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8羽 赤百合と旅蜥蜴と盗賊団
⑧銀色狼と金獅子 盗賊団初日のお仕事
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「ヒューの救出について作戦を立てる前に、まずは僕のことを話しておくよ。
その方が君達がこの盗賊団で生活して行く上で、連中との認識の差が出なくて済むだろうしね。」
ユーリが最初にそう切り出したので、ライキとレオンは頷いた。
「僕の本名はユーリ・フューダルロード。
冒険都市エングリア一帯を収める領主の末の息子で、通り名は旅蜥蜴。
その名の通り8歳の頃から冒険者ギルドに登録して年中旅ばかりしているよ。
現在12歳で冒険者ランクはA。
冒険者の職業は槍術士だけど、うちは魔力の高い家系だから、魔法が衰退化したこの時代には珍しく光と土の魔法もサポート程度には使えるんだ。
でも冒険者の任務での旅とは別に、神使ヴィセルテ様の遠い血縁という縁もあって、あの方のお手伝いのようなことも時々させてもらってる。
あ、でも今回の盗賊団潜入は神使様の指示ではなくて、完全に僕の独断で動いた結果だけどね・・・。
旅の最中でギルロイがこの街道で現れたと聞いて、きっとまたリリちゃんを狙うと思ったから居ても立っても居られなくて、その前に盗賊団を壊滅させようと潜入を決めたんだ・・・。
その結果ヒューも巻き込んでしまったし、君達の手も煩わせてしまうことになって、本当に申し訳なく思ってる・・・。」
ユーリはそう言って二人に深く頭を下げた。
「いや、顔を上げてくれよユーリ君・・・!
君の気持ちはよくわかるよ・・・!
俺だってリーネ・・・俺のつがいを狙う奴がいるとわかったら動いていたと思うし・・・。」
とライキは眉を寄せながら深刻な表情で言った。
「フン・・・。
確かに僕は完全に銀色狼の巻き添えだが、この件に関してもそれ相応の成功報酬が出るんだろう?
それなら別に構わない。」
とレオンのほうは少々ぶっきらぼうにそう言って、照れ隠しなのか髪をかき上げた。
「ありがとう、二人共・・・。
それでここに潜入するに当たり、僕の身分を奴らに知られたら面倒なことになるから幾つか嘘をついている。
それを君達に話しておくよ。
僕とヒューは最初わざとみすぼらしい格好をして、
「盗賊団に憧れているから入団したい」と言ってギルロイに近づいたんだけど、ギルロイに、
「お前、汚ねー格好してても妙な品格がある・・・。
実は何処かの貴族じゃねーか?」
と疑われてしまってね・・・。
だから元は貴族だったけど、家が没落して両親は自殺し、今は物乞いをやってる。
ヒューとは同じ物乞い仲間で兄のような存在だと嘘をついてるんだ。
まぁヒューが兄のようだと言うのは本当のことだけどね。
本当はヒューをこの件に巻き込むつもりはなかったけど、僕を一人で盗賊団にやるのは心配だと言って付いてきてくれたんだ。
僕の通り名は、昔リリちゃんがギルロイに攫われて売られた先の貴族から助け出した経緯から、もしかしたらギルロイに知られているかもしれないと思ったから、ここでは通り名はまだないと言って、一般にまだ公開していない本名のユーリを名乗ってる。
だからもし盗賊達と僕たちの話になったら、そういう設定で話をあわせてくれるかな?
よろしく頼むよ。」
「うん、わかったよ。」
「・・・了解した。」
ライキとレオンは同時に頷いた。
「それで、これからどうするかについてなんだけど、ヒューをホイから開放するためにはまず、二人にはヒューのように首輪をつけらることのないように振る舞って貰う必要があると思うんだ。
君達まで行動の自由を奪われてしまったら、ヒューの救出どころじゃなくなるからね。」
と眉を寄せながらユーリが言った。
「あぁ、あの首輪のこと気になってたんだ。
俺等もホイのペットとしてここに連れてこられたから、服の支給と一緒にヒューさんみたいに首輪で拘束もされるのかと覚悟したけどそんな様子もないし・・・。
何故ヒューさんだけが首輪を?」
ライキがユーリに尋ねた。
「それはヒューがお頭・・・ギルロイに気に入られなかったことが大きいと思う。
ヒューは格闘家として優秀で戦闘ではとても頼りになるんだけど、性格が真面目で融通が効かないところがあるからか、盗賊達と馴染めなかったんだ。
それと、彼に家事スキルがなかったことも大きな要因かな。
盗賊団の新入りはアジト内の掃除や団員の衣服の洗濯、料理などをやらされるんだけど、ヒューはあまりそういった仕事が得意じゃなくて、普段の旅の間も僕が料理や洗濯を担当していたんだ。
その為ヒューは新入りに与えられた仕事が満足にこなせず、ギルロイに役に立たないとみなされてしまい、
「使えないのならせめてホイのご機嫌取りでもしてろ!」
と言って、ペットとして常にホイと同じ部屋で過ごすようにと命じられてしまったんだ。
だけどヒューにはそれが耐えられなくて、何度か逃げ出そうとしたから遂に拘束までされるようになってしまった・・・。
まぁあんな男色家の大男と同じ部屋に押し込められて好きにされるなんて逃げ出したくもなるだろうけどね・・・。
逆に僕は料理や洗濯ができたから比較的扱いが良いんだと思う。
夜伽は僕がまだ子供だからというのと、ヒューが身体を張って僕にホイの興味が向かないようにしてくれているからか、今の所無しで済んでいるよ・・・。
つまりはある程度盗賊団の役に立ってお頭に気に入られてさえいれば、そこまで酷い扱いはされないと思うんだよ。
まぁ君達美男子だから、夜になるとホイの部屋に招かれたりはするだろうけどね・・・。」
そう言ってユーリは苦笑いをした。
「なるほどな・・・。
俺は父さんに一人で何でも出来るように教育されたから家事はなんとかなるかな・・・。」
(料理以外はな・・・。)
と脳内で密かに補足を入れるライキ。
「でも金獅子、あんたはちょっとまずいんじゃないか?」
ライキがそう言って眉を寄せながらレオンを見ると、レオンは汗を飛ばして声を荒らげた。
「な、何だと!?」
「いや、あんた酷く不器用で、テントも相当な出来だったし、料理も洗濯も掃除も全部モニカさん任せで今までしたことなんて無かっただろう?」
「・・・・・。」
その通りだったのかレオンは無言で俯いた。
「まぁ、俺も出来るだけあんたのサポートはするつもりだけど、盗賊達への態度も気をつけたほうがいいぞ?
あんた、男には特に悪印象を与えやすいから。
人当たりが良く友人も多いユデイでさえオレンジ・スパでの一件以来あんたのこと嫌ってしまってたし・・・。」
はぁ・・・と呆れたようにため息をついて首を左右に振るライキにレオンはまた声を荒らげた。
「何だと!?
お前は僕に喧嘩を売っているのか!?」
そんなことを話していると、ギルロイがひょこっと通路から顔を出したので3人はギョッとして軽く目玉を飛び出させた。
「おい、お前らいつまでやってる?
さっさと仕事に入りやがれ。」
そこでユーリがサッと盗賊の悪ガキらしい顔になってフォローした。
「あ、お頭サーセン!
新入りにここでのルールとか色々と教えてたら何か二人が言い争いを始めちまって・・・。
すぐに仕事をさせますんで!」
ライキとレオンはユーリのあまりの切り替えの早さに感心した。
ユーリの名演技のお蔭か、ギルロイは3人の会話内容を特に疑うこともなかったようだ。
「ふぅん、そうかよ。
まぁルールを教えるのも結構だけどよ、ここんとこ獲物の張り込みで留守が多かったし、掃除が行き届かずあちこち汚れちまってるんだよなぁ・・・」
そう言って洞窟の壁沿いに置かれた棚に指をつけて人差し指についたホコリをフッ!と吐息で吹き飛ばすギルロイ。
「そのうえ手下共もほとんど銀色狼に負傷させられちまって使い物にならねぇんだしよ。
喋ってる時間があったら手を動かせや。
俺はこう見えて綺麗好きなんだからしっかり頼むぜ?新入り共。」
ギルロイはそう言って去って行った。
「・・・ま、そういうことだから仕方がない。
作戦会議は夜仕事が終わってから僕ら新入りに与えられた部屋で行うとして、まずは掃除を頼んでいいかな?」
とユーリが申し訳無さそうに二人に向かって手を合わせた。
「うん、わかった。
何処を掃除すればいい?」
「そうだな・・・。
今日はもう15時過ぎてるからアジト全部は流石に無理だよね。
なら風呂場の掃除が最優先かな?
