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1話 金獅子との出会い
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ジャポネを発ってから3日後─。
桃花はヘリオス連合国本土に上陸し、馬車に乗ってアデルバート神国に到着していた。
馬車がアデルバートの首都であり桃花の目的地・宮廷のあるミスティルの町へ到着すると、彼女はそこで馬車を降りた。
桃花の今日の服装は、いつか海外に行くときの為にと誂えてあったシンプルなネイビーのワンピースにピンタックの入った白いブラウス、その上にグレーのケープという、この国においても珍しくないごく普通の装いだった。
アデルバートは騎士が統括している国のため、比較的治安は良いと聞くが(ただし性に奔放な国のため性犯罪は多いらしいが)、それでも異国人はスリや盗難等の犯罪に遭い易いので、少しでもその危険を減らすためだった。
ミスティルの町は高い外壁で覆われており、桃花は出入り口となっている門の番人により、身元の確認を行われることとなった。
「珍しい髪と瞳の色をしている・・・。
娘、異国人だな?
入国の手続きは行ったか?」
「いいえ、ジャポネより船で本土へ渡り、馬車でここまで来ましたが、途中入国の手続きが出来る施設のある町村へは立ち寄っていませんのでまだなのです。」
「そうか。
ならばまずは入国管理局に行ってもらおう。
そこで入国の手続きを済まして身分証を手に入れないと、町の施設を利用することは出来ないぞ。」
「かしこまりました。」
桃花はすぐに入出国管理局へと向かった。
そこは門のすぐ近くにあり、桃花は父が用意しくれた入国に必要な書類を受付に提出した。
「えぇと、アイジャ・・・ワ・・・モモ・・・クァ、さん?」
受付の中年女性が舌を噛みそうになりながらそう言った。
「相澤桃花ですわ。」
と笑顔でもう一度名乗る桃花。
「・・・失礼ですが、そのお名前は貴方の母国であるジャポネ特有のものなのでしょうが、このアデルバートでは酷く発音しにくいのです。
アデルバートへは観光で来られたのではなく長期滞在をご希望とのことですよね?
それでしたらこの国でのお名前をお決めになられたほうが、不便なく過ごせるかと思いますよ?
そういう方のために、こちらに記入欄がございますが・・・。」
と言ってその欄を指差された。
(父様から海外ではそういうこともあるのだと聞かされてはいましたが、まさかここまで発音しにくいとは・・・。
確かにこの方の言われる通り、こちらでの呼び名を変えたほうが良さそうですね。
私がもしお役目を失敗したときにも、普段から本名でないほうが身元の確認にも時間を取られますし、好都合です。)
「わかりましたわ。
ではこちらでの名前を何か考えることにします。
ですが困りましたね・・・。
どんな名前が良いのかすぐには思いつきませんわ・・・。」
と桃花が眉を寄せて頬に手を当てると、受付の女性が表情を緩めてこう言った。
「それてしたらモニカ・アイジャーというのはいかがでしょう?
モニカさんは私の娘のクラスメイトにもいらっしゃってこの国での馴染みもいいですし、モモ…クァさんとも響きが近うございます。
アイジャーという姓はこの国にありませんが、ワが入らないだけで随分と発音しやすくなりますから。」
「あら、素敵ですわね!
ありがとうございます。
それではその名を頂戴致しますわ!」
そうしてモニカ・アイジャーと記されたこの国での身分証を手に入れた桃花改めモニカは、一先ず町の中を歩いてみることにした。
先程通過した門から繋がる町一番の大通りを歩いていると、間もなく噴水のある広場に差し掛かり、そこにはアデルバート神国の英雄ラスター・ナイトの像があった。
883年も昔にモニカの想い人であるファルガー・ニゲルと共に魔王を打ち倒したと言われる騎士ラスター・ナイトは、パーティで一番の眉目秀麗であったと名高い伝説をそのままに、スラリと美しく伸びた程よく筋肉のついた手足を持ち、何処か繊細で品の良い顔立ちの大層な美青年だった。
(この方がファルガー様のかつてのお仲間のラスター様・・・。
確かに女性には非常におモテになられそうですわね。
同じくパーティメンバーだった狩人のヘイズ・ハント様は、そのひょうきんな性格から少し損をしていたけれど、ラスター様にも負けないくらいの美形だったとファルガー様が仰られていましたし、フェリシア神国にある彼のキャラクター性を示すかのような〈〉の形に曲げた手足、更には手の先を頭にちょこんと乗せた変なポーズという像を見た人も、きっと面白い人だったのだろうが、確かにそのご尊顔は美しかったと語ります。
女性達の間ではラスター派とヘイズ派という、どちらがタイプかといった例えとして今も用いられる程です。
勇者だったファルガー様は魔王を打ち倒した後すぐにヘリオス様と契約して神使となり、この世界の監視者という隠密性の高いお役目につかれたことから、自分のお姿を世界に広めることになる像を残されなかった・・・。
そのために勇者はラスター様とヘイズ様程見目麗しくは無かったのだと語り継がれているけれど、私は彼がとても美しいことを知っています。
そんな強く美しい伝説の勇者でもある彼に、私は抱かれた・・・)
3日前のあの夜の事を思い出すと、今でも体の芯が熱くなるモニカ。
(大丈夫。
あの特別な夜の思い出があれば、私は何処にいたって強くいられます。
大丈夫・・・)
そう思って彼から別れ際に渡された陶器の笛の入った胸ポケットに手を当てるモニカ。
(そうですわ・・・!
この笛、無くさないようにペンダントにしないと・・・。)
桃花がそう思いながら石造りの建物が建ち並ぶ美しきミスティルの町の大通りを歩いていると、ふと”装飾品店スペード♠ 武具の装飾、魔石の加工、その他各種装飾品の加工承ります”と書かれた看板のある店を見つけた。
(ここで加工してもらえるか聞いてみましょう。)
モニカはその店の扉を開けた。
カランカラン♪と来客を告げる鈴が鳴り、愛想の良い夫人が、
「いらっしゃいませ!
あら、大層綺麗なお嬢さんだこと!」
と声をかけてきた。
「・・・成る程、この笛をペンダントに加工されたいのですね!
かしこまりました。
チェーンは既製品でよろしいとのことですし、10分ほどあれば出来上がります!」
そう言ってモニカから受け取った笛を職人である旦那に渡す夫人。
「まぁ、そんなに早く出来上がるのですか!」
と目を丸くするモニカ。
「えぇ、アデルバートは金属の加工技術に関しては世界一ですから、ジャポネから来られたお嬢さんが驚かれるのも無理はないのでしょうが、金属加工が上手くて早いのはこの国では当然なんですよ!
この国の神使様は皆武具造りに長けてらっしゃいますが、特に我が国唯一の女性神使のルシンダ様は、時折民の前にもそのお姿を現され、その技術や知識を我々にもお与えくださっています。
そしてより素晴らしい技術を持つ者には、現神使様のようにアデルバート様からお声がかかり、神の仲間入りを果たすことも夢ではありません。
ですので主人のような職人は常に切磋琢磨し、技術の向上を目指しているのです。
特に騎士様の多いこの国においては武器職人の競争はより激しいですね。」
「まぁ、そうなのですね!
大変ためになりますわ!」
モニカはペンダントの加工をしてもらっている間に装飾品店の夫人とそのような話をしながら完成を待った。
完成したペンダントは笛に穴を開けること無くしっかりとゴールドのチェーンにくっつけられていた。
モニカは早速それを身に着けると、装飾品店夫人から聞いた職業紹介所のある通りへと向かって歩き始めた。
(まずは職業紹介所に行ってみましょう。
ファルガー様はこの間ミスティルに来られた際、神避けに阻まれない範囲で宮廷の内部事情について調べられたと仰られていました。
その結果、宮廷メイドは入れ替わりが激しく常に人手不足なようだったから、それ程待たずして入り込めるのではないかとのことでしたが、もしタイミングが悪く求人が無ければ、それまで別のお仕事で繋がなければなりません。
滞在費用は父様が多めに持たせてくださいましたが、今後何があるかわかりませんし、極力そのお金には手を付けたくはありませんからね・・・。)
そんな事を考えながらモニカが職業紹介所のある通りへと曲がった時である。
「嫌ッ・・・やめてください!」
歳の頃はモニカと同じくらいだろうか。
淡いグリーンの瞳を持ち、鮮やかな金髪を肩の辺りで切り揃えてた愛らしい花売り娘が、数々の花を乗せたワゴンを通りに置いたまま、3人のオリーブ色の詰襟服を着た騎士らしき青年達に、路地の奥へと連れ込まれそうになっていた。
「抵抗するな!
俺達は騎士だぞ?
我が国が誇る英雄ラスター・ナイト様の血を受け継いでいる俺達が、可愛いと評判のお前の特別な花をこいつで買ってやろうと言っているんだ。」
そう言って3人の真ん中に立つ金髪ツリ目の騎士が100G金貨2枚(※日本円で約2万円に該当する)を娘に見せた。
「この3人でお前の一番花を賭けて勝負し、勝ち残った俺が100Gで一番花を買う。
コイツラはそれぞれ50Gで二番花と三番花を買う。
3人の相手をするだけで200G・・・1時間もあれば済む。
悪い話ではないだろう?」
「い、いやっ!
私には職人見習いの彼がいるんです!
私の売り物はあのワゴンの花だけ・・・貴方達にいくら金貨を積まれても、一番花はおろか、二番花も三番花も売る気はありません!
だからどうか私を開放して下さい・・・!」
「まぁまぁ。
あんた程の器量があれば、職人見習いなんかに操を立てて細々と本物の花を売るよりも、俺達騎士を相手にそっちの花を売ったほうが稼げるぜ?
それでもし騎士の子を孕んで産みでもすれば、ガキ一人辺り1000G(※日本円で約10万円)の手当てがナイト家当主様から支払われ、養育費として毎月100G貰えるぞ?
貧しい花売りには悪くない商売だと思うがな?」
と右側の灰髪オールバックの騎士が言った。
「嫌です!
私にとって大切なのは何もお金だけじゃないんです・・・!
私は細々とでいいから好きな人と幸せな家庭を築きたい・・・!
女性が買いたければ娼館にでも勝手に行って下さい!」
と強気で突っぱねる花売り娘。
「やだね。
娼館なんぞ超絶テクを売りにしてバカ高い金払わされる割に、いるのは年増の下品なのばかりなんだぜ?
俺達はそんな毒々しい造花よりも君みたいなようやく咲いたばかりの瑞々しい天然花を摘みたいの♪
な?」
と左側のそばかす顔の茶髪が他の二人に同意を求めた。
「そうそう!
若くて可愛けりゃあテクなんか全然無くても唆るんだよ!
あんたはただ俺達に身を任せて気持ち良くなるだけで金が貰えるんだぜ?
何の文句があるんだよ?」
と無茶苦茶な論理を押し付ける灰髪オールバック。
「だよな。
俺ら経験豊富だし、童貞の職人見習いの彼氏なんかじゃ物足りなくなるくらいいい思いをさせてやるぜ?」
とニヤリと笑う金髪ツリ目。
「嫌っ・・・離してったら!」
「そんなに怖がらなくても平気だって!
大丈夫、この国じゃみんなやってることだし、身体を売ったなんて言わなければそいつにバレやしないから!」
とそばかす顔の茶髪。
「誰か・・・誰かお願い・・・助けてっ!!」
花売り娘は周囲に助けを請いながらも精一杯抵抗するが、男3人には力でとても叶わず、路地の奥へとどんどん連れ込まれていくのだった。
モニカはそれを見て冷汗を垂らすと、慌てて花売り娘と3人の騎士を追いかけた!
(私以外に通りには沢山の人がいてさっきのやり取りを見ているというのに、どうして誰もそれを助けようとしないのです!?
まるでこの国ではあんなことは日常茶飯事に行われているとでもいうみたいに・・・信じられませんわ!!
かといって、特に武術の稽古を受けたことのない私が行っても3人の騎士を相手に彼女を助けられるかどうかはわかりませんが・・・。
それでもそれを黙って見ぬフリするなんて、私にはとても出来そうもありません・・・!)
