上 下
48 / 58
8羽 赤百合と旅蜥蜴と盗賊団

⑨無敵の大男の弱点を探し出せ

しおりを挟む
翌日─。
ライキは盗品の剣とボウガンを適当に借りて、見張りのギルロイの手下二人、そしてホイと共にアジトの周辺の森へ狩りに出ていた。
ボウガンは既にアイテムボックスに使い慣れたものが入っていたが、アイテムボックスが手元にあることを手下に知られるとまずいので、盗品を敢えて借りることにした。
(このボウガン、スチール製だけあっていつもの木製のものより重いけど、ちょっとした時に盾として使えそうだし、これはこれでいいな・・・。
銀色狼の弓もダルダンテ神との決戦が終わったらフェリシア様に返すつもりだし、その前に武器屋のヤコブのとこでスチール製のものを新調しておいても良いかもしれないな。
だがこの青銅製の剣は今ひとつだ・・・。
武器庫にあった俺の折られた剣と同様のタイプのものは、どれもこれも刃こぼれが激しかったから仕方なくこいつを借りてきたが・・・おそらく細身の人や女性向けの剣なのだろう。
刃が細く短めで軽く、振った感じが物足りない・・・。
やっぱり昔から使ってるヤコブのロングソードが一番だな。
フォレストサイドに帰ったらすぐヤコブに同じものを打って貰って・・・。
いや・・・この機会に鉄製のロングソードを卒業しても良いかもしれない。
父さんにも、
「ライキ、お前はまだ鉄製のロングソードを使っているのか?
ハイクラス魔獣もしくは弱めのウルトラクラス魔獣の相手ならそれでも何とかなるだろうが、レッドドラゴンや亀王、金剛鳥等のウルトラクラス魔獣と呼ばれる中でも強い奴の相手はとても務まらないぞ。
狩人として高みを目指すならもっと良い武器を使いなさい。
今は寵愛の力や魔法、天界製の武器防具の助けを得られるが、いずれは俺のように人として持てる力だけで奴らの相手をしていかなければならないのだからな。」
と言われていたし・・・ヤコブに相談してみるか。
でも武器庫には身ぐるみを剥がされたときに盗られた俺の装備、それにリーネのヴェノムクリシュマルド、金獅子の黒の剣や鎧は無かったな・・・。
きっと別の部屋に売りに出すまでの間保管されているのだろう。
盗賊団を教会に突き出す前に取り戻さないと・・・。)
ライキがそんなことを考えながらアジト周辺の森を歩いていると、狩人にとっては夏の風物詩とも言える火炎鳥が上空からライキ達を見つけて威嚇の声を上げたので、彼はそっと借り物のスチールボウガンに矢をセットした。
(ちょうどいい獲物が来たぞ。
いつもなら先手を打って矢を放ち仕留める所だが、あいつの放つ火炎がホイに効くかどうかを試したいから、敢えてあっちから仕掛けてくるのを待ってみるか。)
ライキがそう思って相手の攻撃を待っていると、見張りでついてきたうちの一人、ジャックという名のライキより少し年上かと思われるそばかす顔に茶髪のギルロイの手下が、よだれを垂らしながら攻撃を急かしてきた。
「おっ!
火炎鳥じゃねーか!
早く撃ってくれ!
岩鳥なら食ったことあるけどあいつはまだねーし、食ってみてーんだよ!
逃すなよ?」
「ええ、今仕掛けるタイミングを見計らってますので待っててもらえますか?」
ライキがそう返すと、ホイが足元の石を拾ってぶんぶんと腕を振りながら言った。
「あのメラメラ燃えてる赤い鳥を落とせばいーっふよね?
そんならオイラに任せるっふ!」
そしてそれを火炎鳥目掛けて投げ飛ばした!
しかし火炎鳥はヒョイとそれを躱すと、反撃とばかりにホイに向かって急降下し、口を開けて火炎玉を吐き出して来た!
それをモロに顔面から食らうホイ。
(よし!
火の玉が直撃したぞ!
果たして効果はあるのか?)
ライキが実験結果に期待しながらホイを見ると、火はホイの頭に引火することもなくシュウッ!っと音を立てて瞬く間に消えてしまった。
「わっふ!
オイラの皮膚は火も弾くから全然平気っふよ!
カッコいいっふぉ?
