45 / 58
8羽 赤百合と旅蜥蜴と盗賊団
⑥盗賊の襲撃と奪われたペンダント
しおりを挟む
翌朝─。
薬が抜けてすっかり元気になったライキは、いつもの狩装束姿で荷馬車に乗っていた。
空模様は少し雲がかかってはいたが雨がぱらつく気配もなく、ボラントまでの距離を順調に稼いでいた。
リリアナ号と荷馬車はほぼ同時に野営地点を出発したのだが、荷馬車の積荷の重量の所為か、リリアナ号の姿が荷馬車から見えなくなるくらいに距離を離されていた。
荷馬車の馭者席はリリアナ号のそれよりも狭く、小太りなノックスが座るとそれだけで一杯になり、他の誰かが隣に座る余地は無かったため、ノックスに交代が必要なときには声をかけてもらうようにして、前席にはメアリとフレッドが、後席にはライキとレオンが荷物の空きスペースに少し距離を置いて座っていた。
〈私達は順調に進んでるみたい。
今2つ目の川を越えたよ?
そっちはどう?〉
シャドウクローンの魔法で生み出してリーネの影に付けたライキの影を象った分身が、本体であるライキの意識の端でリーネの声を届けてきた。
頭の中で愛しの彼女の可愛い声が聴こえたのでライキはほっこりして表情を緩めた。
ライキは影を通して彼女に自分の思考を届けるため、少しだけ意識をそっちに集中した。
〈俺達はようやく1つ目の川を越えたところだよ。
リリアナ号と随分距離を離されたな。
このぶんじゃ昼飯も別々に食うことになりそうだな。
はぁ・・・こんなことなら朝にももっとリーネ分を補給しておけば良かった・・・。〉
〈き、昨日夜ので充分でしょ!
ライキのエッチ・・・!
も、もう・・・モニカさんに笑われちゃったし、リリちゃんには最低ってジト目で睨まれちゃったよ・・・!?
私はライキと違って影に声を通すためには実際に声を出さなくちゃいけないし、ライキの声も影の近くにいる人には聴こえちゃうんだから、話す内容には気を使ってよね!〉
リーネの不貞腐れた声と共にモニカの笑い声も微かに聴こえてくる。
〈あ、そうだったな(笑)
ごめん!
そっちは何か変わったことはないか?〉
〈うん、特には・・・。
ドールズの5人も大人しくしてるよ?
あ、さっき魔獣のロックドッグが出てね。
モニカさんと私で倒したんだけど、こっちの馬車には魔獣が回収できる大容量のアイテムボックスを持っている人がいなったから、そのままにしちゃってるの。
2つ目の川の橋の手前くらいに死体があるはずだから、後で通ったときに回収しておいてくれる?〉
〈了解。
つかロックドッグを倒したのか!
弱めの魔獣の中でも初心者泣かせなのに凄いな!
石つぶてを飛ばしてきただろ?
大丈夫だったか?〉
〈うん、水魔法の盾で綺麗に防げたよ!
後はモニカさんが鞭であっという間に仕留めてくれた!〉
〈そっか、怪我がなくてよかった!
あっ、こっちも2つ目の川が見えてきたよ。
ロックドッグの死体は・・・あった。
じゃ、また後で連絡する。〉
ライキはノックスに合図して馬車の速度を落としてもらい、後席の扉を開けると移動の力でロックドッグの死体を持ち上げ、そのまま自分の元へと引き寄せると、アイテムボックスを起動してそれを仕舞った。
それが終わると扉を締めてノックスに速度を戻すように合図し、元の場所に座って窓から近づいてくる川を頬杖をついて見ていた。
そこでレオンが口を開いた。
「さっきの魔獣、モニカとリーネちゃんで倒したのか。」
「あぁ、うん。
リーネが魔法で支援してモニカさんが鞭で倒したそうだ。」
「・・・?
何故わかる?」
「あぁ、俺の魔法でリーネと離れていても頭の中で会話が出来るから、そのときに聞いたんだ。」
「魔法で会話を・・・。
だからさっきから一人でニヤニヤと気持ち悪い顔をしていたのか。
納得がいった。」
そう言ってフッとほくそ笑むレオン。
それに対してライキは苦笑いしつつ返した。
「気持ち悪くて悪かったな・・・。」
「しかし通話器のようなことが出来る魔法か・・・。
便利なものだな。
何属性だ?」
レオンが尋ねる。
「闇だよ。
俺には闇と風の資質があるから。
まぁこの首飾りが無いと使えないけどな。」
と言ってフェンリルの首飾りを指差すライキ。
「ふぅん・・・良いのか?
僕にそんなことまで話しても。
次に刃を交えるときにその首飾りを切り落として、お前の魔法を封じるかもしれないんだぞ?」
「あんたとやり合うときに魔法を使うつもりはないから知られたって問題無いよ。
それにあんたが俺との勝負でその白の剣を抜くうちは、武人としてまだ分かり合える余地があるし、そんな卑怯な真似はしないと思ってる。」
ライキはそう言ってレオンの腰に下げた二本の剣に視線を移した。
「・・・この黒の剣を抜くことは、騎士としての誇りを捨てることになる・・・。
それでお前に勝っても嬉しくない・・・。」
レオンは眉間に皺を寄せて渋い顔で呟くように返した。
それに対してライキは柔らかく微笑み言った。
「・・・そうか。」
暫らくの沈黙の後、レオンは左手の手袋の指がない部分の中指にはめられている、恐らく冒険者ギルドのレンタル品である指輪型のアイテムボックスを起動した。
「・・・小腹が空いた。」
彼はそう言ってから腕が一本入るくらいの大きさの亜空間ホールを作り出し、その中に手を入れて桃を2つ取り出した。
そしてその桃をひとつ掴み、そっぽを向きながら無言でライキに差し出した。
「・・・やる・・・。」
「えっ・・・。」
ライキは困惑して少し眉を寄せるが、よく見るとレオンの耳が赤く染まっていたので、フッと微笑んでからそれを受け取った。
「・・・どうも。
俺も少し小腹が空いてたんだ。」
そして二人は桃を食べはじめた。
「・・・宿屋の娘にお前の食の好みを聞いたら、
「今の好みはわからないけど、昔は果物なら何でも食べてたかしら?」
と言っていて、何となくお前は肉ばかり食ってそうなイメージがあったから半信半疑だったが、本当だったな。」
レオンがまだ少し赤い顔のままでボソッと呟くように言った。
「あぁ、肉も好きだけど、狩りで小腹が空いたときに森に生ってる果物はすぐに食えて便利だし、普通に好きだよ。
あんたは?
桃、好きなのか?」
今度はライキが尋ねた。
「あぁ、果物の中では一番好きだな。
上品な甘さだし香りもいい。
何だかモニカみたいで・・・。」
そう言った後急に恥ずかしくなったのか、レオンは真っ赤になって俯き頭から蒸気を立ち昇らせた。
「あぁ!
モニカさん、確かに桃の花の香りがするよな。
やっぱり本名に因んでそういう香水を選んでいるんだろうか?」
と首をかしげながらライキが言った。
それに対してレオンは目を目開いて顔を上げた。
「本名?」
「あぁ、うん。
確か本名はももか・・・ジャポネの言葉で桃の花を意味する名だって・・・。
だがアデルバートやフェリシアでは通りの良いモニカを名乗ってるらしい。
・・・知らなかったのか?」
「・・・・・知らなかった・・・・・。
何故お前に話して僕には話してないんだよ・・・。」
レオンは複雑に顔を歪めて俯き、悔しそうに呟いた。
「いや、俺に話したというより多分その場にリーネがいたからだと思う。
リーネの曾おじいさんの故郷ニホン国はモニカさんの故郷ジャポネと似た文化みたいだから、その流れで名前のことを話してくれたんだ。
あんたが直接本当の名を聞けば答えてくれるんじゃないか?
そして”ももか”って呼んでみればいいじゃないか。
恋人なんだろう?」
ライキがそう言うとレオンは頬を赤く染めて視線を落とし呟いた。
「・・・恋人か・・・・・。
いや・・・僕にそんな資格は・・・・・。」
ライキは軽く笑って皮肉交じりに返した。
「ははっ、あんた、お国柄とかで女に言い寄られればすぐに手を出してたようだし、モニカさんに恋人だと思って貰えなくても無理はないだろうな。」
「なんだと・・・!」
眉を釣り上げて席を立つレオン。
ライキは真剣な顔でレオンを見ながら言った。
「・・・やめればいい。
モニカさんを堂々と恋人と呼びたいのなら、他の女を相手にすることをな。
それとも他の女を抱くことはあんたにとって、たった一人のモニカさんの心の全てを得ることよりも大切なことなのか?」
レオンはライキの言葉を受けて考え込み、沈黙した。
「・・・・・。」
「まぁ俺の言うことはフェリシア神国流の考えだから、アデルバートで育ったあんたがすぐに受け入れられなくても無理はない。
あんたがモニカさんとどうなりたいのかは、これから少しずつ考えていけばいいよ。」
ライキがそう言って食べかけの桃を手に顔を上げると、前席のメアリがこちらの様子を窓から覗きながら頬を染めて目を輝かせている視線とぶつかった。
「ひょえーーーん♡
美しい殿方二人が桃を食べながら恋バナだなんて、眼福だよ~~~♥」
「あ・・・メアリさん・・・」
まずライキがメアリにそのような眼差しで見られていたことに苦笑いをしたが、少しして黙りこくって俯いていたレオンがその状況に急に可笑しくなったのか、フッと一度小さく笑ってから、栓が抜けたかのようにくつくつと堪えながらも笑い始めた。
「金獅子さん笑ってるだ・・・!