モニカが彼等を追って裏路地に消えた後、白い詰襟服を着た金髪碧眼の大層美しい少年がその通りにやって来た。
そして売り子不在で道の端に置かれたままになっている花のワゴンの前で、不思議そうに首を傾げていた。
裏路地の突き当りの広場に連れて行かれた花売り娘は、そばかす顔の茶髪と灰髪オールバックに手足を押さえつけられ、一番花を買うと宣言した金髪ツリ目に跨がられた状態で服を脱がされていた。
「ちっ・・・あまり暴れるから服が破けちまったじゃねーか!」
「イヤーーーー!誰か・・・むぐっ・・・!!」
まだ諦めずに大声で助けを呼ぶ花売り娘の頬を、そばかす顔の茶髪が「うるさい!」と言って叩いた。
頬に与えられた痛みにより恐怖の臨界点に達た花売り娘が、観念したように涙で滲む目を閉じかけたその時である。
「・・・地位をカサに着せて嫌がる女性に性行為を強制するなど・・・紳士的と名高いアデルバートの騎士様も地に落ちましたわね・・・」
「 何だお前・・・!」
そう言って声の主を振り返り見た3人の騎士は、まるでその周囲だけ吹雪いているかのようなオーラを纏った、氷の女王のように凍てついた表情でこちらを見ているモニカに驚き、思わず花売り娘を押さえる手を緩めた。
その隙に花売り娘は彼等から逃れて距離を取り、開けた胸元を手で隠した。
「私ですか?
ただ通りすがっただけの異国女ですけど、民を守る存在だと聞き及んでいました騎士様のあまりの非道な行いに耐えきれず、止めに参りましたの。」
モニカはそう言いながら自分の羽織っているグレーのケープを外すと、それを彼女にそっとかけてあげた。
「可愛い花屋のお嬢さん。
今のうちに逃げてください。」
「えっ・・・!?
ですが・・・」
花売り娘はモニカを上から下までジロジロといやらしい視線で舐め回す様に見ている3人の騎士達と、その視線を受けても平然としている美しいモニカを心配そうに交互に見た。
「私なら大丈夫です。
こう見えてそこそこ戦えますから。」
本当は全く武術の心得などなかったが、ここで少しでも不安な様子を見せれば3人の騎士達には隙を与え、この心優しい花売り娘は自分を置いては逃げられず、最悪二人とも強姦されてしまう結果になるかもしれないと思ったモニカは、そうやって嘘を付き、まずは彼女に先に逃げて貰うことにしたのだ。
(彼女がいなくなった後で彼等への対処を改めて考えましょう・・・。)
よく見るとモニカの手がカタカタと小さく震えていることに気がついた花売り娘は、
「わ、わかりました・・・!
すぐに助けを呼んできますから!」
と言い、モニカに一礼してから路地から走り去って行った。
(良かった。
とりあえずあの子だけでも助けられましたわ・・・。
きっとあの子は本当に私を助けようと色んな人にお願いをして回るのでしょうけど、先程のこの町の人達の様子からして、まず助けは期待できないでしょうね・・・。
さて・・・私一人でどうやってこの状況を切り抜けましょう?」
モニカは3人を睨んだままで思考を続けた。
(この手の男達に怯えた様子を見せればかえって興奮させてしまうでしょう。
かといって男慣れした態度を取って見せても、ここまで性的に盛り上がってしまった彼等が萎えてくれるかはわかりません・・・。
私もファルガー様に一晩抱いて貰い処女ではなくなったとはいえ、あの方以外の男性・・・しかも武人3人も相手にするのは流石に恐ろしいですし、下手に虚勢を張ってもボロが出てしまうかもしれません・・・。
ならば、ここは相手に情報を与えず、出方を見るべきでしょう・・・。)
モニカは一先ずそう結論を出した。
「ちっ!
折角あの娘とヤれると思ったのに、逃がしやがって!
いい人気取りの異国女が!」
と苛立ち声を荒げる金髪ツリ目。
「いや、良く見ろよフィリップ。
この異国女、顔も綺麗で胸もデカく肌も極上のかなりの上玉だぜ?
俺はさっきの華奢な花売りよりもこっちのが断然好みだわ。」
とニヤニヤしながら言う灰髪オールバック。
「何も知らない異国人ちゃんに親切な俺が教えといてやろう!
この国の騎士ってのは全員かの英雄ラスター・ナイトの血縁者なんだぜ?
その英雄の血を引く俺等がこの国を魔獣や賊から守ってやってるんだ!
騎士ってのはこの国の法そのものであり、誰も逆らえやしないんだよ!」
と自慢気に語るそばかす顔の茶髪。
「まぁ!
そばかす顔の騎士様、丁寧にご教示いただきありがとうございます。」
と腹に黒い感情を抱えながらもこやかに微笑み頭を下げるモニカ。
「・・・しかしこの状況で顔色ひとつ変えやしねぇとは肝の座った女だな。
あんた処女じゃないだろ?」
と灰髪オールバック。
「・・・俺は潔癖だから誰が突っ込んだかわからねー穴は使いたくねぇからフェラでいーわ。
安心しな?
騎士道精神に則ってちゃんと金は払ってやる。
初物じゃねーなら50Gでいいよな?」
と言いながらベルトをカチャカチャと外し始める金髪ツリ目。
「それなら俺が前の穴をもらうぜ?
あんた俺好みだから、初物じゃなくても100G払ってやる。
その代わり、穴の中俺のザーメンでタプタプにしてやるから覚悟しろよ?」
と言いながら同じくベルトを外し始める灰髪オールバック。
「なら俺は後ろの穴を50Gで買うぜ?
そっちの穴にぶち込むのは初めてだが、こんな美人の穴なら是非とも味わってみてぇ・・・♥」
とニヤニヤしながらそばかす顔の茶髪までベルトを外し始めた。
「あら・・・皆さん揃って下のお召し物を脱がれ始めましたけれど、私は貴方達と性行為をするつもりなんてありませんよ?
どうかベルトをお締めになって下さいな。」
とモニカは更に彼等に冷たい眼差しを向けながらそう言った。
「はぁ!?
何言ってるんだ!
お前のせいで花売り娘とヤり損ねたんだぜ!?
ただで犯されても仕方ねぇ所を、金を払ってやると言ってるんだ!」
金髪ツリ目が既に半分程勃起したモノを手で扱きながら怒鳴った。
「そうだぜ?
大人しく従ったほうが無難だ。
あんた賢そうだから逆らったらどうなるか・・・言わずともわかるよな・・・?」
そう言って完全に熱り勃ったモノを取り出してモニカに突きつける灰髪オールバック。
間近で見たそれはファルガーのものよりも大きく大変おぞましく、流石のモニカも眉間にシワを寄せて冷汗を垂らした。
「おっ・・・!
あんたでも俺のデカマラは怖いんだな?
その反応唆られるぜ・・・♥」
彼は鼻息を荒くしてモニカの腕を強引に掴むと、壁にドン!と押し付けた!
(まずい・・・力が強すぎて逃げられない・・・!
ならば金的を・・・!)
とモニカが片足に勢いをつけようとすると、それに気がついた灰髪オールバックはすかさずもう片方の手でその足をガシッ!と押さえつけた。
そしてモニカの膝の間に脚を割り入れ、股間を蹴られないよう腹にぐっ!と熱り勃った肉の剣を押し付けた状態にしてから自由になった手で紺色のスカートを徐々に捲り上げた。
「おお~~~!
異国人ちゃん美味そうな脚してんな!
だがキリル、その体位じゃ俺目当てのケツが使えねぇだろーが!」
とそばかす顔の茶髪が灰髪オールバックに文句を飛ばした。
「俺だって口にぶち込めねぇ!
全部の穴が公平に使えるよう、キリルが地面に下になってその上に女を四つん這いにさせろ!」
と金髪ツリ目も文句をつけた。
「ちっ!
仕方ねーな・・・!」
キリルと呼ばれた灰髪オールバックがモニカの腕をもう一度掴んで地面に投げつけた!
地面に膝をついたモニカに下半身をむき出しにした騎士3人がにじり寄ってくる。
(このままでは本当に彼らに強姦されてしまい兼ねない・・・。
それだけは絶対に嫌!
どうにかして逃げなければ・・・。
でも力では絶対に敵わない。
ならば何か武器になりそうなもので隙を作って・・・)
モニカが必死にそんな事を考えていると、モニカが手を突いたその先に、彼らのうちの誰かが股間のモノを出す際に勢い余って投げ捨てたと思われる革ベルトがあることに気がついた。
モニカは咄嗟にそれを手に取ると、モニカに覆いかぶさってきた灰髪オールバックに向かってそれを払いつけた!
ビシッ!
革ベルトは彼の大きくそびえ勃っていた股間にヒットした!
「ヒグッ!!!!!」
彼はそんな短い悲鳴を上げるとむき出しの股間を手で抑え込んでから地面に横になり、ピクピクと身体を震わせながら悶絶しているようだった。
(あら・・・!
払ったベルトが股間に当たったのは偶然でしたけど、この革ベルトのしなり具合と長さ・・・力のない私にも非常に扱いやすく、何だかやけにしっくりときますわ。
後は持つところが棒のようになっていればもっと良いのですけど・・・。
それって鞭のような武器が私には適しているのかもしれないということでしょうか・・・?
とにかく今はこのベルトを駆使し、残りの二人をどうにかしなければ・・・)
モニカはそう思って彼らを見た。
「女!良くもキリルを!」
金髪ツリ目は逆上して、いつもなら腰に下げている剣を抜こうとするが、モニカが持つベルトはどうやら彼の物だったらしく、ベルト不在のために鞘ごと足元に落ちていたので、彼はそれを拾い上げて鞘から抜いた。
そして残りの一人のそばかす顔の茶髪は、ボトムスをずらしはしていても、ベルトとそれに下げた剣はそのままボトムスと一緒に残っていたので、それを引き上げてから剣を抜くとこう言った。
「・・・ちょっとばかりお仕置きが必要なようだな、異国人ちゃん。
大丈夫、殺しやしないさ。
だがキリルがやられて黙ってはいられねーし、それなりに痛い目には遭ってもらうぜ・・・?」
キリルという名の灰髪オールバックも股間の痛みから回復しつつあり、まだぷるぷると震えながらも腰に下げた剣に手をかけている。
(これは・・・非常にまずい状況ですわ・・・。
剣を抜かれては私に逃れる手はない・・・。
ですが、このまま彼等に痛めつけられ、犯されてしまうなんて絶対に嫌!!
私の身体は、愛するファルガー様だけが触れて良いもの・・・それを穢されるくらいなら、舌を噛んで死んだほうがマシですわ・・・!!
ですが私にはファルガー様に託されたお役目がある・・・。
それを果たすまで決して死ぬわけにはいかない・・・・・。
だけどファルガー様が愛してくださったこの身体を穢されて尚、心折れずにいられる自信なんて私には・・・・・・)
モニカの脳裏に大好きなファルガーの屈託のない笑顔が浮かぶと同時に、現状の自分では抗えそうもない状況に絶望し、涙が滲みかけたその時である。
「貴様ら何をしている?」
白い詰襟の騎士服に身を包んだ、まるでラスター・ナイト像が5歳ほど若返って色が付き、そのまま動き出したかのように美しい金髪碧眼の少年が、彼等の背後に立っていた。
「し、白い騎士服・・・!
ということはラスター・ナイトの直系の誰かか・・・?」
と金髪ツリ目が言った。
「馬鹿野郎フィリップ!
まだ14歳でお披露目前だが、ラスター・ナイトに生き写しの第3公子様がいらっしゃると聞いたことがあるだろ!
きっとそのレオンハルト様だ・・・!」
とそばかす顔の茶髪がガクガクと震えながら少年を指差し説明した。
「何!?
公子様だと!?
何故公子様がこんな裏路地へ・・・?」
何とか股間へのダメージから回復し、ボトムスを引き上げて立ち上がった灰髪オールバックがそう尋ねた。
それに対して彼は答えた。
「確かに僕はレオンハルト・ナイト・・・この国の現ナイト家当主、ダズル・ナイトの3番目の息子に相違ないが・・・貴様らオリーブ色の騎士服ということは、名にナイト姓を持たない下級騎士だな?
