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7羽 スイズリー山脈の風の使い
①銀色狼と空駒鳥のつがい スイズリーへ発つ
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燕月(7月)半ば─。
教会が発行するニュースペーパーで、長かった雨期がようやく明けたことを発表された日の晩のことである。
銀色狼と空駒鳥のつがいは、夜遅くに何時になく険しい顔をして帰宅したゲイルに、大切な話があるとリビングに呼び出された。
ゲイルはサアラから出された珈琲を一口飲むと、寝巻き姿の二人に向かって告げた。
「・・・今日スイズリー村の親父が未知の魔獣にやられて負傷した。」
「えっ!?
じーちゃんが!?」
驚いたライキが思わず声を上げ、冷や汗を垂らしながらテーブルに手を付き立ち上がった。
(じーちゃん、前に会ったとき確かレベル100超えだって言ってたよな!?
そんな強いじーちゃんが負傷だって!?
その未知の魔獣って・・・もしかして、◆の印の奴なんじゃ・・・)
隣のリーネを見ると、彼女も同じことを思ったのか、心配そうに愛らしい表情を曇らせていた。
「まぁ座れ、ライキ。
・・・伝書鳩から報せを受けてすぐに疾風馬に乗り、取り急ぎスイズリー村まで様子を見に行ってきたが、幸い親父自体は意識もはっきりしていて元気だった。
ただ親父の使役魔獣がそいつにやられて、親父は上空から落下し、足を骨折してしいる。
かなりの高さから落ちて足の骨折だけで済んだのは流石は親父というところか。
だが暫く狩りには出られないから、その間親父が担当しているスイズリー山脈にある魔界ゲートが無防備になる。
あそこはここフォレストサイド南の森ゲートに次いで強力な魔獣が湧くスポットだ。
ハント家以外の狩人にはとても務まらんだろうし、俺もこのフォレストサイドのゲートの番人をしている以上、長期間ここを離れることは出来ない。
だから親父には一刻も早くスイズリーゲートの番人に復帰してもらわないと困る。
そこで、お前達二人に明朝スイズリーに発って貰いたい。
ライキはスイズリー村には何度か行ったことがあるから、寵愛の力を使えば一瞬で行けるんだろう?」
「うん。
試したことはまだないけど、その筈だよ。」
ライキは父の問いかけに頷いた。
「うむ。
それなら、リーネには神秘の薬の力で親父の骨折が早く治るよう治療してもらいたい。
ライキには親父が復帰するまでの間、スイズリーの番人を頼む。
そして親父を骨折させるまで追い詰めたというその未知の魔獣だが・・・。
その特徴は、巨大な鷲の上半身に下半身は獅子のようであり、魔王が不在の今では見ることはないが、その昔の魔王対戦時代にはワイルドホークの最終進化形態でそのような外見的特徴を持った”グリフォン”という魔獣がいたらしいから、それかもしれない。
お前達もなんとなく察していると思うが・・・額に◆の印があったそうだ。」
「・・・やはりそうか・・・。」
ライキは渋い顔をして俯いた。
「そいつをそのままスイズリー山脈に放置しておくわけにはいかないが・・・そのことについてはお前たちがスイズリー村へ向かう最中、神使様から詳しく説明がなされるとのことで、教会の神父さんからお告げがあった。」
「師匠が?」
「あぁ。
どうやらフェリシア様がその魔獣について何か心当たりがあるらしいのだ。
それからライキ、お前にこれを。」
ゲイルは少し前、ユデイにプレゼントするワイルドホークを使役する際に使ったものと同じ”従属の魔石”をライキに手渡した。
「お前が使える従属の魔石の残りのぶんだ。
お告げによると、スイズリーで必要になるとのことだったから渡しておく。
急な話で済まないが、親父とスイズリーのこと・・・宜しく頼む!」
ゲイルはそう言うと、ライキとリーネに向かって頭を下げた。
「わかった!
明日朝スイズリーに発つよ。」
ライキはリーネと頷き合うと、父にそう告げるのだった。
そして翌朝早く、二人は自室での性行為で互いに達し、朝焼けに染まるピンク色の空に浮かび上がっていた。
「んもう・・・。
ライキがナカに指を入れたりするから、またお漏らししちゃったじゃない・・・!
後でお掃除で部屋に入ったおばさんが、あのシーツを黙って洗ってくれると思うと恥ずかしいよ・・・!」
リーネが真っ赤に顔を染めてその顔を両手で覆った。
「あははっ!大丈夫だよ。
今朝のはクンニしてた俺の顔に直撃したから、シーツはそんなに濡れてないし(笑)
やっぱリーネって、ナカに指入れた状態でのクンニで潮吹くのかな?
前のときもそうだったし♥」
「潮!?
そ、そんな市場に売ってるアサリとか、海にいるっていう大きな生き物”クジラ”みたいな例え、やめてよぉ・・・!」
リーネが真っ赤な顔のまま涙目になり、ライキの胸元を掴んで抗議した。
「いや、兄貴に訊いたけど、あれってマジで潮吹きっていうらしいぞ?
