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番外編 バーガンディの日常Ⅱ
アデルとグラナダ 第三子との道 トマス視点
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「アデル様、そこでなにをしておられるのですかな?中を覗き見ることは出来ませぬぞ」
「トマスさん、どうして中を見せてくれないんですか?ヒドイ…僕はただ静かに見守ってただけなのに。」
「旦那様からのお言い付けでございます。完成するまでアデル様をこの部屋に近づけてはならぬと。その代わりと言っては何ですが」
「その代わり?」
「用意された衣装はなんでもご着用下さると」
「了解しましたっ!つまりサプライズと言うことですね!お利口にして我慢しますと伝えてくださいねっ!」
「何着までいいのかなー、あっ、デザイン描き足さなくちゃ」などと、鼻歌混じりになにやら珍妙な足取りで私室へとお戻りになられるアデル様。
幾つになられても若々しい、時に子供のように無邪気な奥方様でございます。
第三子、ミルドレッド様は大変に感の強いお子さまでして…、目が離せないとはいえしっかりしていたアベニア様、大人しくも気の強いグレン様方とは違い、どこまでも儚げなご様子に旦那様もどうしてよいのか、どこか戸惑っているように見受けられました。
そんな旦那様を案じ、アデル様が考え付かれた今回のあやし唄。
難解な旋律は旦那様をもってしても、完全に覚えるには少々手こずっておいででした。
赤子のあやし唄ならぱもっと単純なものが良いのではないかと進言しましたが、「大丈夫!ちょっと変な念飛ばしてこうなったけど、ベースは僕なんだからこれでいけるはず!…それにしてもスカイパレスのジュン君がタイプなら相当キラキラさせないとな…耳!ケモ耳はさすがにダメだろうか……」と、なかなか理解の及ばぬ事を言ってはお退けになりました。
乳母も手を焼くミルドレッド様のために、アデル様は1日置きに赤子の部屋で休んでおられます。
そんな日はろくに休めてはおられないでしょうに、夫婦の寝室で眠られる時には旦那様まであやしている様子が見て取れます。
全く困った旦那様です。きつく言っておかねばなりませんね。
そうこうしているうちに、旦那様から入室の許可が下りたのです。
アデル様は鼻息荒く(可愛い顔が台無しでございます)両手いっぱいに衣装と写像の魔道具をお持ちになられ、書庫へと入室されました。
「何故書庫なんですか?グラナダ様」
「ここは遮音の魔法がかかっておる。書庫がうるさいなどかなわぬからな」
「着替えもここで?」
「あ、ああ」「ひゃっほぅ!生着替えー!」
「…毎日見ているだろうに…」
「それはそれ、これはこれです。」
そんなたわいもないやりとりの後、旦那様は衣装を、またこれはずいぶんと粗野な…首のあれは…なんと!鎖ですかな?首飾りともまた違うような…、ともかく身に付けられ、言われるがまま窓を背に、椅子に浅く腰掛けると、手振りを交えて歌われました。アデル様を喜ばせようと。
ほうほう、これはなんと美しい旋律。旦那様の、ともすれば不機嫌にも聞こえる低い声が、これほど温かく柔らかく聞こえるとは。私の位置からはアデル様の背中しか見えませんが、これならさぞお喜びに…
おや?旦那様の表情がうろたえておいでに…一体何が…
少々移動してアデル様の顔を確認すれば、そこには瞬きもせず、滝のように涙を流し、神に祈るかのように両手を合わせた唇を震わせるアデル様が…おおっ、膝から崩れ落ちましたぞっ!
これはどうしたという…、いいえ!違います!そう、これはアデル様の最上位の感極まった状態。初めてお越しになられたあの時、物陰から見たではありませんか!
「旦那様、止めてはなりませぬ」
唇を動かせば読唇して歌を続けられる旦那様。
そうして歌い終わった旦那様の前にアデル様は進み出ると…
「…だ、抱いて…」
おやおや、私はそっと部屋を後にしました。
「トマスさん、どうして中を見せてくれないんですか?ヒドイ…僕はただ静かに見守ってただけなのに。」
「旦那様からのお言い付けでございます。完成するまでアデル様をこの部屋に近づけてはならぬと。その代わりと言っては何ですが」
「その代わり?」
「用意された衣装はなんでもご着用下さると」
「了解しましたっ!つまりサプライズと言うことですね!お利口にして我慢しますと伝えてくださいねっ!」
「何着までいいのかなー、あっ、デザイン描き足さなくちゃ」などと、鼻歌混じりになにやら珍妙な足取りで私室へとお戻りになられるアデル様。
幾つになられても若々しい、時に子供のように無邪気な奥方様でございます。
第三子、ミルドレッド様は大変に感の強いお子さまでして…、目が離せないとはいえしっかりしていたアベニア様、大人しくも気の強いグレン様方とは違い、どこまでも儚げなご様子に旦那様もどうしてよいのか、どこか戸惑っているように見受けられました。
そんな旦那様を案じ、アデル様が考え付かれた今回のあやし唄。
難解な旋律は旦那様をもってしても、完全に覚えるには少々手こずっておいででした。
赤子のあやし唄ならぱもっと単純なものが良いのではないかと進言しましたが、「大丈夫!ちょっと変な念飛ばしてこうなったけど、ベースは僕なんだからこれでいけるはず!…それにしてもスカイパレスのジュン君がタイプなら相当キラキラさせないとな…耳!ケモ耳はさすがにダメだろうか……」と、なかなか理解の及ばぬ事を言ってはお退けになりました。
乳母も手を焼くミルドレッド様のために、アデル様は1日置きに赤子の部屋で休んでおられます。
そんな日はろくに休めてはおられないでしょうに、夫婦の寝室で眠られる時には旦那様まであやしている様子が見て取れます。
全く困った旦那様です。きつく言っておかねばなりませんね。
そうこうしているうちに、旦那様から入室の許可が下りたのです。
アデル様は鼻息荒く(可愛い顔が台無しでございます)両手いっぱいに衣装と写像の魔道具をお持ちになられ、書庫へと入室されました。
「何故書庫なんですか?グラナダ様」
「ここは遮音の魔法がかかっておる。書庫がうるさいなどかなわぬからな」
「着替えもここで?」
「あ、ああ」「ひゃっほぅ!生着替えー!」
「…毎日見ているだろうに…」
「それはそれ、これはこれです。」
そんなたわいもないやりとりの後、旦那様は衣装を、またこれはずいぶんと粗野な…首のあれは…なんと!鎖ですかな?首飾りともまた違うような…、ともかく身に付けられ、言われるがまま窓を背に、椅子に浅く腰掛けると、手振りを交えて歌われました。アデル様を喜ばせようと。
ほうほう、これはなんと美しい旋律。旦那様の、ともすれば不機嫌にも聞こえる低い声が、これほど温かく柔らかく聞こえるとは。私の位置からはアデル様の背中しか見えませんが、これならさぞお喜びに…
おや?旦那様の表情がうろたえておいでに…一体何が…
少々移動してアデル様の顔を確認すれば、そこには瞬きもせず、滝のように涙を流し、神に祈るかのように両手を合わせた唇を震わせるアデル様が…おおっ、膝から崩れ落ちましたぞっ!
これはどうしたという…、いいえ!違います!そう、これはアデル様の最上位の感極まった状態。初めてお越しになられたあの時、物陰から見たではありませんか!
「旦那様、止めてはなりませぬ」
唇を動かせば読唇して歌を続けられる旦那様。
そうして歌い終わった旦那様の前にアデル様は進み出ると…
「…だ、抱いて…」
おやおや、私はそっと部屋を後にしました。
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