ならばお披露目がまだとはいえ、階級が上の僕の問いに先に答えるべきじゃないのか?
・・・まぁいい。
その質問に先に答えてやろう。
僕は前々から彼女の常連客でね。」
と言って自分の背後で心配そうにこちらを見ている花売り娘を指差す少年。
「いつものように母様への土産の花を買おうとこの街角に来てみれば、ワゴンだけが残されて彼女がいなかった。
すぐに戻るだろうと待っていると、この路地から彼女がただならぬ様子で出てきて僕に助けを求めて来たんだ。
彼女から事情を聞いた僕は、そちらの親切な通りすがりの異国人の女性を助けにここまで来たというわけさ。
さて・・・今度こそ貴様らが答える番だ。
こんな所に女性を連れ込んで、しかも剣まで抜いて、一体何をしようとしていた?」
「な、何って・・・この女に正当な対価を支払うから身体を売れと交渉を持ちかけた所、異国人だからかこの国でのルールを知らずに反抗的でして、このキリルの股間に革ベルトで一撃を・・・。
それで少しばかり制裁が必要かと判断しました。」
と金髪ツリ目が説明した。
「幾ら民より地位の高い騎士であっても、嫌がる女性に無理に関係を求めることは法に反する筈だが?」
と少年。
「えっ、でも先輩騎士達も皆それくらいやってますし、俺達はちゃんと金を支払っているわけですから。
中には金も渡さずヤる非道な騎士もいますよ?」
と、さもそれが常識だと言わんばかりに説明するそばかす顔の茶髪。
「呆れた・・・。
下級騎士の品位がまさかそこまで落ちていたとはな。
わかった。
この件と下級騎士の現状については父に報告させてもらう。
全員騎士証を見せろ。」
少年はそう言って彼等に手を差し出した。
しかし3人の騎士たちはそれに従うことを渋り、こんな事を言い始めた。
「おい・・・こんなことで騎士証なんか見せて上にチクられるなんて冗談じゃねぇぞ!」
と金髪ツリ目。
「そうだよな。
いくら直系でもまだ14のガキだ。
俺等だって奴より血は薄くとも、ラスター・ナイトの血を引いているんだ。
3人でかかれば楽勝だろ!」
とそばかす顔の茶髪。
「そうだな。
まだ世間を知らないお坊ちゃんに先輩として指導してやろう!
そして俺達に逆らえなくなった坊ちゃんの眼の前で、異国女と花売り娘の両方を犯し尽くしてやる!」
と最後に灰髪オールバック。
3人の騎士達は頷き合うと、攻撃の矛先をモニカから少年に変えて同時に襲いかかってきた!
少年は先程までは穏やかに見えた目を鋭く光らせると、腰に下げた剣をスッと抜いて、最初に正面から飛び込んできたそばかす顔の茶髪の剣撃をあっさりと受けてがら空きの腹をその足で蹴り飛ばした!
更に彼の背後から降り振り被る灰髪オールバックの剣撃を頭上で受け止めつつ弾き飛ばすと、すかさず剣の側面で彼の脇腹を払った!
その衝撃で灰髪オールバックは数メートル先の壁へと飛ばされた。
最後に残った金髪ツリ目の騎士は、花売り娘の一番花の権利を他の二人から奪えるだけのことはあり、剣術の素人であるモニカの目から見ても明らかに剣撃の鋭さも身の熟しも先の二人よりも上に見えた。
しかし、少年は彼の胴払いをあっさりと躱し、続けて繰り出された上からの振り落としも鮮やかに躱すと、お返しと言わんばかりに剣の側面で彼の肩をガンッ!!と激しく打ち付けた!
「呆気ない。
この程度ではハイクラス魔獣の群れとやり合う時には足手まといにしかならないぞ?」
少年はそう言いながら剣を鞘に戻し、戦意を喪失しているオリーブ騎士達の胸元に付いた騎士証となっているバッチを裏返し、そこに書かれた番号を手帳に控えた。
「くそっ・・・!
やはり血の濃さには抗えないのか・・・」
と金髪ツリ目が悔しそうに呟いた。
「さぁ、それはどうだろうな?
僕と同じく公子でも2番目の兄ジェイドみたいに剣術よりも執務向きの者もいるし、血の濃さだけが強さの全てではないと僕は思うがな。
実際僕は貴様らが女の子相手に腰を振っている間に剣を振ってきたし、母様に恥をかかせたくなくて人の倍・・・それ以上は努力してきたつもりだ。
歳下の僕に負けたことが悔しいのなら、もっと鍛錬に時間を費やしてみろ。
まぁ今回の件で当面女が買えないくらいには減給されるだろうから、己を鍛え直すには丁度いい機会かもな?
あと・・・こちらの花屋のお嬢さんの一番花は、僕が職人見習いの彼から奪うつもりで口説いてる最中だから、二度と手を出すなよ?」
3人の騎士たちは悔しそうに顔を歪めながらも、彼の言うことに対して反論する余地もなかったらしく、黙ってその場から去って行った。
そうして路地奥の広場にいるのはモニカと少年、花売り娘の3人だけになったが、少年はモニカには目もくれずに花売り娘を振り返り、にこやかに微笑みながら少し鼻にかかった甘い声でこんなことを言ってのけた。
「・・・さてと花屋さん。
君の頼みを訊いて彼女を助けたんだ。
君の一番花を僕にくれる気にはなったかな?」
(・・・なるほど。
彼が私を助けてくださったのは、彼女からの好感を得るためでしたのね。)
とモニカは納得して頷き、彼らのやり取りを黙って見守ることにした。
「ご、ごめんなさい金獅子様!
私には彼がいますからそれは無理です・・・!」
花売り娘は汗を飛ばしながら勢い良く頭を下げた。
金獅子様と呼ばれた彼は、
「はぁ・・・。」
と大きくため息をついた後、髪をかき上げ苦笑しながら彼女に尋ねた。
「君の彼が浮気でもしない限りは僕に天秤が傾くことはないだろうとは思っていたけど、やはりか・・・。
でも、僕への好感度は今のでかなり上がったかな?」
「は、はい!
それはもうとっても・・・!
彼と家族の次の、一番親しい異性のお友達くらいには・・・!」
「そうか・・・。
ただの常連客の一人から一番の男友達にまで昇格出来たのなら、頼み事を訊いた報酬としては悪くない結果なのかもしれないな・・・。
ははっ・・・」
彼はそう言って彼女の攻略を諦めたかのように乾いた笑みを零した。
「ほ、本当にご希望に添えなくてすみません・・・!
ですが、次からはお花代をうんとサービスしちゃいます!
・・・・それでは駄目でしょうか・・・?」
と不安そうに彼を見上げる花売り娘。
「・・・本当に?
ありがとう。
じゃあまた母様の土産を買いに寄らせてもらうよ。」
彼は笑顔でそう返したが、モニカにはもう彼は、彼女の花を買いに来ることはないのだろうと感じられた。
そしてそんな彼はおそらく騎士としての義理を果たすためだろう。
ようやくモニカに意識を向けて、彼女が立つのを助けようと数歩近付き、身を屈めてその手を差し出して来た。
「・・・放ったらかしにしてすまなかった。
異国から来たという君、怪我はないか・・・?」
そうして彼が始めてモニカを近くでまともに見たその瞬間である─。
彼の全身に稲妻が駆け抜けたかと思うと、彼の碧く澄んだ瞳には眼の前にいる彼女が今まで出会ったどの女性よりも美しく輝いて映り、その姿を見ているだけで、どうしようもなく胸が高鳴って顔中が熱くなり、彼女のことを知りたくて堪らない・・・初めて異性に対してそう強く感じたのだった。
「・・・・・・・・・っ!」
彼は顔をみるみる真っ赤に染めると、
「その・・・・・君が無事で、本当に良かった・・・・・・・」
と掠れた小さな声で呟いた。
モニカは先程までの自分を空気とでも言わんばかりだった素っ気無い態度の彼と、今のこの耳たぶまで赤く染めてチラチラと情熱的な眼差しを自分に投げかけてくる彼のあまりの反応の落差に内心呆れはしたが、同時に可笑しさがこみ上げてきて、クスッと微笑んで彼の手を取ると、優雅に立ち上がった。
そして姿勢を正し、美しい所作で頭を下げた。
「えぇと、レオンハルト様、でしたわね?」
「あ、あぁ・・・。
この髪色と獅子を現す名から知人友人は大抵”金獅子”と呼ぶが・・・レ、レオンでいい・・・。
君にはそう呼ばれたい・・・・・。」
と彼は真っ赤な顔のまま照れくさそうにモニカから目を逸らし、時々言葉を詰まらせながらもそう言った。
「・・・そうですか。
それでは以後、レオン様とお呼びさせて頂きますわね?
レオン様、この度は危ない所を助けていただき、誠にありがとうございます!
そして花屋のお嬢さんも、レオン様を呼んで来てくださって本当にありがとうございました!
お二人のお蔭様で私、何もされずに済みましたわ!」
そう言って顔を上げたモニカは二人に向けて穏やかに微笑んだ。
レオンがその美しい笑顔に見惚れてぽーっとしている間に、花売り娘がモニカの元へ駆け寄り、笑顔でこう返した。
「いいえ!
私の方こそ貴方が助けてくれなかったら、彼に操を立てられませんでした。
本当にありがとうございました!
あの、私はいつもこの辺りで花売りをしていますニーナといいます。
貴方のことをお聞きしてもよろしいですか?」
「ええ、勿論ですわ!ニーナさん。
私はモニカ・アイジャーと申します。
ヘリオス連合国の一つジャポネから、物語で読んで憧れた騎士様の国アデルバートへと見識を広げるために参りましたの。」
モニカはファルガー・ニゲルに頼まれてこの国の内情を探るために来たという事情のみ伏せて、真実を語った。
「モニカというのか・・・・・。
そうか・・・ジャポネから・・・・・」
レオンが赤い顔で小さくそう呟いたが、それに気付かなかったモニカは続けて言った。
「まさか到着直後にあのようなガッカリ騎士達に襲われそうになるとは思いもしませんでしたけど、こうして助けてくださったニーナさんとレオン様に出逢えましたから、この国に幻滅せずに済みましたわ!」
「それなら良かったです!
この通り性に奔放な国で、若い女性にとって危険も伴う町ではあるんですけど、私の彼のように職人を目指す者にとっては聖地でもあるんです。
モニカさんがこれからこの国の良い所に沢山触れ、来てみて良かったって思ってくれたなら私も嬉しいです!
それであの・・・私、モニカさんにお借りしているこのケープを洗ってお返ししたいですし、助けて頂いたお礼も改めてしたいので、連絡先をお聞きしたかったのですが・・・今この国に来られたばかりでは滞在先はまだお決まりではないですよね?」
と小首を傾げるニーナ。
「えぇ。
これから職業紹介所に行って、何処か住み込みで働ける職を探すところでした。
ですので連絡先はまだありません。」
「そうですか・・・。
あの、どんなお仕事をご希望なのですか?
もしかしたら何かお役に立てることがあるかもしれないので・・・」
とニーナ。
「私、ジャポネではあるお方のお屋敷で幼少期よりずっと働いておりまして、出来ればその経験を活かして宮廷メイドのお仕事がしたいのです。
ですがこの国の方の紹介等もありませんし、異国人ということもあり警戒もされますでしょうから、もし求人があっても雇って頂けるかどうかはわかりませんが、一先ず職業紹介所に行ってみようかと・・・」
さっきからずっと話題に入れずにいたレオンは、それを聴いて”チャンス到来!”と言わんばかりに目を輝かせ、バッ!とモニカの手を握ると、意気揚々としてこう言った。
「それなら僕が力になろう!
メイドはすぐに辞めてしまうから常に人手不足だし、君みたいな美人の経験者なら文句無しで採用される!
それに君の人柄についても、自分の危険を顧みずに花屋さん・・・えぇとニーナだったね。
彼女を助けたことを僕から父に話せば、高く評価されると思う!」
「ですが、レオン様には危ない所を助けていただいたのに、お仕事の口利きまでしていただくわけには参りませんわ。
宮廷メイドが常に人手不足ということでしたら、職業紹介所のほうにも求人が出ているでしょうし、そちらから面接を取り付けて貰いますから。」
「だが、紹介所に出してる求人は父や兄達の世話係だからな・・・・・。」
とレオンは顎に手を当て、非常に渋い顔をした。
「そうなのですか?