笑う姿も綺麗だぁ~~~!」
「メアリさん、君のひょえーーーんが金獅子くんのツボにハマったんだよ(笑)
それにしても美青年冒険者二人の旅の間の一コマか・・・絵になりそうだ。
お二人さん、記念に一枚撮らせて貰っていいかな?」
フレッドがそう笑いながら前席と後席を仕切る壁の窓を開けてカメラを構えたので、ライキはVサインを作ってレオンの肩に手を置き自分の方へと引き寄せた。
ライキにとってはユデイにするのと同じようなごく普通の馴れ合い行為だったが、レオンは戸惑い訝しげにライキを見た。
だがフレッドの、
「はい、それじゃあ撮りますよ~!」
という掛け声で慌ててカメラの方を向いた。
「3、2、1・・・はい、チーズ!
パシャッ!」
それから時々小休憩を挟みながらも馬車は進んだ。
時計が正午を指す頃、銀色狼と空駒鳥のつがいはそれぞれの馬車の中で朝食と一緒にメアリが作ってくれていたお弁当のクレープを食べた。
クレープは甘い系からしょっぱい系まで様々なものが用意されており、ライキはその中から実家のソーセージとマッシュポテトとチーズを包んだクレープを、レオンはゆで卵とハムとトマトを使ったクレープを選んで食べた。
先行しているリリアナ号のメンバーにもメアリがランチを用意していたらしく、リーネは木苺とクリームチーズとキャラメルを使った甘い系のクレープを選んだようで、
「すっごく美味しい!
今度私もつくってみる!」
と影を通してはしゃいでいた。
そんなランチを終えて一時間程した頃、先行しているリリアナ号がある立て札のある分かれ道で選択を迫られることとなった。
右に行けばボラントへの近道になるが、岩で囲われ入口と出口しか道がない場所を通ることになり、ここには盗賊の出没情報が多く寄せられているため執事のロバートが強く警戒していた。
その為彼はリリアナに左のルートを提案した。
「お嬢様、ここは遠回りにはなりますが左のルートに致しましょう。
万が一にも盗賊が出たら一大事でございます。」
「嫌よ。
だって左はチーロ村を通るでしょう?」
リリアナはそう言って眉間に皺を寄せると首を左右に振った。
左のルートはリリアナの父であるボラント辺境伯が差別し嫌っている貧村チーロを通るので、父の娘である自分を見た村人に石を投げられるかもしれないと、リリアナは強く拒否した。
「大丈夫ですよ。
お嬢様が直接チーロの者を差別したわけではないのですから。」
ロバートはそう言い説得を試みたが、結局リリアナは折れなかったので、一行は止む無く右の道を通ることとなった。
そして不安そうに馬に鞭打つロバートが操るリリアナ号が右の道へ進んでその問題の地点に差し掛かったとき、足元に引いてあった縄を馬が引っ掛け、何かの仕掛けが作動してカランカランと木の板が鳴った。
するとたちまち盗賊団らしき男達が道を塞ぐようにして現れたのだ!
慌てて引き返そうにも別の盗賊達に帰路を塞がれ絶たれてしまう。
〈ライキ!
岩で囲まれたところで盗賊団に遭遇して囲まれちゃった!
どうしよう!〉
リーネが影を通して焦った声で状況を伝えてきた。
ライキが意識を影に集中して視覚を共有すると、リーネの言う通り数人の屈強な男たちが武器をチラつかせながらへらへらと笑い馬車へ迫ってきているのが見えた。
〈わかった・・・すぐに行く!
だが荷馬車はそっちと大分離れてしまってるから飛ばしても1~2分はかかると思う。
俺が行くまで何とか持ちこたえてくれ!〉
〈わかった・・・!
頑張るね!〉
〈無理はするなよ?〉
ライキは頭の中でそうリーネとやり取りした後すぐに席を立ち、荷馬車組すべてのメンバーに向かって言った。
「リリアナ様の馬車が盗賊団と遭遇しました!
俺はすぐに飛んで加勢に行きます!
荷馬車は左ルートへ進んで下さい!
右のほうへ進むと荷馬車までも狙われますから・・・」
「わかったよ!
すぐに合流出来そうもなければチーロで皆さんが来るまで待ってるから!
よろしく頼むよ!」
ノックスがそう言い鞭を振るった。
荷馬車は加速し、見えてきた分かれ道の立て札を左へと曲がる。
ライキが後席のドアを開けてリーネたちがいる右側の道の方へと向かって飛び立とうとすると、レオンがその腕をガシッと掴んで言った。
「僕も連れて行け!」
「金獅子!?
駄目だ!
移動の力を部分的に引き出して飛ぶときは、自分以外の人は上手く運べない!」
「僕だけここで指を咥えていろというのか!?
何のための護衛だ・・・!」
レオンの真剣な様子にライキは考え込んだ。
(金獅子もモニカさんが心配なのだろう・・・。
だが、奴を連れて飛ぶとなると更に時間がかかるぞ・・・。
いや、少し到着が遅れても人手が多い方がいいかもしれない。)
ライキはそう考えて口を開いた。
「相当蛇行するだろうし最悪振り落とされるかもしれない。
それでも構わないか?」
レオンは迷わず頷いた。
「あぁ!
構わないから連れて行け!」
「・・・わかった!」
ライキはレオンの手首を強く握るとそのまま馬車を飛び発った。
二人は地上から10メートルくらいの上空に舞い上がるが、やはり自分以外の人間を射精なしで連れて飛ぶことは非常に難しく、コントロールを失い近くの木の枝へ突っ込んで太い幹にぶつかりそうになった。
それをなんとかギリギリの所でコントロールを取り戻し衝突を免れる。
「うわぁぁぁぁーーー!!」
レオンが恐怖のあまり悲鳴を上げた。
「叫びたくなるのはわかるがなるべくじっとしていてくれ!
動かれるとやりにくい!」
「そ、そんなこと言われても・・・!
っうわぁぁぁぁーーー・・・!!」
「だから動くなって!!」
「よーし、全員馬車から降りてそこへ並べや!」
リーネは盗賊の頭ギルロイと思われるくすんだ水色の髪をした無精髭の恰幅のいい男によるその命令にひとまず従っていた。
(ここで下手に先手を打っても私達の戦力じゃリリちゃんやロバートさんを危険に晒すことになる。
皆を一気に眠らせるような魔法があれば別だろうけど、私が使える光と水の魔法にはそういったものは無い・・・。
ヴェノムクリシュマルドには睡眠毒をセットしてあるけど、それは一人ずつしか狙えないし、一人を眠らせた所で別の盗賊にやられて武器を奪われておしまいになるだけ・・・。
それなら大人しく従うフリをして、ライキが来るまでの時間を稼ぐほうがいい・・・。)
リーネがそんなことを思いながら馬車からリリアナが降りるのを手伝うために手を貸そうとすると、リリアナはその場に蹲って真っ青になり、ガタガタと震えていた。
「リリちゃん・・・?」
「リーネ・・・あの男・・・あのくすんだ水色の髪の男・・・間違いない・・・
昔私を誘拐した男よ・・・・・!」
「!!」
リーネはリリアナの言う男をそっと見ると眉を寄せて冷や汗を垂らしながら考えた。
(あの男が昨晩ヴィセルテさんが言っていたリリちゃんの誘拐事件の実行犯・・・。
リリちゃんこんなに震えて凄く怖がって・・・・・無理もない・・・・・。
この馬車から出たら、リリちゃんに気付いたあの男はリリちゃんをまた商品にしようとするはず・・・。
でも大丈夫・・・私達が絶対に守ってみせるから。
フェリシア様が私にくれたこのお守りのペンダント・・・今はリリちゃんに一番必要よね・・・。)
リーネは胸元のフェリシアの守りをギュッと握りしめた。
(フェリシア様が私のために授けてくれたものをリリちゃんに貸してあげるなんて、フェリシア様の気持ちを思うと本当は良くないことなのかもしれない・・・。
だけど、フェリシア様は私の決断を信じるって言ってくれた。
だから・・・・・!)
リーネは静かに決意を固めると、首から下げた空色の石のついたペンダントを外し、リリアナの首にそっとかけてあげた。
「リーネ、これって・・・」
リリアナがハッとして顔を上げた。
「これはね、フェリシア様のお守りなの。
これをつけていればリリちゃんが怖いと思う人から守ってくれるから安心して?
今ライキがこちらに向かってきてくれている。
大丈夫。
私達が必ず守るよ・・・!」
「で、でもこれってリーネの大切なものなんじゃ・・・」
リリアナが言いかけたところでギルロイが遮るように声を張り上げた。
「おーい、そこ!
何してる!
早く降りろや!」
リーネはリリアナの手を引き馬車から降りた。
それを先に馬車から降りていたドールズのセディスがじっと見ていた。
「よーし、これで全員か。
おっ・・・最後に出てきた小娘、いつぞや攫って売っぱらった赤百合様じゃねーかよ。」
馬車から降りたリリアナを見てギルロイが言った。
リリアナはビクッと身を震わせてリーネの後ろに隠れた。
「ケッ!
よくもまぁあの変態貴族の元から助け出されたもんだ!
まぁまたあの変態の元へ送り返してやれば金が取れるから別にいいけどよー。
左端から順に俺が価値を見ていくから、赤百合様は一番最後に並んで待ってな。」
ギルロイはリリアナに向けてそう言った。
リーネはリリアナの手を引き最後尾のモニカの隣にリリアナを連れて並んだ。
「よし、いい子だ。
大人しく従っといたほうが痛い目を見なくて済むからな。
お前らはその派手な馬車の積荷を確認し、金目のものがあれば俺等の馬車に移しとけや。」
ギルロイは手下にそう命じて一番左端に立っているロバートから順に売り物としての価値を見定めていく。
「あんた赤百合様の執事か。
よくろくな護衛もなしでここを通る気になったな?