僕ら留守番組だけでは風呂場の掃除まで手が回らなくて、かなり汚れているし大変だと思うけど・・・。
というか、僕はあの汚い風呂を使いたくなくて調理場で沸かした湯で身体や髪を洗ってたくらいだからね・・・。
風呂が綺麗になったら湯も新しく張り直しておいてくれるかな?
それが終わったら次はみんなで食事をするホールの掃除もお願いしたいんだ。
あ、ホールはさっき君達が紹介されたアジトで一番広い部屋のことだけど、ここは僕がある程度掃除してるから、テーブルを拭いて床をざっとモップがけするくらいでいいと思う。
他にはトイレもピカピカに出来てたらお頭からかなり高い評価を得られると思うけど、風呂掃除だけでも大変だと思うから・・・無理はしないでね。
僕はこれから洗濯物を回収して畳んで皆に配ったあと、夕食の支度に取りかからないといけないから君達を手伝えそうもないけど・・・。
夕食が出来るまでにお願い出来るかな?」
とユーリが苦笑いしながら言った。
「あはは、なかなかハードだけど金獅子と二人で何とか頑張ってみるよ。」
ライキはそう言って腕まくりをしてみせた。
ライキとレオンは髪が落ちてこないようにユーリから渡された三角巾をしてからユーリと手を振り別れると、まず風呂場の掃除から取り掛かった。
風呂場は洞窟内の壁や地面をそのまま利用して作られていて、換気のために人一人が通り抜け出来そうな大きさの穴が上部に数カ所開けられており、地面にはタイルが敷かれて排水のための溝が掘られていた。
浴槽は大所帯が利用するためか、2.5メートル程の幅と大きめで、材質はタイルを接合剤で固めて作られたものだった。
その浴槽は何日も掃除せずに湯を継ぎ足して使っていたのか、水位のラインで湯垢がごっそりとついており、張られたままの冷めた湯も濁ってうっすら生臭い匂いがした。
床のタイルも汚れて所々茶色く変色しており、ライキとレオンはその酷い有様に顔をしかめた。
「これは酷いな・・・。
本当に綺麗になるのか?」
レオンがライキに尋ねた。
「普通にやってたら他の場所の掃除もあるから時間までには終わらないだろうな。
だから奴等に手伝ってもらおう。」
ライキはそう言うと移動の力を使って自分の胃に隠したアイテムボックスの魔石を自分の手のひらに瞬間移動させて取り出した。
「なっ・・・!?
銀色狼、お前アイテムボックスをどこに隠し持ってやがった!?」
それを見ていたレオンがびっくりして突っ込んだ。
「あぁ・・・盗られたら困るから、身ぐるみを剥がされる前に寵愛の力を使って胃の中にこのピアスを移動させておいたんだ。」
ライキはそう言いながら蛇口から水を出してそのピアスを洗った後、亜空間を描き出してガラス瓶を幾つか取り出した。
それには青くてプルプルとしたゲル状のものが詰められており、ライキはそれを数個掴んで浴槽の中に放り込み、更に床の上にもばら撒いた。
するとその青いプルプルが自ら汚れを求めて這うように動き、彼らが通過した箇所は汚れが分解されてすっかり綺麗になっていた。
「この青いのはまさか・・・ブルースライムか!?」
レオンが度肝を抜かれて口をパクパクとさせながら尋ねた。
「あぁ、うん。
奴ら有機物なら何でも食って水として排出するから、こういう使い方もできるんだよ。
汚物処理にいちいち浄化の魔石を使ってたら馬鹿にならないから、俺達狩人はブルースライムを代用したりするんだ。
餌を食ってデカくなったぶんはこうやって潰せばいいし・・・。」
ライキはそう言って汚れを食べて大きくなりすぎた一体のブルースライムの白く丸い核をデッキブラシの柄で突いて潰した。
するとブルースライムは粉々に砕け散り、あっという間に溶けて無くなった。
「・・・なるほど・・・。
それなら僕達の仕事は、食い過ぎてデカくなったスライムを潰すだけか?」
まだ呆気に取られながらもレオンはライキに確認した。
「あぁ、この風呂場が綺麗になるまではな。
綺麗になったらスライムをこうやって削って・・・」
と言ってライキは近くにいたスライムの核以外のぷるぷるしたところをデッキブラシの柄で突ついて見せた。
すると本体から剥がされた小さなぷるぷるの中心にやがて白く小さな核が産まれた。
「核以外を攻撃してもスライムは消滅せず、千切れた欠片の中にまた新たな核が生まれて別の個体となる。
こうして生まれた小さなスライムをまた瓶に詰めておくんだ。
すると次回にまた使えるからな。
後は綺麗になった浴槽に湯を張るだけだ。
ここの風呂は魔石で湯を作るタイプだから良かったよ。
薪で沸かすのは時間も手間もかかるからな。」
ライキはそう言いながらまた大きくなったスライムを一体潰した。
「見てないであんたも手伝えよ。
家事スキルはなくても魔物退治なら出来るだろう?騎士さん。
それとも白の剣がないとスライム退治さえも無理なのか?」
「・・・馬鹿にするな。
それくらい・・・!」
レオンはそう言うと近くにいたスライムの核をデッキブラシの柄で突いて潰した。
「やるじゃないか。
じゃあそっち半分は任せたぞ?
あ・・・そういえばあんたの折れた白の剣だが、ギルロイが気絶しててあんたが放心状態になってる間にホイの目を盗んで俺のアイテムボックスに回収しておいたぞ?
任務完了後に渡すから。」
「・・・!?
なんだってそんなことを・・・」
レオンが思わずスライム退治の手を止めて振り返り、ライキに尋ねた。
「いや、だってあんたの大事な剣なんだろう?
どうにかして直せるかもしれないし。
この任務が終わってフォレストサイドに帰ったら、俺の幼馴染の武器屋に直せそうか聞いてみるよ。」
「・・・無理に決まってる。
あれはラスター・ナイトが愛用していたアデルバートの神使様が作られし業物で、先祖代々受け継がれてきたナイト家の証たる剣なんだぞ・・・。
そこらの鍛冶屋でどうにかなる代物じゃない・・・。」
レオンはそう言うと表情を陰らせて肩を落とした。
(アデルバート神国の神使様の剣か・・・。
もしかしたら銀色狼シリーズを作ってくれた人と同じかもしれないな。
だとしたらフェリシア様に訊けば何かわかるかも・・・)
ライキは真剣な顔でそう考えると言った。
「わかった。
今度フェリシア様と話すとき、その剣を直せる人に心当たりが無いか訊いてやるよ。」
「・・・・・!!
・・・いや・・・でも・・・それは・・・・・
お前の神に恩を作るわけには・・・・・」
レオンは冷や汗を沢山かいてしどろもとろになりながらそう言った後、俯いて唇を噛んで黙り込んだ。
「じゃあその左手の印を与えた神に頼れるのか?」
「・・・・・・・」
ライキの問いにレオンは黙って頭を左右に振った。
「なら、訊くだけ訊いてみれば良いじゃないか。
フェリシア様との話のついでにちょっと話題に出す程度だし、気にするほど恩を感じることでもないと思うが・・・。
フェリシア様の答えを知ってどうするかはその時改めて決めればいい。」
ライキがそう言って軽く微笑むと、レオンは暫く考え込んだのち、消えそうな小さな声で微かに言った。
「・・・・・・・・・・よろしく頼む・・・・・。」
「・・・了解した。」
ライキはクスッと微笑むとまたスライムを潰した。
レオンはまだ俯いたままでスライムを潰すことも忘れて黙り込んでいたが、やがてこんな言葉を紡ぎ出した。
「銀色狼・・・。
この国の民でない者が、フェリシア神国で国籍を手に入れるためにはどうすればいい・・・?」
ライキは予想外な彼の言葉に驚き軽く目を見開いた。
「・・・国籍・・・?
あんた、この国の民になりたいのか?」
「い、いや・・・!
モニカがそんな話をしていたから少し訊いてみただけだ!