それに何か問題でも?」
と首を傾げてレオンに尋ねるモニカ。
「・・・身内の恥を晒すようだが、父や兄達は新人メイドを見ればすぐに手を出してくるんだ・・・。
メイド達も地位が上の人間から強引に迫られれば逃げられず、お手つきと知れ渡れば妃に虐められ、その心労から自主退職したり、妊娠して宮廷を出ることになるメイドも多い・・・。
だから常に人手不足なんだ。
父や兄達はそうして何人ものメイド上がりの女を娶っているが、宮廷に居られる妃は当主・・・公の場合第三妃まで、公子の場合は第一妃のみだ。
後の妃はハーレムという別の邸に入ることになり、最低限の生活は保証されるが、行動の自由は無いに等しい籠の中の鳥・・・不幸な末路と言えるだろう。
だが僕の専属メイドなら、父や兄達の手からある程度守ってやることが出来る。
僕はまだ専属メイドを一人も持っていないが、二人の兄は12、13の時には既に専属メイドを持っていたし、僕はもう14・・・15になれば騎士としてお披露目もされることだし、そろそろ専属メイドが欲しいと言ったところで父も文句を言わないだろう。
母様なんかむしろ君を気に入りそうなくらいだ。
モニカ・・・君がそのことで僕に恩を感じるのなら、メイドの仕事の中でしっかりと返してもらえればそれでいい。
・・・どうだ?
僕の専属メイドになってみないか・・・?」
モニカは彼の好意に甘えて良いものか、その場で真剣に考えた。
確かにファルガーに頼まれたお役目を無事に果たすにはこの条件はこの上ないものであったが、そのためにレオンの好意を利用することは、彼に対して不誠実に思えてならなかった。
しかし彼の言うように、彼のメイドとして一生懸命働き恩を返す事が、最も彼に喜ばれるのでは無いか・・・そうとも思えた為、有り難くその好意に甘えさせてもらうことにした。
「ありがとうございます、レオン様。
それではお言葉に甘えさせていただきますわ!」
「よしっ・・・!やったぞ・・・!!」
レオンは嬉しそうに声を弾ませると、一人で喜びを噛みしめるかのように小さくガッツポーズを取った。
「それじゃあ早速今夜父に話してみる!
だがモニカ。
君が何処にいるのかがわからないと、面接の日取りを伝えようがないのだが・・・。」
と困ったように眉を寄せてレオンが言った。
「それでしたら、もう職業紹介所には行かなくて良くなりましたし、すぐに何処か近くの宿をお借りしますから、少しだけお待ち・・・」
とモニカが言いかけると、レオンが血相を変えて頭を振った。
「いや!
この国の宿に女性が一人で泊まるのは危険だ!
大通りに面した安全を謳った宿でも、寝ている間にベルボーイがベッドに潜り込んで来たり、最悪目が覚めたら娼館にいた・・・なんて話も訊くからな・・・。
それならいっそのこと僕が外泊許可を取り、一晩中君の護衛を・・・。
いや、それだと今夜父に話が出来なくなるし、そもそもお披露目前の年齢で外泊なんてしようものなら、父はともかく母様に何を言われるか・・・」
と深刻な表情でブツブツ言いながらレオンは考え込んでいる。
そこで二人のやり取りを黙って聞いていたニーナが両手を合わせ、こう提案してきた。
「それでしたらモニカさん!
助けていただいたお礼もしたかったので、私の家へ泊まって行って下さい!
狭くて大したお構いは出来ませんけど、私の家族もいますし、お一人で宿に泊まられるよりはずっと安全ですから!」
「まぁ!
宜しいのですか?
とても助かりますわ!」
と表情を弾ませるモニカ。
「そうか・・・ニーナの家に・・・良かった。
それならニーナ、君の家の場所を教えてくれないか?
明日の朝の鍛錬後、モニカに面接の日取りを知らせに行くから。」
それに対してニーナは快く頷いた。
「はい!
教会の隣に小さな花屋があるでしょう?
うち、あそこなんです。
お店の売り場が狭くて切り花を置くスペースがないから、私がいつもワゴンで売って回ってるんです。」
彼は暫く考えてニーナの言う花屋にようやく見当がついたようで、軽く目を見開いた。
「教会の隣の花屋・・・あぁ、あそこか!
わかった、ありがとう。
それじゃあモニカ・・・ニーナも、また明日!」
レオンはそう言って主にモニカに向けて何度も手を振ると、嬉しそうに鼻歌を歌いながら宮廷のほうへと帰っていった。
「面白いお方・・・」
去りゆく彼の背中を見送りながら、モニカがくすっと微笑みそう呟いた。
(それにお母様のことを母様と呼ぶところなんて、梅次みたいで愛らしくて・・・)
と心の中で密かに付け足す。
「ふふふっ、モニカさん、金獅子様に気に入られてましたものね?」
と、その呟きが聞こえていたニーナがそう言って笑った。
「あら、ニーナさんにこそ気があるように見えましたけど?」
と誂い半分に返すモニカ。
「確かに、金獅子様がモニカさんのお顔を間近で見られるまではそうだったかもしれませんけど、あれは・・・。」
とニーナが言いかけたところで、15時を知らせる教会の鐘がリンゴーン、リンゴーン、リンゴーン・・・と、3回鳴り響いた。
「もう15時・・・。
モニカさん、私、服も破れてしまいましたし、今日は少し早めにお花のワゴンを引き上げようかと思います。
そのまま私の家にご案内しますから、一緒に参りましょうか。
お話はその道すがらにでも。」
とニーナが言った。
「ええ、よろしくお願いしますわ。」
モニカはニーナの後に続き路地から抜けると、花のワゴンを引く彼女の隣を歩いた。
「先程のお話の続きですけど・・・金獅子様が私に向けられていた好意は恋心ではなく、私の彼がこの国では珍しい結婚するまでは性交渉はしないという考えのために私が処女でいるから、その一番花を目当てにされていた・・・それだけのことだと思います。
若い騎士様は、男性経験の無い女性を好まれる方が多いですから・・・。
あっ、勿論金獅子様は、私の気持ちを無視したことは決してなされない方だったので、そこはあのオリーブ隊の方達とは大きく異なりますが・・・。
でもモニカさんの顔をまともに見てからの金獅子様は、面白いくらいにモニカさんばかりを見ておられました。
きっとモニカさんが美しくたおやかで、心優しくもお強いとても素敵な方でしたので、生まれて初めての本当の恋に落ちたのでしょうね・・・!
私も男性でしたらきっとモニカさんに心奪われていたでしょうから、その気持ちがわかります・・・!
金獅子様がモニカさんに恋をしてから向けられていた好意の眼差しは、とても純粋で・・・永久不変のように感じられました・・・。
だからこそ傍に置きたいと望まれて、当主様へのお口利きを申し出て下さったのでしょう。
金獅子様の専属メイド・・・なれると良いですね?」
とニーナは優しく微笑みそう言った。
「ええ・・・。
ありがとうございます、ニーナさん。」
それに対してモニカも柔らかく微笑んだ。
だが、自分にそんな言葉をかけてくれる優しい彼女が今置かれている状況がやはり気掛かりで、モニカは表情を曇らせるとこう尋ねた。
「あの・・・ニーナさん。
差し出がましい事をお聞きしますが、ニーナさんの彼は、ニーナさんが花売りのお仕事を通して騎士達に貞操を買うと取り引きを持ちかけられて困っている事を、ご存知なのですか?」
それに対してニーナは答えた。
「はい・・・。
何度か彼に相談をしましたから。
ですが、彼はこうと決めたら譲らない頑固な性格ですから、自分が職人見習いを卒業して結婚するまで性交渉はしない、それまでは上手くやり過ごしてくれ、の一点張りなんです。
だから今日あったことを話しても、気持ちは変わらないと思います。」
「そうなのですね・・・。
今回の件でレオン様が釘を刺されましたから、当面の間あのオリーブ騎士達はニーナさんに手を出して来ないと思います。
ですが、ニーナさんにあのような取り引きを持ちかけてくるのは、あの騎士達だけでは無いでしょう?
貴方はとても愛らしく、そのお姿が目立つお仕事をされています。
しかも処女とあっては、性に奔放な騎士達が放っておいてはくれないでしょうから・・・。」
「はい・・・。
流石にあそこまで強引な連れ込み方をされたのは今回が初めてでしたけど・・・。」
「やはり・・・。
私はこのままでは貴方が辛い目に遭うのでは無いかと心配です。
かといって、そういった騎士達を全員この国から排除することは不可能ですし、やはり彼に貴方の貞操の危機についてもっと真剣に向き合ってもらうより他はないと思うのです。
今度、私を彼に会わせては貰えませんか?
私から説得をしてみます。
私、人を手懐けるのがとても上手だと、ある方にお墨付きを頂いているのですよ?」
と言ってモニカはいたずらっぽく笑ってみせた。
「ありがとうございます、モニカさん・・・。
でもどうして私にそこまで親身になって下さるのですか?」
とニーナはモニカの艷やかな栗色の瞳を見つめながらそう尋ねた。
「貴方は私がこの国で初めて出来たお友達だからです。
お友達を助けたいと思うのは当前でしょう?」
「モニカさん・・・。
ありがとうございます・・・!
彼に大切なお友達を紹介したいと話してみます・・・!」
「えぇ、よろしくお願いしますわね!」
そう言って二人はうふふっ!と笑いあった。
「あっ、家が見えてきました!
隣に教会が見えるでしょう?」
彼女の指差す先には石造りの大きい教会と、その隣で花で飾りながら懸命に存在を主張している小さな2階建ての家があった。
「まぁ!
お花が一杯で大変可愛らしいお家ですわね!
あ、ニーナさんのお家にお邪魔する前に、少しだけ教会に立ち寄ってもよろしいですか?
御神像にお祈りを捧げたいのです。」
とモニカは言った。
「ええ、構いませんよ?
ですがあの教会にはジャポネの神、創造神ヘリオス様の像はありませんよ?」
とニーナ。
「ええ、大丈夫です。
あのお方とは、全ての御神像を通して繋がっていますから・・・」
「うふふっ、異国に来てまで母国の神様に祈られるだなんて、モニカさんはとても信心深いお方なのですね!
それでは私、先に家に帰っていますね!
ゆっくりお祈りしていただいて大丈夫ですから、終わったら家に来て下さい!」
モニカは教会前で一旦ニーナと別れると、石造りの教会に入って神父に挨拶をしてから、ツカツカと靴音を響かせながらステンドグラスを背に立つアデルバート神の像の前まで進んだ。
そしてその場にひざまずくと、今日の出来事をファルガーに宛てて報告するのだった。
─ファルガー様へ。
本日アデルバート神国の首都ミスティルに無事到着致しました。
こちらでは相澤桃花という名は大層発音し難いようでしたので、モニカ・アイジャーと名乗ることにしました。
そして、早速この国で初めてのお友達ができましたのよ?
金の髪をした小柄で愛らしい方で、とても優しく真っ直ぐな性格で・・・、
もしかしたらアーシェさんは、こんな感じの方だったのかしら?なんて、勝手に思ってしまいました。
それに、貴方のかつてのお仲間にそっくりな騎士様・・・像となった頃のラスター様よりは幾らかお若いですが、レオンハルト・ナイト様という公子様にも出会いました。
どうやら彼、私をひと目見て恋に落ちてしまったようですよ?
ふふっ、少しは妬いて下さいますか?
・・・彼が貴方の仰っていた私の未来の恋人なのかどうかはまだわかりませんが、性根の曲がりきった騎士達が多いと思われるこの国においては珍しく、多少の曲はあれど、きちんと育てられた良識のある人物に思えました。
それに彼、少しだけ梅次に似ている所もあって、何だか微笑ましいのです!