あの成分が何なのか、まだ性のメッカであるスベイルでもはっきりと解明されてないらしいんだけど、尿と違って乾いても全然臭わないし、リーネのは量もそんなに多くないから気にしなくていいよ。」
「えっ、あれってお漏らしじゃないの・・・?
で、でも・・・ちょっと待って!
ということは、そんなことまでハイドさんに話してるってこと!?
ライキのバカバカバカ!!」
リーネは真っ赤になって空中でポカポカとライキの胸を叩いた。
「あははっ!ごめんって!
でも初めて潮吹いた後のリーネ、お漏らししたってすげー気にしてただろ?
前に兄貴とガロさんが酒を飲んでるところへ同席したとき、ヒルデ姉さんの潮吹きの話をしてたことがあってさ。
多分リーネのもそれかなと思ったから、こないだ青鹿亭の手伝いをしたときにちょっと兄貴に確認しただけだよ。
いくら兄貴が相手でも、リーネとの行為をネタに下賤な話をして盛り上がったりなんてしてないから安心しな?」
「う、うん・・・。
でも、その潮・・・?
吹くのってヒルデさんもなんだね・・・。
よ、良かった・・・。」
リーネはホッとして小さくため息をついた。
「うん。
女の人全員がってわけじゃないと思うけど、何も特別なことじゃないんだよ。
つーか俺は、リーネがすげー感じてくれたってことだと思うから、潮吹かれるとかなり嬉しい・・・。
ご馳走さま♥」
そう言ってライキは挑発的にリーネに微笑みかけ、ペロッと唇の端を舐めた。
「んもう・・・馬鹿・・・!
朝から飛ばしすぎて私が意識を失っちゃってたら、どうするつもりだったのよ・・・。」
リーネはまだ赤い顔のままで複雑な表情をし、頭から蒸気を立ち昇らせながら俯いた。
「結果的に意識を失わなかったんだからいいじゃないか。
それに、なるべく強い快楽でイったほうが、神秘の薬の作用が強く出るんだろう?
じーちゃんの骨折、早く治って欲しいし。」
「うん・・・そうだね。
ライキのお爺さん、少しでも早く治しあげたい。
実際の症状を見てみないことにはなんとも言えないけど、神秘の薬の力が発動してる状態で、ヴェノムクリシュマルドを使って身体の中に直接お薬を送り込めば、2~3日で骨を繋げられると思うよ。」
「そっか、それなら良かった!
じーちゃんのこともそうだけど、白鷺月(8月)からの任務も決まったし、それに間に合うようにフォレストサイドに帰らなきゃならないしな。」
そう、先日オレンジ・スパでモニカから紹介があった令嬢護衛任務の件で、先日その令嬢と面談をしたのだ。
その結果、二人は無事採用され、白鷺月(8月)からボラントまでの護衛任務に就くことになったのだった。
「うん・・・。
金獅子さんと同じ任務なのはやっぱり不安だけどね・・・。」
リーネは不安気に表情を曇らせて呟いた。
「まぁあいつは金品警護のほうに回されたし、野営の時だけ顔を合わせるくらいだろうけどな。
テントはリーネと同じにして貰えるように、それ以外でもなるべく一緒に行動を取らせて貰えるようにご令嬢には話したから大丈夫だ。」
「うん・・・!」
「もしじーちゃんが早く回復してスケジュールに余裕があれば、スイズリーに来たついでにイターリナにも行っておけたらいいよな!
元々雨期の晴れ間にスイズリーまで飛んで、イターリナの教会にお祈りに行くつもりでいたけど、今年の雨期はまとまった晴れ間がなくて行けなかったからさ。」
「あっ、そうだね!
イターリナにはライキの力で飛んでは行けないの?」
リーネが小首をかしげて尋ねた。
「うん・・・。
俺の両親って駆け落ち同然で結婚してるから、イターリナの母さんの両親には父さんはあまり好かれていないんだ。
だから父さんの使役魔獣に乗ってイターリナへ行く機会もなくて、それでも俺が小さい頃に一度家族全員で行ったことはあるらしいんだけと、小さすぎて覚えてないからか、空に浮かんだときに移動先としてイターリナのビジョンが出てこないんだよな・・・。
でもスイズリー村から近いから、歩いて一日もあれば着くはずだよ。」
ライキは所々眉を寄せながらも、最後は明るく語った。
「へぇ~!
イターリナってフォレストサイドとフランの町くらいの距離感なんだね!
歩いて行くのも楽しそうだね!」
それに対してリーネは明るく返す。
「うん!
スイズリー近辺にしかない高山植物なんかもあるだろうし、ゆっくり散策しながら行こうよ。」
「うん!
イターリナってどんなところなのかなぁ?
そっちの観光も楽しみ!」
「うん!
母さんから聞いた話だけど、人口はフォレストサイドの観光街を除いたくらいで、そこそこの規模みたいだぞ?
そして母さんの実家のトラットリアがあって、じーちゃんとばーちゃん、そしてオルラおばさん・・・母さんのお姉さんな。
その3人で店を切り盛りしてるって。
だからそこにも顔も出しに行こうよ。
父さんは嫌われてるけど、俺と兄貴は孫だし、たまにくれる手紙では遊びにおいでって言ってくれてるし、多分リーネも歓迎してくれると思うよ?