訊くだけなら恩に感じる程のことでもないんだろう?」
「あはは!そうだったな!」
ライキはそう笑うと奇跡の退治屋の二人のことを思い出しながら続けた。
「異国の人がこの国の国籍を得るには、冒険者ランクがA以上になる、もしくはこの国の成人した者二人に保証人になってもらえばいい。
冒険者ランクAには、地道に任務をこなして登録を維持していけばあんたの強さならなれるだろうが・・・それは不安定な国籍だからな・・・。
何かトラブルがあってランクダウンしたり、負傷して冒険者登録を維持するノルマを達成出来なかったりすれば、その地点で国籍が失われ、元の国へと強制送還される。
だからオススメは保証人を二人用意するほうだな。」
「保証人を二人も・・・・・。
引き受けてくれそうな知り合いがいない僕たちには無理じゃないか・・・・・。」
レオンはそう言って悲しげに眉を寄せて俯いた。
「・・・あんた、今16だよな?」
ライキが尋ねた。
「・・・?
そうだが・・・」
「誕生日はいつだ?」
「・・・7月17日・・・。」
レオンが答えた。
「7月・・・?
あぁ・・・7番目の月・・・この国で言うところの燕月か。
それなら俺は4月16日で成人し、リーネは5月10日で成人するから、その後で良ければ俺ら二人が保証人になってやるぞ?」
「えっ・・・あっ・・・・・・・・」
ライキの思わぬ提案にレオンは頬を赤く染めて言葉を詰まらせた。
「何だよ・・・俺らじゃ不服か?」
ライキが拗ねたように唇を尖らせた。
「い、いや・・・・・・。
そういうわけでは・・・・・
お前がそんなふうに言うとは思わなかったから・・・・・・・・。」
レオンはそう言った後に放置して大きくなりすぎて分裂してしまったスライムを一気にまとめて潰してからまた口を開いた。
「じゃあ、もう一つだけ訊く・・・・・。
元異国民でも・・・その・・・つがいに、なれるのか・・・・・?」
(・・・金獅子がモニカさんとつがいに・・・・・?
師匠がモニカさんの説得により金獅子の頭の中の天秤がかなりこちら側に傾いたと言っていたが・・・・・そうか・・・・・。
それならこいつのこの気持ち・・・大切にしてやりたいな・・・・・。)
ライキはそう思って柔らかく微笑むと、また一体スライムを潰してからその問いに答えた。
「リーネの曾お爺さんはジャポネの人だったけど、ばーちゃん・・・リーネの曾お婆さんとつがいになれてたから、国籍をフェリシアに移した後ならそれも可能だと思う。
けどいいのか?
あんたとモニカさんは最後までしていた仲なんだろう?
あんたたちがつがいになって誓約を守るのは、たとえ歳下のあんたが成人するまでの短期間であっても、俺等よりもきついんじゃないか?
・・・成人するまでのセックスお預けに耐えられるのか・・・?」
ライキが言うと、レオンは渋い顔をして答えた。
「・・・・・正直、モニカとの行為でのあの快楽を知りながら、それを我慢出来るかはわからない・・・・・。」
その後、彼女の姿を頭に思い浮かべたのか、レオンは穏やかに微笑みながら続けた。
「だが・・・モニカに今まで不安な思いをさせてきたぶん、僕なりの誠意を見せたいんだ・・・・・。」
ライキはそんな彼に対し、
「そっか・・・。
あんたが本気なら応援するよ。」
と柔らかく微笑むのだった。
そんな会話をしつつ風呂掃除と支度を無事に終えた二人は、続けてホールの掃除に取り掛かった。
ホールは団員達の目に触れやすい場所なのとスライムに任せるには適さない木のテーブルと椅子が使われていたため、ライキがレオンに指示をしながら手を動かした。
レオンがベチャベチャの台拭きでテーブルを雑に拭いていたので、ライキが耐えかねて、
「あぁもう・・・台拭きはもっと固く絞れよ!
あちこちに吹き残しもあるからやり直せ!」
と注意すると、
「お前はいちいち細かいんだよ!
小姑か!」
と、うざったそうに顔をしかめて抗議されはしたが、その後は言われたことを彼なりに改めていたので、ライキは少々大袈裟に褒めてやった。
するとレオンは耳まで真っ赤にして狼狽えるので、ライキはそれが可笑しくて腹を抱えて笑うのだった。
ホールはユーリが普段から掃除をしていると言っていたがその通りでしつこい汚れなどもなく、然程時間もかからず綺麗になった。
時間がまだあったので、二人はトイレ掃除も行った。
トイレは全部で3箇所あり何処もそれなりに汚れていたので、人目がつかないよう清掃中だと札を立ててから、スライムに手伝って貰った。
そうして銀色狼と金獅子は、盗賊団に入って初めての仕事を完璧にこなすことが出来たのだった。
「ほぉ・・・新入り共やるじゃねぇか!」
夕食の時間が近付き部屋から出てきたギルロイが無精髭を撫でながらライキとレオンの仕事を確認していたが、その完成度の高さに感心し、
「 良いやつが仲間に入った!」
と上機嫌になった。
そして、
「褒美といっちゃなんだが、今夜はお前ら二人をホイの夜伽にやらねーでおくから、今晩は早く休んで明日もまた頼むぜ!」
と言った。
(よし!
これでヒューさんを救出するための作戦を立てる時間が出来たぞ!)
ライキは心の中でガッツポーズを取った。
夕食の時間─。
食堂も兼ねているホールには殆どの盗賊たちが揃って席についていたが、ホイだけはペットとお楽しみ中だとかでその場にいなかった。
「ユーリ。
ホイとヒューのぶんの食事を後で持って行ってやれや。」
とギルロイ。
「へい!お頭・・・。」
ニコッと笑ってそう返事をするユーリだったが、その表情には隠しきれない心配の色が濃く潜んでいた。
(今日俺と金獅子がホイの餌食にならずに済むということは、ヒューさんが更に追い込まれるということでもあるよな・・・。
明日には何とか助けてあげないと・・・。)
ユーリの顔を見ながらライキはそんなことを思い、口元を引き結ぶのだった。
その日の夕食はユーリが作ったじゃが芋と人参と玉ねぎと茸を干し肉を戻した出汁で煮込んだシチューにカリカリのプライドポテト、副菜に人参のキッシュ、そして主食はパンのかわりのマッシュポテトとじゃが芋中心のメニューであり、デザートとして近くの森で採れたらしいパパイヤのようなフルーツが盛られていた。
どの料理も食材は素朴ながらも上品な味付けで、ライキはとても美味しいと思ったが、
「まぁたじゃが芋かぁ!?
肉はこれっぽっちかよ!
もっと肉を食わせろや!」
とギルロイを始めとした盗賊達からは不満の声が上がっていた。
「しょうがないっしょ!?
食料庫にじゃが芋と人参と玉ねぎ、それに干した肉くらいしかもう無いんすから・・・。
茸は僕がアジト内で育てたやつだし・・・。
文句言うなら村まで行って牛でも豚でもアヒルでもいいから肉を仕入れて来て下だせぇよ!
出来れば緑の野菜も!」
ユーリが盗賊口調でそう言い返した。
「あー・・・俺含めほとんどの奴がここいらの村には顔が割れちまってるからなぁ・・・。
今日襲った赤百合様の馬車にも食料は積んで無かったしよぉ。
かといってまだ顔の割れてねぇ新入りのお前らを村へ仕入れに向かわすのは信頼がおけねぇしな・・・」
ギルロイはそう言うとユーリとライキ、レオンの3人をチラッと横目で見ながらため息をついた。
そこでライキが挙手した。
「なんだ新入り。
何か意見があるなら言ってみな?」
「はい、お頭。
家畜肉の仕入れが難しいのなら、この辺りに出る魔獣を食用にしたらどうですか?」
「はぁ!?
魔獣の肉なんか食えるのか!?」
とギルロイが怪訝な顔をした。
「食えるやつも結構いますよ?
フォレストサイドやフラン、エングリアでは普通に食いますけど・・・この辺りでは食わないですか?
むしろ家畜肉よりも美味いと俺は思いますけど・・・。」
とライキ。
「まじかよ!