そんな彼が私を宮廷メイドとして招き入れる協力を申し出てくれました。
それが上手く行けば、今後も宮廷内で味方となってくれると思います。
まずは無事宮廷に入り込めますよう、全力を尽くす次第です。
ファルガー様も、お仕事頑張って下さいね。
また連絡致します。
相澤桃花─
桃花はヘリオス連合国本土に上陸し、馬車に乗ってアデルバート神国に到着していた。
馬車がアデルバートの首都であり桃花の目的地・宮廷のあるミスティルの町へ到着すると、彼女はそこで馬車を降りた。
桃花の今日の服装は、いつか海外に行くときの為にと誂えてあったシンプルなネイビーのワンピースにピンタックの入った白いブラウス、その上にグレーのケープという、この国においても珍しくないごく普通の装いだった。
アデルバートは騎士が統括している国のため、比較的治安は良いと聞くが(ただし性に奔放な国のため性犯罪は多いらしいが)、それでも異国人はスリや盗難等の犯罪に遭い易いので、少しでもその危険を減らすためだった。
ミスティルの町は高い外壁で覆われており、桃花は出入り口となっている門の番人により、身元の確認を行われることとなった。
「珍しい髪と瞳の色をしている・・・。
娘、異国人だな?
入国の手続きは行ったか?」
「いいえ、ジャポネより船で本土へ渡り、馬車でここまで来ましたが、途中入国の手続きが出来る施設のある町村へは立ち寄っていませんのでまだなのです。」
「そうか。
ならばまずは入国管理局に行ってもらおう。
そこで入国の手続きを済まして身分証を手に入れないと、町の施設を利用することは出来ないぞ。」
「かしこまりました。」
桃花はすぐに入出国管理局へと向かった。
そこは門のすぐ近くにあり、桃花は父が用意しくれた入国に必要な書類を受付に提出した。
「えぇと、アイジャ・・・ワ・・・モモ・・・クァ、さん?」
受付の中年女性が舌を噛みそうになりながらそう言った。
「相澤桃花ですわ。」
と笑顔でもう一度名乗る桃花。
「・・・失礼ですが、そのお名前は貴方の母国であるジャポネ特有のものなのでしょうが、このアデルバートでは酷く発音しにくいのです。
アデルバートへは観光で来られたのではなく長期滞在をご希望とのことですよね?
それでしたらこの国でのお名前をお決めになられたほうが、不便なく過ごせるかと思いますよ?
そういう方のために、こちらに記入欄がございますが・・・。」
と言ってその欄を指差された。
(父様から海外ではそういうこともあるのだと聞かされてはいましたが、まさかここまで発音しにくいとは・・・。
確かにこの方の言われる通り、こちらでの呼び名を変えたほうが良さそうですね。
私がもしお役目を失敗したときにも、普段から本名でないほうが身元の確認にも時間を取られますし、好都合です。)
「わかりましたわ。
ではこちらでの名前を何か考えることにします。
ですが困りましたね・・・。
どんな名前が良いのかすぐには思いつきませんわ・・・。」
と桃花が眉を寄せて頬に手を当てると、受付の女性が表情を緩めてこう言った。
「それてしたらモニカ・アイジャーというのはいかがでしょう?
モニカさんは私の娘のクラスメイトにもいらっしゃってこの国での馴染みもいいですし、モモ…クァさんとも響きが近うございます。
アイジャーという姓はこの国にありませんが、ワが入らないだけで随分と発音しやすくなりますから。」
「あら、素敵ですわね!
ありがとうございます。
それではその名を頂戴致しますわ!」
そうしてモニカ・アイジャーと記されたこの国での身分証を手に入れた桃花改めモニカは、一先ず町の中を歩いてみることにした。
先程通過した門から繋がる町一番の大通りを歩いていると、間もなく噴水のある広場に差し掛かり、そこにはアデルバート神国の英雄ラスター・ナイトの像があった。
883年も昔にモニカの想い人であるファルガー・ニゲルと共に魔王を打ち倒したと言われる騎士ラスター・ナイトは、パーティで一番の眉目秀麗であったと名高い伝説をそのままに、スラリと美しく伸びた程よく筋肉のついた手足を持ち、何処か繊細で品の良い顔立ちの大層な美青年だった。
(この方がファルガー様のかつてのお仲間のラスター様・・・。
確かに女性には非常におモテになられそうですわね。
同じくパーティメンバーだった狩人のヘイズ・ハント様は、そのひょうきんな性格から少し損をしていたけれど、ラスター様にも負けないくらいの美形だったとファルガー様が仰られていましたし、フェリシア神国にある彼のキャラクター性を示すかのような〈〉の形に曲げた手足、更には手の先を頭にちょこんと乗せた変なポーズという像を見た人も、きっと面白い人だったのだろうが、確かにそのご尊顔は美しかったと語ります。
女性達の間ではラスター派とヘイズ派という、どちらがタイプかといった例えとして今も用いられる程です。
勇者だったファルガー様は魔王を打ち倒した後すぐにヘリオス様と契約して神使となり、この世界の監視者という隠密性の高いお役目につかれたことから、自分のお姿を世界に広めることになる像を残されなかった・・・。
そのために勇者はラスター様とヘイズ様程見目麗しくは無かったのだと語り継がれているけれど、私は彼がとても美しいことを知っています。
そんな強く美しい伝説の勇者でもある彼に、私は抱かれた・・・)
3日前のあの夜の事を思い出すと、今でも体の芯が熱くなるモニカ。
(大丈夫。
あの特別な夜の思い出があれば、私は何処にいたって強くいられます。
大丈夫・・・)
そう思って彼から別れ際に渡された陶器の笛の入った胸ポケットに手を当てるモニカ。
(そうですわ・・・!
この笛、無くさないようにペンダントにしないと・・・。)
桃花がそう思いながら石造りの建物が建ち並ぶ美しきミスティルの町の大通りを歩いていると、ふと”装飾品店スペード♠ 武具の装飾、魔石の加工、その他各種装飾品の加工承ります”と書かれた看板のある店を見つけた。
(ここで加工してもらえるか聞いてみましょう。)
モニカはその店の扉を開けた。
カランカラン♪と来客を告げる鈴が鳴り、愛想の良い夫人が、
「いらっしゃいませ!
あら、大層綺麗なお嬢さんだこと!」
と声をかけてきた。
「・・・成る程、この笛をペンダントに加工されたいのですね!
かしこまりました。
チェーンは既製品でよろしいとのことですし、10分ほどあれば出来上がります!」
そう言ってモニカから受け取った笛を職人である旦那に渡す夫人。
「まぁ、そんなに早く出来上がるのですか!」
と目を丸くするモニカ。
「えぇ、アデルバートは金属の加工技術に関しては世界一ですから、ジャポネから来られたお嬢さんが驚かれるのも無理はないのでしょうが、金属加工が上手くて早いのはこの国では当然なんですよ!
この国の神使様は皆武具造りに長けてらっしゃいますが、特に我が国唯一の女性神使のルシンダ様は、時折民の前にもそのお姿を現され、その技術や知識を我々にもお与えくださっています。
そしてより素晴らしい技術を持つ者には、現神使様のようにアデルバート様からお声がかかり、神の仲間入りを果たすことも夢ではありません。
ですので主人のような職人は常に切磋琢磨し、技術の向上を目指しているのです。
特に騎士様の多いこの国においては武器職人の競争はより激しいですね。」
「まぁ、そうなのですね!
大変ためになりますわ!」
モニカはペンダントの加工をしてもらっている間に装飾品店の夫人とそのような話をしながら完成を待った。
完成したペンダントは笛に穴を開けること無くしっかりとゴールドのチェーンにくっつけられていた。
モニカは早速それを身に着けると、装飾品店夫人から聞いた職業紹介所のある通りへと向かって歩き始めた。
(まずは職業紹介所に行ってみましょう。
ファルガー様はこの間ミスティルに来られた際、神避けに阻まれない範囲で宮廷の内部事情について調べられたと仰られていました。
その結果、宮廷メイドは入れ替わりが激しく常に人手不足なようだったから、それ程待たずして入り込めるのではないかとのことでしたが、もしタイミングが悪く求人が無ければ、それまで別のお仕事で繋がなければなりません。
滞在費用は父様が多めに持たせてくださいましたが、今後何があるかわかりませんし、極力そのお金には手を付けたくはありませんからね・・・。)
そんな事を考えながらモニカが職業紹介所のある通りへと曲がった時である。
「嫌ッ・・・やめてください!」
歳の頃はモニカと同じくらいだろうか。
淡いグリーンの瞳を持ち、鮮やかな金髪を肩の辺りで切り揃えてた愛らしい花売り娘が、数々の花を乗せたワゴンを通りに置いたまま、3人のオリーブ色の詰襟服を着た騎士らしき青年達に、路地の奥へと連れ込まれそうになっていた。
「抵抗するな!
俺達は騎士だぞ?
我が国が誇る英雄ラスター・ナイト様の血を受け継いでいる俺達が、可愛いと評判のお前の特別な花をこいつで買ってやろうと言っているんだ。」
そう言って3人の真ん中に立つ金髪ツリ目の騎士が100G金貨2枚(※日本円で約2万円に該当する)を娘に見せた。
「この3人でお前の一番花を賭けて勝負し、勝ち残った俺が100Gで一番花を買う。
コイツラはそれぞれ50Gで二番花と三番花を買う。
3人の相手をするだけで200G・・・1時間もあれば済む。
悪い話ではないだろう?」
「い、いやっ!
私には職人見習いの彼がいるんです!
私の売り物はあのワゴンの花だけ・・・貴方達にいくら金貨を積まれても、一番花はおろか、二番花も三番花も売る気はありません!
だからどうか私を開放して下さい・・・!」
「まぁまぁ。
あんた程の器量があれば、職人見習いなんかに操を立てて細々と本物の花を売るよりも、俺達騎士を相手にそっちの花を売ったほうが稼げるぜ?
それでもし騎士の子を孕んで産みでもすれば、ガキ一人辺り1000G(※日本円で約10万円)の手当てがナイト家当主様から支払われ、養育費として毎月100G貰えるぞ?
貧しい花売りには悪くない商売だと思うがな?」
と右側の灰髪オールバックの騎士が言った。
「嫌です!
私にとって大切なのは何もお金だけじゃないんです・・・!
私は細々とでいいから好きな人と幸せな家庭を築きたい・・・!
女性が買いたければ娼館にでも勝手に行って下さい!」
と強気で突っぱねる花売り娘。
「やだね。
娼館なんぞ超絶テクを売りにしてバカ高い金払わされる割に、いるのは年増の下品なのばかりなんだぜ?
俺達はそんな毒々しい造花よりも君みたいなようやく咲いたばかりの瑞々しい天然花を摘みたいの♪
な?」
と左側のそばかす顔の茶髪が他の二人に同意を求めた。
「そうそう!
若くて可愛けりゃあテクなんか全然無くても唆るんだよ!
あんたはただ俺達に身を任せて気持ち良くなるだけで金が貰えるんだぜ?
何の文句があるんだよ?」
と無茶苦茶な論理を押し付ける灰髪オールバック。
「だよな。
俺ら経験豊富だし、童貞の職人見習いの彼氏なんかじゃ物足りなくなるくらいいい思いをさせてやるぜ?」
とニヤリと笑う金髪ツリ目。
「嫌っ・・・離してったら!」
「そんなに怖がらなくても平気だって!
大丈夫、この国じゃみんなやってることだし、身体を売ったなんて言わなければそいつにバレやしないから!」
とそばかす顔の茶髪。
「誰か・・・誰かお願い・・・助けてっ!!」
花売り娘は周囲に助けを請いながらも精一杯抵抗するが、男3人には力でとても叶わず、路地の奥へとどんどん連れ込まれていくのだった。
モニカはそれを見て冷汗を垂らすと、慌てて花売り娘と3人の騎士を追いかけた!
(私以外に通りには沢山の人がいてさっきのやり取りを見ているというのに、どうして誰もそれを助けようとしないのです!?
まるでこの国ではあんなことは日常茶飯事に行われているとでもいうみたいに・・・信じられませんわ!!
かといって、特に武術の稽古を受けたことのない私が行っても3人の騎士を相手に彼女を助けられるかどうかはわかりませんが・・・。
それでもそれを黙って見ぬフリするなんて、私にはとても出来そうもありません・・・!)