大方赤百合様のわがままに付き合わされたんだろうがな。
ジジイでもご主人様に大事にされていりゃ多少の身代金は取れるか?
まぁ普通に考えりゃあこんな事態に陥った地点で責任を取らされて解雇だろうが、一応殺さずに置いておくか。
おいホイ、このジジイ、ペットにどうよ?」
ギルロイは後にいたスキンヘッドの大男にロバートの処遇を確認するかのように振り返った。
「いんや、オイラペットにするならピチピチに若くて顔がうんと綺麗なのがいーっふ・・・」
ホイと呼ばれた男はそう言って頭を振った。
「そうかよ。
今回はホイ好みなのがいねーししゃーねーな。
しばらくはヒューで我慢しとけや。
おいお前!
執事ならアイテムボックスを何処かに隠しているはずだから服をよく調べろ!」
ギルロイは手下の一人にそう命じ、ロバートは若い盗賊に服を調べられ始めた。
続いてギルロイはドールズの5人の品定めを始めた。
セディスの頬の晴れは朝までは痛々しく残っていたのに今は綺麗に引いており、リーネは訝しげに眉をひそめた。
「5人の美人メイドか。
どいつも上玉だがどうもこうしっくりこねぇな。」
「しっくりこねぇ?
オイラには女なんかみんな同じに見えるし、よくわからねーっふ。」
ホイが鼻をほじりながら間延びした声でそう言った。
「女に関心のないお前にゃわからねーだろーが、数々の女を品定めしてきた俺には解るんよ。
おめーらの面、作りもんだな?」
「作り物、ですか?」
セディスがニッコリと微笑んで訊き返した。
「あぁ。
俺等はこの間までダルダンテに潜伏していたんだがよ。
その時に聞いたことがあるんだ。
あの国じゃあ顔を作り変えることのできる闇医者がいるだろう?
”黒蛇”とか何とか言ったか・・・?
そいつにいくら払ったか知らねーが、よくやるぜ。
だが作り物は闇オークションに来る目利きには見破られちまうからなぁ・・・。
それにリーダーのあんた以外の4人には品がねぇ。
まぁ見た暮さえよけりゃあ下品でもいいっていう野郎もそこそこいるし、スベイルにある下衆な客相手の下級娼館なんかならそこそこの値で買い手がつくか?」
無精髭を親指で撫でながらそう言うギルロイの腕に、しなを作って自らの腕を絡ませたセディスが薔薇色の唇を開いた。
「・・・団長さん・・・
貴方逞しくてイイ男だし、私のタイプだわ♥
どうかしら?
私達を売り払うよりも貴方達の仲間に入れてもらえないかしら?
私達確かに整形はしてますけど、それなりに殿方を喜ばせる術を心得ておりますし、貴方の手下のお方達もきっと満足させてあげられますよ?」
盗賊団のメンツはホイを除いてセディスの提案に歓喜し、
「おおーーー!マジかよ~!
ねーちゃんたち歓迎するぜー!」
「毎晩あんないい女達が抱けるなら盗賊団に入って良かったってもんだぜぇ~!」
等と騒いでいる。
「あんた、この場で自分達を売り込むとはいい度胸してるなおい!」
驚きで軽く目を見開きギルロイが言った。
「えぇ・・・背に腹は代えられませんので。
私達、このままお嬢様と一緒にボラントに着いてもどうせ教会に突き出され、洗われれば色々と出てきてしまう身ですから・・・。
それなら盗賊のお仲間になる方が、ずっと自由でいられそうだもの。
ね?みんな。」
ドールズの他の4人も同意して頷く。
「いかがです?
団長さん・・・♥」
セディスはギルロイの厚い胸元に指を這わせながら可愛らしく小首をかしげた。
「セディス・・・貴方・・・!」
リリアナがセディスのセリフにショックを受けて泣きそうな顔になった。
リーネは黙ってその小さな手をギュッと握ってやった。
「あんたのその度胸は買ってやるが、生憎と女は仲間にできねぇ。
男の集団ん中に女が入るとろくなことにはならねぇからな・・・。
こいつは今まで盗賊の頭を張ってきた俺が身を持って経験し、学んだ結論だ。
だから悪いがあんたら5人は俺と手下共全員の相手をしたあとに売らせて貰うぜ?」
セディスはギルロイの言葉を聞いて悔しそうにギリッと歯を噛み締めた。
「なぁに。
他の4人は知らねーが、あんた程の度胸がありゃあ売られた先で作り物だろうと何だろうと伸し上がれるだろーよ。
だから悪いが諦めな。」
セディスは顔を上げると、アイテムボックスを奪われ縄で手首を拘束され盗賊団の馬車へ連れて行かれるロバートを見ながらギルロイに言った。
「わかりました・・・。
私達逃げませんから、ロバートさんのように縛るのはやめてくださいませんか?
痛いのは嫌なの。」
「あぁ~わかったわかった。
じゃあお前らは最後の赤百合様の確認が済むまでここにいろや。」
ギルロイはドールズに向けてそう言うと、次に並んだモニカに視線を移し、顎に手を当て品定めを始めた。
「こいつはいい・・・。
栗色の髪色に飴色の艷やかな瞳・・・ジャポネの女か?
珍しい上かなりの上玉だ。
こいつはスベイルの高級娼館に高値で買い手がつくだろうな・・・。
残念ながら処女ではなさそうだから、こっちの5人と一緒に俺達の相手をしてもらった後に売り飛ばしてやんよ。」
「ヒャッホー!
俺等こんな上等な女が抱けるんですかい!!」
「5人のメイドちゃん達よりもこっちのお姉さんが好みよ~♥
そのハイヒールで踏まれてぇ~♥」
盗賊の手下達が浮足立って騒いだ。
「あぁ、俺のあとで良けりゃあ好きにしろや。
ただし孕んじまったら買い取ってもらえねーから、ザーメンは必ず膣外に出すこと。
そんで身体に大きな傷がついちまっても値が下がるから、抵抗されても暴力でねじ伏せるような暴力行為はやめておけや?
おっと、この鞭は危なっかしいからいただいとくぜ?」
鞭を取り上げられたモニカはギルロイを鋭く睨みながら言った。
「残念ですわ。
団長さんにはベットの上で私の鞭をたっぷりと味あわせて差し上げようと思いましたのに・・・。」
「いや、俺も生憎とドSなもんでね。
あんたみたいなSっ気の強いのに屈辱を味合わせるほうが好みなんだわ。」
「・・・汚らわしい。
地べたで干からびたミミズのようにくたばってしまえばよいのに・・・」
モニカは低く押し殺した声で、だがギルロイにははっきりと聞こえるようにそう呟いた。
「この俺様にそんなことを言えるたぁ威勢が良いなおい!
ますます気に入ったぜ!
アジトに着いたら真っ先にひん剥いて可愛がってやんよ。
こいつは黙って諦める玉じゃねぇし俺等の隙を狙って何をするか解らねえ。
縛って執事の爺と一緒に馬車に放り込んでおけや。
いいか?
くれぐれも傷はつけるなよ?」
ギルロイは手下の一人にそう命じると今度は次に並んだリーネに視線を移した。
「ほう・・・こいつもいい!
きめ細かな白い肌に細く美しい淡い金髪・・・。
更には空のように澄んだ青い瞳にさくらんぼのような艷やかな唇を持つ相当な上玉・・・。
しかもまだ処女ときた!
まぁ胸がもうちっとデカけりゃ尚良かったが・・・」
と言ってリーネの胸元を残念そうに見るギルロイ。
リーネはムッとして眉を吊り上げた。
「それでもこの見た目で初物ならさっきのジャポネの女よか高値が付きそうだな・・・。」
リーネは青ざめ冷や汗を垂らしながらもギルロイのその上から下まで舐めるような視線に黙って耐えた。
だがその視線がリーネの左手の薬指にはめられたつがいの指輪に止まった途端、ギルロイは険しい顔に変わり、チッ!と舌打ちをした。
「くそっ・・・女神の加護持ちかよ!
こいつは売り物にならねぇぜ!」
「なんだぁ。
その小娘、売りものにならねーっふか?」
ホイが首を傾げた。
「あぁ・・・。
こいつ、つがいの指輪をしてやがる。
ってことはこの国の女神の加護を受けているわけだから、手を出せば何れ教会に足が付くし、物がいくら良くても買い手がつかねぇ!」
「そんなら指輪を外すか、もしくは売り物の価値は下がるけど、その指輪のついた指ごと切り落としてしまえばいーっふよ。
オイラ頭いーっふ!」
とホイが提案した。
「馬鹿野郎!
つがいの指輪ってのはな、どんな道具を使っても決して外せねぇし、指ごと切り落とそうにも獲物ごと弾かれるどうにもならねー代物なんだよ!
しっかし惜しいなぁ・・・。
ジャポネの女と赤百合様に合わせてこいつも売れりゃあ何年も遊んで暮らせるのによぉ・・・。
手間と金はかかるがこいつだけダルダンテ神国に運んじまうか?
そうすりゃ女神フェリシアの加護は切れてつがいの指輪を外せるようになるはずだからな・・・。
いや・・・ダルダンテまで運んでる間に教会に気付かれると面倒だしやっぱりリスクは高けぇな・・・。
どーすっか・・・。
おっと。
その腰に下げた短剣はあぶねぇから頂いとくぜ?」
そう言ってギルロイはリーネの腰からヴェノムクリシュマルドを外すと、不思議そうにそれを眺めた。
「なんだこいつは・・・。
見たこともねぇ金属と硝子みてぇなもので作られてやがる。
これだけでも相当な値がつきそうだが、こんなものを下げてるたぁ嬢ちゃん何者だ?
つーか、つがいならそもそも片割れがいるはずだよなぁ?