俺は生まれも育ちもオリアでよ。
あの村には家畜が沢山いたからか魔獣なんか食ったことねぇわ。
てめーらは?」
ギルロイが手下達に尋ねると、半分くらいがギルロイ同様魔獣肉を食べることに対して抵抗があるようだった。
「へぇ・・・同じ国でも食べない人も結構いるんですね・・・。
俺、知りませんでした。
魔獣肉で良ければ俺明日にでも適当に狩って来ますよ?」
と、ライキは提案してみた。
「そっか。
そいやお前、狩人だったな。
魔獣肉ねぇ・・・。
まじで美味いのか・・・?」
ギルロイが手下に訊くと、食べた経験のある半数が「「「ヘイ!」」」と魔獣肉料理への期待に胸を膨らませてよだれを垂らしながら頷いた。
「よし!
それなら適当な武器を貸してやっから、早速明日狩ってこいや!
ただし逃げ出したりつがいの片割れに連絡取られたりでもしたら面倒だから、銀色狼にはホイと動けそうな手下数名を見張りにつけさせて貰うぜ?」
とギルロイ。
「それなら僕も明日は狩りの手伝いに・・・」
とレオンが挙手するも、
「いいや、お前は銀色狼の仲間だからな。
奴が変な気を起こさねーよう保険としてアジトに残ってて貰うぜ?
相方が狩りに出てる間は一人で掃除や洗濯でもしてろや。
まだまだ家事は溜まってるぜ?」
とギルロイに言われてしまった。
レオンは不満気に眉を寄せると隣に座るライキに耳打ちをした。
『お前だけズルいぞ!
僕も外で魔獣を狩る方が良かった!
大体お前がいない間、僕一人で掃除なんてどうするんだよ!』
『あぁー・・・スライムの瓶を一つ渡しておくよ。
掃除はユーリ君に教えて貰って頑張れ・・・!』
ライキはそう言ってレオンの肩を叩いた。
『あいつは調理場の方で忙しそうだから僕に教えてる余裕なんてないんじゃないのか!?
・・・僕がギルロイに役立たずの烙印を押されてヒューの二の舞いになったらお前のせいだぞ・・・。』
レオンは恨めしそうにそう言うと、口元を波打たせて頭を抱え込んだ。
食事の後はユーリの皿洗いを手伝ったりホール掃除をしたりしながら入浴の順番を待つ。
ライキたち新入りは先輩である盗賊達が一通り入浴し終えた後にようやく入浴を許されるが、ライキ達にその順番が回ってきたのは22時を過ぎた頃だった。
それからライキはレオンとユーリと一緒にさっさと入浴を済ませた。
その際綺麗になった風呂場を見たユーリが、
「あの酷い有様だった風呂場がここまで綺麗になるだなんて・・・。
君達、一体どんな技を使ったんだい?」
というので、ブルースライムに手伝って貰ったと教えたらビックリしていた。
自分達で最後なので、入り終えた後に湯を抜いてブルースライムで簡単に掃除をしておいた。
入浴を終え、新入りに与えられた部屋へ入れたのは23時前だった。
その部屋は4畳半程と狭く、壁は洞窟の岩肌そのままでジメジメしており、そこに古くて板が所々外れた2段ベッドが2つ、左右両端の壁にくっつけるようにして置かれていた。
(あはは・・・これはローデリス邸の地下牢よりも酷いんじゃないか・・・?)
ライキは去年の秋のローデリス夫人の毒薬騒動の際、リーネと一緒に入れられた地下牢を思い出して苦笑いをした。
レオンも、
「ここが僕らの部屋か・・・?
牢獄の間違いじゃないのか?」
と不快感を露わにしていた。
「あはは!
僕も最初はそう思ったけど、まぁ野宿より屋根があるだけマシだよ。」
ユーリはそう言うとベットとベットの間の狭い通り道を突き進み、左のベッドの下の段に腰を掛けて言った。
「まぁ二人も座ってよ。
今度こそヒューの救出についての話をしよう。
と言っても僕の方は現段階で使えそうな情報を持ってないけどね・・・。」
ライキとレオンが右側のベットの下の段に少し離れて腰を掛けてから、ユーリは話を始めた。
「まず、ヒューを助けるためにはホイを何とかしないといけない。
ホイが部屋にいないときに助けようにも、ホイの部屋には鍵がかけられていて、その鍵はホイが大事そうに常に持ち歩いているし・・・。
君達二人はホイと実際に戦ったんだろう?
どうだった?
戦いを挑んで倒せる見込みはあるかい?」
真剣な顔でユーリが尋ねた。
「どうだろうな・・・。
あいつは強化された人間で、馬鹿力に加えてあの巨体に似合わぬ攻撃速度・・・どちらも並外れてはいるが、渡り合えない程ではないと僕は感じた。
だが一番の問題は何と言っても奴の皮膚だ。
馬鹿みたいに硬く、僕の先祖から受け継いだ特別な剣でさえ歯が立たなかった・・・。
あの皮膚がある以上、まともにやり合っても埒が明かないだろうな・・・。」
レオンが渋い顔をしてそう説明をした。
「なるほど・・・銀色狼さんはどう思った?」
ユーリの問いにライキは答える。
「金獅子の言う通り、まともにやっても無理だな。
だが魔獣でも装甲の硬いやつには魔石による属性攻撃が有効なことが多いから、奴に火や冷気、雷なんかが効けば勝てる見込みはあると思う。
後は毒だな。
身体の動きを奪うような毒が奴に効けば、倒さずとも拘束が出来るから楽だ。
幸い明日は俺の狩りにホイが見張りとしてついてくることになったから、その時に奴に属性攻撃や毒が効くのかをさり気なく試してみようと思う。
奴はめっぽう強いが頭は鈍いから、俺が不自然な行動を取っても適当に誤魔化せそうだからな。」
「そうか、それはいいな!
よろしく頼むよ!」
「うん、まかせてくれユーリ君。
だけど問題は奴に属性攻撃も毒も効かなかった場合だ・・・。」
「うん・・・そうなったらお手上げだね・・・。
下手に仕掛けたら反撃を食らってヒューを救出するどころか全滅しかねない・・・。
銀色狼さんの寵愛の力を使っても、やっぱりホイを倒すのは難しい?」
ユーリが縋るような表情でライキに尋ねた。
「いや・・・寵愛の力をフルに使えばおそらく倒せるとは思うけど・・・・・」
ライキはこの手段はあまり使いたくないと、眉間に深くシワを刻みながら言葉を濁した。
「馬鹿な・・・!
剣も属性攻撃も毒も効かない相手だぞ!?
しかも寵愛の力ってあの空を飛ぶ力だろう?
それでどうやって奴を倒すつもりだ!?」
とレオンが声を荒らげた。
「強化されているとはいえ奴も人間・・・。
普通に食事もするようだし、性欲まで無駄にある。
ならきっと身体の中は普通に軟らかいはずなんだ。
その身体の中にナイフを投げ込んで移動の力でナイフを操作し、臓器を切り裂けばきっと効く。
だが、それだと奴を殺してしまいかねない。
相手が人である以上、殺すわけにはいかない・・・。
だからこの手は本当に俺達の命が危険な時のみに使う最終手段だ・・・。」
とライキが膝の間に置いた両手を組み合わせて深刻な表情で説明した。
「・・・確かに、人殺しは例え相手が盗賊であってもこの国では罪になるからね・・・。
なら奴を無理に倒さなくてもいい。
どうにかしてホイを無害化し、ヒューをこちらに取り戻せれば・・・・・。」
顎に手を当ててその手段を思考するユーリ。
「ホイを無害化か・・・そうだな・・・。
ユーリ君は奴の弱点に何か心当たりはないか?
