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決断の時編

新参従者のつぶやき ②

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ダイニングから私室へと戻ってからも、そう簡単に眠りになどつけるはずもない。
デラ奥様にまでご迷惑をおかけして、本当に合わせる顔がない。
明日朝いちばんで奥様に謝罪とお礼を…ああ…こんな気持ちでトールキン様の顔をまともにみれるだろうか…

トントントン

「誰?…えっ、ハモンさん?どうしましたか?」
「奥様とトールキン様がなにやらもめておりまして、ぜひローラン殿からお口添えを」
「トールキ…えっ!今は無理です、そのちょ、まって」
「夜更かしは年寄りには堪えるのです…どうかお口添えを」

ぐいぐいと手を引くハモンさん。年寄りとはとても思えない力だ。それに力任せに振りほどいて転ばせるわけにもいかない。おろおろしているうちにラウンジについてしまった。
ああ、だけど今は、今はトールキン様に会う事なんて出来ないって言うのに。

漏れ聞こえてくる声。ああ…やわらかな…トールキン様の声だ。
だけどその声は、奥様の声とともにだんだん昂ってきて…



ーー平気な訳ないに決まっているじゃありませんかっ!ーー

ーーハッキリ言えば好意を抱いております。ーー


ええっ?なんて言った?今トールキン様はなんて言ったんだ⁉都合のいい幻聴だろうか?こんなことあるわけ…


「母上、ローランは男らしい御仁が好きなのですよ。そう、まるで辺境伯閣下のような…はは…アデルの夫ではどうにもしてやれませんが、せめて村一番の力自慢でも…」

ええっっ、ちょっと待ったーーーっ!


「やめてくださいっ!あれは脳みそまで筋肉が詰まっているろくでなしですっ!」


驚愕に見開かれた目で俺を見るトールキン様。誰が筋肉好きって言った!ああ…なんでこの人はこんなにも…もうっ!

「か、…閣下の事は…そういうんじゃぁないです…」「だが…」
「あれは…思春期の憧れと言うか…」「しかし…」
「ああいう男になりたいなっていう…」「……けれど……」

この人には、ハッキリ言わなきゃわからないんだ。もうっ、こんなこと…俺の口から言わせるなんて…

「好きですトールキン様。恋愛感情として好きになったのは、トールキン様が初めてです。贅沢なんていいません。傍に置いてもらえるだけでいいから…。だから…だから…俺を誰かになんてやらないでっ」

気が付いたら抱きついていて…、デラ奥様とハモンさんの姿はなく…、本当に、なんて日なんだろう。地獄と天国、一日で両方味わうなんて。

「ばかっ、トールキン様のばかっ。本当に…しょうのない人なんだから…」
「ぐうの音もでないよ…ねぇローラン、馬鹿な私は今後もいろいろやらかすだろう…申し訳ないが、面倒を見てくれるかい?」



もちろんですって言いたかったのに…唇を塞がれて…返事は出来なかった。





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