何故その雌だけがここにいる?」
「・・・・・。」
リーネはその問いに答えなかったが、代わりにセディスが答えた。
「彼女はただの加護持ちのつがいじゃないわ。
女神フェリシアに寵愛を受けている特別なつがいなの。
教会で発行されているニュースペーパーを読んでいる人なら誰でも知ってる有名な子なんだけど、教会とは縁遠そうな団長さんでは読んでいなくても仕方が無いわね。
その武器もきっと女神から渡された天界製のものよ。」
「何だと!?
この嬢ちゃん寵愛の民か!」
とギルロイが目を見開いた。
「ええ。
普通のつがいなら教会を通して管理され守られているから、つがいの民に何かがあったとき、教会が対応するまでには少し時間がかかるものなのだけど、彼女はいつも女神が天界から見守っているに等しい・・・。
そんな彼女を攫うとなるとすぐに女神に気付かれ、団長さんもただでは済まないでしょうね。
そして、彼女のつがいはお嬢様の男嫌いのために別の馬車に回されたけど、彼も女神の寵愛を受けて空を飛ぶ力を持っているから、もうすぐここに飛んで来るんじゃないかしら?
しかも彼はこの国の英雄ハント家の末裔・・・手強いわよ?
お嬢様達を攫うなら彼が来る前に急いだほうがいいと思うのだけど。」
「ほぅ・・・情報提供どーもな!
なるほどねぇ・・・女神のお気に入りのつがいか・・・。
それにハント家っつったらこの国最強の狩人の一族だろ?
人間離れしたホイならそいつ相手でも勝てるだろーが、俺は正直やりあいたくねーな。
さっさと赤百合様を馬車に詰め込んでずらかるとするか。」
ギルロイがそう言って髪をかきあげてからリリアナを見ると、セディスが微笑を浮かべて言った。
「お待ちになって?
団長さん。
折角情報提供してあげたんだから、私達は見逃してくれないかしら?」
「うーむ・・・それだけじゃ逃がすに足りねぇなぁ。
もう少し手柄を立てりゃあ考えなくもないけどよ。」
とギルロイ。
それに対してセディスは、
「あら、意外とケチなのね。
残念だわ。」
と少し眉を寄せながら微笑んだ。
「ともかく色々と面倒だからこの寵愛の民の嬢ちゃんはここに置いていく。
武器も奪ったし非力そうだから警戒することもなさそうだが、女神のお気に入りってなら今は衰退しちまった魔法とか何らかの女神から賜った力で俺らの邪魔をしてくるかもしれねーからな。
何もできねーようにお前、しっかり縛っておけ!」
ギルロイは手下にそう命じると、今度こそ最後に残ったリリアナを見た。
「よぉ、赤百合様。
3年ぶりか?
ハント家の末裔が迫ってるってことだからゆっくり話している時間もねーし、あんたの買い手は確実だから態々確認する必要もねーな。
今度は前よりもふっかけてやるぜぇ!
おい、赤百合様を馬車に連れて行けや!」
ギルロイに命じられた二人の手下がリリアナに迫る。
「いやぁ!!
来ないで!!」
リリアナが叫ぶと同時にリーネにかけてもらったフェリシアの守りの効力により、二人の男は5メートルほど弾き飛ばされ、指一本触れることすら叶わなかった。
リーネは腕を縛られながら自分の決断が間違っていなかったことに安堵し、小さくため息をついた。
「なんだぁ!?
どーいうことだぁ!?」
今度はギルロイが直接リリアナに触れようとするが、それをセディスが制した。
「やめておいたほうがいいわよ団長さん。
お嬢様の首に下がったペンダント・・・これは空駒鳥さんが女神フェリシアより授かったもので、身につけた者が警戒する相手を弾き飛ばしてしまう力があるみたい。
それを空駒鳥さんが外してお嬢様にお貸ししているところを先程見たわ。
お嬢様がそれをつけている以上、さっきの手下の人よりも強く警戒されている団長さんはもっと強く弾き飛ばされてしまうんじゃないかしら?」
「な、何だと!?
そいつを何とか外さねーと、一番の目玉商品が攫えねぇじゃねーか!
お前らそいつをどうにかして外しやがれ!」
ギルロイの命令に手下が数人リリアナのペンダントを外そうと迫るが、誰もが同様に弾き飛ばされてしまう。
そこでセディスが口角を上げながらギルロイに向かって言った。
「団長さんは先程もう少し手柄を立てれば私達を逃してくれると言いましたね?」
「あぁ・・・言ったな。」
「それでしたら私がお嬢様からペンダントを外して差し上げれば、逃して貰えますね?」
「・・・・いいぜ?
やってみな。」
腰に手を当てギルロイが頷いた。
「畏まりました。」
セディスはギルロイに微笑み頭を下げると、今度はリリアナの元へツカツカと歩み寄り言った。
「お嬢様、失礼いたしますわね。」
そしてその首から下げたペンダントにそっと手をかけた。
「セ、セディス・・・?」
戸惑いながら彼女の名を呼ぶリリアナ。
それは弾かれることなくセディスの手によりすんなりと外された。
「裏切り者の私をまだ警戒しないでいてくださるだなんて、お嬢様人が良すぎですよ?
ですがありがとうございます。
お陰様で助かりそうです。」
セディスはそう言ってリリアナに深々と頭を下げると、ギルロイに向かって微笑みかけた。
「外しましたよ?団長さん。
約束通り、私達5人を見逃して下さいね。」
ギルロイはボリボリと短く切った髪を掻きむしりながらはぁ~・・・とため息をついた。
「・・・チッ・・・しゃーねぇ・・・男に二言は無しだ!
だがその男よけのペンダントは高値がつきそうだから置いて行けや。
外れてしまえば男の俺でも触れるだろう?」
するとセディスはニコッと微笑んでから、それをナンシーの首に下げた。
「てめぇどういうつもりだコラァ!?」
ギルロイは怒って声を荒らげた。
セディスは微笑んだままで言った。
「ごめんなさいね、団長さん。
女神のペンダントはあげれません。
だってそれはあの方にとっても邪魔なものではあるのだけど、貴方に渡して買い手がわからなくなってしまうよりは、あの方に直接渡したほうが安心されて喜ばれると思うから。
今回の作戦は失敗してしまいましたから、せめてこれくらいは頂いて行きますわね。」
「おいお前ら!
あの女からペンダントを奪いやがれ!」
ギルロイが手下に命令を下す。
「いやぁ~~~!!
盗賊こわ~~い!!
来ないで~~~~~!!」
だがそう叫ぶナンシーに誰も触れることは出来ず、見事に弾き飛ばされてしまうのだった。
「ナンシーはDV夫から逃げてきた子だから私達の中で一番暴力に敏感で臆病なの。
だから貴方達みたいな暴力的に向かってくる男では決してペンダントを奪えないわ。
さぁみんな、今のうちにお嬢様の馬車へ乗りなさい!」
セディスはナンシーを除くドールズの3人にリリアナ号へ乗るように促した。
「「「リーダー・・・ありがとう!!」」」
トリー、ニア、ハンナの3人は慌ててリリアナ号の前席に駆け込んだ。
「それではお嬢様、今までありがとうございました。
ご機嫌よう。」
セディスはリリアナに向かってもう一度頭を下げると、ナンシーを盾にしながら盗賊の妨害を防いで馭者席に乗り込み、リリアナ号を走らせてボラントへ続く道を行ってしまった。
(ごめんなさいフェリシア様・・・。
ペンダント、セディスさんに持って行かれちゃった・・・)
リーネは縛られたままその場に跪き、ギュッと目を閉じた。
「チッ・・・高値で売れそうなペンダントに加えて性欲処理班の5人の作りもんメイドにも逃げられちまったか・・・。
まぁいい。
そのぶんジャポネの美人メイドちゃんにたっぷりと夜の相手をして貰うとするぜ♥
さてと、これで赤百合様拉致を阻むものは何も無くなったというわけだ。
野郎共、今度こそ赤百合様を馬車へ連れて行けや!」
「「へい!」」
(ライキ・・・早く来て・・・!
リリちゃんとモニカさんとロバートさんが連れて行かれちゃうよ・・・!!)
リーネが心の中でそう叫び、盗賊が怯えて震えるリリアナの手を掴もうとしたそのときである。
「・・・・うわああああああーーーーー!!!」
悲鳴のような声が空の彼方から段々と近づいて来た。
何事かとリーネが顔を上げると、悲鳴の主であるレオンと共に上空に姿を現したライキがシュン!と地面に着地した。
「ライキ!!」
リーネが後ろ手に縛られたままで彼の元へ駆け寄ろうとしてスカートの裾を踏み前に倒れ込みそうになったので、ライキは移動の力で加速してそっと彼女を抱き止めた。
「ごめんリーネ!
金獅子を連れて飛ぶのが難しくて時間がかかった!
後は任せろ!」
ライキはリーネの縄を手早くナイフで切ってやるとロングソードに手をかけた。
「モニカがいない!
何処だ!?」
レオンがキョロキョロとモニカの姿を探しながら声を上げたのでリーネが答えた。
「モニカさんならロバートさんと一緒にあの馬車の中にいるよ!」
金獅子はリーネが指差した馬車を見ると無言で頷き、そっと白の剣の柄に手をかけた。
「おおーっ!
オイラ好みなのが二人も来たっふ!
金髪のキミは子猫ちゃんみたいでぇ、銀髪のキミは子犬ちゃんみたいっふ♥
ギル兄!
この二人、オイラの新しいペットにしてもいーっふか?」
ホイがハートを撒き散らしウキウキしながら言った。
「あぁいいぜ?
だが引っ掻かれたり噛みつかれたりしねーよう、今ここで上下関係をはっきりとしとけや。」
とギルロイが言った。
「わかったっふ!