モニカが彼等を追って裏路地に消えた後、白い詰襟服を着た金髪碧眼の大層美しい少年がその通りにやって来た。
そして売り子不在で道の端に置かれたままになっている花のワゴンの前で、不思議そうに首を傾げていた。
裏路地の突き当りの広場に連れて行かれた花売り娘は、そばかす顔の茶髪と灰髪オールバックに手足を押さえつけられ、一番花を買うと宣言した金髪ツリ目に跨がられた状態で服を脱がされていた。
「ちっ・・・あまり暴れるから服が破けちまったじゃねーか!」
「イヤーーーー!誰か・・・むぐっ・・・!!」
まだ諦めずに大声で助けを呼ぶ花売り娘の頬を、そばかす顔の茶髪が「うるさい!」と言って叩いた。
頬に与えられた痛みにより恐怖の臨界点に達た花売り娘が、観念したように涙で滲む目を閉じかけたその時である。
「・・・地位をカサに着せて嫌がる女性に性行為を強制するなど・・・紳士的と名高いアデルバートの騎士様も地に落ちましたわね・・・」
「 何だお前・・・!」
そう言って声の主を振り返り見た3人の騎士は、まるでその周囲だけ吹雪いているかのようなオーラを纏った、氷の女王のように凍てついた表情でこちらを見ているモニカに驚き、思わず花売り娘を押さえる手を緩めた。
その隙に花売り娘は彼等から逃れて距離を取り、開けた胸元を手で隠した。
「私ですか?
ただ通りすがっただけの異国女ですけど、民を守る存在だと聞き及んでいました騎士様のあまりの非道な行いに耐えきれず、止めに参りましたの。」
モニカはそう言いながら自分の羽織っているグレーのケープを外すと、それを彼女にそっとかけてあげた。
「可愛い花屋のお嬢さん。
今のうちに逃げてください。」
「えっ・・・!?
ですが・・・」
花売り娘はモニカを上から下までジロジロといやらしい視線で舐め回す様に見ている3人の騎士達と、その視線を受けても平然としている美しいモニカを心配そうに交互に見た。
「私なら大丈夫です。
こう見えてそこそこ戦えますから。」
本当は全く武術の心得などなかったが、ここで少しでも不安な様子を見せれば3人の騎士達には隙を与え、この心優しい花売り娘は自分を置いては逃げられず、最悪二人とも強姦されてしまう結果になるかもしれないと思ったモニカは、そうやって嘘を付き、まずは彼女に先に逃げて貰うことにしたのだ。
(彼女がいなくなった後で彼等への対処を改めて考えましょう・・・。)
よく見るとモニカの手がカタカタと小さく震えていることに気がついた花売り娘は、
「わ、わかりました・・・!
すぐに助けを呼んできますから!」
と言い、モニカに一礼してから路地から走り去って行った。
(良かった。
とりあえずあの子だけでも助けられましたわ・・・。
きっとあの子は本当に私を助けようと色んな人にお願いをして回るのでしょうけど、先程のこの町の人達の様子からして、まず助けは期待できないでしょうね・・・。
さて・・・私一人でどうやってこの状況を切り抜けましょう?」
モニカは3人を睨んだままで思考を続けた。
(この手の男達に怯えた様子を見せればかえって興奮させてしまうでしょう。
かといって男慣れした態度を取って見せても、ここまで性的に盛り上がってしまった彼等が萎えてくれるかはわかりません・・・。
私もファルガー様に一晩抱いて貰い処女ではなくなったとはいえ、あの方以外の男性・・・しかも武人3人も相手にするのは流石に恐ろしいですし、下手に虚勢を張ってもボロが出てしまうかもしれません・・・。
ならば、ここは相手に情報を与えず、出方を見るべきでしょう・・・。)
モニカは一先ずそう結論を出した。
「ちっ!
折角あの娘とヤれると思ったのに、逃がしやがって!
いい人気取りの異国女が!」
と苛立ち声を荒げる金髪ツリ目。
「いや、良く見ろよフィリップ。
この異国女、顔も綺麗で胸もデカく肌も極上のかなりの上玉だぜ?
俺はさっきの華奢な花売りよりもこっちのが断然好みだわ。」
とニヤニヤしながら言う灰髪オールバック。
「何も知らない異国人ちゃんに親切な俺が教えといてやろう!
この国の騎士ってのは全員かの英雄ラスター・ナイトの血縁者なんだぜ?
その英雄の血を引く俺等がこの国を魔獣や賊から守ってやってるんだ!
騎士ってのはこの国の法そのものであり、誰も逆らえやしないんだよ!」
と自慢気に語るそばかす顔の茶髪。
「まぁ!
そばかす顔の騎士様、丁寧にご教示いただきありがとうございます。」
と腹に黒い感情を抱えながらもこやかに微笑み頭を下げるモニカ。
「・・・しかしこの状況で顔色ひとつ変えやしねぇとは肝の座った女だな。
あんた処女じゃないだろ?」
と灰髪オールバック。
「・・・俺は潔癖だから誰が突っ込んだかわからねー穴は使いたくねぇからフェラでいーわ。
安心しな?
騎士道精神に則ってちゃんと金は払ってやる。
初物じゃねーなら50Gでいいよな?」
と言いながらベルトをカチャカチャと外し始める金髪ツリ目。
「それなら俺が前の穴をもらうぜ?
あんた俺好みだから、初物じゃなくても100G払ってやる。
その代わり、穴の中俺のザーメンでタプタプにしてやるから覚悟しろよ?」
と言いながら同じくベルトを外し始める灰髪オールバック。
「なら俺は後ろの穴を50Gで買うぜ?
そっちの穴にぶち込むのは初めてだが、こんな美人の穴なら是非とも味わってみてぇ・・・♥」
とニヤニヤしながらそばかす顔の茶髪までベルトを外し始めた。
「あら・・・皆さん揃って下のお召し物を脱がれ始めましたけれど、私は貴方達と性行為をするつもりなんてありませんよ?
どうかベルトをお締めになって下さいな。」
とモニカは更に彼等に冷たい眼差しを向けながらそう言った。
「はぁ!?
何言ってるんだ!
お前のせいで花売り娘とヤり損ねたんだぜ!?
ただで犯されても仕方ねぇ所を、金を払ってやると言ってるんだ!」
金髪ツリ目が既に半分程勃起したモノを手で扱きながら怒鳴った。
「そうだぜ?
大人しく従ったほうが無難だ。
あんた賢そうだから逆らったらどうなるか・・・言わずともわかるよな・・・?」
そう言って完全に熱り勃ったモノを取り出してモニカに突きつける灰髪オールバック。
間近で見たそれはファルガーのものよりも大きく大変おぞましく、流石のモニカも眉間にシワを寄せて冷汗を垂らした。
「おっ・・・!
あんたでも俺のデカマラは怖いんだな?
その反応唆られるぜ・・・♥」
彼は鼻息を荒くしてモニカの腕を強引に掴むと、壁にドン!と押し付けた!
(まずい・・・力が強すぎて逃げられない・・・!
ならば金的を・・・!)
とモニカが片足に勢いをつけようとすると、それに気がついた灰髪オールバックはすかさずもう片方の手でその足をガシッ!と押さえつけた。
そしてモニカの膝の間に脚を割り入れ、股間を蹴られないよう腹にぐっ!と熱り勃った肉の剣を押し付けた状態にしてから自由になった手で紺色のスカートを徐々に捲り上げた。
「おお~~~!
異国人ちゃん美味そうな脚してんな!
だがキリル、その体位じゃ俺目当てのケツが使えねぇだろーが!」
とそばかす顔の茶髪が灰髪オールバックに文句を飛ばした。
「俺だって口にぶち込めねぇ!
全部の穴が公平に使えるよう、キリルが地面に下になってその上に女を四つん這いにさせろ!」
と金髪ツリ目も文句をつけた。
「ちっ!
仕方ねーな・・・!」
キリルと呼ばれた灰髪オールバックがモニカの腕をもう一度掴んで地面に投げつけた!
地面に膝をついたモニカに下半身をむき出しにした騎士3人がにじり寄ってくる。
(このままでは本当に彼らに強姦されてしまい兼ねない・・・。
それだけは絶対に嫌!
どうにかして逃げなければ・・・。
でも力では絶対に敵わない。
ならば何か武器になりそうなもので隙を作って・・・)
モニカが必死にそんな事を考えていると、モニカが手を突いたその先に、彼らのうちの誰かが股間のモノを出す際に勢い余って投げ捨てたと思われる革ベルトがあることに気がついた。
モニカは咄嗟にそれを手に取ると、モニカに覆いかぶさってきた灰髪オールバックに向かってそれを払いつけた!
ビシッ!
革ベルトは彼の大きくそびえ勃っていた股間にヒットした!
「ヒグッ!!!!!」
彼はそんな短い悲鳴を上げるとむき出しの股間を手で抑え込んでから地面に横になり、ピクピクと身体を震わせながら悶絶しているようだった。
(あら・・・!
払ったベルトが股間に当たったのは偶然でしたけど、この革ベルトのしなり具合と長さ・・・力のない私にも非常に扱いやすく、何だかやけにしっくりときますわ。
後は持つところが棒のようになっていればもっと良いのですけど・・・。
それって鞭のような武器が私には適しているのかもしれないということでしょうか・・・?
とにかく今はこのベルトを駆使し、残りの二人をどうにかしなければ・・・)
モニカはそう思って彼らを見た。
「女!良くもキリルを!」
金髪ツリ目は逆上して、いつもなら腰に下げている剣を抜こうとするが、モニカが持つベルトはどうやら彼の物だったらしく、ベルト不在のために鞘ごと足元に落ちていたので、彼はそれを拾い上げて鞘から抜いた。
そして残りの一人のそばかす顔の茶髪は、ボトムスをずらしはしていても、ベルトとそれに下げた剣はそのままボトムスと一緒に残っていたので、それを引き上げてから剣を抜くとこう言った。
「・・・ちょっとばかりお仕置きが必要なようだな、異国人ちゃん。
大丈夫、殺しやしないさ。
だがキリルがやられて黙ってはいられねーし、それなりに痛い目には遭ってもらうぜ・・・?」
キリルという名の灰髪オールバックも股間の痛みから回復しつつあり、まだぷるぷると震えながらも腰に下げた剣に手をかけている。
(これは・・・非常にまずい状況ですわ・・・。
剣を抜かれては私に逃れる手はない・・・。
ですが、このまま彼等に痛めつけられ、犯されてしまうなんて絶対に嫌!!
私の身体は、愛するファルガー様だけが触れて良いもの・・・それを穢されるくらいなら、舌を噛んで死んだほうがマシですわ・・・!!
ですが私にはファルガー様に託されたお役目がある・・・。
それを果たすまで決して死ぬわけにはいかない・・・・・。
だけどファルガー様が愛してくださったこの身体を穢されて尚、心折れずにいられる自信なんて私には・・・・・・)
モニカの脳裏に大好きなファルガーの屈託のない笑顔が浮かぶと同時に、現状の自分では抗えそうもない状況に絶望し、涙が滲みかけたその時である。
「貴様ら何をしている?」
白い詰襟の騎士服に身を包んだ、まるでラスター・ナイト像が5歳ほど若返って色が付き、そのまま動き出したかのように美しい金髪碧眼の少年が、彼等の背後に立っていた。
「し、白い騎士服・・・!
ということはラスター・ナイトの直系の誰かか・・・?」
と金髪ツリ目が言った。
「馬鹿野郎フィリップ!
まだ14歳でお披露目前だが、ラスター・ナイトに生き写しの第3公子様がいらっしゃると聞いたことがあるだろ!
きっとそのレオンハルト様だ・・・!」
とそばかす顔の茶髪がガクガクと震えながら少年を指差し説明した。
「何!?
公子様だと!?
何故公子様がこんな裏路地へ・・・?」
何とか股間へのダメージから回復し、ボトムスを引き上げて立ち上がった灰髪オールバックがそう尋ねた。
それに対して彼は答えた。
「確かに僕はレオンハルト・ナイト・・・この国の現ナイト家当主、ダズル・ナイトの3番目の息子に相違ないが・・・貴様らオリーブ色の騎士服ということは、名にナイト姓を持たない下級騎士だな?
ならばお披露目がまだとはいえ、階級が上の僕の問いに先に答えるべきじゃないのか?
