カレーを混ぜつつ5分ほど煮込み、カレーに艶が出て来たら、小鍋にホイと金獅子のぶんのカレーを取り分ける。
小鍋を火にかけ、仕上げにリーネのお手製りんごピューレと蜂蜜を加えて混ぜれば、雷羊カレー甘口の完成だ!
メインの鍋にはそこから更にガラムマサラ、粉末唐辛子を投入し、更に良く混ぜる。
少し味見をしてみて・・・うん、森の青鹿亭カレーの激烈辛に慣れた俺には少し物足りないが、あまり辛すぎても食べられない団員が出て来そうで作戦に支障が出るし、こんなものでいいだろう。
そこからユーリ君とヒューさん、ジャックさんとサムソンさんのぶんをまた中鍋に取り分ける。
そして残りのメインの大鍋には、スライム毒の効果が出るのを遅らせる卵殻粉を全体の3%入れて混ぜ、更にブルースライムを投入・・・。)
ライキが瓶からぷるぷるした青いゲル状のものを、手で掴んで取り出し鍋に投入するのを見て、ユーリが苦笑した。
「本当に入れちゃうんだね・・・!
僕らには無い発想だし信じられないよ!」
「うん。
スライムを加えると、鍋の中の熱ですぐにスライムは死滅するけど、父さんが言うにはその時スライムから出た体液が、料理の味を変えずに食材のアクを素早く分解してくれるらしい。
けど、料理に混ざったスライムの体液自体が人には毒だから、これを食うと普通の人は食あたりを起こすんだ。
普通の人より毒に強いリーネでも嘔吐下痢に40度近くの高熱・・・ばあちゃんの解毒薬がなければ3日は寝込んでいたと言っていたから、常人で解毒薬無しなら5日は寝込むレベルじゃないかな?
だから間違ってもみんな、こっちの鍋のは口にするなよ?
まぁ健康な人なら死ぬことはないらしいけど・・・」
そう説明しながら鍋をかき混ぜるライキ。
「ちょっと待て。
ということはお前・・・リーネちゃんにスライム入りの料理を食わしたことがあるのか!?」
レオンが驚いて声を上げた。
「うん・・・昔にな・・・。
ハント家の男には毒耐性があるらしくて、俺と兄貴は小さい頃から父さんの作るスライム入りの料理を口にしてたけど別になんともなかったから、他の皆も平気なんだと思ってたんだ。
兄貴から最近訊いて知ったけど、俺達でも疲れてる時に食ったら流石に体力を消耗するらしいけどな。
で、俺も父さんの真似して料理にスライムを入れるようになってたんだけど、俺が狩人デビューしてばかりのとき、リーネの薬草採取に付き合って二人共腹が減ったからって俺の飯を毒とは知らずにリーネに食わせてしまったんだ。
そしたらリーネが泡吹いて倒れてさ・・・。
マジであの時はリーネには悪いことをしたと思ってる・・・。」
(まぁリーネはあれが切っ掛けで俺に興味を持ってくれたみたいだけどな・・・)
と昔を思い出して苦笑いするライキ。
「よく許して貰えたな・・・。」
と呆れるレオン。
「ははっ、ホントそれな・・・。
まぁそういうわけだから、俺もスライム入りのカレーを食うよ。
俺が目の前で美味そうに食えば、奴らを油断させられるだろう?」
と笑うライキの言葉にレオンとユーリ、ヒューは、
(本当に大丈夫なのか・・・!?)
と冷や汗を垂らし、顔を見合わせるのだった。
本日の晩餐は、ライキ特製雷羊肉のカレー、ユーリが作ってくれた火炎鳥の辛味フライ、きゅうりの代わりに青パパイヤが入ったポテトサラダ、たんぽぽの葉と花、ドライトマトと泡立てた卵白の浮かんだスープ。
デザートはヒューが狩りのついでに採ってきたというブラックベリーと無花果だ。
「おおーーーっ!
美味そうだなカレーライス!
これよ!オレが求めていた飯はよ!!
この国じゃ見たことのねぇ料理だが、フォレストサイドの郷土料理かぁ?」
とギルロイが配膳に並びながら、既に配膳が済んだ団員のトレーを見てライキに尋ねた。
「いえ、これはリーネ・・・俺のつがいから教わった異国の料理です。
辛いけど暑い日にも食が進むし、スタミナもつくから今日の晩餐にピッタリだと思ったんです。
皆さんが気に入ってくれるといいんですけど・・・」
とライキはギルロイの皿にスライムカレーをよそいながら答えた。
「へぇ、あの嬢ちゃんの直伝かよ!
お前、あの子に早く会いてぇんだろ?
明日チーロに攻め込んだら会えるんじゃね??
・・・そいや銀色狼お前、嬢ちゃんに再会したらどうするつもりなんだぁ?
まさか俺らとはチーロでサヨナラ、嬢ちゃんとまた一緒に旅を続けます、とか言わないよな?
もはや銀色狼はこの団に必要不可欠なんだし、居なくなられたら困るぜぇ!マジで!」
ライキはニコッと営業スマイルを浮かべると、思ってもいない嘘をついた。
「お頭にそう言っていただけるなんて光栄です。
リーネに再会したら・・・そうですね。
俺も盗賊団での暮らしが楽しいからまだ続けていたいし、リーネをいつまでも待たせるのは悪いから、
リーネを説得して教会でつがいの解消手続きを取ろうかな。」
「おっ!
そいつはいいな!
賛成だぜぇ!
つがいの指輪が無効になりゃあ、嬢ちゃんまだ処女だしあの見た目だから闇オークションで相当な高値で売れるぜ!