それでイターリナの教会で祈りを捧げれば、指輪の光が5つ・・・残り半分になる!」
「うん!」
二人がそんな話をしていると、空から馴染みのある穏やかな低音が振ってきた。
「おはよう御座います。」
声の主は多忙なのか、今日は二人の前には姿は現さず、天界からの通話のみのようだった。
「あっ!師匠、おはようございます!」
「ヴィセルテさん!
先日はカレーライスご馳走さまでした!」
「いえいえ、こちらこそお付き合いいただきましてありがとうございます。
またオフの日に激烈辛カレーをいただきに参りますね。
ところで、ゲイルさんからお訊きしたかと思いますが、スイズリー山脈にあるゲート近辺に◆の印のある魔獣グリフォンが出現したのです。」
「父さんがそうじゃないかって言ってましたけど、やはりグリフォンなのですね・・・。」
ライキが深刻そうに眉を寄せた。
「えぇ。
魔王が復活して魔界ゲートが開け放たれたときに出没した鳥系魔獣最強と言われた魔獣です。
魔王が勇者達に倒されてからはあのクラスの魔獣は出てこなくなりましたが・・・。
私もモニター越しとはいえ、その姿を見るのは久しぶりですよ。
それでそのグリフォンなのですが・・・貴方に退治せずに使役してもらいたいのです。」
ライキは師の言葉に驚いて目を見開いた。
「退治せずに使役ですか!?
そんな無茶な・・・!
あのじーちゃんがやられた相手ですよ!?
ガチでやり合って勝てるかも判らないのに、使役するだなんて!!」
慌てるライキに反して、師の変わらずに落ち着いた声が降りて来る。
「無茶ですか?
そうとも限りませんよ。
奴はグリフォンとはいえ、シルバーファングウルフと同様にまだそうなってからの日が浅い。
かつて最強の鳥系魔獣と謳われただけのことはあり、実力はシルバーファングウルフよりも上ですが、決して勝てない相手ではありませんよ。
貴方のお爺さん、ザインさんがやられたのは、使役魔獣を傷つけられ、空から落とされたからです。
それに貴方はレベルではザインさんに劣るでしょうけど、ザインさんは60歳・・・。
残念ながら老化により実力的には貴方と大差はないレベルまで落ちてしまっています。
その上貴方はザインさんとは違い、自分の力で空を飛ぶことができる。
スピードでも瞬間移動の出来る貴方のほうがグリフォンよりも勝るでしょう。」
「そうですけど・・・。
でも、何故使役を?
俺としては正直退治してしまう方が楽ですけど・・・。」
ライキは渋い顔のままで返した。
「それは、フェリシア様がそのグリフォンに情をおかけになっているから・・・です。」
「「情を・・・ですか?」」
ライキとリーネが同時に首を傾げ、口にした。
「えぇ・・・。
そのグリフォンはフェリシア様が少女時代に怪我をしているところを助け、創造神様に内緒で飼われていたというアルパインイーグル・・・ワイルドホークの上位種に当りますが、それに似ている・・・それも、かなり確信の持てるレベルで・・・だそうです。
フェリシア様には鳥一体一体の顔の見分けがつくのだそうですが、グリフォンにはそのアルパインイーグルの顔の面影がかなりあり、更には足の傷跡まで同じだと。
だからそれが同一個体なのかを実際にその目で確認がしたいそうなのです。」
ライキは朝焼けに染まる空を見上げながら、慎重に、ゆっくりと頷いた。
「ご事情はわかりました・・・。
でも仮にそのグリフォンを俺が使役できたとしても、◆の印があるままだと、俺に使役しながらもダルダンテ神の都合のよい時に駒として利用される、危険な存在となるのでは無いですか?」
その問いに対して師の声がすぐに降りてきた。
「えぇ、勿論そのことについて無策ではありません。
貴方がグリフォンの使役を完了されましたら、一旦我々にその身柄を預けてください。
そうしましたら、フェリシア様の姉君様のセラフィア神様に見てもらいます。
セラフィア神様はダルダンテ神よりも格上の神で、尚且つ回復や状態異常解除に長けた魔法使いであらせますので、ダルダンテ神のかけた呪縛を解き放ち、◆の印がない状態へと戻す手立てをお持ちですから。
そうして印が無くなった状態で貴方の元へとお返しします。」
ライキはまだ眉を寄せ、残る疑問を口にした。
「・・・そのグリフォンがもし本当にフェリシア様の飼われていたアルパインイーグルが進化したものだったとしたなら・・・フェリシア様の手元に置くことは出来ないのですか?