どんな些細なことでもいいんだ。
今後作戦を立てるときに役に立つかもしれないから。」
ライキがユーリに尋ねた。
「ホイの弱点か・・・。
ホントに些細なことだけど、ホイは極度の甘党なんだよ。
それこそ僕の料理にも砂糖や蜂蜜をかけて食べるくらいにね・・・。
反面辛いものが酷く苦手みたいで、一度森に成っていた唐辛子を美味そうだと言って食べてしまって、暫くのたうち回って大変だったことがあるみたいだよ。」
「極度の甘党かつ辛味嫌いか・・・。
ありがとうユーリ君。
まずは明日、ホイに属性攻撃と毒が有効かどうかを試してみる。
そのついでに唐辛子も採っておくかな。
何かに使えるかもしれないからな・・・。
そして明日は俺らもホイの部屋に呼ばれることになるだろうが、その前にヒューさんを救出する作戦を立てよう。
大丈夫。
きっと何か手があるはずなんだ。」
ライキはその澄んだスミレの瞳に希望の光を宿らせて、しっかりとユーリとレオンを見るのだった。
その方が君達がこの盗賊団で生活して行く上で、連中との認識の差が出なくて済むだろうしね。」
ユーリが最初にそう切り出したので、ライキとレオンは頷いた。
「僕の本名はユーリ・フューダルロード。
冒険都市エングリア一帯を収める領主の末の息子で、通り名は旅蜥蜴。
その名の通り8歳の頃から冒険者ギルドに登録して年中旅ばかりしているよ。
現在12歳で冒険者ランクはA。
冒険者の職業は槍術士だけど、うちは魔力の高い家系だから、魔法が衰退化したこの時代には珍しく光と土の魔法もサポート程度には使えるんだ。
でも冒険者の任務での旅とは別に、神使ヴィセルテ様の遠い血縁という縁もあって、あの方のお手伝いのようなことも時々させてもらってる。
あ、でも今回の盗賊団潜入は神使様の指示ではなくて、完全に僕の独断で動いた結果だけどね・・・。
旅の最中でギルロイがこの街道で現れたと聞いて、きっとまたリリちゃんを狙うと思ったから居ても立っても居られなくて、その前に盗賊団を壊滅させようと潜入を決めたんだ・・・。
その結果ヒューも巻き込んでしまったし、君達の手も煩わせてしまうことになって、本当に申し訳なく思ってる・・・。」
ユーリはそう言って二人に深く頭を下げた。
「いや、顔を上げてくれよユーリ君・・・!
君の気持ちはよくわかるよ・・・!
俺だってリーネ・・・俺のつがいを狙う奴がいるとわかったら動いていたと思うし・・・。」
とライキは眉を寄せながら深刻な表情で言った。
「フン・・・。
確かに僕は完全に銀色狼の巻き添えだが、この件に関してもそれ相応の成功報酬が出るんだろう?
それなら別に構わない。」
とレオンのほうは少々ぶっきらぼうにそう言って、照れ隠しなのか髪をかき上げた。
「ありがとう、二人共・・・。
それでここに潜入するに当たり、僕の身分を奴らに知られたら面倒なことになるから幾つか嘘をついている。
それを君達に話しておくよ。
僕とヒューは最初わざとみすぼらしい格好をして、
「盗賊団に憧れているから入団したい」と言ってギルロイに近づいたんだけど、ギルロイに、
「お前、汚ねー格好してても妙な品格がある・・・。
実は何処かの貴族じゃねーか?」
と疑われてしまってね・・・。
だから元は貴族だったけど、家が没落して両親は自殺し、今は物乞いをやってる。
ヒューとは同じ物乞い仲間で兄のような存在だと嘘をついてるんだ。
まぁヒューが兄のようだと言うのは本当のことだけどね。
本当はヒューをこの件に巻き込むつもりはなかったけど、僕を一人で盗賊団にやるのは心配だと言って付いてきてくれたんだ。
僕の通り名は、昔リリちゃんがギルロイに攫われて売られた先の貴族から助け出した経緯から、もしかしたらギルロイに知られているかもしれないと思ったから、ここでは通り名はまだないと言って、一般にまだ公開していない本名のユーリを名乗ってる。
だからもし盗賊達と僕たちの話になったら、そういう設定で話をあわせてくれるかな?
よろしく頼むよ。」
「うん、わかったよ。」
「・・・了解した。」
ライキとレオンは同時に頷いた。
「それで、これからどうするかについてなんだけど、ヒューをホイから開放するためにはまず、二人にはヒューのように首輪をつけらることのないように振る舞って貰う必要があると思うんだ。
君達まで行動の自由を奪われてしまったら、ヒューの救出どころじゃなくなるからね。」
と眉を寄せながらユーリが言った。
「あぁ、あの首輪のこと気になってたんだ。
俺等もホイのペットとしてここに連れてこられたから、服の支給と一緒にヒューさんみたいに首輪で拘束もされるのかと覚悟したけどそんな様子もないし・・・。
何故ヒューさんだけが首輪を?」
ライキがユーリに尋ねた。
「それはヒューがお頭・・・ギルロイに気に入られなかったことが大きいと思う。
ヒューは格闘家として優秀で戦闘ではとても頼りになるんだけど、性格が真面目で融通が効かないところがあるからか、盗賊達と馴染めなかったんだ。
それと、彼に家事スキルがなかったことも大きな要因かな。
盗賊団の新入りはアジト内の掃除や団員の衣服の洗濯、料理などをやらされるんだけど、ヒューはあまりそういった仕事が得意じゃなくて、普段の旅の間も僕が料理や洗濯を担当していたんだ。
その為ヒューは新入りに与えられた仕事が満足にこなせず、ギルロイに役に立たないとみなされてしまい、
「使えないのならせめてホイのご機嫌取りでもしてろ!」
と言って、ペットとして常にホイと同じ部屋で過ごすようにと命じられてしまったんだ。
だけどヒューにはそれが耐えられなくて、何度か逃げ出そうとしたから遂に拘束までされるようになってしまった・・・。
まぁあんな男色家の大男と同じ部屋に押し込められて好きにされるなんて逃げ出したくもなるだろうけどね・・・。
逆に僕は料理や洗濯ができたから比較的扱いが良いんだと思う。
夜伽は僕がまだ子供だからというのと、ヒューが身体を張って僕にホイの興味が向かないようにしてくれているからか、今の所無しで済んでいるよ・・・。
つまりはある程度盗賊団の役に立ってお頭に気に入られてさえいれば、そこまで酷い扱いはされないと思うんだよ。
まぁ君達美男子だから、夜になるとホイの部屋に招かれたりはするだろうけどね・・・。」
そう言ってユーリは苦笑いをした。
「なるほどな・・・。
俺は父さんに一人で何でも出来るように教育されたから家事はなんとかなるかな・・・。」
(料理以外はな・・・。)
と脳内で密かに補足を入れるライキ。
「でも金獅子、あんたはちょっとまずいんじゃないか?」
ライキがそう言って眉を寄せながらレオンを見ると、レオンは汗を飛ばして声を荒らげた。
「な、何だと!?」
「いや、あんた酷く不器用で、テントも相当な出来だったし、料理も洗濯も掃除も全部モニカさん任せで今までしたことなんて無かっただろう?」
「・・・・・。」
その通りだったのかレオンは無言で俯いた。
「まぁ、俺も出来るだけあんたのサポートはするつもりだけど、盗賊達への態度も気をつけたほうがいいぞ?
あんた、男には特に悪印象を与えやすいから。
人当たりが良く友人も多いユデイでさえオレンジ・スパでの一件以来あんたのこと嫌ってしまってたし・・・。」
はぁ・・・と呆れたようにため息をついて首を左右に振るライキにレオンはまた声を荒らげた。
「何だと!?
お前は僕に喧嘩を売っているのか!?」
そんなことを話していると、ギルロイがひょこっと通路から顔を出したので3人はギョッとして軽く目玉を飛び出させた。
「おい、お前らいつまでやってる?
さっさと仕事に入りやがれ。」
そこでユーリがサッと盗賊の悪ガキらしい顔になってフォローした。
「あ、お頭サーセン!
新入りにここでのルールとか色々と教えてたら何か二人が言い争いを始めちまって・・・。
すぐに仕事をさせますんで!」
ライキとレオンはユーリのあまりの切り替えの早さに感心した。
ユーリの名演技のお蔭か、ギルロイは3人の会話内容を特に疑うこともなかったようだ。
「ふぅん、そうかよ。
まぁルールを教えるのも結構だけどよ、ここんとこ獲物の張り込みで留守が多かったし、掃除が行き届かずあちこち汚れちまってるんだよなぁ・・・」
そう言って洞窟の壁沿いに置かれた棚に指をつけて人差し指についたホコリをフッ!と吐息で吹き飛ばすギルロイ。
「そのうえ手下共もほとんど銀色狼に負傷させられちまって使い物にならねぇんだしよ。
喋ってる時間があったら手を動かせや。
俺はこう見えて綺麗好きなんだからしっかり頼むぜ?新入り共。」
ギルロイはそう言って去って行った。
「・・・ま、そういうことだから仕方がない。
作戦会議は夜仕事が終わってから僕ら新入りに与えられた部屋で行うとして、まずは掃除を頼んでいいかな?」
とユーリが申し訳無さそうに二人に向かって手を合わせた。
「うん、わかった。
何処を掃除すればいい?」
「そうだな・・・。
今日はもう15時過ぎてるからアジト全部は流石に無理だよね。
なら風呂場の掃除が最優先かな?