いや・・・元々は銀色狼の女なわけだし、お前ずっと最後までヤれずに我慢していたんだろ?
それなら処女はお前にくれてやるから、存分に犯し尽くせや!
だが気が済んだら皆にもちゃんと輪姦してやれよ?
大切な兄弟共なんだからな!
そんで全員に輪姦し終えたら闇オークションにかけるが、盗賊団の活動資金の為だし許してくれるよな?
処女でなくなっちまってもあれだけの上玉なら高値で売れる筈だからな!」
というギルロイの下品な言葉に、
「ブラボーーー!
あの可愛い子ちゃんが抱けるのかよ!!
じゃ、オイラ銀色狼の次ね!
いや、お頭の次の3番でもいいぜ?」
「あんな華奢な女、俺っちのマグナムぶっ刺したら壊れちまうんじゃねーの!?
ヒャーッハッハッハッ!」
「俺はああいうロリっぽい娘より、ジャポネのメイドちゃんみたいにおっぱいの大きい品のいい女が好きなんだけどよ~。
やっぱ処女の魅力には抗えねぇな!
是非ともガバガバになる前に、締まりのいい初心な感触を味わいたいぜ!」
「どーせ最初に銀色狼くんがナカ出しすんだろ?
それならいっそのこと全員で種付けしてやろーぜ!
そんで孕んじまって誰の子かわからねーのに産んで、”この子、銀色狼くんの子供よ。フォレストサイドで待ってるから帰って来て、お願い・・・!”なんて泣きながらニュースペーパーで訴えてんの!
それって超ウケね?!」
「バッカ!孕ませちまったら売り物にならねぇから、全員外出しに決まってんだろ!
そんであの空駒鳥ちゃんが快楽堕ちしてどろどろのくっさいザーメンまみれでアヘ顔Vサインしてんの!
カメラがあったら記念撮影してぇ!
わははははっ!」
等と下品な奴らで勝手に盛り上がっていた。
(このカス共・・・!!!
俺のリーネでゲスいことを抜かしやがって・・・
今すぐ切り刻んで魔界ゲートに捨ててやろうか・・・!!!!!
いや・・・笑っていられるのも今のうちだ。
これを食って死ぬ程苦しみやがれ・・・・・)
ライキはそう思ってグツグツと煮え滾るマグマのような怒りを堪え、先程の下品な発言をした男達にスライムカレーをたっぷりと注いだ。
その後ろにはジャック、そしてサムソンが並んでいた。
彼らは今朝方ギルロイによりチーロ襲撃のことを発表された際、”襲撃には加わらないでアジトで留守番をしたい”と希望していたが、
「チーロ出身のお前らがいねーんじゃ勝手が解らねぇだろ!?
いいから参加して案内しろや!
そしたらお前らの家族だけは逃してやる。
お前らが来なけりゃどいつが家族かわかんねーから皆殺しだぜぇ!?
良いのかぁ!?」
とギルロイに脅されており、配膳に並ぶその顔は血の気が引いて青白く、悲壮感を漂わせていた。
ライキは彼等の皿に普通のカレーを注ぎながら、他の団員には聴こえないように声をひそめて言った。
『・・・元気出してください・・・。
大丈夫・・・お二人が心配するようなことにはなりません。
ただ夕食後間もなくトイレの混雑が予想されますので、早めに済ませておくことをオススメします。』
「えっ、銀色狼、それってどういう・・・」
ジャックがそう言いかけると、ライキは唇に手を当ててシーッ・・・と合図した。
ジャックとサムソンは顔を見合わせると、事情をある程度察したのか無言で頷き次の配膳へと進んで行った。
彼等の次にホイが来た。
「ホイさんは辛いの嫌いでしたよね?
この料理は本来辛いのですが、ホイさん用に甘口を用意しましたので安心してください。
甘さが足りなければ蜂蜜をかけてどうぞ。」
ライキはそう言うと、甘口カレーをかけてやった。
ホイは、
「わっふ!甘口っふか?
チョコレートみたいな見た目で美味しそうっふね♪
子犬ちゃん、あっちの席で待ってるから、配膳が済んだらみんなで一緒に食べようねぇ!」
と手を振り次の配膳へと進んで行った。
配膳が済むと、ライキはレオンとユーリ、ヒューと共にホイと同じテーブルに着いた。
ジャックとサムソンもすぐ近くの席にいる。
ギルロイはホールの広場に立つと、一同に向けて高らかに声を上げた。
「野郎共!
明日はいよいよチーロへ襲撃をかける!
チーロで食料をぶん取りゃあオレらの暮らしもちったぁマシになるが、それだけじゃねぇ!
チーロにゃあこの間逃した銀色狼のつがいの嬢ちゃんにジャポネの姉ちゃん、そして赤百合嬢様と、大金になるお宝が待ってるぜぇ!
その金を資本にして、このギルロイ盗賊団は首都フェリシアへと北上し、そこに拠点を移す!
首都にゃあ人も多いが闇も多い!
その闇こそがオレ達の天国だ!
男は金を奪って殺せ!
子供は奴隷としてダルダンテに売り飛ばせ!
女は攫って輪姦して売り飛ばせ!
そしたらオレ達全員永遠にハッピーだ!!」
ライキとレオン、ユーリとヒュー、ジャックとサムソン、ギルロイが言っていることを理解していないホイを除く悪党共は皆、
「「「オーーーーーー!!!」」」
と拳を振り上げ鬨を上げた。
そして、いよいよギルロイ盗賊団での最後の晩餐が始まるのだった─。
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