上 下
232 / 247
番外編 第二世代の恋模様

グレンの初恋は…④

しおりを挟む
「それで、グレン様は剣の稽古はしないのですか?」
「しない。かあさまがしなくて良いって。それより魔法の訓練しなさいって。僕の属性は特殊だから。」
「特殊?」

ルミエと兄さまと…ついでにモデーロの剣の稽古。ちょっとだけ時間があったから特に理由はないけど見学してた。
そうしたらモデーロが汗を拭きながら「少し休憩」ってやって来て、僕の返事も聞かないで勝手に隣に座るものだから。
だ、誰が座っていいなんて…別にいいけど…

落ち着かない気分が続くものだからついうっかり、母様に「誰にも言っちゃいけないよ」って言われてた僕の属性、ぽろっと口をすべらしちゃった。


「ここだけの話だけど…時属性って聞いたことある?」

「いいや、もしや…過去や未来へ行けたり?」
「まさかっ!ちがうよ、少し先のことが見えるだけ。いまはそれだって10秒先くらい。役に立たないよ。レベルが上がればもっと先のことも見えるようになるかもって、カマーフィールドのおばあさまは期待してらした。」

時属性…未来視が出来る特殊属性。過去に一人だけ確認できたことがあるという。このリーガル王国の中で今は多分僕しか居ない。
どうして僕がこんな属性をって持ってるか父様に聞いたことがある。
父様が言うには、僕がまだ母様のお腹に居た頃、母様はわけあって時空を超えたことがあるんだって…なんだかすごい…
だからおそらくその影響なんじゃないかって言ってらした。兄さまもその事はなんとなく覚えてて、母様が居なくなりそうで怖かったって、すごく怖かったってそう言っていた。

「…グレンさま、いくらバーガンディにウワサに名高い第二第三衛兵隊があるからって、悪人が入り込まないわけじゃないんです。そのこと安易に話してはいけませんよ」

この間モデーロにからかわれてから僕は警戒心を最大限にしてる。だけどこうして二人きりでいると、どうしても気持ちが落ち着かなくて…。それでつい余計な事まで話し過ぎちゃう。話しちゃいけなかったことぐらい分かってる。だからってこんな言い方しなくてもいいのに。

「せっかく教えてあげたのに…ならもういい!モデーロにはもうなにも教えない」

「俺は知れて良かったですよ。グレン様を守るにしたって知ってるのと知らないのとでは大違いだ」

「守るって、モデーロはルミエの従者じゃない。ルミエのことだけ守ってればいいよ。それにモデーロは護衛じゃないし。それならどうして騎士を目指さなかったの?護衛や近衛ならそのほうが近道でしょ」
「誰も彼も守りたいわけじゃありませんからね。もちろん殿下の側付きとして何かあれば身を盾にする覚悟はありますが、俺が心から守りたいのは一人だけなんで」

心臓が跳ねあがった。守りたいって、それ…。もしかして…ううん、そんな。だってモデーロは…でも、もしかしたら…。どうしよう…ドキドキする…


「守ってあげたい子が居るんですよ。その子のことは一年前、王宮の裏庭で知りました。」

…王宮…そうか、好きな子が居るんだ…。2年たったら婚約したいってあれはやっぱり冗談だったんだ…バカみたい、真に受けたりなんかして…。ショックなんかじゃない…だってモデーロは意地悪で…僕をからかってばかりいる。ちょっと年上だからって。僕を子ども扱いして…。守ってあげたい子、僕より年上なのかな…

「ある日王宮の花の蜜に誘われてどこからかキングビーが入り込んだことがありました。そいつはその子とその子のまだ幼い弟を敵認定して狙っていたんです。大きな音をたてると余計に興奮させるって知ってた俺は物陰から奴の死角に入ろうと静かに機会を伺っていました。」
「え、それって…」
「その子は弟に、持ってたぬいぐるみを抱かせて泣かないよう言い聞かせると、自分だって怖くて震えてるのに両手を精一杯広げて前に出ました」

一年前、王宮で開かれた第二王子エスパールの誕生日会。退屈してぐずり始めたミルドレッドをなだめようと裏庭の花壇まで連れて行った。
そこに迷い込んできたキングビー。
体長50ソートくらいある大きなその虫は身体に似合った針を持っていて、あの針に刺されたらただでは済まないってゾッとした。
だけど僕は兄さまだから、僕よりちいさなミルドレッドを守らないとって、そう思って…だけど足が震えて止まらなかったんだ。

「俺は不謹慎にも、涙をこらえて必死になって弟を守ろうとキングビーに立ち向かうその姿から目が離せなかった。とても健気でそして、所々オーロラ色に輝く黒髪はとても気高くて、」

黒髪…やっぱり僕の事だ…。まさかあの姿をモデーロに見られてたなんて。け、気高いって…何言って…やだ…
さっきから感情の上がり下がりが忙しい…僕はすっかりモデーロの手の平の上で。コロコロと転がされているみたい。

「あ、だけどあの時助けてくれたのは…」
「残念なことに俺が飛び出すより先にその子の兄が駆け付けてあっという間に退治してしまいました」
「…兄さまが切ってくれた…」
「その時心に誓ったんです。もし今度同じような場面に遭遇したら…、今度こそ俺が守ってやりたいって」

モデーロの声はとてもやさしい声色で、僕を見つめるその瞳からもう一瞬だって目が離せない。

「その子は王家に近しい子で…だから考えたんですよ。どうしたらお知り合いになれるのかって。それで俺は殿下の従者に選ばれるよう努力したんです。殿下の側付きになれば、きっとその子に会えるはずってね。」
「ど、努力…って何の?」
「教養も、剣も、魔法も、立ち居振る舞いもなにもかもですよ。なにしろその子の周りにはとてつもなく強い人も、とんでもない魔法を使う人もごろごろしてて、おまけに生まれた時から容姿の整った集団に囲まれてますからね。どうしたらその子の気をひけるのかって…正直悩みましたよ。」
「あぅ…ぅ…」

ダメ!こんな顔、兄さまに見られたらまた熱があるって大騒ぎになっちゃう。戻って!僕の顔。赤くならないで!
モデーロの言葉なんかで…モデーロの…モデーロが…うぅ…

「真っ赤な顔が恥ずかしいですか?じゃぁほら、こうしたらどうですか?」
「ふぇ?」

どうしてモデーロには考えてる事全部わかっちゃうんだろう…?だけどこんなのは…

胸の中に抱きしめられて、僕はもう顔をあげられなかった。


しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。 ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。 「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。 ◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC) ※「*」がついている回は性描写が含まれております。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

殿下、俺でいいんですか!?

神谷レイン
BL
薬剤魔術師として王宮に勤める若者セス。 ある日突然王様から十一歳年上の第三王子のレオナルド殿下と結婚して欲しいと頼まれた。なんでも広まっていない同性婚を世間に周知する為らしい。 でも、どうして俺なの!? レオナルド殿下って、美丈夫じゃん! 俺みたいなのじゃ見劣りするよ! そう思いつつも、当の本人レオナルドに他の人に変えてもらうように頼むが、ほだされて形式上の結婚を結ぶことに。 困惑しっぱなしのセスに待っている未来は?! 小説家になろうでも同時掲載しています。 https://novel18.syosetu.com/n8355gi/

処理中です...