・・・まぁいい。
その質問に先に答えてやろう。
僕は前々から彼女の常連客でね。」
と言って自分の背後で心配そうにこちらを見ている花売り娘を指差す少年。
「いつものように母様への土産の花を買おうとこの街角に来てみれば、ワゴンだけが残されて彼女がいなかった。
すぐに戻るだろうと待っていると、この路地から彼女がただならぬ様子で出てきて僕に助けを求めて来たんだ。
彼女から事情を聞いた僕は、そちらの親切な通りすがりの異国人の女性を助けにここまで来たというわけさ。
さて・・・今度こそ貴様らが答える番だ。
こんな所に女性を連れ込んで、しかも剣まで抜いて、一体何をしようとしていた?」
「な、何って・・・この女に正当な対価を支払うから身体を売れと交渉を持ちかけた所、異国人だからかこの国でのルールを知らずに反抗的でして、このキリルの股間に革ベルトで一撃を・・・。
それで少しばかり制裁が必要かと判断しました。」
と金髪ツリ目が説明した。
「幾ら民より地位の高い騎士であっても、嫌がる女性に無理に関係を求めることは法に反する筈だが?」
と少年。
「えっ、でも先輩騎士達も皆それくらいやってますし、俺達はちゃんと金を支払っているわけですから。
中には金も渡さずヤる非道な騎士もいますよ?」
と、さもそれが常識だと言わんばかりに説明するそばかす顔の茶髪。
「呆れた・・・。
下級騎士の品位がまさかそこまで落ちていたとはな。
わかった。
この件と下級騎士の現状については父に報告させてもらう。
全員騎士証を見せろ。」
少年はそう言って彼等に手を差し出した。
しかし3人の騎士たちはそれに従うことを渋り、こんな事を言い始めた。
「おい・・・こんなことで騎士証なんか見せて上にチクられるなんて冗談じゃねぇぞ!」
と金髪ツリ目。
「そうだよな。
いくら直系でもまだ14のガキだ。
俺等だって奴より血は薄くとも、ラスター・ナイトの血を引いているんだ。
3人でかかれば楽勝だろ!」
とそばかす顔の茶髪。
「そうだな。
まだ世間を知らないお坊ちゃんに先輩として指導してやろう!
そして俺達に逆らえなくなった坊ちゃんの眼の前で、異国女と花売り娘の両方を犯し尽くしてやる!」
と最後に灰髪オールバック。
3人の騎士達は頷き合うと、攻撃の矛先をモニカから少年に変えて同時に襲いかかってきた!
少年は先程までは穏やかに見えた目を鋭く光らせると、腰に下げた剣をスッと抜いて、最初に正面から飛び込んできたそばかす顔の茶髪の剣撃をあっさりと受けてがら空きの腹をその足で蹴り飛ばした!
更に彼の背後から降り振り被る灰髪オールバックの剣撃を頭上で受け止めつつ弾き飛ばすと、すかさず剣の側面で彼の脇腹を払った!
その衝撃で灰髪オールバックは数メートル先の壁へと飛ばされた。
最後に残った金髪ツリ目の騎士は、花売り娘の一番花の権利を他の二人から奪えるだけのことはあり、剣術の素人であるモニカの目から見ても明らかに剣撃の鋭さも身の熟しも先の二人よりも上に見えた。
しかし、少年は彼の胴払いをあっさりと躱し、続けて繰り出された上からの振り落としも鮮やかに躱すと、お返しと言わんばかりに剣の側面で彼の肩をガンッ!!と激しく打ち付けた!
「呆気ない。
この程度ではハイクラス魔獣の群れとやり合う時には足手まといにしかならないぞ?」
少年はそう言いながら剣を鞘に戻し、戦意を喪失しているオリーブ騎士達の胸元に付いた騎士証となっているバッチを裏返し、そこに書かれた番号を手帳に控えた。
「くそっ・・・!
やはり血の濃さには抗えないのか・・・」
と金髪ツリ目が悔しそうに呟いた。
「さぁ、それはどうだろうな?
僕と同じく公子でも2番目の兄ジェイドみたいに剣術よりも執務向きの者もいるし、血の濃さだけが強さの全てではないと僕は思うがな。
実際僕は貴様らが女の子相手に腰を振っている間に剣を振ってきたし、母様に恥をかかせたくなくて人の倍・・・それ以上は努力してきたつもりだ。
歳下の僕に負けたことが悔しいのなら、もっと鍛錬に時間を費やしてみろ。
まぁ今回の件で当面女が買えないくらいには減給されるだろうから、己を鍛え直すには丁度いい機会かもな?
あと・・・こちらの花屋のお嬢さんの一番花は、僕が職人見習いの彼から奪うつもりで口説いてる最中だから、二度と手を出すなよ?」
3人の騎士たちは悔しそうに顔を歪めながらも、彼の言うことに対して反論する余地もなかったらしく、黙ってその場から去って行った。
そうして路地奥の広場にいるのはモニカと少年、花売り娘の3人だけになったが、少年はモニカには目もくれずに花売り娘を振り返り、にこやかに微笑みながら少し鼻にかかった甘い声でこんなことを言ってのけた。
「・・・さてと花屋さん。
君の頼みを訊いて彼女を助けたんだ。
君の一番花を僕にくれる気にはなったかな?」
(・・・なるほど。
彼が私を助けてくださったのは、彼女からの好感を得るためでしたのね。)
とモニカは納得して頷き、彼らのやり取りを黙って見守ることにした。
「ご、ごめんなさい金獅子様!
私には彼がいますからそれは無理です・・・!」
花売り娘は汗を飛ばしながら勢い良く頭を下げた。
金獅子様と呼ばれた彼は、
「はぁ・・・。」
と大きくため息をついた後、髪をかき上げ苦笑しながら彼女に尋ねた。
「君の彼が浮気でもしない限りは僕に天秤が傾くことはないだろうとは思っていたけど、やはりか・・・。
でも、僕への好感度は今のでかなり上がったかな?」
「は、はい!
それはもうとっても・・・!
彼と家族の次の、一番親しい異性のお友達くらいには・・・!」
「そうか・・・。
ただの常連客の一人から一番の男友達にまで昇格出来たのなら、頼み事を訊いた報酬としては悪くない結果なのかもしれないな・・・。
ははっ・・・」
彼はそう言って彼女の攻略を諦めたかのように乾いた笑みを零した。
「ほ、本当にご希望に添えなくてすみません・・・!
ですが、次からはお花代をうんとサービスしちゃいます!
・・・・それでは駄目でしょうか・・・?」
と不安そうに彼を見上げる花売り娘。
「・・・本当に?
ありがとう。
じゃあまた母様の土産を買いに寄らせてもらうよ。」
彼は笑顔でそう返したが、モニカにはもう彼は、彼女の花を買いに来ることはないのだろうと感じられた。
そしてそんな彼はおそらく騎士としての義理を果たすためだろう。
ようやくモニカに意識を向けて、彼女が立つのを助けようと数歩近付き、身を屈めてその手を差し出して来た。
「・・・放ったらかしにしてすまなかった。
異国から来たという君、怪我はないか・・・?」
そうして彼が始めてモニカを近くでまともに見たその瞬間である─。
彼の全身に稲妻が駆け抜けたかと思うと、彼の碧く澄んだ瞳には眼の前にいる彼女が今まで出会ったどの女性よりも美しく輝いて映り、その姿を見ているだけで、どうしようもなく胸が高鳴って顔中が熱くなり、彼女のことを知りたくて堪らない・・・初めて異性に対してそう強く感じたのだった。
「・・・・・・・・・っ!」
彼は顔をみるみる真っ赤に染めると、
「その・・・・・君が無事で、本当に良かった・・・・・・・」
と掠れた小さな声で呟いた。
モニカは先程までの自分を空気とでも言わんばかりだった素っ気無い態度の彼と、今のこの耳たぶまで赤く染めてチラチラと情熱的な眼差しを自分に投げかけてくる彼のあまりの反応の落差に内心呆れはしたが、同時に可笑しさがこみ上げてきて、クスッと微笑んで彼の手を取ると、優雅に立ち上がった。
そして姿勢を正し、美しい所作で頭を下げた。
「えぇと、レオンハルト様、でしたわね?」
「あ、あぁ・・・。
この髪色と獅子を現す名から知人友人は大抵”金獅子”と呼ぶが・・・レ、レオンでいい・・・。
君にはそう呼ばれたい・・・・・。」
と彼は真っ赤な顔のまま照れくさそうにモニカから目を逸らし、時々言葉を詰まらせながらもそう言った。
「・・・そうですか。
それでは以後、レオン様とお呼びさせて頂きますわね?
レオン様、この度は危ない所を助けていただき、誠にありがとうございます!
そして花屋のお嬢さんも、レオン様を呼んで来てくださって本当にありがとうございました!
お二人のお蔭様で私、何もされずに済みましたわ!」
そう言って顔を上げたモニカは二人に向けて穏やかに微笑んだ。
レオンがその美しい笑顔に見惚れてぽーっとしている間に、花売り娘がモニカの元へ駆け寄り、笑顔でこう返した。
「いいえ!
私の方こそ貴方が助けてくれなかったら、彼に操を立てられませんでした。
本当にありがとうございました!
あの、私はいつもこの辺りで花売りをしていますニーナといいます。
貴方のことをお聞きしてもよろしいですか?」
「ええ、勿論ですわ!ニーナさん。
私はモニカ・アイジャーと申します。
ヘリオス連合国の一つジャポネから、物語で読んで憧れた騎士様の国アデルバートへと見識を広げるために参りましたの。」
モニカはファルガー・ニゲルに頼まれてこの国の内情を探るために来たという事情のみ伏せて、真実を語った。
「モニカというのか・・・・・。
そうか・・・ジャポネから・・・・・」
レオンが赤い顔で小さくそう呟いたが、それに気付かなかったモニカは続けて言った。
「まさか到着直後にあのようなガッカリ騎士達に襲われそうになるとは思いもしませんでしたけど、こうして助けてくださったニーナさんとレオン様に出逢えましたから、この国に幻滅せずに済みましたわ!」
「それなら良かったです!
この通り性に奔放な国で、若い女性にとって危険も伴う町ではあるんですけど、私の彼のように職人を目指す者にとっては聖地でもあるんです。
モニカさんがこれからこの国の良い所に沢山触れ、来てみて良かったって思ってくれたなら私も嬉しいです!
それであの・・・私、モニカさんにお借りしているこのケープを洗ってお返ししたいですし、助けて頂いたお礼も改めてしたいので、連絡先をお聞きしたかったのですが・・・今この国に来られたばかりでは滞在先はまだお決まりではないですよね?」
と小首を傾げるニーナ。
「えぇ。
これから職業紹介所に行って、何処か住み込みで働ける職を探すところでした。
ですので連絡先はまだありません。」
「そうですか・・・。
あの、どんなお仕事をご希望なのですか?
もしかしたら何かお役に立てることがあるかもしれないので・・・」
とニーナ。
「私、ジャポネではあるお方のお屋敷で幼少期よりずっと働いておりまして、出来ればその経験を活かして宮廷メイドのお仕事がしたいのです。
ですがこの国の方の紹介等もありませんし、異国人ということもあり警戒もされますでしょうから、もし求人があっても雇って頂けるかどうかはわかりませんが、一先ず職業紹介所に行ってみようかと・・・」
さっきからずっと話題に入れずにいたレオンは、それを聴いて”チャンス到来!”と言わんばかりに目を輝かせ、バッ!とモニカの手を握ると、意気揚々としてこう言った。
「それなら僕が力になろう!
メイドはすぐに辞めてしまうから常に人手不足だし、君みたいな美人の経験者なら文句無しで採用される!
それに君の人柄についても、自分の危険を顧みずに花屋さん・・・えぇとニーナだったね。
彼女を助けたことを僕から父に話せば、高く評価されると思う!」
「ですが、レオン様には危ない所を助けていただいたのに、お仕事の口利きまでしていただくわけには参りませんわ。
宮廷メイドが常に人手不足ということでしたら、職業紹介所のほうにも求人が出ているでしょうし、そちらから面接を取り付けて貰いますから。」
「だが、紹介所に出してる求人は父や兄達の世話係だからな・・・・・。」
とレオンは顎に手を当て、非常に渋い顔をした。
「そうなのですか?