僕ら留守番組だけでは風呂場の掃除まで手が回らなくて、かなり汚れているし大変だと思うけど・・・。
というか、僕はあの汚い風呂を使いたくなくて調理場で沸かした湯で身体や髪を洗ってたくらいだからね・・・。
風呂が綺麗になったら湯も新しく張り直しておいてくれるかな?
それが終わったら次はみんなで食事をするホールの掃除もお願いしたいんだ。
あ、ホールはさっき君達が紹介されたアジトで一番広い部屋のことだけど、ここは僕がある程度掃除してるから、テーブルを拭いて床をざっとモップがけするくらいでいいと思う。
他にはトイレもピカピカに出来てたらお頭からかなり高い評価を得られると思うけど、風呂掃除だけでも大変だと思うから・・・無理はしないでね。
僕はこれから洗濯物を回収して畳んで皆に配ったあと、夕食の支度に取りかからないといけないから君達を手伝えそうもないけど・・・。
夕食が出来るまでにお願い出来るかな?」
とユーリが苦笑いしながら言った。
「あはは、なかなかハードだけど金獅子と二人で何とか頑張ってみるよ。」
ライキはそう言って腕まくりをしてみせた。
ライキとレオンは髪が落ちてこないようにユーリから渡された三角巾をしてからユーリと手を振り別れると、まず風呂場の掃除から取り掛かった。
風呂場は洞窟内の壁や地面をそのまま利用して作られていて、換気のために人一人が通り抜け出来そうな大きさの穴が上部に数カ所開けられており、地面にはタイルが敷かれて排水のための溝が掘られていた。
浴槽は大所帯が利用するためか、2.5メートル程の幅と大きめで、材質はタイルを接合剤で固めて作られたものだった。
その浴槽は何日も掃除せずに湯を継ぎ足して使っていたのか、水位のラインで湯垢がごっそりとついており、張られたままの冷めた湯も濁ってうっすら生臭い匂いがした。
床のタイルも汚れて所々茶色く変色しており、ライキとレオンはその酷い有様に顔をしかめた。
「これは酷いな・・・。
本当に綺麗になるのか?」
レオンがライキに尋ねた。
「普通にやってたら他の場所の掃除もあるから時間までには終わらないだろうな。
だから奴等に手伝ってもらおう。」
ライキはそう言うと移動の力を使って自分の胃に隠したアイテムボックスの魔石を自分の手のひらに瞬間移動させて取り出した。
「なっ・・・!?
銀色狼、お前アイテムボックスをどこに隠し持ってやがった!?」
それを見ていたレオンがびっくりして突っ込んだ。
「あぁ・・・盗られたら困るから、身ぐるみを剥がされる前に寵愛の力を使って胃の中にこのピアスを移動させておいたんだ。」
ライキはそう言いながら蛇口から水を出してそのピアスを洗った後、亜空間を描き出してガラス瓶を幾つか取り出した。
それには青くてプルプルとしたゲル状のものが詰められており、ライキはそれを数個掴んで浴槽の中に放り込み、更に床の上にもばら撒いた。
するとその青いプルプルが自ら汚れを求めて這うように動き、彼らが通過した箇所は汚れが分解されてすっかり綺麗になっていた。
「この青いのはまさか・・・ブルースライムか!?」
レオンが度肝を抜かれて口をパクパクとさせながら尋ねた。
「あぁ、うん。
奴ら有機物なら何でも食って水として排出するから、こういう使い方もできるんだよ。
汚物処理にいちいち浄化の魔石を使ってたら馬鹿にならないから、俺達狩人はブルースライムを代用したりするんだ。
餌を食ってデカくなったぶんはこうやって潰せばいいし・・・。」
ライキはそう言って汚れを食べて大きくなりすぎた一体のブルースライムの白く丸い核をデッキブラシの柄で突いて潰した。
するとブルースライムは粉々に砕け散り、あっという間に溶けて無くなった。
「・・・なるほど・・・。
それなら僕達の仕事は、食い過ぎてデカくなったスライムを潰すだけか?」
まだ呆気に取られながらもレオンはライキに確認した。
「あぁ、この風呂場が綺麗になるまではな。
綺麗になったらスライムをこうやって削って・・・」
と言ってライキは近くにいたスライムの核以外のぷるぷるしたところをデッキブラシの柄で突ついて見せた。
すると本体から剥がされた小さなぷるぷるの中心にやがて白く小さな核が産まれた。
「核以外を攻撃してもスライムは消滅せず、千切れた欠片の中にまた新たな核が生まれて別の個体となる。
こうして生まれた小さなスライムをまた瓶に詰めておくんだ。
すると次回にまた使えるからな。
後は綺麗になった浴槽に湯を張るだけだ。
ここの風呂は魔石で湯を作るタイプだから良かったよ。
薪で沸かすのは時間も手間もかかるからな。」
ライキはそう言いながらまた大きくなったスライムを一体潰した。
「見てないであんたも手伝えよ。
家事スキルはなくても魔物退治なら出来るだろう?騎士さん。
それとも白の剣がないとスライム退治さえも無理なのか?」
「・・・馬鹿にするな。
それくらい・・・!」
レオンはそう言うと近くにいたスライムの核をデッキブラシの柄で突いて潰した。
「やるじゃないか。
じゃあそっち半分は任せたぞ?
あ・・・そういえばあんたの折れた白の剣だが、ギルロイが気絶しててあんたが放心状態になってる間にホイの目を盗んで俺のアイテムボックスに回収しておいたぞ?
任務完了後に渡すから。」
「・・・!?
なんだってそんなことを・・・」
レオンが思わずスライム退治の手を止めて振り返り、ライキに尋ねた。
「いや、だってあんたの大事な剣なんだろう?
どうにかして直せるかもしれないし。
この任務が終わってフォレストサイドに帰ったら、俺の幼馴染の武器屋に直せそうか聞いてみるよ。」
「・・・無理に決まってる。
あれはラスター・ナイトが愛用していたアデルバートの神使様が作られし業物で、先祖代々受け継がれてきたナイト家の証たる剣なんだぞ・・・。
そこらの鍛冶屋でどうにかなる代物じゃない・・・。」
レオンはそう言うと表情を陰らせて肩を落とした。
(アデルバート神国の神使様の剣か・・・。
もしかしたら銀色狼シリーズを作ってくれた人と同じかもしれないな。
だとしたらフェリシア様に訊けば何かわかるかも・・・)
ライキは真剣な顔でそう考えると言った。
「わかった。
今度フェリシア様と話すとき、その剣を直せる人に心当たりが無いか訊いてやるよ。」
「・・・・・!!
・・・いや・・・でも・・・それは・・・・・
お前の神に恩を作るわけには・・・・・」
レオンは冷や汗を沢山かいてしどろもとろになりながらそう言った後、俯いて唇を噛んで黙り込んだ。
「じゃあその左手の印を与えた神に頼れるのか?」
「・・・・・・・」
ライキの問いにレオンは黙って頭を左右に振った。
「なら、訊くだけ訊いてみれば良いじゃないか。
フェリシア様との話のついでにちょっと話題に出す程度だし、気にするほど恩を感じることでもないと思うが・・・。
フェリシア様の答えを知ってどうするかはその時改めて決めればいい。」
ライキがそう言って軽く微笑むと、レオンは暫く考え込んだのち、消えそうな小さな声で微かに言った。
「・・・・・・・・・・よろしく頼む・・・・・。」
「・・・了解した。」
ライキはクスッと微笑むとまたスライムを潰した。
レオンはまだ俯いたままでスライムを潰すことも忘れて黙り込んでいたが、やがてこんな言葉を紡ぎ出した。
「銀色狼・・・。
この国の民でない者が、フェリシア神国で国籍を手に入れるためにはどうすればいい・・・?」
ライキは予想外な彼の言葉に驚き軽く目を見開いた。
「・・・国籍・・・?
あんた、この国の民になりたいのか?」
「い、いや・・・!
モニカがそんな話をしていたから少し訊いてみただけだ!
