上 下
29 / 247
推し活満喫編

黒髪の少年② グラナダ視点

しおりを挟む
少年を追わせた兵たちを前に私は理不尽な怒りをぶつけていた。

「捕まえられなかっただと?訓練された兵士が寄ってたかって只人の少年一人捕まえられなかったと申すか!」
「ははっ!面目次第もございません。」
「し、しかしですね、あの少年は短距離とはいえ転移の魔法持ちでして寸でのところで必ずその場から消えるのです」
「少年を捕まえるには抗魔法アンチマジックスキルをもつ魔術師を同行させねば不可能かと」


報告を受ける私のもとに大隊長のグレゴリーが血相を変えてかけ寄ってきた。

「転移魔法ですと?それは、それは一体どなたなのですか?そのものは私の、私の救世主殿に違いありませぬ。」

救世主?どういうことだ。私は続きを促す。

「はっ!私が巨大な獅子ウガルムの凶行に命を落とさんとしたその時、私の背後に誰かが現れ一瞬で安全な場所に転移したのです。ですが振り返ったその場には誰の姿も無く、そして奴の爪撃 に吹き飛ばされた右腕の断面にくうから湧き出た白金に輝く溶液が降りかかると…おお…腕が…欠損した腕が、もとに戻ったのです!何もなかったかのように!衣類までもがすべて!」

その時を思い出し感極まったのか徐々に近づいてくる。近い、近いぞ!
そのうえ興奮のあまり私の胸倉をつかんでいることに気づいているのか?こいつは!

しかし…欠損部位の再生だと…酸に溶け皮下がむき出しになった私の顔を再生してみせたあの光と同様のものか…
その時冷静さを取り戻したグレゴリーが聞き捨てならないことを言い出した。

「黒髪の少年ですか…ふむ…巡回に向かう道中でみかけたやもしれませぬ。」

「何⁉いつのことだ?何をみたのだ?」

「騎馬隊の巡回路と町へとのびる道が交わるT路の角に時々黒髪の少年が」
「その少年はそこで何をしておるのだ」
「私もちらりとしか見えてはおりませぬが…木と木の間に身を隠し…ただ見ているだけではないかと」
「ふむ…」
木の陰から騎馬隊を見ていただと?なにかの訴えでもあるのか?騎馬隊への志願か?




「……なぜだか不思議とあの少年は奥方様を思い起こさせまする…いつも演習場や兵舎の壁にしがみつきながら閣下を見つめていた奥方様と、木々の間から覗き見るようにその幹にしがみついている少年の姿が妙に重なって…似ても似つかぬ容姿なのにおかしなものですな。ハハハ」


笑い事ではないわーーーーーーーーー!!

「馬鹿者っ!なぜそれを早く言わぬ!アデルを捜索させていることはお前も知っていただろうが!!」
「えっ、いやしかし勝手にそう思っただけのことですし、奥方様とは無関係かと」
「関係あるか無いかは私が判断する!皆もよく聞け!アデルに関係するかもしれぬことはすべてどんなことも逐一私に聞かせるのだ!いいかっグレゴリー、その件は後ほど詳しく報告せよ!この災害の後処理が済み次第…その少年を探しに行く!町にいるなら見つかるのはすぐであろう。総員よいな!」




アデル待っていろ。今度こそ、今度こそお前を見つけ出し…もう二度と離しはしない!





  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】皇女なのに婚約破棄されること15回!最強魔力でほのぼのスローライフしてる場合でもないのですが?

三矢さくら
ファンタジー
西の帝国の第2皇女アルマ・ヴァロリアは皇女なのに15回もの婚約破棄を喰らった。というのも、婚約破棄した男たちが次々に出世するものだから、それ狙いの求婚が後を絶たないのだ。 大魔導師でもあるアルマは愛のない求婚に嫌気がさして、帝都を離れ北の流刑地で暮らし始める。 面倒臭がり屋でチョロい皇女アルマの辺境スローライフコメディ。 *サクッと読めます。 *キャラ紹介ではAI生成の挿絵を使っています。

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

義姉と婚約者が浮気していたことや婚約破棄を言われたことより、私が驚かされたのは別のことでした。片方は最後までわからないままだったようです

珠宮さくら
恋愛
オフィーリアは突然、婚約破棄をしたいと言われてしまったが驚いたのは、その言葉にではなかった。場所と婚約者とその横にいる義姉の格好に驚いてしまっていた。 とんでもないタイミングの悪さを披露した二人のうち片方は、最後までちんぷんかんぷんだったようで……。 ※全2話。

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

処理中です...