それに何か問題でも?」
と首を傾げてレオンに尋ねるモニカ。
「・・・身内の恥を晒すようだが、父や兄達は新人メイドを見ればすぐに手を出してくるんだ・・・。
メイド達も地位が上の人間から強引に迫られれば逃げられず、お手つきと知れ渡れば妃に虐められ、その心労から自主退職したり、妊娠して宮廷を出ることになるメイドも多い・・・。
だから常に人手不足なんだ。
父や兄達はそうして何人ものメイド上がりの女を娶っているが、宮廷に居られる妃は当主・・・公の場合第三妃まで、公子の場合は第一妃のみだ。
後の妃はハーレムという別の邸に入ることになり、最低限の生活は保証されるが、行動の自由は無いに等しい籠の中の鳥・・・不幸な末路と言えるだろう。
だが僕の専属メイドなら、父や兄達の手からある程度守ってやることが出来る。
僕はまだ専属メイドを一人も持っていないが、二人の兄は12、13の時には既に専属メイドを持っていたし、僕はもう14・・・15になれば騎士としてお披露目もされることだし、そろそろ専属メイドが欲しいと言ったところで父も文句を言わないだろう。
母様なんかむしろ君を気に入りそうなくらいだ。
モニカ・・・君がそのことで僕に恩を感じるのなら、メイドの仕事の中でしっかりと返してもらえればそれでいい。
・・・どうだ?
僕の専属メイドになってみないか・・・?」
モニカは彼の好意に甘えて良いものか、その場で真剣に考えた。
確かにファルガーに頼まれたお役目を無事に果たすにはこの条件はこの上ないものであったが、そのためにレオンの好意を利用することは、彼に対して不誠実に思えてならなかった。
しかし彼の言うように、彼のメイドとして一生懸命働き恩を返す事が、最も彼に喜ばれるのでは無いか・・・そうとも思えた為、有り難くその好意に甘えさせてもらうことにした。
「ありがとうございます、レオン様。
それではお言葉に甘えさせていただきますわ!」
「よしっ・・・!やったぞ・・・!!」
レオンは嬉しそうに声を弾ませると、一人で喜びを噛みしめるかのように小さくガッツポーズを取った。
「それじゃあ早速今夜父に話してみる!
だがモニカ。
君が何処にいるのかがわからないと、面接の日取りを伝えようがないのだが・・・。」
と困ったように眉を寄せてレオンが言った。
「それでしたら、もう職業紹介所には行かなくて良くなりましたし、すぐに何処か近くの宿をお借りしますから、少しだけお待ち・・・」
とモニカが言いかけると、レオンが血相を変えて頭を振った。
「いや!
この国の宿に女性が一人で泊まるのは危険だ!
大通りに面した安全を謳った宿でも、寝ている間にベルボーイがベッドに潜り込んで来たり、最悪目が覚めたら娼館にいた・・・なんて話も訊くからな・・・。
それならいっそのこと僕が外泊許可を取り、一晩中君の護衛を・・・。
いや、それだと今夜父に話が出来なくなるし、そもそもお披露目前の年齢で外泊なんてしようものなら、父はともかく母様に何を言われるか・・・」
と深刻な表情でブツブツ言いながらレオンは考え込んでいる。
そこで二人のやり取りを黙って聞いていたニーナが両手を合わせ、こう提案してきた。
「それでしたらモニカさん!
助けていただいたお礼もしたかったので、私の家へ泊まって行って下さい!
狭くて大したお構いは出来ませんけど、私の家族もいますし、お一人で宿に泊まられるよりはずっと安全ですから!」
「まぁ!
宜しいのですか?
とても助かりますわ!」
と表情を弾ませるモニカ。
「そうか・・・ニーナの家に・・・良かった。
それならニーナ、君の家の場所を教えてくれないか?
明日の朝の鍛錬後、モニカに面接の日取りを知らせに行くから。」
それに対してニーナは快く頷いた。
「はい!
教会の隣に小さな花屋があるでしょう?
うち、あそこなんです。
お店の売り場が狭くて切り花を置くスペースがないから、私がいつもワゴンで売って回ってるんです。」
彼は暫く考えてニーナの言う花屋にようやく見当がついたようで、軽く目を見開いた。
「教会の隣の花屋・・・あぁ、あそこか!
わかった、ありがとう。
それじゃあモニカ・・・ニーナも、また明日!」
レオンはそう言って主にモニカに向けて何度も手を振ると、嬉しそうに鼻歌を歌いながら宮廷のほうへと帰っていった。
「面白いお方・・・」
去りゆく彼の背中を見送りながら、モニカがくすっと微笑みそう呟いた。
(それにお母様のことを母様と呼ぶところなんて、梅次みたいで愛らしくて・・・)
と心の中で密かに付け足す。
「ふふふっ、モニカさん、金獅子様に気に入られてましたものね?」
と、その呟きが聞こえていたニーナがそう言って笑った。
「あら、ニーナさんにこそ気があるように見えましたけど?」
と誂い半分に返すモニカ。
「確かに、金獅子様がモニカさんのお顔を間近で見られるまではそうだったかもしれませんけど、あれは・・・。」
とニーナが言いかけたところで、15時を知らせる教会の鐘がリンゴーン、リンゴーン、リンゴーン・・・と、3回鳴り響いた。
「もう15時・・・。
モニカさん、私、服も破れてしまいましたし、今日は少し早めにお花のワゴンを引き上げようかと思います。
そのまま私の家にご案内しますから、一緒に参りましょうか。
お話はその道すがらにでも。」
とニーナが言った。
「ええ、よろしくお願いしますわ。」
モニカはニーナの後に続き路地から抜けると、花のワゴンを引く彼女の隣を歩いた。
「先程のお話の続きですけど・・・金獅子様が私に向けられていた好意は恋心ではなく、私の彼がこの国では珍しい結婚するまでは性交渉はしないという考えのために私が処女でいるから、その一番花を目当てにされていた・・・それだけのことだと思います。
若い騎士様は、男性経験の無い女性を好まれる方が多いですから・・・。
あっ、勿論金獅子様は、私の気持ちを無視したことは決してなされない方だったので、そこはあのオリーブ隊の方達とは大きく異なりますが・・・。
でもモニカさんの顔をまともに見てからの金獅子様は、面白いくらいにモニカさんばかりを見ておられました。
きっとモニカさんが美しくたおやかで、心優しくもお強いとても素敵な方でしたので、生まれて初めての本当の恋に落ちたのでしょうね・・・!
私も男性でしたらきっとモニカさんに心奪われていたでしょうから、その気持ちがわかります・・・!
金獅子様がモニカさんに恋をしてから向けられていた好意の眼差しは、とても純粋で・・・永久不変のように感じられました・・・。
だからこそ傍に置きたいと望まれて、当主様へのお口利きを申し出て下さったのでしょう。
金獅子様の専属メイド・・・なれると良いですね?」
とニーナは優しく微笑みそう言った。
「ええ・・・。
ありがとうございます、ニーナさん。」
それに対してモニカも柔らかく微笑んだ。
だが、自分にそんな言葉をかけてくれる優しい彼女が今置かれている状況がやはり気掛かりで、モニカは表情を曇らせるとこう尋ねた。
「あの・・・ニーナさん。
差し出がましい事をお聞きしますが、ニーナさんの彼は、ニーナさんが花売りのお仕事を通して騎士達に貞操を買うと取り引きを持ちかけられて困っている事を、ご存知なのですか?」
それに対してニーナは答えた。
「はい・・・。
何度か彼に相談をしましたから。
ですが、彼はこうと決めたら譲らない頑固な性格ですから、自分が職人見習いを卒業して結婚するまで性交渉はしない、それまでは上手くやり過ごしてくれ、の一点張りなんです。
だから今日あったことを話しても、気持ちは変わらないと思います。」
「そうなのですね・・・。
今回の件でレオン様が釘を刺されましたから、当面の間あのオリーブ騎士達はニーナさんに手を出して来ないと思います。
ですが、ニーナさんにあのような取り引きを持ちかけてくるのは、あの騎士達だけでは無いでしょう?
貴方はとても愛らしく、そのお姿が目立つお仕事をされています。
しかも処女とあっては、性に奔放な騎士達が放っておいてはくれないでしょうから・・・。」
「はい・・・。
流石にあそこまで強引な連れ込み方をされたのは今回が初めてでしたけど・・・。」
「やはり・・・。
私はこのままでは貴方が辛い目に遭うのでは無いかと心配です。
かといって、そういった騎士達を全員この国から排除することは不可能ですし、やはり彼に貴方の貞操の危機についてもっと真剣に向き合ってもらうより他はないと思うのです。
今度、私を彼に会わせては貰えませんか?
私から説得をしてみます。
私、人を手懐けるのがとても上手だと、ある方にお墨付きを頂いているのですよ?」
と言ってモニカはいたずらっぽく笑ってみせた。
「ありがとうございます、モニカさん・・・。
でもどうして私にそこまで親身になって下さるのですか?」
とニーナはモニカの艷やかな栗色の瞳を見つめながらそう尋ねた。
「貴方は私がこの国で初めて出来たお友達だからです。
お友達を助けたいと思うのは当前でしょう?」
「モニカさん・・・。
ありがとうございます・・・!
彼に大切なお友達を紹介したいと話してみます・・・!」
「えぇ、よろしくお願いしますわね!」
そう言って二人はうふふっ!と笑いあった。
「あっ、家が見えてきました!
隣に教会が見えるでしょう?」
彼女の指差す先には石造りの大きい教会と、その隣で花で飾りながら懸命に存在を主張している小さな2階建ての家があった。
「まぁ!
お花が一杯で大変可愛らしいお家ですわね!
あ、ニーナさんのお家にお邪魔する前に、少しだけ教会に立ち寄ってもよろしいですか?
御神像にお祈りを捧げたいのです。」
とモニカは言った。
「ええ、構いませんよ?
ですがあの教会にはジャポネの神、創造神ヘリオス様の像はありませんよ?」
とニーナ。
「ええ、大丈夫です。
あのお方とは、全ての御神像を通して繋がっていますから・・・」
「うふふっ、異国に来てまで母国の神様に祈られるだなんて、モニカさんはとても信心深いお方なのですね!
それでは私、先に家に帰っていますね!
ゆっくりお祈りしていただいて大丈夫ですから、終わったら家に来て下さい!」
モニカは教会前で一旦ニーナと別れると、石造りの教会に入って神父に挨拶をしてから、ツカツカと靴音を響かせながらステンドグラスを背に立つアデルバート神の像の前まで進んだ。
そしてその場にひざまずくと、今日の出来事をファルガーに宛てて報告するのだった。
─ファルガー様へ。
本日アデルバート神国の首都ミスティルに無事到着致しました。
こちらでは相澤桃花という名は大層発音し難いようでしたので、モニカ・アイジャーと名乗ることにしました。
そして、早速この国で初めてのお友達ができましたのよ?
金の髪をした小柄で愛らしい方で、とても優しく真っ直ぐな性格で・・・、
もしかしたらアーシェさんは、こんな感じの方だったのかしら?なんて、勝手に思ってしまいました。
それに、貴方のかつてのお仲間にそっくりな騎士様・・・像となった頃のラスター様よりは幾らかお若いですが、レオンハルト・ナイト様という公子様にも出会いました。
どうやら彼、私をひと目見て恋に落ちてしまったようですよ?
ふふっ、少しは妬いて下さいますか?
・・・彼が貴方の仰っていた私の未来の恋人なのかどうかはまだわかりませんが、性根の曲がりきった騎士達が多いと思われるこの国においては珍しく、多少の曲はあれど、きちんと育てられた良識のある人物に思えました。
それに彼、少しだけ梅次に似ている所もあって、何だか微笑ましいのです!
そんな彼が私を宮廷メイドとして招き入れる協力を申し出てくれました。
それが上手く行けば、今後も宮廷内で味方となってくれると思います。
まずは無事宮廷に入り込めますよう、全力を尽くす次第です。
ファルガー様も、お仕事頑張って下さいね。
また連絡致します。
相澤桃花─
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ノクターンとかにもある
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感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
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