オイラに惚れたっふか?子犬ちゃん♡」
ホイがそう言ってライキにウインクをしてみせたので、ライキは青ざめて引き攣り笑いながら返した。
「へ、へぇ・・・火を弾くなんて流石ですね・・・。
でもホイさんのお蔭で奴が近くまで降りてきてくれたから、楽に仕留められます・・・!」
ライキはそう言うと腰に下げた青銅の剣を抜いて、素早く火炎鳥の両羽根を斬り落とした。
そして地面に叩き落された火炎鳥の心臓を刃で突くと、息絶えて燃え盛る炎が消えた火炎鳥の心臓の傷口を刃先でえぐり、赤く小さな魔石を取り出した。
「これが火の魔石です。
この大きさなら売っても精々2G(※日本円で200円)程度なので、風呂を沸かすのとか調理用コンロなんかにセットして使いきったほうがいいと思います。
でもこいつの羽根は防寒着の材料としてそこそこの値で売れますよ。
一羽ぶんで50G(※五千円)くらいかな?」
ライキは捉えた獲物を運ぶための手押し車を押しているもう一人のギルロイの手下、ライキより一回りは年上であろう四角い顔の団員の中でも真面目な性格のサムソンにその魔石と火炎鳥の亡骸を渡すと、今度はホイに向かって言った。
「ホイさんの皮膚、火を弾くと言ってましたけど・・・顔面にモロ直撃してましたし、念のため見せてもらえますか?」
ライキはそう言うとジャックとサムソン、ホイに見えないように事前に服の袖の裏に縫いつけておいたアイテムボックスをこっそりと起動させ、その中から私物の冷気の魔石を一つ取り出した。
そして一度ポケットに手を入れてから、あたかも今ボトムスのポケットからその小さな氷のように透き通った魔石を取り出したかのように皆に見せると、ホイの顔の状態について嘘をついた。
「あっ、近くで見ると少し火傷になってますね・・・。
でもこれくらいなら冷やせば綺麗に治りますよ。
こんなこともあろうかと調理場の冷蔵庫から冷気の魔石を一つお借りしてきてたんです。
これで冷やしておきましょう。」
そしてそれを作動させ、ニコニコの笑顔でホイの顔面に向けてビュウウ~~~!と冷気を放った。
だがホイは冷たがるどころか、
「ふふふ~~~ん♪
ひんやりして気持ちがいいっふ!
もっとぉ~~~子犬ちゃん~~~♡」
と、気持ちの悪い声を出して喜んでいるではないか。
ライキはゾッと背筋を凍らせながらも常人ならば凍傷を通り越して壊死しそうな冷気を暫くホイの顔面に浴びせてみたが、ホイは冷たいとは感じるようだがその皮膚は全く損傷する気配がなかった。
(驚いたな・・・。
火も冷気も全く効かないとは・・・。)
ライキはそう思ってため息をつき、冷気の魔石の作動を止めてポケットに仕舞うが、先程までの冷気の魔石による魔力を感知したのか、今度は近くの茂みから雷羊が飛び出して来た!
雷羊は繁殖期で気が立っているのか、ビリビリと毛に雷を溜め込んでから一気にライキに向けて雷の矢を放って来た!
ライキはそれをサッと躱すと、さり気なくホイを盾にして雷を正面からぶつけさせてみた。
しかし─。
「おっ!?
ビリビリしたおかげでここのところ悩みのタネだった腰痛が楽になったっふ☆
これで今晩はたっぷりみんなを可愛がってあげられるっふ~~~♥
子犬ちゃんも楽しみにしてるっふよ~~~♡♥」
とライキに向けてウインクし、腰を意味深に振ってみせた。
ライキは全身に鳥肌を立たせて顔をしかめるとホイから目を逸らした。
(うわっ・・・気持ち悪っ!
その腰を振るのやめてくれマジで!
・・・つーか、雷でダメージを与えるどころか逆に腰痛が回復するとかまじかよ・・・。
この様子だと他の属性攻撃も奴には無意味だろうな。
後は毒が効くかどうかだが、どうやって試そうか?)