わっふわっふ!」
ホイがそう言って楽しそうに拳を鳴らして前へ出た。
その2m50cmはあろうかという巨体の胸元には、◆の印が刻まれていた。
薬が抜けてすっかり元気になったライキは、いつもの狩装束姿で荷馬車に乗っていた。
空模様は少し雲がかかってはいたが雨がぱらつく気配もなく、ボラントまでの距離を順調に稼いでいた。
リリアナ号と荷馬車はほぼ同時に野営地点を出発したのだが、荷馬車の積荷の重量の所為か、リリアナ号の姿が荷馬車から見えなくなるくらいに距離を離されていた。
荷馬車の馭者席はリリアナ号のそれよりも狭く、小太りなノックスが座るとそれだけで一杯になり、他の誰かが隣に座る余地は無かったため、ノックスに交代が必要なときには声をかけてもらうようにして、前席にはメアリとフレッドが、後席にはライキとレオンが荷物の空きスペースに少し距離を置いて座っていた。
〈私達は順調に進んでるみたい。
今2つ目の川を越えたよ?
そっちはどう?〉
シャドウクローンの魔法で生み出してリーネの影に付けたライキの影を象った分身が、本体であるライキの意識の端でリーネの声を届けてきた。
頭の中で愛しの彼女の可愛い声が聴こえたのでライキはほっこりして表情を緩めた。
ライキは影を通して彼女に自分の思考を届けるため、少しだけ意識をそっちに集中した。
〈俺達はようやく1つ目の川を越えたところだよ。
リリアナ号と随分距離を離されたな。
このぶんじゃ昼飯も別々に食うことになりそうだな。
はぁ・・・こんなことなら朝にももっとリーネ分を補給しておけば良かった・・・。〉
〈き、昨日夜ので充分でしょ!
ライキのエッチ・・・!
も、もう・・・モニカさんに笑われちゃったし、リリちゃんには最低ってジト目で睨まれちゃったよ・・・!?
私はライキと違って影に声を通すためには実際に声を出さなくちゃいけないし、ライキの声も影の近くにいる人には聴こえちゃうんだから、話す内容には気を使ってよね!〉
リーネの不貞腐れた声と共にモニカの笑い声も微かに聴こえてくる。
〈あ、そうだったな(笑)
ごめん!
そっちは何か変わったことはないか?〉
〈うん、特には・・・。
ドールズの5人も大人しくしてるよ?
あ、さっき魔獣のロックドッグが出てね。
モニカさんと私で倒したんだけど、こっちの馬車には魔獣が回収できる大容量のアイテムボックスを持っている人がいなったから、そのままにしちゃってるの。
2つ目の川の橋の手前くらいに死体があるはずだから、後で通ったときに回収しておいてくれる?〉
〈了解。
つかロックドッグを倒したのか!
弱めの魔獣の中でも初心者泣かせなのに凄いな!
石つぶてを飛ばしてきただろ?
大丈夫だったか?〉
〈うん、水魔法の盾で綺麗に防げたよ!
後はモニカさんが鞭であっという間に仕留めてくれた!〉
〈そっか、怪我がなくてよかった!
あっ、こっちも2つ目の川が見えてきたよ。
ロックドッグの死体は・・・あった。
じゃ、また後で連絡する。〉
ライキはノックスに合図して馬車の速度を落としてもらい、後席の扉を開けると移動の力でロックドッグの死体を持ち上げ、そのまま自分の元へと引き寄せると、アイテムボックスを起動してそれを仕舞った。
それが終わると扉を締めてノックスに速度を戻すように合図し、元の場所に座って窓から近づいてくる川を頬杖をついて見ていた。
そこでレオンが口を開いた。
「さっきの魔獣、モニカとリーネちゃんで倒したのか。」
「あぁ、うん。
リーネが魔法で支援してモニカさんが鞭で倒したそうだ。」
「・・・?
何故わかる?」
「あぁ、俺の魔法でリーネと離れていても頭の中で会話が出来るから、そのときに聞いたんだ。」
「魔法で会話を・・・。
だからさっきから一人でニヤニヤと気持ち悪い顔をしていたのか。
納得がいった。」
そう言ってフッとほくそ笑むレオン。
それに対してライキは苦笑いしつつ返した。
「気持ち悪くて悪かったな・・・。」
「しかし通話器のようなことが出来る魔法か・・・。
便利なものだな。
何属性だ?」
レオンが尋ねる。
「闇だよ。
俺には闇と風の資質があるから。
まぁこの首飾りが無いと使えないけどな。」
と言ってフェンリルの首飾りを指差すライキ。
「ふぅん・・・良いのか?
僕にそんなことまで話しても。
次に刃を交えるときにその首飾りを切り落として、お前の魔法を封じるかもしれないんだぞ?」
「あんたとやり合うときに魔法を使うつもりはないから知られたって問題無いよ。
それにあんたが俺との勝負でその白の剣を抜くうちは、武人としてまだ分かり合える余地があるし、そんな卑怯な真似はしないと思ってる。」
ライキはそう言ってレオンの腰に下げた二本の剣に視線を移した。
「・・・この黒の剣を抜くことは、騎士としての誇りを捨てることになる・・・。
それでお前に勝っても嬉しくない・・・。」
レオンは眉間に皺を寄せて渋い顔で呟くように返した。
それに対してライキは柔らかく微笑み言った。
「・・・そうか。」
暫らくの沈黙の後、レオンは左手の手袋の指がない部分の中指にはめられている、恐らく冒険者ギルドのレンタル品である指輪型のアイテムボックスを起動した。
「・・・小腹が空いた。」
彼はそう言ってから腕が一本入るくらいの大きさの亜空間ホールを作り出し、その中に手を入れて桃を2つ取り出した。
そしてその桃をひとつ掴み、そっぽを向きながら無言でライキに差し出した。
「・・・やる・・・。」
「えっ・・・。」
ライキは困惑して少し眉を寄せるが、よく見るとレオンの耳が赤く染まっていたので、フッと微笑んでからそれを受け取った。
「・・・どうも。
俺も少し小腹が空いてたんだ。」
そして二人は桃を食べはじめた。
「・・・宿屋の娘にお前の食の好みを聞いたら、
「今の好みはわからないけど、昔は果物なら何でも食べてたかしら?」
と言っていて、何となくお前は肉ばかり食ってそうなイメージがあったから半信半疑だったが、本当だったな。」
レオンがまだ少し赤い顔のままでボソッと呟くように言った。
「あぁ、肉も好きだけど、狩りで小腹が空いたときに森に生ってる果物はすぐに食えて便利だし、普通に好きだよ。
あんたは?
桃、好きなのか?」
今度はライキが尋ねた。
「あぁ、果物の中では一番好きだな。
上品な甘さだし香りもいい。
何だかモニカみたいで・・・。」
そう言った後急に恥ずかしくなったのか、レオンは真っ赤になって俯き頭から蒸気を立ち昇らせた。
「あぁ!
モニカさん、確かに桃の花の香りがするよな。
やっぱり本名に因んでそういう香水を選んでいるんだろうか?」
と首をかしげながらライキが言った。
それに対してレオンは目を目開いて顔を上げた。
「本名?」
「あぁ、うん。
確か本名はももか・・・ジャポネの言葉で桃の花を意味する名だって・・・。
だがアデルバートやフェリシアでは通りの良いモニカを名乗ってるらしい。
・・・知らなかったのか?」
「・・・・・知らなかった・・・・・。
何故お前に話して僕には話してないんだよ・・・。」
レオンは複雑に顔を歪めて俯き、悔しそうに呟いた。
「いや、俺に話したというより多分その場にリーネがいたからだと思う。
リーネの曾おじいさんの故郷ニホン国はモニカさんの故郷ジャポネと似た文化みたいだから、その流れで名前のことを話してくれたんだ。
あんたが直接本当の名を聞けば答えてくれるんじゃないか?
そして”ももか”って呼んでみればいいじゃないか。
恋人なんだろう?」
ライキがそう言うとレオンは頬を赤く染めて視線を落とし呟いた。
「・・・恋人か・・・・・。
いや・・・僕にそんな資格は・・・・・。」
ライキは軽く笑って皮肉交じりに返した。
「ははっ、あんた、お国柄とかで女に言い寄られればすぐに手を出してたようだし、モニカさんに恋人だと思って貰えなくても無理はないだろうな。」
「なんだと・・・!」
眉を釣り上げて席を立つレオン。
ライキは真剣な顔でレオンを見ながら言った。
「・・・やめればいい。
モニカさんを堂々と恋人と呼びたいのなら、他の女を相手にすることをな。
それとも他の女を抱くことはあんたにとって、たった一人のモニカさんの心の全てを得ることよりも大切なことなのか?」
レオンはライキの言葉を受けて考え込み、沈黙した。
「・・・・・。」
「まぁ俺の言うことはフェリシア神国流の考えだから、アデルバートで育ったあんたがすぐに受け入れられなくても無理はない。
あんたがモニカさんとどうなりたいのかは、これから少しずつ考えていけばいいよ。」
ライキがそう言って食べかけの桃を手に顔を上げると、前席のメアリがこちらの様子を窓から覗きながら頬を染めて目を輝かせている視線とぶつかった。
「ひょえーーーん♡
美しい殿方二人が桃を食べながら恋バナだなんて、眼福だよ~~~♥」
「あ・・・メアリさん・・・」
まずライキがメアリにそのような眼差しで見られていたことに苦笑いをしたが、少しして黙りこくって俯いていたレオンがその状況に急に可笑しくなったのか、フッと一度小さく笑ってから、栓が抜けたかのようにくつくつと堪えながらも笑い始めた。
「金獅子さん笑ってるだ・・・!