俺が使役するよりも、フェリシア様にとってもそのグリフォンにとっても、その方が幸せなのではないですか?」
すると、一呼吸置いてから師の穏やかな、弟子に対して慈しみを含めた声が降りてきた。
「ありがとうございます・・・。
ですが、相手は魔獣ですからね・・・。
魔獣は本来魔界の生き物です。
下界に湧き出したまま繁殖して増えた個体もありますが、その魂は死しても天界に昇ることはなく、魔界に還ります。
そんな彼等魔獣にいくら情を持って愛していても、創造神様の定めたルールにより、天界へ置くことは出来ないのです。
先程申しました通り、フェリシア様はまだ子供だった頃その掟を破って怪我をしたアルパインイーグルを助けて情が湧き、暫く内緒で飼われていました。
ですが創造神様にそのことが見つかってしまい、フェリシア様は子供だからと軽い懲罰で済みましたが、そのアルパインイーグルは下界へと還されてしまい、それきりになってしまったと伺っています。
それが今から1500年程昔のことです。
もしそのアルパインイーグルが◆の印を持つグリフォンと同一個体なのだとすると、下界の時の流れで今現在生きていることはありえません。
だとすると、ダルダンテ神がこっそり天界で1500年もの間内緒で飼い続けていた、ということになりますね。」
ライキは師の言葉に首を傾げて口にした。
「・・・何故ダルダンテ神はそんなことを・・・?」
「さぁ・・・。
私の千里眼では神の心を読むことは出来ませんから、これは推測に過ぎませんが・・・。
単純にフェリシア様を喜ばせようと、最初は優しい気持ちで保護していたのかもしれませんね?
ダルダンテ神も昔は今程性格が歪んではおらず、フェリシア様とも良い関係性だったようですからね・・・。
それが今のような関係性に変わったために、フェリシア様には手を下し難いであろうその個体を実験に利用した。
そんなところでしょうか・・・。」
そこでリーネが何かに気がついて、手を挙げて意見を口にした。
「あっ・・・じゃあ、その◆の印を消さずに創造神様にそのグリフォンをお見せすれば、ダルダンテ神の企みが創造神様に知られることになり、すぐにでも裁いてもらうことが出来るのではないですか?」
「えぇ・・・。
ですが、セラフィア神様が仰るには、おそらくそうなる前にダルダンテ神によりそのグリフォンは始末されてしまうだろうと・・・。
シルバーファングウルフのように、死ねば◆の印は消えるのですから・・・。
それよりもフェリシア様としては、何とかそのグリフォンとなってしまった彼に下界で良い主に出会い、幸せに暮らしてもらいたいそうですよ?」
「フェリシア様・・・・・。」
リーネはそう呟くと、胸に手を当て柔らかく微笑んだ。
ライキはそんなリーネと顔を見合わせると微笑み、師に答えた。
「わかりました・・・。
出来るだけのことはやってみます。」
「お願い致しますね。
グリフォンは夜の闇ではあまり目が働きません。
ですので、夜襲を仕掛けるのが良いでしょう。
貴方ならある程度夜目が効くでしょうから有利です。
グリフォンの魔属性は風と光です。
一方貴方の魔属性は風と闇。
風同士でぶつかりあえば当然負けてしまいますが、闇の魔法はかなり有効な筈ですよ。
上手く使って有利に戦いを進めてください。
そして、貴方が自由に飛べる一時間の間に畳み掛けることを忘れずに・・・。」
ライキは真剣な表情でその助言を訊き、深く頷いた。
「あの・・・その戦いは私の支援無しで行うってことですよね・・・!?」
リーネが不安気に表情を曇らせてライキを見ると、ヴィセルテに尋ねた。
「えぇ。
ですがご心配なく。
その条件でライキさんが負ける未来は私には視えませんから。
リーネさんは回復薬を幾つかライキさんへ持たせてあげてください。
それと美味しいお弁当とね。
それがあれば大丈夫です!
後は、ザインさんの治療に専念してあげてください。」
「わかりました!」
リーネが納得して頷いた。
ライキもリーネと顔を見合わせ、朝焼けに染まる空を手を繋いだままで見上げてから頭を下げた。
すると、ヴィセルテのその姿が目の前には無くとも、恭しく頭を下げている姿が目に浮かぶような、穏やかな締め括りの声が降りてきた。
「それでは、グリフォンを使役しましたら受け取りに参りますので、そのときにまたお会いしましょう。
ご機嫌よう─。」
ライキとリーネはヴィセルテの声が聴こえなくなった後にもう一度深く頭を下げた。
そしてライキは目を閉じ、スイズリー村に目的を定めた。
「よし、じゃあスイズリー村に行こう!」
「うん!」
二人の身体が北に向かって滑り出す。
「スイズリー村ってどんなところなの?」
リーネが尋ねた。
「ネーザ村よか田舎で集落と言っても良いほど長閑だよ。
俺も行くのは5年ぶりくらいだから少し変わってるかもしれないけどな。
高い山の上にあって、フォレストサイドよりも寒く、空気が少し薄い(笑)
でも綺麗で自然豊かで良い村だよ。
食い物はチーズとチョコレートが有名かな?
俺はチョコは苦手だから詳しくないけど、母さんは褒めてた。
村の中央にはヘイズ・ハントの像があってさ。
すげー面白いポーズなんだよ。
きっと底抜けに明るい人だったんだと思う。」
「へぇ~!
