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決断の時編

決別の夜 ② グラナダ視点

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昨夜、アデルは仮初の生誕珠から聖魔力を抜き出そうとしておった。
まったくアデルの発想には恐れ入る。水見の鏡、いや、それに近しいものを作り出そうと考えるなど。
それもこの仮初の珠から抜き取った聖魔力を流用して。

独りで考えるなと何度も念を押したのが功を奏し私に相談に来たのは良いが…これでは無下に追い返すことは出来ぬな。
アデルはドノヴァン王の魔力が不吉だという。それには私も同感だ。残して置いたら碌なことにならないというのでこの機に消滅させてしまおうかと考えた。確かに、このままにしておいて先日のアベニアのように誰かが触って害を生しても困るというものだ。

珠を聖魔力だけにするのであればクリフトの光魔力も邪魔なのではと考えたがアデルは光に力を感じぬと言った。
そうか、そうであった。
光なら私の闇魔力で簡単に相殺できると思ったが…、あの頃のクリフトはすっかり闇に隠れておったな…忘れておった。それほど今が平穏と言う事か。



アデルのためにドノヴァンの魔力を私の炎で爆発させることにした。
使い果たせば何も残らぬであろう。
私の発動した火の魔力を極限まで小さく圧縮する。
それをアデルが繊細な魔力操作で珠へと注いでいく。
風を吸収し際限なく温度を高める炎。水に触れた部分から蒸気が上がり珠を揺らす。

そうして終いにはドノヴァンの魔力を食らいつくした。





さんざん甘えるだけ甘え、ねだるだけ口づけをねだり気持ちよく眠りにつくアデル。
アデルは近々過去視をするのだろう。その時私は平静でいられるか。
理を捻じ曲げ時空を覗き見るなど…何がおきてもおかしくはないのだ。

アデルの過去に何があるのか…だが、パーバートの事ですら私は知らなかったのだ。この朗らかなアデルが、18の歳まで領地から一歩も出ずに隠れ暮らすからにはよほどのことがあったに違いない。
初顔合わせの時カマーフィールドの義父上がおっしゃった。「瘴気に囲まれたバーガンディをあの子は安全と感じたのかもしれませぬ」なるほど、瘴気が不安を遠ざけたのだな。
あの容姿がどれほどの災いを呼んだのか…誰にも言えぬほど、どれだけ怖い思いをしたというのか。おそらくはそれにかかわる恩人であるのだろう。アデルがそれを言わぬなら私の口からは決して聞かぬと決めている。だが、アデルを失う事だけは絶対にさせぬ。


様々な思いが去来して一睡もできぬ。
だがそうだ。私は私にできることをするまでだ。
アデルを守り、アデルの望みを叶え、アデルと、そして子供たちと共に未来を紡ぐのだ。


夜明けとともに寝室を出る。

「どうなさいました旦那様。アデル様に何か?」
「いいや、アデルは気持ちよさそうに寝ておるわ。起きてくるまでそっとしておいてやれ。それよりも私は王都へ向かう。転移陣の用意をせよ。」
「急でございますね。アデル様はこの事を?」
「アデルは知らぬ。言う必要もない。帰りは分からぬゆえ急を要す会見は入れてはならぬ」
「畏まりました」



アデル、待っておれ。お前の望みは必ず叶えて見せよう。









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