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新たな家族編
二日酔いの朝 ①
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いつもよりも狭く感じるベッドの中で未だ残る酔い心地。
ああ、昨夜は途中で意識を失ったのか…いい年をしてこんな酔い方をするなんて。
2年ぶりに会ったアデルとの時間が楽しくて…そう、2年ぶりどころかもう長い間見ることのなかった、こんな風に笑って過ごすアデルの姿が嬉しくて、年甲斐もなく飲みすぎてしまった。
ワイアットも王都へ行ってしまい、この領地には私と母上と時折帰ってくる父上だけ。
アデルを溺愛しているという辺境伯閣下からの支援と私腹を肥やす役人が一掃されたことでこのカマーフィールドも随分と様変わりをしたが、やっと訪れた明るい日々の中でも一抹の寂しさを感じずにはおれなかった。
私と母上はどこか似たもの同士。互いを思いやる気持ちはあれど、アデルやワイアットのように愛情を素直に言葉にすることは苦手なのだ。
今まで出来なかった領地の整備と領民の福利。それだけを責務と毎日を過ごす。
そんな乾いた日々の中で唯一の癒しとなったのが、バーガンディから派遣されてきたローラン、その人だ。
感情表現が豊かな彼は見ているだけで何を考えているのかわかる。腹の探り合いなどとは無縁だろう。
そしてこちらの気持ちを汲むのもうまい。私が言葉にできないこともいつの間にか察して慮ってくれる。
討伐隊員と言っても農家の生まれだという彼は土にまみれて働くことを苦にしない。
貴族なら当たり前の働くことを良しとしない価値観は、私の心情的にあまり受け入れられないものだ。
いくら拓けたところでカマーフィールドが大都市になることはない。
皆が力を合わせてこの自然を守ってこそカマーフィールドなのだ。
彼はそんな私の気持ちをよく理解してくれ、力になると言ってくれる。
私についていつも元気そうに動き回っている彼を見ているだけで一日の疲れが解けていくようだ。
私が彼を、バーガンディからこのカマーフィールドへと望んだのも無理からぬ事だろう。
そうして昨夜、アデルと私、そして三人の従者で祝いの酒を酌み交わしたのだ。
腕の中の存在に息が止まるほど驚いた。
何故ローランがここに⁉
すぅすぅと寝息をたてるローラン。…どうにかしたいが…動いたら彼は目を覚ましてしまう。
どうしたらいいのだろうか…指一本すら動かせない。
途方に暮れながら視線を落とせばその胸元が視界に入りドキリとする。
苦しくてはだけたのだろうか…
シャツのボタンが外れている。
閉めてやるべきか…いや、そんなことをして要らぬ誤解を招いたら?
じわり…じわりと汗がにじむ。
…なんというか…正直…悪い気分ではないのだ……
ローランの寝顔を覗き込む。ああ、力に満ちた顔だ。その髪からも豊かな土のにおいがする。
彼がともにこのカマーフィールドを守ってくれたなら…そうしたら私は…
いや、何を考えているんだ…こんな冴えない私ではローランが気の毒だ…
ここへ来た当初何度も聞かされた〝閣下”への憧れ。一緒に戦いたくてカバン一つで家を飛び出したのだと嬉しそうに語っていた。
あの内気だったアデルさえもがこうも信頼を置くのだ。辺境伯は相当素晴らしい方なのだろう。年の頃も近いと言うのに、私など足元にも及ばないほど。
ふぅ…自分で考えておきながら気持ちが沈む。
…だがこうして彼はここカマーフィールドを選び骨をうずめると言ってくれた。
ならば、その気持ちに報いるためにも、せめていつか彼にぴったりな縁組を用意してやらねば…。
ため息をつきながらそんなことを思い、そっと上体に被せた腕に力を籠める。
…今だけはこの温もりを楽しみたいと、そう、彼の目が覚めるまでは…
ああ、昨夜は途中で意識を失ったのか…いい年をしてこんな酔い方をするなんて。
2年ぶりに会ったアデルとの時間が楽しくて…そう、2年ぶりどころかもう長い間見ることのなかった、こんな風に笑って過ごすアデルの姿が嬉しくて、年甲斐もなく飲みすぎてしまった。
ワイアットも王都へ行ってしまい、この領地には私と母上と時折帰ってくる父上だけ。
アデルを溺愛しているという辺境伯閣下からの支援と私腹を肥やす役人が一掃されたことでこのカマーフィールドも随分と様変わりをしたが、やっと訪れた明るい日々の中でも一抹の寂しさを感じずにはおれなかった。
私と母上はどこか似たもの同士。互いを思いやる気持ちはあれど、アデルやワイアットのように愛情を素直に言葉にすることは苦手なのだ。
今まで出来なかった領地の整備と領民の福利。それだけを責務と毎日を過ごす。
そんな乾いた日々の中で唯一の癒しとなったのが、バーガンディから派遣されてきたローラン、その人だ。
感情表現が豊かな彼は見ているだけで何を考えているのかわかる。腹の探り合いなどとは無縁だろう。
そしてこちらの気持ちを汲むのもうまい。私が言葉にできないこともいつの間にか察して慮ってくれる。
討伐隊員と言っても農家の生まれだという彼は土にまみれて働くことを苦にしない。
貴族なら当たり前の働くことを良しとしない価値観は、私の心情的にあまり受け入れられないものだ。
いくら拓けたところでカマーフィールドが大都市になることはない。
皆が力を合わせてこの自然を守ってこそカマーフィールドなのだ。
彼はそんな私の気持ちをよく理解してくれ、力になると言ってくれる。
私についていつも元気そうに動き回っている彼を見ているだけで一日の疲れが解けていくようだ。
私が彼を、バーガンディからこのカマーフィールドへと望んだのも無理からぬ事だろう。
そうして昨夜、アデルと私、そして三人の従者で祝いの酒を酌み交わしたのだ。
腕の中の存在に息が止まるほど驚いた。
何故ローランがここに⁉
すぅすぅと寝息をたてるローラン。…どうにかしたいが…動いたら彼は目を覚ましてしまう。
どうしたらいいのだろうか…指一本すら動かせない。
途方に暮れながら視線を落とせばその胸元が視界に入りドキリとする。
苦しくてはだけたのだろうか…
シャツのボタンが外れている。
閉めてやるべきか…いや、そんなことをして要らぬ誤解を招いたら?
じわり…じわりと汗がにじむ。
…なんというか…正直…悪い気分ではないのだ……
ローランの寝顔を覗き込む。ああ、力に満ちた顔だ。その髪からも豊かな土のにおいがする。
彼がともにこのカマーフィールドを守ってくれたなら…そうしたら私は…
いや、何を考えているんだ…こんな冴えない私ではローランが気の毒だ…
ここへ来た当初何度も聞かされた〝閣下”への憧れ。一緒に戦いたくてカバン一つで家を飛び出したのだと嬉しそうに語っていた。
あの内気だったアデルさえもがこうも信頼を置くのだ。辺境伯は相当素晴らしい方なのだろう。年の頃も近いと言うのに、私など足元にも及ばないほど。
ふぅ…自分で考えておきながら気持ちが沈む。
…だがこうして彼はここカマーフィールドを選び骨をうずめると言ってくれた。
ならば、その気持ちに報いるためにも、せめていつか彼にぴったりな縁組を用意してやらねば…。
ため息をつきながらそんなことを思い、そっと上体に被せた腕に力を籠める。
…今だけはこの温もりを楽しみたいと、そう、彼の目が覚めるまでは…
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