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推し活満喫編

私という存在② グラナダ視点

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あれから1か月。婚姻はすでに成立している。やってくるのは婚姻を望む者ではなく妻となった者だ。

カマーフィールド伯爵家は昔から高い魔力を持つ家系ではあるがその現当主といえば野心を持たない朴訥な田舎貴族で王宮のキツネや狸たちにいいように食い物にされていた。
私がまだ王宮に居を構えているときも、よくそのたぐいまれな魔法の才を理不尽に搾取されていた。
騙されても気が付かない愚鈍さは傍でみていてイライラしたが良くも悪くも誰であろうが変わらないのんきな態度は嫌いではなかった。

やってくるのはその家の3男。貧乏ゆえの事情で夜会や茶会などの社交の場に出ることもなく田舎の領地ですいぶんと可愛がられ過保護に育てられて来たようだ。
税の免除と引き換えに箱入り息子を差し出すことになった伯爵の気持ちはいかばかりのものだろうか。
人の好いカマーフィールド伯爵の顔を思い浮かべ、憐れんだわけではないが少なくはない額の結納金を伯爵家へ届けるよう家令のトマスに指示しておく。
子息も家系の例にもれず魔法レベルは高くこの地での生活に支障はないと聞いている。だが私の噂については知っているのだろうか?
まぁ知っていたところで構わない。受精が済めば必要以上に関わることもない。
これは婚姻という名のただの契約だ。

そうして私は妻と名乗る人が来る日をむかえた。









しばらくの間いろいろ思考を巡らせながら眠る彼の顔を眺めていたが目を覚ます兆しもないので執務室へと戻ることにした。

彼に伴ってやってきたメイドと御者は荷物を運び込んだら早々に帰路へつくようだ。忙しないことこの上ないがすでに彼らの状態は限界に近い。立って歩くので精いっぱいのようだ。
彼らを帰し子息の目が覚めるまで邸の従者を待機させるべきだろう。

誰を呼ぶか考えながら部屋を出たところでかすかにカマーフィールド家のメイドたちのすすり泣く声が聞こえてきた。

「うう…おかわいそうに…アデル様…泣き腫らし…」
「湖…入水…」
「絶望して…おいたわ…気の毒…ああ」

入水だと⁉死のうとしたというのか⁉望んだ婚姻でないことはわかっていたが湖に身を投げるほど思い煩っていたというのか。

先ほどみた青白い儚げな顔を思い出す。
…そうか、私の顔をみて気を失うほどこの婚姻に拒否反応を示しているということか。
それほどまでに嫌がられているという事実に何とも言えない怒りが湧き上がる。そして次には悲しみが私を襲う。
私と夫夫になるくらいなら死んだほうがましだと思うほど私は忌避されているのか…
私は死にも劣る存在なのか…

………

だが時間とともに冷静さが戻ってくる。
いや待て、もともと私こそ彼を歓迎する気持ちはなかったではないか。必要以上の関りを持つ気もなかっただろう?
彼に腹をたてるのもおかしな話だ。彼、アデルは今までやってきた者たちとは立場も状況も違う。
私が種馬扱いなら彼は貸し腹扱いだ。子を産んでも育てることは叶わないのに孕むためだけに結ばされた婚姻。彼もまた犠牲者といえるだろう。だからと言って同情はしないがな。これは彼自身も理解して結んだ契約なのだから。

気持ちが落ち着くと当初の考え通りアデルには関わらず放っておくことにした。違うのは生殖行為もしないということだ。
王家の意思によって結ばれた婚姻である以上私から離縁を申し出ることはできない。そして序列が下のカマーフィールド家から申し出ることもできない。つまり離縁はできないということだ。
だが何年たっても子が出来ねばあの王の事だ。アデルを離縁してほかの者を寄越そうとするだろう。
だからそれまでは放っておくことにした。ここにいたいなら居ればいい。だがこちらから世話をする義理もない。自由に行動はさせてやる。放っておかれる生活が辛ければ逃げ出せばいい。探しもしないし連れ戻しもしない。実家に戻るなり伝手を使うなり、私の視界に入らない場所で自由に生きればいい…。


ささくれだった心のままにそう自分を納得させると乱暴にベルを鳴らして家令のトマスと討伐軍大隊長グレゴリーを呼んだ。
彼の行動に一切の制限を与えず自由にさせること。代わりにアデルに対して衣食住一切の世話を禁じること、会話を含め必要以上の関りをもたないこと。またそれらをすべての使用人、部下たちにに徹底させること、などを命じ…私の憂鬱な一日が終わった。



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