ライキはそんなことを考えながら雷を放出し終えて息を切らしている雷羊を一撃で仕留め、黄色い魔石を心臓から取り出してからサムソンに渡した。
「はい、どうぞ。
雷の魔石は火より価値が高いからさっきと同じくらいの大きさでも1個10G(※千円)くらいですね。
でもこの魔石は普段の生活でさして使いどころもないですし、取っておいても仕方が無いから他の素材と一緒に売ってしまうといいと思います。
角は雄の螺旋角やアモン角なら装飾用として価値があるから良い値がつくんですけど、こいつは雌で角はあっても短くて地味だから、2本セットで精々5G(※500円)程ですね。
そのぶん体毛は魔道具の材料として重宝されますし、この個体は特に若い雌で毛の質も良いから高く売れますよ。
一頭で300G(※3万円)は手堅いですね。」
「さ、さすがハント家だな・・・。
獲物を狩るのも一瞬だし、魔獣の素材の相場についても相当詳しいぞ・・・。」
サムソンはジャックと顔を見合わせてライキの狩りにおける手際の良さと魔獣知識について感心していたが、ライキは彼らの反応を気にも止めずキョロキョロと辺りを見渡すと、剣を鞘に収めてからジャックとサムソンに尋ねた。
「この辺りにはもう魔獣の気配はなさそうですね。
でも火炎鳥一羽と雷羊一匹の肉だけじゃ、盗賊団の皆で食えばすぐになくなってしまいます。
他に魔獣が出そうな場所に心当たりは無いですか?
ワイルドホーンや角イノシシやワイルドベア等、身体が大きくて食える魔獣が一頭狩れればかなりの量の肉が確保出来るし、数日間狩りに出る必要もなくなるから良いんですけど・・・。」
ジャックとサムソンの二人は顔を見合わせて首を捻った。
「うーむ・・・この辺りじゃそんなにデカい魔獣は滅多に見かけないよな?ジャック。」
「そーだな・・・。
ならアジトの近くの洞窟はどうよ?
頭や背中に茸を生やした人くらいの大きさのトカゲが出るだろ?」
「あぁ・・・でもトカゲだろ?
爬虫類だし魔獣には含まれないんじゃないのか?
見た目も不気味だし、食料になんてならないだろ。」
「オレは肉が食えりゃあ何でもいいぜ!」
(茸トカゲが出るのか。
あいつは結構肉が取れるし、上手くすれば毒の実験も出来るかもしれないぞ。)
ライキは一人頷いてから二人に向けて言った。
「そのトカゲは俺等が茸トカゲと呼んでいる奴ですけど、俺たち狩人はスライムのように明らかに動物の形をしてない奴を除いては皆魔獣と呼んでいるので、魔獣扱いでいいですよ。
そしてその茸トカゲですけど食えます。」
「えっ!本当か!?
あの襟巻きか笠かわからん部位があるだろ。
あの裏の赤紫色のヒダヒダ、見てるだけでゾッとするから俺は苦手なんだよ・・・。
あれで食えるとか信じられないんだが・・・」
とサムソンが眉間にシワを寄せながら言った。
「あはは!
あの笠の裏は俺も生理的に受け付けませんね・・・。
でも肉はしっとりときめ細かな舌触りに淡白な味わいで美味いですよ?
魔獣の肉を初めて食べる人にも受け入れやすいと思います。」
「ほぉ、そいつは楽しみだ!
因みに頭や背中に生えてる茸は食えるのか?」
とサムソン。
「茸のほうは個体によって生えてる種類もまちまちですが、椎茸や松茸、えのき茸なんかの食用茸が生えていれば普通に食えますよ。
でも毒茸が沢山生えてる個体が稀にいて、そいつには近づかないようにしてください。
そいつは毒茸トカゲと言って、他の茸トカゲよりも魔獣の危険度ランクが高く、広範囲に広がる猛毒の胞子を吐き出して来ますから。
それを吸い込めば毒に侵されて、解毒せずに5分も放置すれば死亡します。」
「うへぇ~~~おっかねえな!
その毒の奴はやっぱり肉も食えねーのか?」
とジャック。
「いえ、毒茸トカゲも毒を作る器官を丁寧に取り除けば食えますよ。
むしろ毒茸トカゲのほうが肉質が良く、フランの高級料理店でも扱われるくらい人気があるんです。」
「へぇ~~~高級食材かよ・・・!
そいつは是非とも食ってみてぇな!」
「あはは!
もし毒茸トカゲが出たら俺が解体しますし、そしたら皆さんで食えますよ?