訊くだけなら恩に感じる程のことでもないんだろう?」
「あはは!そうだったな!」
ライキはそう笑うと奇跡の退治屋の二人のことを思い出しながら続けた。
「異国の人がこの国の国籍を得るには、冒険者ランクがA以上になる、もしくはこの国の成人した者二人に保証人になってもらえばいい。
冒険者ランクAには、地道に任務をこなして登録を維持していけばあんたの強さならなれるだろうが・・・それは不安定な国籍だからな・・・。
何かトラブルがあってランクダウンしたり、負傷して冒険者登録を維持するノルマを達成出来なかったりすれば、その地点で国籍が失われ、元の国へと強制送還される。
だからオススメは保証人を二人用意するほうだな。」
「保証人を二人も・・・・・。
引き受けてくれそうな知り合いがいない僕たちには無理じゃないか・・・・・。」
レオンはそう言って悲しげに眉を寄せて俯いた。
「・・・あんた、今16だよな?」
ライキが尋ねた。
「・・・?
そうだが・・・」
「誕生日はいつだ?」
「・・・7月17日・・・。」
レオンが答えた。
「7月・・・?
あぁ・・・7番目の月・・・この国で言うところの燕月か。
それなら俺は4月16日で成人し、リーネは5月10日で成人するから、その後で良ければ俺ら二人が保証人になってやるぞ?」
「えっ・・・あっ・・・・・・・・」
ライキの思わぬ提案にレオンは頬を赤く染めて言葉を詰まらせた。
「何だよ・・・俺らじゃ不服か?」
ライキが拗ねたように唇を尖らせた。
「い、いや・・・・・・。
そういうわけでは・・・・・
お前がそんなふうに言うとは思わなかったから・・・・・・・・。」
レオンはそう言った後に放置して大きくなりすぎて分裂してしまったスライムを一気にまとめて潰してからまた口を開いた。
「じゃあ、もう一つだけ訊く・・・・・。
元異国民でも・・・その・・・つがいに、なれるのか・・・・・?」
(・・・金獅子がモニカさんとつがいに・・・・・?
師匠がモニカさんの説得により金獅子の頭の中の天秤がかなりこちら側に傾いたと言っていたが・・・・・そうか・・・・・。
それならこいつのこの気持ち・・・大切にしてやりたいな・・・・・。)
ライキはそう思って柔らかく微笑むと、また一体スライムを潰してからその問いに答えた。
「リーネの曾お爺さんはジャポネの人だったけど、ばーちゃん・・・リーネの曾お婆さんとつがいになれてたから、国籍をフェリシアに移した後ならそれも可能だと思う。
けどいいのか?
あんたとモニカさんは最後までしていた仲なんだろう?
あんたたちがつがいになって誓約を守るのは、たとえ歳下のあんたが成人するまでの短期間であっても、俺等よりもきついんじゃないか?
・・・成人するまでのセックスお預けに耐えられるのか・・・?」
ライキが言うと、レオンは渋い顔をして答えた。
「・・・・・正直、モニカとの行為でのあの快楽を知りながら、それを我慢出来るかはわからない・・・・・。」
その後、彼女の姿を頭に思い浮かべたのか、レオンは穏やかに微笑みながら続けた。
「だが・・・モニカに今まで不安な思いをさせてきたぶん、僕なりの誠意を見せたいんだ・・・・・。」
ライキはそんな彼に対し、
「そっか・・・。
あんたが本気なら応援するよ。」
と柔らかく微笑むのだった。
そんな会話をしつつ風呂掃除と支度を無事に終えた二人は、続けてホールの掃除に取り掛かった。
ホールは団員達の目に触れやすい場所なのとスライムに任せるには適さない木のテーブルと椅子が使われていたため、ライキがレオンに指示をしながら手を動かした。
レオンがベチャベチャの台拭きでテーブルを雑に拭いていたので、ライキが耐えかねて、
「あぁもう・・・台拭きはもっと固く絞れよ!
あちこちに吹き残しもあるからやり直せ!」
と注意すると、
「お前はいちいち細かいんだよ!
小姑か!」
と、うざったそうに顔をしかめて抗議されはしたが、その後は言われたことを彼なりに改めていたので、ライキは少々大袈裟に褒めてやった。
するとレオンは耳まで真っ赤にして狼狽えるので、ライキはそれが可笑しくて腹を抱えて笑うのだった。
ホールはユーリが普段から掃除をしていると言っていたがその通りでしつこい汚れなどもなく、然程時間もかからず綺麗になった。
時間がまだあったので、二人はトイレ掃除も行った。
トイレは全部で3箇所あり何処もそれなりに汚れていたので、人目がつかないよう清掃中だと札を立ててから、スライムに手伝って貰った。
そうして銀色狼と金獅子は、盗賊団に入って初めての仕事を完璧にこなすことが出来たのだった。
「ほぉ・・・新入り共やるじゃねぇか!」
夕食の時間が近付き部屋から出てきたギルロイが無精髭を撫でながらライキとレオンの仕事を確認していたが、その完成度の高さに感心し、
「 良いやつが仲間に入った!」
と上機嫌になった。
そして、
「褒美といっちゃなんだが、今夜はお前ら二人をホイの夜伽にやらねーでおくから、今晩は早く休んで明日もまた頼むぜ!」
と言った。
(よし!
これでヒューさんを救出するための作戦を立てる時間が出来たぞ!)
ライキは心の中でガッツポーズを取った。
夕食の時間─。
食堂も兼ねているホールには殆どの盗賊たちが揃って席についていたが、ホイだけはペットとお楽しみ中だとかでその場にいなかった。
「ユーリ。
ホイとヒューのぶんの食事を後で持って行ってやれや。」
とギルロイ。
「へい!お頭・・・。」
ニコッと笑ってそう返事をするユーリだったが、その表情には隠しきれない心配の色が濃く潜んでいた。
(今日俺と金獅子がホイの餌食にならずに済むということは、ヒューさんが更に追い込まれるということでもあるよな・・・。
明日には何とか助けてあげないと・・・。)
ユーリの顔を見ながらライキはそんなことを思い、口元を引き結ぶのだった。
その日の夕食はユーリが作ったじゃが芋と人参と玉ねぎと茸を干し肉を戻した出汁で煮込んだシチューにカリカリのプライドポテト、副菜に人参のキッシュ、そして主食はパンのかわりのマッシュポテトとじゃが芋中心のメニューであり、デザートとして近くの森で採れたらしいパパイヤのようなフルーツが盛られていた。
どの料理も食材は素朴ながらも上品な味付けで、ライキはとても美味しいと思ったが、
「まぁたじゃが芋かぁ!?
肉はこれっぽっちかよ!
もっと肉を食わせろや!」
とギルロイを始めとした盗賊達からは不満の声が上がっていた。
「しょうがないっしょ!?
食料庫にじゃが芋と人参と玉ねぎ、それに干した肉くらいしかもう無いんすから・・・。
茸は僕がアジト内で育てたやつだし・・・。
文句言うなら村まで行って牛でも豚でもアヒルでもいいから肉を仕入れて来て下だせぇよ!
出来れば緑の野菜も!」
ユーリが盗賊口調でそう言い返した。
「あー・・・俺含めほとんどの奴がここいらの村には顔が割れちまってるからなぁ・・・。
今日襲った赤百合様の馬車にも食料は積んで無かったしよぉ。
かといってまだ顔の割れてねぇ新入りのお前らを村へ仕入れに向かわすのは信頼がおけねぇしな・・・」
ギルロイはそう言うとユーリとライキ、レオンの3人をチラッと横目で見ながらため息をついた。
そこでライキが挙手した。
「なんだ新入り。
何か意見があるなら言ってみな?」
「はい、お頭。
家畜肉の仕入れが難しいのなら、この辺りに出る魔獣を食用にしたらどうですか?」
「はぁ!?
魔獣の肉なんか食えるのか!?」
とギルロイが怪訝な顔をした。
「食えるやつも結構いますよ?
フォレストサイドやフラン、エングリアでは普通に食いますけど・・・この辺りでは食わないですか?
むしろ家畜肉よりも美味いと俺は思いますけど・・・。」
とライキ。
「まじかよ!
俺は生まれも育ちもオリアでよ。
あの村には家畜が沢山いたからか魔獣なんか食ったことねぇわ。
てめーらは?」
ギルロイが手下達に尋ねると、半分くらいがギルロイ同様魔獣肉を食べることに対して抵抗があるようだった。
「へぇ・・・同じ国でも食べない人も結構いるんですね・・・。
俺、知りませんでした。
魔獣肉で良ければ俺明日にでも適当に狩って来ますよ?」
と、ライキは提案してみた。
「そっか。
そいやお前、狩人だったな。
魔獣肉ねぇ・・・。
まじで美味いのか・・・?」
ギルロイが手下に訊くと、食べた経験のある半数が「「「ヘイ!」」」と魔獣肉料理への期待に胸を膨らませてよだれを垂らしながら頷いた。
「よし!
それなら適当な武器を貸してやっから、早速明日狩ってこいや!
ただし逃げ出したりつがいの片割れに連絡取られたりでもしたら面倒だから、銀色狼にはホイと動けそうな手下数名を見張りにつけさせて貰うぜ?」
とギルロイ。
「それなら僕も明日は狩りの手伝いに・・・」
とレオンが挙手するも、
「いいや、お前は銀色狼の仲間だからな。
奴が変な気を起こさねーよう保険としてアジトに残ってて貰うぜ?
相方が狩りに出てる間は一人で掃除や洗濯でもしてろや。
まだまだ家事は溜まってるぜ?」
とギルロイに言われてしまった。
レオンは不満気に眉を寄せると隣に座るライキに耳打ちをした。
『お前だけズルいぞ!
僕も外で魔獣を狩る方が良かった!
大体お前がいない間、僕一人で掃除なんてどうするんだよ!』
『あぁー・・・スライムの瓶を一つ渡しておくよ。
掃除はユーリ君に教えて貰って頑張れ・・・!』
ライキはそう言ってレオンの肩を叩いた。
『あいつは調理場の方で忙しそうだから僕に教えてる余裕なんてないんじゃないのか!?
・・・僕がギルロイに役立たずの烙印を押されてヒューの二の舞いになったらお前のせいだぞ・・・。』
レオンは恨めしそうにそう言うと、口元を波打たせて頭を抱え込んだ。
食事の後はユーリの皿洗いを手伝ったりホール掃除をしたりしながら入浴の順番を待つ。
ライキたち新入りは先輩である盗賊達が一通り入浴し終えた後にようやく入浴を許されるが、ライキ達にその順番が回ってきたのは22時を過ぎた頃だった。
それからライキはレオンとユーリと一緒にさっさと入浴を済ませた。
その際綺麗になった風呂場を見たユーリが、
「あの酷い有様だった風呂場がここまで綺麗になるだなんて・・・。
君達、一体どんな技を使ったんだい?」
というので、ブルースライムに手伝って貰ったと教えたらビックリしていた。
自分達で最後なので、入り終えた後に湯を抜いてブルースライムで簡単に掃除をしておいた。
入浴を終え、新入りに与えられた部屋へ入れたのは23時前だった。
その部屋は4畳半程と狭く、壁は洞窟の岩肌そのままでジメジメしており、そこに古くて板が所々外れた2段ベッドが2つ、左右両端の壁にくっつけるようにして置かれていた。
(あはは・・・これはローデリス邸の地下牢よりも酷いんじゃないか・・・?)
ライキは去年の秋のローデリス夫人の毒薬騒動の際、リーネと一緒に入れられた地下牢を思い出して苦笑いをした。
レオンも、
「ここが僕らの部屋か・・・?
牢獄の間違いじゃないのか?」
と不快感を露わにしていた。
「あはは!
僕も最初はそう思ったけど、まぁ野宿より屋根があるだけマシだよ。」
ユーリはそう言うとベットとベットの間の狭い通り道を突き進み、左のベッドの下の段に腰を掛けて言った。
「まぁ二人も座ってよ。
今度こそヒューの救出についての話をしよう。
と言っても僕の方は現段階で使えそうな情報を持ってないけどね・・・。」
ライキとレオンが右側のベットの下の段に少し離れて腰を掛けてから、ユーリは話を始めた。
「まず、ヒューを助けるためにはホイを何とかしないといけない。
ホイが部屋にいないときに助けようにも、ホイの部屋には鍵がかけられていて、その鍵はホイが大事そうに常に持ち歩いているし・・・。
君達二人はホイと実際に戦ったんだろう?
どうだった?
戦いを挑んで倒せる見込みはあるかい?」
真剣な顔でユーリが尋ねた。
「どうだろうな・・・。
あいつは強化された人間で、馬鹿力に加えてあの巨体に似合わぬ攻撃速度・・・どちらも並外れてはいるが、渡り合えない程ではないと僕は感じた。
だが一番の問題は何と言っても奴の皮膚だ。
馬鹿みたいに硬く、僕の先祖から受け継いだ特別な剣でさえ歯が立たなかった・・・。
あの皮膚がある以上、まともにやり合っても埒が明かないだろうな・・・。」
レオンが渋い顔をしてそう説明をした。
「なるほど・・・銀色狼さんはどう思った?」
ユーリの問いにライキは答える。
「金獅子の言う通り、まともにやっても無理だな。
だが魔獣でも装甲の硬いやつには魔石による属性攻撃が有効なことが多いから、奴に火や冷気、雷なんかが効けば勝てる見込みはあると思う。
後は毒だな。
身体の動きを奪うような毒が奴に効けば、倒さずとも拘束が出来るから楽だ。
幸い明日は俺の狩りにホイが見張りとしてついてくることになったから、その時に奴に属性攻撃や毒が効くのかをさり気なく試してみようと思う。
奴はめっぽう強いが頭は鈍いから、俺が不自然な行動を取っても適当に誤魔化せそうだからな。」
「そうか、それはいいな!
よろしく頼むよ!」
「うん、まかせてくれユーリ君。
だけど問題は奴に属性攻撃も毒も効かなかった場合だ・・・。」
「うん・・・そうなったらお手上げだね・・・。
下手に仕掛けたら反撃を食らってヒューを救出するどころか全滅しかねない・・・。
銀色狼さんの寵愛の力を使っても、やっぱりホイを倒すのは難しい?」
ユーリが縋るような表情でライキに尋ねた。
「いや・・・寵愛の力をフルに使えばおそらく倒せるとは思うけど・・・・・」
ライキはこの手段はあまり使いたくないと、眉間に深くシワを刻みながら言葉を濁した。
「馬鹿な・・・!
剣も属性攻撃も毒も効かない相手だぞ!?
しかも寵愛の力ってあの空を飛ぶ力だろう?
それでどうやって奴を倒すつもりだ!?」
とレオンが声を荒らげた。
「強化されているとはいえ奴も人間・・・。
普通に食事もするようだし、性欲まで無駄にある。
ならきっと身体の中は普通に軟らかいはずなんだ。
その身体の中にナイフを投げ込んで移動の力でナイフを操作し、臓器を切り裂けばきっと効く。
だが、それだと奴を殺してしまいかねない。
相手が人である以上、殺すわけにはいかない・・・。
だからこの手は本当に俺達の命が危険な時のみに使う最終手段だ・・・。」
とライキが膝の間に置いた両手を組み合わせて深刻な表情で説明した。
「・・・確かに、人殺しは例え相手が盗賊であってもこの国では罪になるからね・・・。
なら奴を無理に倒さなくてもいい。
どうにかしてホイを無害化し、ヒューをこちらに取り戻せれば・・・・・。」
顎に手を当ててその手段を思考するユーリ。
「ホイを無害化か・・・そうだな・・・。
ユーリ君は奴の弱点に何か心当たりはないか?
どんな些細なことでもいいんだ。
今後作戦を立てるときに役に立つかもしれないから。」
ライキがユーリに尋ねた。
「ホイの弱点か・・・。
ホントに些細なことだけど、ホイは極度の甘党なんだよ。
それこそ僕の料理にも砂糖や蜂蜜をかけて食べるくらいにね・・・。
反面辛いものが酷く苦手みたいで、一度森に成っていた唐辛子を美味そうだと言って食べてしまって、暫くのたうち回って大変だったことがあるみたいだよ。」
「極度の甘党かつ辛味嫌いか・・・。
ありがとうユーリ君。
まずは明日、ホイに属性攻撃と毒が有効かどうかを試してみる。
そのついでに唐辛子も採っておくかな。
何かに使えるかもしれないからな・・・。
そして明日は俺らもホイの部屋に呼ばれることになるだろうが、その前にヒューさんを救出する作戦を立てよう。
大丈夫。
きっと何か手があるはずなんだ。」
ライキはその澄んだスミレの瞳に希望の光を宿らせて、しっかりとユーリとレオンを見るのだった。
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