笑う姿も綺麗だぁ~~~!」
「メアリさん、君のひょえーーーんが金獅子くんのツボにハマったんだよ(笑)
それにしても美青年冒険者二人の旅の間の一コマか・・・絵になりそうだ。
お二人さん、記念に一枚撮らせて貰っていいかな?」
フレッドがそう笑いながら前席と後席を仕切る壁の窓を開けてカメラを構えたので、ライキはVサインを作ってレオンの肩に手を置き自分の方へと引き寄せた。
ライキにとってはユデイにするのと同じようなごく普通の馴れ合い行為だったが、レオンは戸惑い訝しげにライキを見た。
だがフレッドの、
「はい、それじゃあ撮りますよ~!」
という掛け声で慌ててカメラの方を向いた。
「3、2、1・・・はい、チーズ!
パシャッ!」
それから時々小休憩を挟みながらも馬車は進んだ。
時計が正午を指す頃、銀色狼と空駒鳥のつがいはそれぞれの馬車の中で朝食と一緒にメアリが作ってくれていたお弁当のクレープを食べた。
クレープは甘い系からしょっぱい系まで様々なものが用意されており、ライキはその中から実家のソーセージとマッシュポテトとチーズを包んだクレープを、レオンはゆで卵とハムとトマトを使ったクレープを選んで食べた。
先行しているリリアナ号のメンバーにもメアリがランチを用意していたらしく、リーネは木苺とクリームチーズとキャラメルを使った甘い系のクレープを選んだようで、
「すっごく美味しい!
今度私もつくってみる!」
と影を通してはしゃいでいた。
そんなランチを終えて一時間程した頃、先行しているリリアナ号がある立て札のある分かれ道で選択を迫られることとなった。
右に行けばボラントへの近道になるが、岩で囲われ入口と出口しか道がない場所を通ることになり、ここには盗賊の出没情報が多く寄せられているため執事のロバートが強く警戒していた。
その為彼はリリアナに左のルートを提案した。
「お嬢様、ここは遠回りにはなりますが左のルートに致しましょう。
万が一にも盗賊が出たら一大事でございます。」
「嫌よ。
だって左はチーロ村を通るでしょう?」
リリアナはそう言って眉間に皺を寄せると首を左右に振った。
左のルートはリリアナの父であるボラント辺境伯が差別し嫌っている貧村チーロを通るので、父の娘である自分を見た村人に石を投げられるかもしれないと、リリアナは強く拒否した。
「大丈夫ですよ。
お嬢様が直接チーロの者を差別したわけではないのですから。」
ロバートはそう言い説得を試みたが、結局リリアナは折れなかったので、一行は止む無く右の道を通ることとなった。
そして不安そうに馬に鞭打つロバートが操るリリアナ号が右の道へ進んでその問題の地点に差し掛かったとき、足元に引いてあった縄を馬が引っ掛け、何かの仕掛けが作動してカランカランと木の板が鳴った。
するとたちまち盗賊団らしき男達が道を塞ぐようにして現れたのだ!
慌てて引き返そうにも別の盗賊達に帰路を塞がれ絶たれてしまう。
〈ライキ!
岩で囲まれたところで盗賊団に遭遇して囲まれちゃった!
どうしよう!〉
リーネが影を通して焦った声で状況を伝えてきた。
ライキが意識を影に集中して視覚を共有すると、リーネの言う通り数人の屈強な男たちが武器をチラつかせながらへらへらと笑い馬車へ迫ってきているのが見えた。
〈わかった・・・すぐに行く!
だが荷馬車はそっちと大分離れてしまってるから飛ばしても1~2分はかかると思う。
俺が行くまで何とか持ちこたえてくれ!〉
〈わかった・・・!
頑張るね!〉
〈無理はするなよ?〉
ライキは頭の中でそうリーネとやり取りした後すぐに席を立ち、荷馬車組すべてのメンバーに向かって言った。
「リリアナ様の馬車が盗賊団と遭遇しました!
俺はすぐに飛んで加勢に行きます!
荷馬車は左ルートへ進んで下さい!
右のほうへ進むと荷馬車までも狙われますから・・・」
「わかったよ!
すぐに合流出来そうもなければチーロで皆さんが来るまで待ってるから!
よろしく頼むよ!」
ノックスがそう言い鞭を振るった。
荷馬車は加速し、見えてきた分かれ道の立て札を左へと曲がる。
ライキが後席のドアを開けてリーネたちがいる右側の道の方へと向かって飛び立とうとすると、レオンがその腕をガシッと掴んで言った。
「僕も連れて行け!」
「金獅子!?
駄目だ!
移動の力を部分的に引き出して飛ぶときは、自分以外の人は上手く運べない!」
「僕だけここで指を咥えていろというのか!?
何のための護衛だ・・・!」
レオンの真剣な様子にライキは考え込んだ。
(金獅子もモニカさんが心配なのだろう・・・。
だが、奴を連れて飛ぶとなると更に時間がかかるぞ・・・。
いや、少し到着が遅れても人手が多い方がいいかもしれない。)
ライキはそう考えて口を開いた。
「相当蛇行するだろうし最悪振り落とされるかもしれない。
それでも構わないか?」
レオンは迷わず頷いた。
「あぁ!
構わないから連れて行け!」
「・・・わかった!」
ライキはレオンの手首を強く握るとそのまま馬車を飛び発った。
二人は地上から10メートルくらいの上空に舞い上がるが、やはり自分以外の人間を射精なしで連れて飛ぶことは非常に難しく、コントロールを失い近くの木の枝へ突っ込んで太い幹にぶつかりそうになった。
それをなんとかギリギリの所でコントロールを取り戻し衝突を免れる。
「うわぁぁぁぁーーー!!」
レオンが恐怖のあまり悲鳴を上げた。
「叫びたくなるのはわかるがなるべくじっとしていてくれ!
動かれるとやりにくい!」
「そ、そんなこと言われても・・・!
っうわぁぁぁぁーーー・・・!!」
「だから動くなって!!」
「よーし、全員馬車から降りてそこへ並べや!」
リーネは盗賊の頭ギルロイと思われるくすんだ水色の髪をした無精髭の恰幅のいい男によるその命令にひとまず従っていた。
(ここで下手に先手を打っても私達の戦力じゃリリちゃんやロバートさんを危険に晒すことになる。
皆を一気に眠らせるような魔法があれば別だろうけど、私が使える光と水の魔法にはそういったものは無い・・・。
ヴェノムクリシュマルドには睡眠毒をセットしてあるけど、それは一人ずつしか狙えないし、一人を眠らせた所で別の盗賊にやられて武器を奪われておしまいになるだけ・・・。
それなら大人しく従うフリをして、ライキが来るまでの時間を稼ぐほうがいい・・・。)
リーネがそんなことを思いながら馬車からリリアナが降りるのを手伝うために手を貸そうとすると、リリアナはその場に蹲って真っ青になり、ガタガタと震えていた。
「リリちゃん・・・?」
「リーネ・・・あの男・・・あのくすんだ水色の髪の男・・・間違いない・・・
昔私を誘拐した男よ・・・・・!」
「!!」
リーネはリリアナの言う男をそっと見ると眉を寄せて冷や汗を垂らしながら考えた。
(あの男が昨晩ヴィセルテさんが言っていたリリちゃんの誘拐事件の実行犯・・・。
リリちゃんこんなに震えて凄く怖がって・・・・・無理もない・・・・・。
この馬車から出たら、リリちゃんに気付いたあの男はリリちゃんをまた商品にしようとするはず・・・。
でも大丈夫・・・私達が絶対に守ってみせるから。
フェリシア様が私にくれたこのお守りのペンダント・・・今はリリちゃんに一番必要よね・・・。)
リーネは胸元のフェリシアの守りをギュッと握りしめた。
(フェリシア様が私のために授けてくれたものをリリちゃんに貸してあげるなんて、フェリシア様の気持ちを思うと本当は良くないことなのかもしれない・・・。
だけど、フェリシア様は私の決断を信じるって言ってくれた。
だから・・・・・!)
リーネは静かに決意を固めると、首から下げた空色の石のついたペンダントを外し、リリアナの首にそっとかけてあげた。
「リーネ、これって・・・」
リリアナがハッとして顔を上げた。
「これはね、フェリシア様のお守りなの。
これをつけていればリリちゃんが怖いと思う人から守ってくれるから安心して?
今ライキがこちらに向かってきてくれている。
大丈夫。
私達が必ず守るよ・・・!」
「で、でもこれってリーネの大切なものなんじゃ・・・」
リリアナが言いかけたところでギルロイが遮るように声を張り上げた。
「おーい、そこ!
何してる!
早く降りろや!」
リーネはリリアナの手を引き馬車から降りた。
それを先に馬車から降りていたドールズのセディスがじっと見ていた。
「よーし、これで全員か。
おっ・・・最後に出てきた小娘、いつぞや攫って売っぱらった赤百合様じゃねーかよ。」
馬車から降りたリリアナを見てギルロイが言った。
リリアナはビクッと身を震わせてリーネの後ろに隠れた。
「ケッ!
よくもまぁあの変態貴族の元から助け出されたもんだ!
まぁまたあの変態の元へ送り返してやれば金が取れるから別にいいけどよー。
左端から順に俺が価値を見ていくから、赤百合様は一番最後に並んで待ってな。」
ギルロイはリリアナに向けてそう言った。
リーネはリリアナの手を引き最後尾のモニカの隣にリリアナを連れて並んだ。
「よし、いい子だ。
大人しく従っといたほうが痛い目を見なくて済むからな。
お前らはその派手な馬車の積荷を確認し、金目のものがあれば俺等の馬車に移しとけや。」
ギルロイは手下にそう命じて一番左端に立っているロバートから順に売り物としての価値を見定めていく。
「あんた赤百合様の執事か。
よくろくな護衛もなしでここを通る気になったな?
大方赤百合様のわがままに付き合わされたんだろうがな。
ジジイでもご主人様に大事にされていりゃ多少の身代金は取れるか?