ヘイズ・ハントさんの見た目って、やっぱり再来と呼ばれてるおじさんに似てるの?」
「うーん・・・。
見た目はどっちかといえば兄貴かな?」
そんなことを話しながら、二人の姿はピンク色の朝焼けに溶けて遠ざかっていくのだった。
教会が発行するニュースペーパーで、長かった雨期がようやく明けたことを発表された日の晩のことである。
銀色狼と空駒鳥のつがいは、夜遅くに何時になく険しい顔をして帰宅したゲイルに、大切な話があるとリビングに呼び出された。
ゲイルはサアラから出された珈琲を一口飲むと、寝巻き姿の二人に向かって告げた。
「・・・今日スイズリー村の親父が未知の魔獣にやられて負傷した。」
「えっ!?
じーちゃんが!?」
驚いたライキが思わず声を上げ、冷や汗を垂らしながらテーブルに手を付き立ち上がった。
(じーちゃん、前に会ったとき確かレベル100超えだって言ってたよな!?
そんな強いじーちゃんが負傷だって!?
その未知の魔獣って・・・もしかして、◆の印の奴なんじゃ・・・)
隣のリーネを見ると、彼女も同じことを思ったのか、心配そうに愛らしい表情を曇らせていた。
「まぁ座れ、ライキ。
・・・伝書鳩から報せを受けてすぐに疾風馬に乗り、取り急ぎスイズリー村まで様子を見に行ってきたが、幸い親父自体は意識もはっきりしていて元気だった。
ただ親父の使役魔獣がそいつにやられて、親父は上空から落下し、足を骨折してしいる。
かなりの高さから落ちて足の骨折だけで済んだのは流石は親父というところか。
だが暫く狩りには出られないから、その間親父が担当しているスイズリー山脈にある魔界ゲートが無防備になる。
あそこはここフォレストサイド南の森ゲートに次いで強力な魔獣が湧くスポットだ。
ハント家以外の狩人にはとても務まらんだろうし、俺もこのフォレストサイドのゲートの番人をしている以上、長期間ここを離れることは出来ない。
だから親父には一刻も早くスイズリーゲートの番人に復帰してもらわないと困る。
そこで、お前達二人に明朝スイズリーに発って貰いたい。
ライキはスイズリー村には何度か行ったことがあるから、寵愛の力を使えば一瞬で行けるんだろう?」
「うん。
試したことはまだないけど、その筈だよ。」
ライキは父の問いかけに頷いた。
「うむ。
それなら、リーネには神秘の薬の力で親父の骨折が早く治るよう治療してもらいたい。
ライキには親父が復帰するまでの間、スイズリーの番人を頼む。
そして親父を骨折させるまで追い詰めたというその未知の魔獣だが・・・。
その特徴は、巨大な鷲の上半身に下半身は獅子のようであり、魔王が不在の今では見ることはないが、その昔の魔王対戦時代にはワイルドホークの最終進化形態でそのような外見的特徴を持った”グリフォン”という魔獣がいたらしいから、それかもしれない。
お前達もなんとなく察していると思うが・・・額に◆の印があったそうだ。」
「・・・やはりそうか・・・。」
ライキは渋い顔をして俯いた。
「そいつをそのままスイズリー山脈に放置しておくわけにはいかないが・・・そのことについてはお前たちがスイズリー村へ向かう最中、神使様から詳しく説明がなされるとのことで、教会の神父さんからお告げがあった。」
「師匠が?」
「あぁ。
どうやらフェリシア様がその魔獣について何か心当たりがあるらしいのだ。
それからライキ、お前にこれを。」
ゲイルは少し前、ユデイにプレゼントするワイルドホークを使役する際に使ったものと同じ”従属の魔石”をライキに手渡した。
「お前が使える従属の魔石の残りのぶんだ。
お告げによると、スイズリーで必要になるとのことだったから渡しておく。
急な話で済まないが、親父とスイズリーのこと・・・宜しく頼む!」
ゲイルはそう言うと、ライキとリーネに向かって頭を下げた。
「わかった!
明日朝スイズリーに発つよ。」
ライキはリーネと頷き合うと、父にそう告げるのだった。
そして翌朝早く、二人は自室での性行為で互いに達し、朝焼けに染まるピンク色の空に浮かび上がっていた。
「んもう・・・。
ライキがナカに指を入れたりするから、またお漏らししちゃったじゃない・・・!
後でお掃除で部屋に入ったおばさんが、あのシーツを黙って洗ってくれると思うと恥ずかしいよ・・・!」
リーネが真っ赤に顔を染めてその顔を両手で覆った。
「あははっ!大丈夫だよ。
今朝のはクンニしてた俺の顔に直撃したから、シーツはそんなに濡れてないし(笑)
やっぱリーネって、ナカに指入れた状態でのクンニで潮吹くのかな?
前のときもそうだったし♥」
「潮!?
そ、そんな市場に売ってるアサリとか、海にいるっていう大きな生き物”クジラ”みたいな例え、やめてよぉ・・・!」
リーネが真っ赤な顔のまま涙目になり、ライキの胸元を掴んで抗議した。
「いや、兄貴に訊いたけど、あれってマジで潮吹きっていうらしいぞ?
あの成分が何なのか、まだ性のメッカであるスベイルでもはっきりと解明されてないらしいんだけど、尿と違って乾いても全然臭わないし、リーネのは量もそんなに多くないから気にしなくていいよ。」
「えっ、あれってお漏らしじゃないの・・・?
で、でも・・・ちょっと待って!
ということは、そんなことまでハイドさんに話してるってこと!?
ライキのバカバカバカ!!」
リーネは真っ赤になって空中でポカポカとライキの胸を叩いた。
「あははっ!ごめんって!
でも初めて潮吹いた後のリーネ、お漏らししたってすげー気にしてただろ?
前に兄貴とガロさんが酒を飲んでるところへ同席したとき、ヒルデ姉さんの潮吹きの話をしてたことがあってさ。
多分リーネのもそれかなと思ったから、こないだ青鹿亭の手伝いをしたときにちょっと兄貴に確認しただけだよ。
いくら兄貴が相手でも、リーネとの行為をネタに下賤な話をして盛り上がったりなんてしてないから安心しな?」
「う、うん・・・。
でも、その潮・・・?
吹くのってヒルデさんもなんだね・・・。
よ、良かった・・・。」
リーネはホッとして小さくため息をついた。
「うん。
女の人全員がってわけじゃないと思うけど、何も特別なことじゃないんだよ。
つーか俺は、リーネがすげー感じてくれたってことだと思うから、潮吹かれるとかなり嬉しい・・・。
ご馳走さま♥」
そう言ってライキは挑発的にリーネに微笑みかけ、ペロッと唇の端を舐めた。
「んもう・・・馬鹿・・・!
朝から飛ばしすぎて私が意識を失っちゃってたら、どうするつもりだったのよ・・・。」
リーネはまだ赤い顔のままで複雑な表情をし、頭から蒸気を立ち昇らせながら俯いた。
「結果的に意識を失わなかったんだからいいじゃないか。
それに、なるべく強い快楽でイったほうが、神秘の薬の作用が強く出るんだろう?
じーちゃんの骨折、早く治って欲しいし。」
「うん・・・そうだね。
ライキのお爺さん、少しでも早く治しあげたい。
実際の症状を見てみないことにはなんとも言えないけど、神秘の薬の力が発動してる状態で、ヴェノムクリシュマルドを使って身体の中に直接お薬を送り込めば、2~3日で骨を繋げられると思うよ。」
「そっか、それなら良かった!
じーちゃんのこともそうだけど、白鷺月(8月)からの任務も決まったし、それに間に合うようにフォレストサイドに帰らなきゃならないしな。」
そう、先日オレンジ・スパでモニカから紹介があった令嬢護衛任務の件で、先日その令嬢と面談をしたのだ。
その結果、二人は無事採用され、白鷺月(8月)からボラントまでの護衛任務に就くことになったのだった。
「うん・・・。
金獅子さんと同じ任務なのはやっぱり不安だけどね・・・。」
リーネは不安気に表情を曇らせて呟いた。
「まぁあいつは金品警護のほうに回されたし、野営の時だけ顔を合わせるくらいだろうけどな。
テントはリーネと同じにして貰えるように、それ以外でもなるべく一緒に行動を取らせて貰えるようにご令嬢には話したから大丈夫だ。」
「うん・・・!」
「もしじーちゃんが早く回復してスケジュールに余裕があれば、スイズリーに来たついでにイターリナにも行っておけたらいいよな!
元々雨期の晴れ間にスイズリーまで飛んで、イターリナの教会にお祈りに行くつもりでいたけど、今年の雨期はまとまった晴れ間がなくて行けなかったからさ。」
「あっ、そうだね!
イターリナにはライキの力で飛んでは行けないの?」
リーネが小首をかしげて尋ねた。
「うん・・・。
俺の両親って駆け落ち同然で結婚してるから、イターリナの母さんの両親には父さんはあまり好かれていないんだ。
だから父さんの使役魔獣に乗ってイターリナへ行く機会もなくて、それでも俺が小さい頃に一度家族全員で行ったことはあるらしいんだけと、小さすぎて覚えてないからか、空に浮かんだときに移動先としてイターリナのビジョンが出てこないんだよな・・・。
でもスイズリー村から近いから、歩いて一日もあれば着くはずだよ。」
ライキは所々眉を寄せながらも、最後は明るく語った。
「へぇ~!
イターリナってフォレストサイドとフランの町くらいの距離感なんだね!
歩いて行くのも楽しそうだね!」
それに対してリーネは明るく返す。
「うん!
スイズリー近辺にしかない高山植物なんかもあるだろうし、ゆっくり散策しながら行こうよ。」
「うん!
イターリナってどんなところなのかなぁ?
そっちの観光も楽しみ!」
「うん!
母さんから聞いた話だけど、人口はフォレストサイドの観光街を除いたくらいで、そこそこの規模みたいだぞ?
そして母さんの実家のトラットリアがあって、じーちゃんとばーちゃん、そしてオルラおばさん・・・母さんのお姉さんな。
その3人で店を切り盛りしてるって。
だからそこにも顔も出しに行こうよ。
父さんは嫌われてるけど、俺と兄貴は孫だし、たまにくれる手紙では遊びにおいでって言ってくれてるし、多分リーネも歓迎してくれると思うよ?
それでイターリナの教会で祈りを捧げれば、指輪の光が5つ・・・残り半分になる!」
「うん!」
二人がそんな話をしていると、空から馴染みのある穏やかな低音が振ってきた。
「おはよう御座います。」
声の主は多忙なのか、今日は二人の前には姿は現さず、天界からの通話のみのようだった。
「あっ!師匠、おはようございます!」
「ヴィセルテさん!
先日はカレーライスご馳走さまでした!」
「いえいえ、こちらこそお付き合いいただきましてありがとうございます。
またオフの日に激烈辛カレーをいただきに参りますね。
ところで、ゲイルさんからお訊きしたかと思いますが、スイズリー山脈にあるゲート近辺に◆の印のある魔獣グリフォンが出現したのです。」
「父さんがそうじゃないかって言ってましたけど、やはりグリフォンなのですね・・・。」
ライキが深刻そうに眉を寄せた。
「えぇ。
魔王が復活して魔界ゲートが開け放たれたときに出没した鳥系魔獣最強と言われた魔獣です。
魔王が勇者達に倒されてからはあのクラスの魔獣は出てこなくなりましたが・・・。
私もモニター越しとはいえ、その姿を見るのは久しぶりですよ。
それでそのグリフォンなのですが・・・貴方に退治せずに使役してもらいたいのです。」
ライキは師の言葉に驚いて目を見開いた。
「退治せずに使役ですか!?
そんな無茶な・・・!
あのじーちゃんがやられた相手ですよ!?
ガチでやり合って勝てるかも判らないのに、使役するだなんて!!」
慌てるライキに反して、師の変わらずに落ち着いた声が降りて来る。
「無茶ですか?
そうとも限りませんよ。
奴はグリフォンとはいえ、シルバーファングウルフと同様にまだそうなってからの日が浅い。
かつて最強の鳥系魔獣と謳われただけのことはあり、実力はシルバーファングウルフよりも上ですが、決して勝てない相手ではありませんよ。
貴方のお爺さん、ザインさんがやられたのは、使役魔獣を傷つけられ、空から落とされたからです。
それに貴方はレベルではザインさんに劣るでしょうけど、ザインさんは60歳・・・。
残念ながら老化により実力的には貴方と大差はないレベルまで落ちてしまっています。
その上貴方はザインさんとは違い、自分の力で空を飛ぶことができる。
スピードでも瞬間移動の出来る貴方のほうがグリフォンよりも勝るでしょう。」
「そうですけど・・・。
でも、何故使役を?
俺としては正直退治してしまう方が楽ですけど・・・。」
ライキは渋い顔のままで返した。
「それは、フェリシア様がそのグリフォンに情をおかけになっているから・・・です。」
「「情を・・・ですか?」」
ライキとリーネが同時に首を傾げ、口にした。
「えぇ・・・。
そのグリフォンはフェリシア様が少女時代に怪我をしているところを助け、創造神様に内緒で飼われていたというアルパインイーグル・・・ワイルドホークの上位種に当りますが、それに似ている・・・それも、かなり確信の持てるレベルで・・・だそうです。
フェリシア様には鳥一体一体の顔の見分けがつくのだそうですが、グリフォンにはそのアルパインイーグルの顔の面影がかなりあり、更には足の傷跡まで同じだと。
だからそれが同一個体なのかを実際にその目で確認がしたいそうなのです。」
ライキは朝焼けに染まる空を見上げながら、慎重に、ゆっくりと頷いた。
「ご事情はわかりました・・・。
でも仮にそのグリフォンを俺が使役できたとしても、◆の印があるままだと、俺に使役しながらもダルダンテ神の都合のよい時に駒として利用される、危険な存在となるのでは無いですか?」
その問いに対して師の声がすぐに降りてきた。
「えぇ、勿論そのことについて無策ではありません。
貴方がグリフォンの使役を完了されましたら、一旦我々にその身柄を預けてください。
そうしましたら、フェリシア様の姉君様のセラフィア神様に見てもらいます。
セラフィア神様はダルダンテ神よりも格上の神で、尚且つ回復や状態異常解除に長けた魔法使いであらせますので、ダルダンテ神のかけた呪縛を解き放ち、◆の印がない状態へと戻す手立てをお持ちですから。
そうして印が無くなった状態で貴方の元へとお返しします。」
ライキはまだ眉を寄せ、残る疑問を口にした。
「・・・そのグリフォンがもし本当にフェリシア様の飼われていたアルパインイーグルが進化したものだったとしたなら・・・フェリシア様の手元に置くことは出来ないのですか?
俺が使役するよりも、フェリシア様にとってもそのグリフォンにとっても、その方が幸せなのではないですか?」
すると、一呼吸置いてから師の穏やかな、弟子に対して慈しみを含めた声が降りてきた。
「ありがとうございます・・・。
ですが、相手は魔獣ですからね・・・。
魔獣は本来魔界の生き物です。
下界に湧き出したまま繁殖して増えた個体もありますが、その魂は死しても天界に昇ることはなく、魔界に還ります。
そんな彼等魔獣にいくら情を持って愛していても、創造神様の定めたルールにより、天界へ置くことは出来ないのです。
先程申しました通り、フェリシア様はまだ子供だった頃その掟を破って怪我をしたアルパインイーグルを助けて情が湧き、暫く内緒で飼われていました。
ですが創造神様にそのことが見つかってしまい、フェリシア様は子供だからと軽い懲罰で済みましたが、そのアルパインイーグルは下界へと還されてしまい、それきりになってしまったと伺っています。
それが今から1500年程昔のことです。
もしそのアルパインイーグルが◆の印を持つグリフォンと同一個体なのだとすると、下界の時の流れで今現在生きていることはありえません。
だとすると、ダルダンテ神がこっそり天界で1500年もの間内緒で飼い続けていた、ということになりますね。」
ライキは師の言葉に首を傾げて口にした。
「・・・何故ダルダンテ神はそんなことを・・・?」
「さぁ・・・。
私の千里眼では神の心を読むことは出来ませんから、これは推測に過ぎませんが・・・。
単純にフェリシア様を喜ばせようと、最初は優しい気持ちで保護していたのかもしれませんね?
ダルダンテ神も昔は今程性格が歪んではおらず、フェリシア様とも良い関係性だったようですからね・・・。
それが今のような関係性に変わったために、フェリシア様には手を下し難いであろうその個体を実験に利用した。
そんなところでしょうか・・・。」
そこでリーネが何かに気がついて、手を挙げて意見を口にした。
「あっ・・・じゃあ、その◆の印を消さずに創造神様にそのグリフォンをお見せすれば、ダルダンテ神の企みが創造神様に知られることになり、すぐにでも裁いてもらうことが出来るのではないですか?」
「えぇ・・・。
ですが、セラフィア神様が仰るには、おそらくそうなる前にダルダンテ神によりそのグリフォンは始末されてしまうだろうと・・・。
シルバーファングウルフのように、死ねば◆の印は消えるのですから・・・。
それよりもフェリシア様としては、何とかそのグリフォンとなってしまった彼に下界で良い主に出会い、幸せに暮らしてもらいたいそうですよ?」
「フェリシア様・・・・・。」
リーネはそう呟くと、胸に手を当て柔らかく微笑んだ。
ライキはそんなリーネと顔を見合わせると微笑み、師に答えた。
「わかりました・・・。
出来るだけのことはやってみます。」
「お願い致しますね。
グリフォンは夜の闇ではあまり目が働きません。
ですので、夜襲を仕掛けるのが良いでしょう。
貴方ならある程度夜目が効くでしょうから有利です。
グリフォンの魔属性は風と光です。
一方貴方の魔属性は風と闇。
風同士でぶつかりあえば当然負けてしまいますが、闇の魔法はかなり有効な筈ですよ。
上手く使って有利に戦いを進めてください。
そして、貴方が自由に飛べる一時間の間に畳み掛けることを忘れずに・・・。」
ライキは真剣な表情でその助言を訊き、深く頷いた。
「あの・・・その戦いは私の支援無しで行うってことですよね・・・!?」
リーネが不安気に表情を曇らせてライキを見ると、ヴィセルテに尋ねた。
「えぇ。
ですがご心配なく。
その条件でライキさんが負ける未来は私には視えませんから。
リーネさんは回復薬を幾つかライキさんへ持たせてあげてください。
それと美味しいお弁当とね。
それがあれば大丈夫です!
後は、ザインさんの治療に専念してあげてください。」
「わかりました!」
リーネが納得して頷いた。
ライキもリーネと顔を見合わせ、朝焼けに染まる空を手を繋いだままで見上げてから頭を下げた。
すると、ヴィセルテのその姿が目の前には無くとも、恭しく頭を下げている姿が目に浮かぶような、穏やかな締め括りの声が降りてきた。
「それでは、グリフォンを使役しましたら受け取りに参りますので、そのときにまたお会いしましょう。
ご機嫌よう─。」
ライキとリーネはヴィセルテの声が聴こえなくなった後にもう一度深く頭を下げた。
そしてライキは目を閉じ、スイズリー村に目的を定めた。
「よし、じゃあスイズリー村に行こう!」
「うん!」
二人の身体が北に向かって滑り出す。
「スイズリー村ってどんなところなの?」
リーネが尋ねた。
「ネーザ村よか田舎で集落と言っても良いほど長閑だよ。
俺も行くのは5年ぶりくらいだから少し変わってるかもしれないけどな。
高い山の上にあって、フォレストサイドよりも寒く、空気が少し薄い(笑)
でも綺麗で自然豊かで良い村だよ。
食い物はチーズとチョコレートが有名かな?
俺はチョコは苦手だから詳しくないけど、母さんは褒めてた。
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「へぇ~!
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「うーん・・・。
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そんなことを話しながら、二人の姿はピンク色の朝焼けに溶けて遠ざかっていくのだった。
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