でもさっき話した毒胞子も危険だし、素人さんには解体も難しいから、俺が居ないときに見かけても手を付けないほうがいいです。
普通の茸トカゲでも充分に美味いですから。」
「そうか・・・。
他には洞窟内に光る虫も沢山いるが、そいつは食えるのか?」
とサムソン。
「光虫ですか・・・。
食えないこともないですけど、小さくて食うところもそんなにないし、こちらが威嚇しない限りは人を襲うことのない大人しい奴だから、俺等狩人は光の魔石が欲しい時以外は狩りませんね。」
「成る程・・・
そんじゃその美味いトカゲ肉をゲットしに洞窟探検に行くとするか!」 
「おうとも!」
とよだれを垂らしながらジャックとサムソンが言い、ホイもウキウキして巨体を弾ませた。
「みんなで洞窟探検♪わっふわっふ♪」

ジャックとサムソンの案内で連れて来られた茸トカゲの出る洞窟はアジトとして利用されている洞窟のすぐ近くにあったが、アジトよりもずっと奥深くまでその穴は続いているようで、湿気も多くて暗く、道の端にはチョロチョロと水が流れ、壁の至る所に苔が生えていた。
そして直径3cm程の光虫が所々でふわふわと宙を漂ってはライキ達の進む先を照らし出してくれていた。
(成る程、茸トカゲが好きそうな洞窟だ・・・。)
ライキがフォレストサイド西の森にある、茸トカゲの出る似たような環境の洞窟を思い出しながら分かれ道を右に曲がろうとすると、その先で茸トカゲ独特の胞子の匂いがしたので彼はそっと剣を抜いた。
ライキは足音を忍ばせていたが、後に続く3人の足音で洞窟内の侵入者に気がついていたのか、白いエリンギを頭と背中にいくつも生やした茸トカゲが、ボフッ!もくもくもく・・・と、襟巻きをバタバタさせて胞子を撒き散らした!
だがライキはその攻撃に構わず胞子を突き抜けて懐に潜り込むと、その個体の心臓を一気に突き刺して息の根を止めた。
そしてそのまま心臓を抉って小さく黒い魔石を取り出した。
「瞬殺かよ!
流石は銀色狼だな。
で、そいつはなんの魔石なんだ?」
とジャックが尋ねた。
「闇の魔石です。
闇属性の魔獣なら大抵持っている闇を作り出す魔石で、日常生活において使い所は無いですね。
戦闘においては魔獣の頭部に投げつければ闇魔法ブラインドと同様の効果・・・つまり、相手の視覚を一時的に奪うことが出来ますが、こんな小さな石を投げつけたところで視覚を奪える時間が短すぎて使えないです・・・。
しかも闇の魔石を持っている魔獣は多く、一番手に入りやすいごくありふれた魔石なので、売ろうにも値がつきません・・・。
ツヤがあって綺麗だから俺は魔力が漏れないよう加工してから装飾として使ってますけど・・・」
と言ってライキは耳につけた羽根と牙のピアスに付いた黒い魔石を指差して見せた。
「なんだよつまんねーの。
じゃ、そいつは銀色狼にやるわ。」
とジャックが言ったので、ライキはそれをポケットにしまった。
(・・・実はこれは中級狩人に昇格したときに初めて知らされたことだけど、闇の魔石をアイテムボックスに沢山集めて暫く入れておくと、闇の魔石の上位版であるアイテムボックスの廉価版とも言える魔石が生成できるんだ。
そうやって生成された廉価版のアイテムボックスは、俺が父さんから中級狩人になった時に貰ったやつみたいな本物のアイテムボックスと比べるとアイテムを収納できる容量が随分小さいけど、その分本物よりも一桁~二桁安い価格で流通してる。
冒険者ギルドの貸出用とか商人が持ってる容量制限付きのアイテムボックスのほとんどがこれに該当するようだ。
まぁ本物のアイテムボックスは、ハイクラス以上の闇属性を持つ魔獣の激レアドロップアイテムで、正規の売値で100000G(※1000万円)もする最高級品・・・俺も獲物からゲットしたことはまだない・・・。
本物を持ってるのはアイテムボックスの仕入元である俺達中級以上の狩人やハイランクの冒険者の一部、もしくは大金が自由になる大店の商人とか貴族くらいだろうな・・・。
だが闇の魔石から生成された廉価版のアイテムボックスでも一般的な属性の魔石とは比べものにならない高値がつくから、闇の魔石一つ一つでは売値がつかなくとも、俺等狩人にとっては重要な収入源の欠片なんだよな・・・。)
とライキは脳内で闇の魔石について密かに補足を入れた後、続けてジャックとサムソンに茸トカゲについての説明をした。
「こいつに生えてる茸はエリンギだから普通に食えますよ。
他にはこいつの鱗は様々な革製品になり、1体で150G程(※1万5千円程)の値がつくと思います。
この襟巻きの部分は固くて食えないですが、薬の材料にはなるようで・・・」
(リーネが時々勃起障害の薬の材料になるからと言って欲しがるんだよなぁ・・・。
その時俺はキモい裏側を見ないようにして何とか切り取ってるけど、リーネは全然平気な顔してあのキモいヒダを一枚一枚広げながら水洗いとかしてるし、肝が座ってるっつーかなんというか・・・。)
とリーネのことを思い出して苦笑いしつつ続けた。
「まぁでも、普通の市場では値がつかないので捨ててしまっても構わないと思います。」
そしてその獲物をサムソンの手押し車に乗せるためにライキが持ち上げようとすると、横からホイが、
「オイラに任せるっふよ!子犬ちゃん!」
と言ってその大きな茸トカゲを軽々と持ち上げて手押し車に乗せてくれた。
(この大男、ゲイで性欲の獣で、物理攻撃、属性攻撃さえも効かず、敵としては非常に厄介ではあるが・・・こうして普段落ち着いているときには馬鹿だけど優しいし、無害なんだよな・・・。
何とかホイの害のあるところだけを取り除き、ヒューさんを助けられればいいけど・・・。)
ライキがそんなことを思っていると、洞窟の更に奥から、頭と背中に虹色天狗茸(※この世界に存在する紅天狗茸よりも更に強力な毒茸)を生やした毒茸トカゲが、ズンズンズンと足音を立ててこちらへ向かって来るのが見えた。
「まずい・・・あいつは毒茸トカゲだ・・・!
このタイミングで出てきたということは、さっきのエリンギトカゲはあいつのつがいだったか・・・。
毒胞子を食らうと危険だから、ジャックさんとサムソンさんは手押し車を置いて下がってて下さい!」
ライキはジャックとサムソンにそう声をかけた。
「「お、おう・・・わかった・・・!」」
二人が元来た道を戻り充分に距離を取ったことを確認すると、ライキは毒茸トカゲを倒すために再び剣を抜いた。
毒茸トカゲはボフッ!もくもくもく・・・と紫色の毒の胞子を撒き散らしながらライキとホイに向かって歩み来る。
(さっきのエリンギトカゲと違ってこの胞子は猛毒だ。
ハント家の男は毒には強いとはいえ、流石にこいつを吸い込むと毒に侵される。
決して吸い込むわけにはいかない・・・。
まぁリーネが作った毒消しがアイテムボックスにあるから、いざというときはそれで解毒できるが・・・。
今はホイが側にいるし、アイテムボックスを使わずに済む方がいいだろう。
毒胞子が切れた隙を突いて一気に・・・)
とライキが脳内で作戦を立てていると、なんとホイが毒胞子も構わずてくてくと毒茸トカゲへと突き進み、その頭に生えた立派な虹色天狗茸をポキッとへし折ると、むしゃむしゃと食べ始めたのだった!
流石のライキも度肝を抜かれて、目を点にして口をあんぐりと開けた。
「ふぅ~~~・・・
お菓子みたいにカラフルで可愛くて美味しそうに見えたのに、甘くないしちっとも美味しくないっふよ・・・ゲフッ」
と紫色のゲップをするホイ。
「あ、あの・・・・ホイ・・・さん・・・?
その茸、猛毒ですよ?
平気・・・なんですか?」
とライキが引き気味に尋ねた。
「むふっ?
オイラ昔からそこらに生えてる食えそうなもんを片っ端から何でも食っては腹壊したり死にかけたりしてたっふけど、この身体になってからは腹を壊したことは一度もないっふよ!
美味いものにはなかなか巡り会えないっふけどね・・・。
むふー・・・茸の口直しに甘いものが食べたいっふ・・・。
後で果物採ってもいいっふか?」
とホイはなんともない顔で腹をぽふぽふ叩いてみせた。
「は、はい・・・口直しの果物ですね。
了解・・・。」
ライキは冷や汗を垂らしてそう返しつつ考えた。
(まじかよ・・・。
ハント家の男以上の毒耐性とはな・・・。
規格外過ぎてこいつの隙を突くのなんてとても俺等人間には無理なんじゃ・・・。
いや、待てよ・・・?
普通の毒じゃ駄目でももしかしたら・・・。)
ライキは途中で何かを閃いたが、そこで毒茸トカゲの胞子が切れて視界がクリアになったので、一旦その閃きは置いておいて再び剣を構えた。
(その前にこいつを片付けてしまわないと!)
ライキは次の毒胞子の吐き出しに備えて準備をしている毒茸トカゲの懐に潜り込むと、一気にその心臓を薙ぎ払うのだった。

毒茸トカゲを狩り終えたライキ達は、肉はもう充分な量が狩れたので、余った時間でホイの注文通り果物を採取することになった。
そこでライキはジャックとサムソンに見張られる中、先程閃いたことを確認すべく、頭の中のシャドウクローンに意識を向けて、リーネに呼びかけながら果物狩りを行っていた。
〈リーネ、聴こえるか?
相談したいことがあるんだが・・・今大丈夫か?〉
〈あっ、ライキ!
うん、今チーロの村の人のためにお薬を調合しているところなんだけど、お話しながら出来るからいいよ?
どうしたの?〉
愛しのつがいの可愛い声が頭の中に響いてきたので、ライキはほっこりして表情を緩めた。
〈うん。
実は・・・。〉
ライキはパパイヤの木から食べ頃に色付いたものをいくつかもぎ取りながらことのあらましをリーネに説明した。
〈・・・というわけで、今夜こそホイの部屋に呼ばれることになりそうなんだけど、その時こそヒューさんを助けるチャンスだと思うんだ。
だからそれまでにホイの弱点を探ろうと今朝から色々と試してみたんだが、奴には火と冷気、雷の属性攻撃はおろか、虹色天狗茸の毒も効かなかったんだよ・・・。
でもドールズが俺に使った毒がリーネの秘薬のお蔭でゆっくりと解毒されたように、神秘の薬の力が働いた毒なら奴にも効くんじゃないかと思うんだけど・・・・・どう思う?〉
少し間をおいて、リーネの声が返ってきた。
〈うん・・・。
ダルダンテ神の実験によってあらゆる耐性が強化されてるその人が相手だと、神秘の薬の効き目が出るまでにやっぱり時間がかかるとは思うけど、ライキの言うように必ず効く筈だよ!
でも私のポーチは取られなかったから、使えそうな薬や毒はこっちにあるの・・・。
私が護身用に持ち歩いてる対ダルダンテ用のハゲ+不能になる薬なら、確実に夜のホイさんを無力化出来るのに・・・。
どうにかしてライキのところまで届けに行けないかな!?〉
ライキは彼女の言葉に渋い顔をしてこう答えた。
〈いや・・・リーネには会いたいけど、アジトに近付くのは危険だからチーロにいて欲しい。
幸いリーネが俺に持たせてくれた秘薬の残りが手元にあるから、これを奴に使えないかと思って。
これを媚薬や精力増強薬、麻痺毒の類が含まれていない飲み物に混ぜて奴に飲ませれば、一週間は不能に出来るんだろう?〉
〈そっか!秘薬の副作用!
その手があったね!〉
リーネのはずんだ声が返ってくる。
〈うん。
俺等が奴の部屋に呼ばれるのは、多分夕食と風呂が済んだ後だから、夕食に秘薬を混ぜてしまえばいいと思うんだ。
それなら奴の体質的に副作用が出るまで時間がかかっても、呼ばれる頃には効いてくる筈だろう?〉
ライキは今度は梨の木を見つけて登り、美味しそうに色付いたものをもぎ取りそれをホイに渡してからリーネと通信を続けた。
〈うん、そうだね!
でもあの秘薬、糖分には弱いから夕食のメニューによっては効かなくなるかもしれないからそれが心配だよ・・・。
今日の夕食のメニューが何かユーリ君から聞いてない?〉
とリーネ。
〈えっ・・・!
あの秘薬、糖分に弱いのか!?
リリアナ嬢のレモネードには使えてただろ?〉
ライキは冷や汗を垂らし、梨をもぎ取る手を止めて、愛しの彼女に確認した。
〈うん。
リリちゃんの時みたいにコップ一杯のレモネードくらいの糖分なら問題なく働くんだけど、うんと砂糖を使ってるお菓子なんかと一緒に飲むお茶に秘薬を混ぜても、うまく働かなくなると思う・・・。〉
〈・・・そうか・・・。
それだと秘薬を夕食に混ぜても意味がない・・・。
奴は極度の甘党で、夕食のおかず全てに砂糖や蜂蜜を大量にかけて食べる程だとユーリ君が言っていたからな・・・。〉
ライキは梨の木の上で顎に手を当て神妙な顔になりそう答えた。
〈そっか・・・残念・・・・・。
砂糖や蜂蜜をかけられないようにホイさんから取り上げても怪しまれちゃうだろうし・・・。
あっ・・・!
じゃあ、逆に辛いのはどうかな?〉
リーネには何か考えがあるのか、後半は期待を込めて声を弾ませながらそう尋ねてきた。
ライキが渡した梨の実を早くも食べ終えたホイが、
「パパイヤより甘くて美味しいっふ!
もう一個頂戴!」
と手を伸ばして来たので、立派な実をもいで渡してやってからリーネに答えた。
〈辛いものか?
奴は甘党なぶん、辛いのは酷く苦手だとユーリ君が言っていたけど・・・。
だから一応唐辛子を採って帰って、こっそり唐辛子爆弾でも作って隠し持っておき、いよいよ掘られそうになったときにでも御見舞いしてやろうかとは思ってたけど・・・それがどうしたんだ?〉
〈ライキ、その唐辛子爆弾使えるよ!
私に良い考えがあるんだけど、聞いてくれる?〉

ライキは果物採取のついでに今夜の作戦の要となる唐辛子をこっそり採ってアイテムボックスにしまうと、ユーリへの手土産にライキが知っている食べられる野草を幾つか採り、ホイ、ジャック、サムソンとともにアジトへ帰った。
そして借りていた武器を返したあと、ホールでユーリの用意してくれていた昼食を食べてから、アジトの外の石の作業台を借りて毒茸トカゲを始めとした本日の獲物を捌いていた。
その際、近くにあった物干し竿に、シーツやシャツ等の洗濯物達がなんとも不格好に干されている姿が目に入った。
(これ、もしかしなくても金獅子の仕事か・・・?)
と苦笑いしていると、シーツに隠れるように干された、まだらに穴の開いた大量のトランクスやブリーフを発見した。
(なんだこの穴の開いたパンツたちは・・・!)
とライキが冷や汗をかきながらそれを見ていると、レオンがそっと調理場と繋がっている小さな扉を開けて、辺りにライキ以外の人がいないことを確認した後、ササッとライキの近くにやってきて慌てながらこう言った。
「銀色狼!
このパンツに開いた穴、元に戻す方法はないか!?」
「やっぱりこれ、あんたの仕業だったか・・・。
つーか、何をどうしたらこうなるんだよ・・・」
と呆れてため息をつくライキ。
「洗濯をしろと団員に頼まれた・・・。
このアジトには洗濯器がなく、やり方がわからないとユーリに言ったら、手本としてシーツや服を洗うのはやってくれたんだ。
だが後は忙しいからとパンツは僕に任されたんだが、むさ苦しい野郎のパンツなんか触りたくないだろう?
だからブルースライムに任せてみたら、一瞬でこうなった・・・。」
「ブルースライムは有機物なら何でも食うんだからそりゃそうなるよ・・・。
つーか、流石にこれは直しようがないぞ。
他の布で繕うにしても枚数が多すぎる。
倉庫に予備のパンツなんてそう何枚もないだろうし・・・。」
「なんだって!?まずいぞ・・・。
ギルロイにバレたらヒューの二の舞いだ・・・!
嫌だ嫌だ!
あんな奴のペットになんてなりたくない!!」
レオンはそう言って頭を抱え込んた。
「・・・大着してブルースライムにやらそうとして団員の下着を駄目にしたんだから、そうなったとしても自業自得としか言いようがないな・・・。」
「何だと!
僕を置いて自分だけ狩りに出ておいて何を・・・!
家事スキルのない僕を一人にしたんだから、責任取って助けろ銀色狼!」
レオンはライキの襟首を掴み、理不尽な要求を必死に迫った。
「いや・・・あんたに留守番だと言ったのはギルロイであって俺じゃないし、俺に責任を求められても困るんだが・・・。
まぁあんたがペットにされてここに縛り付けられでもしたら、モニカさんが大層心配するだろうし、助けなければいけない対象が更に増えるのは厄介だ。
そうならなくて済むよう出来るだけの手助けはしてやるから、まずは今夜のヒューさん救出作戦を成功させることを考えよう。
作戦によりあんたの失敗がギルロイにバレる前にホイの無力化に成功すれば、ホイのペットにはされずに済むだろうしな。
その後に下着を駄目にしたことがバレて他のお仕置きはされるかもしれないが・・・それは後で考えればいい。」
と、ライキはレオンの肩を叩いた。
「・・・狩りのときに奴の弱点を探すと言っていたが、今夜作戦を決行出来るような弱点が何か見つかったのか・・・!?」
レオンは期待と不安が入り混じった顔を上げてライキに尋ねた。
「残念ながら色々と試してみたけどホイの弱点は見つけられなかった。
でも幸いリーネが良い案を考えてくれてな。
それで何とかなると思う。
だからあんたも協力してくれ。」
「リーネちゃんが・・・?
わかった・・・。
僕は何をすればいい?」
と真剣な顔になるレオン。
「まずこの穴の開いたパンツどもは跡形もなくブルースライムに食わせて証拠隠滅したほうがいいな。
それで団員に「洗濯に出したパンツはどうした?」と追求されても、知らぬ存ぜぬを通すんだ。
証拠が無ければ今日一日くらいあんたの処罰は免れるだろ。
後はそうだな。
今やってる毒茸トカゲの解体は、他の獲物よりもデリケートだから時間もかかるし、その間に調理場でこの唐辛子をすりおろし、小麦粉と水少量で練り合わせて団子にしておいてくれると助かるかな。
ユーリ君に聞きながらやればあんたでも出来ると思う。
頼めるか?」
ライキはそう言って先程採った唐辛子を2本レオンに手渡した。
「わかった。
今夜の作戦、何としても成功させるぞ。」
レオンはそれを受け取りそう答えるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

みられたいふたり〜変態美少女痴女大生2人の破滅への危険な全裸露出〜

冷夏レイ
恋愛
美少女2人。哀香は黒髪ロング、清楚系、巨乳。悠莉は金髪ショート、勝気、スレンダー。2人は正反対だけど仲のいい普通の女子大生のはずだった。きっかけは無理やり参加させられたヌードモデル。大勢の男達に全裸を晒すという羞恥と恥辱にまみれた時間を耐え、手を繋いで歩く無言の帰り道。恥ずかしくてたまらなかった2人は誓い合う。 ──もっと見られたい。 壊れてはいけないものがぐにゃりと歪んだ。 いろんなシチュエーションで見られたり、見せたりする女の子2人の危険な活動記録。たとえどこまで堕ちようとも1人じゃないから怖くない。 *** R18。エロ注意です。挿絵がほぼ全編にあります。 すこしでもえっちだと思っていただけましたら、お気に入りや感想などよろしくお願いいたします! 「ノクターンノベルズ」にも掲載しています。

【R18】カッコウは夜、羽ばたく 〜従姉と従弟の托卵秘事〜

船橋ひろみ
恋愛
【エロシーンには※印がついています】 お急ぎの方や濃厚なエロシーンが見たい方はタイトルに「※」がついている話をどうぞ。読者の皆様のお気に入りのお楽しみシーンを見つけてくださいね。 表紙、挿絵はAIイラストをベースに私が加工しています。著作権は私に帰属します。 【ストーリー】 見覚えのあるレインコート。鎌ヶ谷翔太の胸が高鳴る。 会社を半休で抜け出した平日午後。雨がそぼ降る駅で待ち合わせたのは、従姉の人妻、藤沢あかねだった。 手をつないで歩きだす二人には、翔太は恋人と、あかねは夫との、それぞれ愛の暮らしと違う『もう一つの愛の暮らし』がある。 親族同士の結ばれないが離れがたい、二人だけのひそやかな関係。そして、会うたびにさらけだす『むき出しの欲望』は、お互いをますます離れがたくする。 いつまで二人だけの関係を続けられるか、という不安と、従姉への抑えきれない愛情を抱えながら、翔太はあかねを抱き寄せる…… 托卵人妻と従弟の青年の、抜け出すことができない愛の関係を描いた物語。 ◆登場人物 ・ 鎌ヶ谷翔太(26) パルサーソリューションズ勤務の営業マン ・ 藤沢あかね(29) 三和ケミカル勤務の経営企画員 ・ 八幡栞  (28) パルサーソリューションズ勤務の業務管理部員。翔太の彼女 ・ 藤沢茂  (34) シャインメディカル医療機器勤務の経理マン。あかねの夫。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【R18 】必ずイカせる! 異世界性活

飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。 偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。 ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。

体育教師たちやお医者さまに特別なご指導をしてもらう短編集

星野銀貨
恋愛
リンク先のDLsiteに置いてある小説のエッチシーンまとめ読みです。 サークル・銀色の花で色々書いてます。

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

処理中です...