まぁ普通に考えりゃあこんな事態に陥った地点で責任を取らされて解雇だろうが、一応殺さずに置いておくか。
おいホイ、このジジイ、ペットにどうよ?」
ギルロイは後にいたスキンヘッドの大男にロバートの処遇を確認するかのように振り返った。
「いんや、オイラペットにするならピチピチに若くて顔がうんと綺麗なのがいーっふ・・・」
ホイと呼ばれた男はそう言って頭を振った。
「そうかよ。
今回はホイ好みなのがいねーししゃーねーな。
しばらくはヒューで我慢しとけや。
おいお前!
執事ならアイテムボックスを何処かに隠しているはずだから服をよく調べろ!」
ギルロイは手下の一人にそう命じ、ロバートは若い盗賊に服を調べられ始めた。
続いてギルロイはドールズの5人の品定めを始めた。
セディスの頬の晴れは朝までは痛々しく残っていたのに今は綺麗に引いており、リーネは訝しげに眉をひそめた。
「5人の美人メイドか。
どいつも上玉だがどうもこうしっくりこねぇな。」
「しっくりこねぇ?
オイラには女なんかみんな同じに見えるし、よくわからねーっふ。」
ホイが鼻をほじりながら間延びした声でそう言った。
「女に関心のないお前にゃわからねーだろーが、数々の女を品定めしてきた俺には解るんよ。
おめーらの面、作りもんだな?」
「作り物、ですか?」
セディスがニッコリと微笑んで訊き返した。
「あぁ。
俺等はこの間までダルダンテに潜伏していたんだがよ。
その時に聞いたことがあるんだ。
あの国じゃあ顔を作り変えることのできる闇医者がいるだろう?
”黒蛇”とか何とか言ったか・・・?
そいつにいくら払ったか知らねーが、よくやるぜ。
だが作り物は闇オークションに来る目利きには見破られちまうからなぁ・・・。
それにリーダーのあんた以外の4人には品がねぇ。
まぁ見た暮さえよけりゃあ下品でもいいっていう野郎もそこそこいるし、スベイルにある下衆な客相手の下級娼館なんかならそこそこの値で買い手がつくか?」
無精髭を親指で撫でながらそう言うギルロイの腕に、しなを作って自らの腕を絡ませたセディスが薔薇色の唇を開いた。
「・・・団長さん・・・
貴方逞しくてイイ男だし、私のタイプだわ♥
どうかしら?
私達を売り払うよりも貴方達の仲間に入れてもらえないかしら?
私達確かに整形はしてますけど、それなりに殿方を喜ばせる術を心得ておりますし、貴方の手下のお方達もきっと満足させてあげられますよ?」
盗賊団のメンツはホイを除いてセディスの提案に歓喜し、
「おおーーー!マジかよ~!
ねーちゃんたち歓迎するぜー!」
「毎晩あんないい女達が抱けるなら盗賊団に入って良かったってもんだぜぇ~!」
等と騒いでいる。
「あんた、この場で自分達を売り込むとはいい度胸してるなおい!」
驚きで軽く目を見開きギルロイが言った。
「えぇ・・・背に腹は代えられませんので。
私達、このままお嬢様と一緒にボラントに着いてもどうせ教会に突き出され、洗われれば色々と出てきてしまう身ですから・・・。
それなら盗賊のお仲間になる方が、ずっと自由でいられそうだもの。
ね?みんな。」
ドールズの他の4人も同意して頷く。
「いかがです?
団長さん・・・♥」
セディスはギルロイの厚い胸元に指を這わせながら可愛らしく小首をかしげた。
「セディス・・・貴方・・・!」
リリアナがセディスのセリフにショックを受けて泣きそうな顔になった。
リーネは黙ってその小さな手をギュッと握ってやった。
「あんたのその度胸は買ってやるが、生憎と女は仲間にできねぇ。
男の集団ん中に女が入るとろくなことにはならねぇからな・・・。
こいつは今まで盗賊の頭を張ってきた俺が身を持って経験し、学んだ結論だ。
だから悪いがあんたら5人は俺と手下共全員の相手をしたあとに売らせて貰うぜ?」
セディスはギルロイの言葉を聞いて悔しそうにギリッと歯を噛み締めた。
「なぁに。
他の4人は知らねーが、あんた程の度胸がありゃあ売られた先で作り物だろうと何だろうと伸し上がれるだろーよ。
だから悪いが諦めな。」
セディスは顔を上げると、アイテムボックスを奪われ縄で手首を拘束され盗賊団の馬車へ連れて行かれるロバートを見ながらギルロイに言った。
「わかりました・・・。
私達逃げませんから、ロバートさんのように縛るのはやめてくださいませんか?
痛いのは嫌なの。」
「あぁ~わかったわかった。
じゃあお前らは最後の赤百合様の確認が済むまでここにいろや。」
ギルロイはドールズに向けてそう言うと、次に並んだモニカに視線を移し、顎に手を当て品定めを始めた。
「こいつはいい・・・。
栗色の髪色に飴色の艷やかな瞳・・・ジャポネの女か?
珍しい上かなりの上玉だ。
こいつはスベイルの高級娼館に高値で買い手がつくだろうな・・・。
残念ながら処女ではなさそうだから、こっちの5人と一緒に俺達の相手をしてもらった後に売り飛ばしてやんよ。」
「ヒャッホー!
俺等こんな上等な女が抱けるんですかい!!」
「5人のメイドちゃん達よりもこっちのお姉さんが好みよ~♥
そのハイヒールで踏まれてぇ~♥」
盗賊の手下達が浮足立って騒いだ。
「あぁ、俺のあとで良けりゃあ好きにしろや。
ただし孕んじまったら買い取ってもらえねーから、ザーメンは必ず膣外に出すこと。
そんで身体に大きな傷がついちまっても値が下がるから、抵抗されても暴力でねじ伏せるような暴力行為はやめておけや?
おっと、この鞭は危なっかしいからいただいとくぜ?」
鞭を取り上げられたモニカはギルロイを鋭く睨みながら言った。
「残念ですわ。
団長さんにはベットの上で私の鞭をたっぷりと味あわせて差し上げようと思いましたのに・・・。」
「いや、俺も生憎とドSなもんでね。
あんたみたいなSっ気の強いのに屈辱を味合わせるほうが好みなんだわ。」
「・・・汚らわしい。
地べたで干からびたミミズのようにくたばってしまえばよいのに・・・」
モニカは低く押し殺した声で、だがギルロイにははっきりと聞こえるようにそう呟いた。
「この俺様にそんなことを言えるたぁ威勢が良いなおい!
ますます気に入ったぜ!
アジトに着いたら真っ先にひん剥いて可愛がってやんよ。
こいつは黙って諦める玉じゃねぇし俺等の隙を狙って何をするか解らねえ。
縛って執事の爺と一緒に馬車に放り込んでおけや。
いいか?
くれぐれも傷はつけるなよ?」
ギルロイは手下の一人にそう命じると今度は次に並んだリーネに視線を移した。
「ほう・・・こいつもいい!
きめ細かな白い肌に細く美しい淡い金髪・・・。
更には空のように澄んだ青い瞳にさくらんぼのような艷やかな唇を持つ相当な上玉・・・。
しかもまだ処女ときた!
まぁ胸がもうちっとデカけりゃ尚良かったが・・・」
と言ってリーネの胸元を残念そうに見るギルロイ。
リーネはムッとして眉を吊り上げた。
「それでもこの見た目で初物ならさっきのジャポネの女よか高値が付きそうだな・・・。」
リーネは青ざめ冷や汗を垂らしながらもギルロイのその上から下まで舐めるような視線に黙って耐えた。
だがその視線がリーネの左手の薬指にはめられたつがいの指輪に止まった途端、ギルロイは険しい顔に変わり、チッ!と舌打ちをした。
「くそっ・・・女神の加護持ちかよ!
こいつは売り物にならねぇぜ!」
「なんだぁ。
その小娘、売りものにならねーっふか?」
ホイが首を傾げた。
「あぁ・・・。
こいつ、つがいの指輪をしてやがる。
ってことはこの国の女神の加護を受けているわけだから、手を出せば何れ教会に足が付くし、物がいくら良くても買い手がつかねぇ!」
「そんなら指輪を外すか、もしくは売り物の価値は下がるけど、その指輪のついた指ごと切り落としてしまえばいーっふよ。
オイラ頭いーっふ!」
とホイが提案した。
「馬鹿野郎!
つがいの指輪ってのはな、どんな道具を使っても決して外せねぇし、指ごと切り落とそうにも獲物ごと弾かれるどうにもならねー代物なんだよ!
しっかし惜しいなぁ・・・。
ジャポネの女と赤百合様に合わせてこいつも売れりゃあ何年も遊んで暮らせるのによぉ・・・。
手間と金はかかるがこいつだけダルダンテ神国に運んじまうか?
そうすりゃ女神フェリシアの加護は切れてつがいの指輪を外せるようになるはずだからな・・・。
いや・・・ダルダンテまで運んでる間に教会に気付かれると面倒だしやっぱりリスクは高けぇな・・・。
どーすっか・・・。
おっと。
その腰に下げた短剣はあぶねぇから頂いとくぜ?」
そう言ってギルロイはリーネの腰からヴェノムクリシュマルドを外すと、不思議そうにそれを眺めた。
「なんだこいつは・・・。
見たこともねぇ金属と硝子みてぇなもので作られてやがる。
これだけでも相当な値がつきそうだが、こんなものを下げてるたぁ嬢ちゃん何者だ?
つーか、つがいならそもそも片割れがいるはずだよなぁ?
何故その雌だけがここにいる?」
「・・・・・。」
リーネはその問いに答えなかったが、代わりにセディスが答えた。
「彼女はただの加護持ちのつがいじゃないわ。
女神フェリシアに寵愛を受けている特別なつがいなの。
教会で発行されているニュースペーパーを読んでいる人なら誰でも知ってる有名な子なんだけど、教会とは縁遠そうな団長さんでは読んでいなくても仕方が無いわね。
その武器もきっと女神から渡された天界製のものよ。」
「何だと!?
この嬢ちゃん寵愛の民か!」
とギルロイが目を見開いた。
「ええ。
普通のつがいなら教会を通して管理され守られているから、つがいの民に何かがあったとき、教会が対応するまでには少し時間がかかるものなのだけど、彼女はいつも女神が天界から見守っているに等しい・・・。
そんな彼女を攫うとなるとすぐに女神に気付かれ、団長さんもただでは済まないでしょうね。
そして、彼女のつがいはお嬢様の男嫌いのために別の馬車に回されたけど、彼も女神の寵愛を受けて空を飛ぶ力を持っているから、もうすぐここに飛んで来るんじゃないかしら?
しかも彼はこの国の英雄ハント家の末裔・・・手強いわよ?
お嬢様達を攫うなら彼が来る前に急いだほうがいいと思うのだけど。」
「ほぅ・・・情報提供どーもな!
なるほどねぇ・・・女神のお気に入りのつがいか・・・。
それにハント家っつったらこの国最強の狩人の一族だろ?
人間離れしたホイならそいつ相手でも勝てるだろーが、俺は正直やりあいたくねーな。
さっさと赤百合様を馬車に詰め込んでずらかるとするか。」
ギルロイがそう言って髪をかきあげてからリリアナを見ると、セディスが微笑を浮かべて言った。
「お待ちになって?
団長さん。
折角情報提供してあげたんだから、私達は見逃してくれないかしら?」
「うーむ・・・それだけじゃ逃がすに足りねぇなぁ。
もう少し手柄を立てりゃあ考えなくもないけどよ。」
とギルロイ。
それに対してセディスは、
「あら、意外とケチなのね。
残念だわ。」
と少し眉を寄せながら微笑んだ。
「ともかく色々と面倒だからこの寵愛の民の嬢ちゃんはここに置いていく。
武器も奪ったし非力そうだから警戒することもなさそうだが、女神のお気に入りってなら今は衰退しちまった魔法とか何らかの女神から賜った力で俺らの邪魔をしてくるかもしれねーからな。
何もできねーようにお前、しっかり縛っておけ!」
ギルロイは手下にそう命じると、今度こそ最後に残ったリリアナを見た。
「よぉ、赤百合様。
3年ぶりか?
ハント家の末裔が迫ってるってことだからゆっくり話している時間もねーし、あんたの買い手は確実だから態々確認する必要もねーな。
今度は前よりもふっかけてやるぜぇ!
おい、赤百合様を馬車に連れて行けや!」
ギルロイに命じられた二人の手下がリリアナに迫る。
「いやぁ!!
来ないで!!」
リリアナが叫ぶと同時にリーネにかけてもらったフェリシアの守りの効力により、二人の男は5メートルほど弾き飛ばされ、指一本触れることすら叶わなかった。
リーネは腕を縛られながら自分の決断が間違っていなかったことに安堵し、小さくため息をついた。
「なんだぁ!?
どーいうことだぁ!?」
今度はギルロイが直接リリアナに触れようとするが、それをセディスが制した。
「やめておいたほうがいいわよ団長さん。
お嬢様の首に下がったペンダント・・・これは空駒鳥さんが女神フェリシアより授かったもので、身につけた者が警戒する相手を弾き飛ばしてしまう力があるみたい。
それを空駒鳥さんが外してお嬢様にお貸ししているところを先程見たわ。
お嬢様がそれをつけている以上、さっきの手下の人よりも強く警戒されている団長さんはもっと強く弾き飛ばされてしまうんじゃないかしら?」
「な、何だと!?
そいつを何とか外さねーと、一番の目玉商品が攫えねぇじゃねーか!
お前らそいつをどうにかして外しやがれ!」
ギルロイの命令に手下が数人リリアナのペンダントを外そうと迫るが、誰もが同様に弾き飛ばされてしまう。
そこでセディスが口角を上げながらギルロイに向かって言った。
「団長さんは先程もう少し手柄を立てれば私達を逃してくれると言いましたね?」
「あぁ・・・言ったな。」
「それでしたら私がお嬢様からペンダントを外して差し上げれば、逃して貰えますね?」
「・・・・いいぜ?
やってみな。」
腰に手を当てギルロイが頷いた。
「畏まりました。」
セディスはギルロイに微笑み頭を下げると、今度はリリアナの元へツカツカと歩み寄り言った。
「お嬢様、失礼いたしますわね。」
そしてその首から下げたペンダントにそっと手をかけた。
「セ、セディス・・・?」
戸惑いながら彼女の名を呼ぶリリアナ。
それは弾かれることなくセディスの手によりすんなりと外された。
「裏切り者の私をまだ警戒しないでいてくださるだなんて、お嬢様人が良すぎですよ?
ですがありがとうございます。
お陰様で助かりそうです。」
セディスはそう言ってリリアナに深々と頭を下げると、ギルロイに向かって微笑みかけた。
「外しましたよ?団長さん。
約束通り、私達5人を見逃して下さいね。」
ギルロイはボリボリと短く切った髪を掻きむしりながらはぁ~・・・とため息をついた。
「・・・チッ・・・しゃーねぇ・・・男に二言は無しだ!
だがその男よけのペンダントは高値がつきそうだから置いて行けや。
外れてしまえば男の俺でも触れるだろう?」
するとセディスはニコッと微笑んでから、それをナンシーの首に下げた。
「てめぇどういうつもりだコラァ!?」
ギルロイは怒って声を荒らげた。
セディスは微笑んだままで言った。
「ごめんなさいね、団長さん。
女神のペンダントはあげれません。
だってそれはあの方にとっても邪魔なものではあるのだけど、貴方に渡して買い手がわからなくなってしまうよりは、あの方に直接渡したほうが安心されて喜ばれると思うから。
今回の作戦は失敗してしまいましたから、せめてこれくらいは頂いて行きますわね。」
「おいお前ら!
あの女からペンダントを奪いやがれ!」
ギルロイが手下に命令を下す。
「いやぁ~~~!!
盗賊こわ~~い!!
来ないで~~~~~!!」
だがそう叫ぶナンシーに誰も触れることは出来ず、見事に弾き飛ばされてしまうのだった。
「ナンシーはDV夫から逃げてきた子だから私達の中で一番暴力に敏感で臆病なの。
だから貴方達みたいな暴力的に向かってくる男では決してペンダントを奪えないわ。
さぁみんな、今のうちにお嬢様の馬車へ乗りなさい!」
セディスはナンシーを除くドールズの3人にリリアナ号へ乗るように促した。
「「「リーダー・・・ありがとう!!」」」
トリー、ニア、ハンナの3人は慌ててリリアナ号の前席に駆け込んだ。
「それではお嬢様、今までありがとうございました。
ご機嫌よう。」
セディスはリリアナに向かってもう一度頭を下げると、ナンシーを盾にしながら盗賊の妨害を防いで馭者席に乗り込み、リリアナ号を走らせてボラントへ続く道を行ってしまった。
(ごめんなさいフェリシア様・・・。
ペンダント、セディスさんに持って行かれちゃった・・・)
リーネは縛られたままその場に跪き、ギュッと目を閉じた。
「チッ・・・高値で売れそうなペンダントに加えて性欲処理班の5人の作りもんメイドにも逃げられちまったか・・・。
まぁいい。
そのぶんジャポネの美人メイドちゃんにたっぷりと夜の相手をして貰うとするぜ♥
さてと、これで赤百合様拉致を阻むものは何も無くなったというわけだ。
野郎共、今度こそ赤百合様を馬車へ連れて行けや!」
「「へい!」」
(ライキ・・・早く来て・・・!
リリちゃんとモニカさんとロバートさんが連れて行かれちゃうよ・・・!!)
リーネが心の中でそう叫び、盗賊が怯えて震えるリリアナの手を掴もうとしたそのときである。
「・・・・うわああああああーーーーー!!!」
悲鳴のような声が空の彼方から段々と近づいて来た。
何事かとリーネが顔を上げると、悲鳴の主であるレオンと共に上空に姿を現したライキがシュン!と地面に着地した。
「ライキ!!」
リーネが後ろ手に縛られたままで彼の元へ駆け寄ろうとしてスカートの裾を踏み前に倒れ込みそうになったので、ライキは移動の力で加速してそっと彼女を抱き止めた。
「ごめんリーネ!
金獅子を連れて飛ぶのが難しくて時間がかかった!
後は任せろ!」
ライキはリーネの縄を手早くナイフで切ってやるとロングソードに手をかけた。
「モニカがいない!
何処だ!?」
レオンがキョロキョロとモニカの姿を探しながら声を上げたのでリーネが答えた。
「モニカさんならロバートさんと一緒にあの馬車の中にいるよ!」
金獅子はリーネが指差した馬車を見ると無言で頷き、そっと白の剣の柄に手をかけた。
「おおーっ!
オイラ好みなのが二人も来たっふ!
金髪のキミは子猫ちゃんみたいでぇ、銀髪のキミは子犬ちゃんみたいっふ♥
ギル兄!
この二人、オイラの新しいペットにしてもいーっふか?」
ホイがハートを撒き散らしウキウキしながら言った。
「あぁいいぜ?
だが引っ掻かれたり噛みつかれたりしねーよう、今ここで上下関係をはっきりとしとけや。」
とギルロイが言った。
「わかったっふ!
わっふわっふ!」
ホイがそう言って楽しそうに拳を鳴らして前へ出た。
その2m50cmはあろうかという巨体の胸元には、◆の印が刻まれていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。
ねんごろ
恋愛
主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。
その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……
毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。
※他サイトで連載していた作品です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる